桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

葉月 まい

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未来へ

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 「おーい、美桜。そろそろアレン君が迎えに来る頃だぞ」
 
 和室で母に袴を着せてもらっていた美桜は、はーい、今行く、と父に返事をする。
 
 と、その時インターホンが鳴った。

 「ほら、美桜。アレン君が着いたぞ」
 
 おはようございます、と玄関で父と言葉を交わしているアレンの声が聞こえる。

 「はい、これで良し!」
 鏡越しに母が美桜に頷く。

 「ありがとう!」
 美桜は笑顔でお礼を言うと、しずしずと慣れない動きで和室を出た。

 「お待たせ」
 
 ピンクと紫を基調にした華やかな袴姿の美桜を見て、おおー!と父とアレンは同時に声を上げる。

 「いいじゃないか。馬子にもなんとやらだな」
 「美桜、すごく似合ってる。素敵だね」
 
 父の言葉には、ぶうとふくれて見せ、アレンの言葉には、えへへと照れたように笑った。

 「良かったわね、美桜。アレン君に車で送ってもらえて。その格好で電車乗るのは大変よ」
 「うん。ありがとう、アレン」
 
 どういたしまして、とアレンはかしこまってお辞儀する。

 「じゃあ気を付けて行ってらっしゃい!」
 
 見送りの両親に手を振り、美桜はアレンが借りてきてくれた車に乗り込む。
 
 仁と絵梨にカフェで会った日の夜、アレンはイギリスの父に電話をした。

 無事に全ての人に報告を済ませたと話すと、そうか!と声を弾ませていた。

 明日にでもイギリスに帰ると告げると、いや、その必要はない。式典の段取りは整ったから、もっとゆっくりしてこいと言うのだった。
 
 式典の準備が整った、と言うのはいささか疑問ではあったが、アレンはありがたくその言葉通り、もう少し日本に滞在することにした。
 
 なぜなら、美桜の誕生日がすぐそこまで近付いていたからだ。

 美桜はこの先、アパートを引き払ったり仕事の引き継ぎなどで、しばらくは日本にいなければならない。

 自分がイギリスへ帰ると、次に会えるのは少し先になる。
 それを思うと、どうしても美桜の誕生日は一緒に過ごしたかった。

 今日がその誕生日、そして奇しくも、美桜達の大学の卒業式でもあった。
 
 アレンは運転席に座ると、改めて美桜を見つめる。

 「美桜、お誕生日おめでとう!」
 「ありがとう!一緒に過ごせてとっても嬉しい」
 「それと大学卒業も、おめでとう。安全運転で、式場までお送り致します」
 「ふふふ、ありがとう」
 
 アレンはゆっくり車を走らせ始める。

 「でも、本当に良かったの?イギリスに帰らなくて。お父様、お仕事大変なんじゃない?」
 
 美桜が心配そうに聞くと、アレンも、それなんだけど…、と少し腑に落ちない顔をした。

 「式典の段取りが整ったから、帰って来なくてもいいって言うんだよね。でも、急にすんなり決まるとも思えないし。なんだろう?」
 「そう。とにかく明日か明後日には出発した方がいいんじゃない?」
 「そうだな。しばらく美桜に会えなくなるのは寂しいけど」
 「うん、私も。色々片付いたらすぐ行くから」
 「ああ、待ってる。そしたらその後はずっと一緒に暮らせるんだよな」
 
 アレンと美桜は、照れたように笑い合った。



 その頃、イギリスでは…

 「旦那様、式典の内容が全て決まったというのは、本当なのですか?」
 「ああ、本当だ。グレッグ、分からんか?今回の式典のメインイベントが何か」
 「さあ、私には思いつきません。坊ちゃまもずっと考えあぐねておいででしたし」
 「ふふふ、皆が驚くサプライズだ。我がウォーリング家がますます栄えていくことも、存分にアピール出来る。これ以上のメインイベントがあると思うか?」
 「サプライズ…?ま、まさかそれは」
 
 坊ちゃまと美桜様の…と呟くと、ジョージは頷き、高らかに笑い出した。

 「さあ!忙しくなるぞ、グレッグ。まずは二人の衣裳作りだ。美桜ちゃんの桜のティアラに合うデザインを考えるんだ。アレンのフィアンセのお披露目だぞ。二人の婚約発表だ!」 



 高校から大学まで七年間通ったS学園。

 ついにここを巣立つ時が来たと、美桜は感慨深く、車から校舎を見上げる。

 「講堂だよね?式場。だったら西門が近いか」
 「うん。よく覚えてるね、アレン」
 「案外忘れないもんだよ」
 
 ゆっくりと車を西門の手前で止めると、アレンは助手席に回ってドアを開け、美桜に手を差し伸べる。

 「ありがとう」
 「じゃあ、式が終わる頃に正門広場で待ってるから」
 「うん。絵梨ちゃんや仁くんと一緒に行くね」
 
 手を振って門の中に入っていく美桜を見送ると、アレンは近くのコインパーキングに車を停めた。
 
 式が終わるまでの時間、キャンパスを歩いたり、カフェでコーヒーを飲んだりして懐かしむ。

 (たった一年だったけど、ここに来て良かった。たくさんの思い出が出来たし、何より美桜達に出会えた)
 
 なんだか今日は、自分にとっても卒業式のような気がする、とアレンは思わず笑みをもらす。
 
 気が付くと、講堂からたくさんの袴姿やスーツ姿の学生が出て来た。
 どうやら式が終わったようだ。

 アレンもその人波に紛れて、正門広場へ向かう。
 そこで仁や絵梨達と四人で写真を撮ることにしていた。
 
 図書館の角を曲がり、正門に続く道に出た時だった。
 アレンの目に、満開の桜が飛び込んできた。

 (…なんて美しいんだろう)
 
 そこに見事な桜の木があることは分かっていた。
 けれどいざ目にすると、思わず圧倒されて立ち尽くす。

 まるで夢の中のような幻想的な光景だった。
 
 学生達が行き交う中、やがてアレンは、一人桜の木の下で佇む美桜を見つけた。

 舞い落ちる桜吹雪に手を伸ばし、微笑んでいる。

 アレンは、その美しさに見とれ、声をかけそびれていた。
 
 すると、ふとこちらに顔を向けた美桜が、アレンを見つけて笑いかける。
 アレンはゆっくりと美桜の前に歩み出た。
 
 見つめ合う二人に、ひらひらと桜の花びらが舞い落ちる。

 「綺麗だね」
 「うん、綺麗ね」
 
 そう言うと、美桜はふとある事を思い出した。

 「ねえ、お父様もここで運命の出会いをしたのよね?」
 「ああ、そうだった」
 
 二人で桜を見上げてから、微笑み合う。

 何年も前に、ここで同じように桜を見上げた若き日のアレンの両親を想い…

 と、ふいにカシャッとシャッター音が聞こえて振り返る。

 「えへへ、いい写真撮れちゃった」
 絵梨が笑ってスマホから顔を覗かせた。

 「あとで送るね。素敵よー、お二人さん」
 仁も隣で、こりゃ結婚式のスライドで使えるな、と画面を見て言う。

 「ね、じゃあ次はやっぱり四人で!」
 
 絵梨は近くの人にスマホを渡して、撮影をお願いする。

 「はーい、みんな笑ってね!」
 
 絵梨の言葉に、四人は並んで笑顔になる。
 
 桜の祝福を受けて、輝くような笑顔の四人は、今日新たな人生の1ページをめくった。
 
 この先もずっと続く、未来への1ページを…
                  (完)          

🌸番外編あります🌸

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