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伊沢と恵真
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「お、恵真。めちゃくちゃ久しぶりだな」
社員食堂でランチを食べていると、伊沢が向かい側に腰を下ろす。
「伊沢くん、お疲れ様。ほんとだね、えーっと、1か月ぶり?」
「あー、そうかも。おいおい、俺達つき合ってるはずじゃなかったのか?」
「あはは、そうだね」
思わず笑ったが、恵真はすぐに真剣な表情になる。
「伊沢くん、その事なんだけどね。もう佐倉さんにはちゃんと伝わった訳だし、つき合ってるって噂、消した方がいいよね?」
「ん、そうか?別に放っておけばいいんじゃない?」
「でも伊沢くんにも迷惑かけてるし…」
「別に俺はなんともないけど?」
「だってこのままだと伊沢くん、好きな子にアタック出来ないよ?」
「アタックって…。お前、なんか妙に古臭いな」
もう、それはいいから!と、恵真は顔を寄せる。
「それに伊沢くんのこと狙ってる女の子も、伊沢くんにアタック出来ないじゃない?そんなの可哀想だよ」
すると伊沢は、まじまじと恵真を見つめる。
「え、何?アタックってまた変だった?」
「うん、変だった。それにお前、本気で言ってんの?俺のこと狙ってる女の子がいるって」
「当たり前だよ。伊沢くん、優しいしかっこいいし、パイロットの制服姿もすごく似合ってる。絶対狙ってる女の子いるよ」
そう言う恵真の予想に反して、伊沢は表情を曇らせる。
「伊沢くん?どうしたの?」
心配になって顔を覗き込むと、伊沢はキュッと口元を引き締めて恵真を見る。
「俺、お前からそんなふうに言われると辛い」
「え、どうして?私、何か気にさわること言った?」
「ああ、気にさわった」
え…と恵真は絶句する。
伊沢からこんなふうにきっぱりと拒絶されたことなど、今まで一度もなかった。
「伊沢くん、あの、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃなくて…」
「謝るな。お前は悪くないだろ?」
「ううん、だって、伊沢くんの気にさわること言っちゃったんだし」
「でもそれがどういう意味か、分かってないんだろ?なら、謝るな」
恵真はどうしていいか分からずに下を向く。
気を抜けば涙がこぼれそうだった。
はあ、と小さく伊沢のため息が聞こえた。
「恵真、ごめん。今のは俺が悪かった。自分が思ってるほど、上手く気持ちのコントロールが出来なかった」
恵真はそっと視線を上げる。
伊沢は恵真に笑ってみせたが、どこか辛そうだった。
「あの、伊沢くん。私…」
口を開くが、何を話していいか分からない。
「いいよ、何も言うな。ほら、食事まだ途中だろ?早く食べろ」
「うん…」
恵真は涙を堪えながら、味のしなくなったハヤシライスをひたすら口に運んだ。
◇
「こずえちゃん…」
手にしたスマートフォンに弱々しく呼びかけると、こずえの驚いた声がする。
「ど、どうしたの?恵真。ひょっとして泣いてる?」
「泣いてない」
「いや、泣いてるでしょ?」
「勝手に涙が出てくるだけ」
「それを泣いてるって言うの!どうした?何かあった?」
恵真は、ううっと肩で息を吸う。
あのあと、伊沢と別れてなんとか乗務をこなしたものの、マンションの部屋に帰るとやはり思い出してしまい、たまらず恵真はこずえに電話をかけた。
「あのね、私、伊沢くんを怒らせちゃった…」
「ええー?あの伊沢を?」
「うん。あ、ほんとに怒られた訳じゃないの。でも伊沢くんが我慢してくれただけ。きっと心の中では私のこと怒ってる。どうしよう…、こずえちゃん。私、今までずっと伊沢くんを頼ってきて、なんでも相談してきたの。その伊沢くんが、あんなふうに…」
思い出すとまた涙が溢れて言葉にならない。
「恵真、落ち着いて。何があったか話して。ね?」
うん、と頷いて恵真は食堂での伊沢との会話を話す。
「…なるほどね。そういうことか」
「そういうことって、え、こずえちゃんは分かるの?どうして伊沢くんが怒ったか」
「うん、分かるよ」
え!と恵真は驚いて声を上げる。
「どうして分かるの?教えて!伊沢くんは何を私に怒ったの?」
「んー、それは私の口からは言えない。でもね、恵真。伊沢は本気で恵真に怒った訳じゃないよ。ただ、そうだなー、歯がゆくなったのかな?」
恵真はこずえの言葉の意味を必死で考えてみたが、やはりよく分からない。
「こずえちゃん、私、どうしたらいい?謝りたいけど、悪くないのに謝るなって言われて…。でも、伊沢くんに嫌われたくないの。またいつもみたいに明るく話したいの。どうすればいいの?」
涙声で、すがるようにこずえに聞く。
「んー、難しいな。でもね、恵真。少し伊沢に時間をあげて?あいつ、今まで本当に恵真のことを大事に支えてきたと思うの。だから今度は恵真が伊沢のことを待ってあげて。ね?」
「…うん、分かった。心細いけど、伊沢くんを頼らずに一人で頑張ってみる」
「よし!えらいぞ。その分私が話を聞くから。いつでも電話してきなよ?」
「ありがとう…、ほんとにありがとう、こずえちゃん、ぐすん」
「もう、ほら!泣かないの!」
こずえは半分笑って恵真を励ます。
「明日もフライト?」
「うん。広島往復」
「お、いいねー!広島焼きでも食べて、元気出しな!」
「ありがとう。こずえちゃんも乗務頑張ってね。話聞いてくれてありがとね」
「はいよー!おやすみ、恵真」
「おやすみなさい」
通話を終えた恵真は、気合いを入れる。
(こずえちゃんの言う通り、いつまでも伊沢くんを頼っちゃいけない。これからは自分一人で頑張らなきゃ!)
ギュッと唇を噛み締めて、恵真は頷いた。
◇
その頃、通話を終えたこずえは、伊沢にメッセージを送っていた。
『おーい、伊沢ー。Emergency。Contact こずえ ASAP』
すると、すぐに電話が鳴る。
「もしもし?なんだよ、あの変なメッセージは」
開口一番そう言う伊沢に、こずえは小さくため息をつく。
「伊沢、あんた大丈夫?」
「は?なんだよ、大丈夫って」
「恵真が泣きながら電話してきたよ」
ウッと電話の向こうで伊沢は言葉を詰まらせる。
「まあでもさ、私が心配なのは恵真よりあんたよ。もう限界なんじゃない?」
「ちょっと待て、何が言いたい?」
「だーかーら!これ以上自分の気持ち抑え込むのは無理だって。恵真に言いなよ、好きだって」
「なっ、お前、何言って…」
伊沢は慌てて取り繕う。
「私にまで隠すことないでしょ?いやー、ほんとにあんたは健気だよ。航空大学校の頃からでしょ?かれこれ、何年になる?」
伊沢がボソッと、7年と呟く。
「うっひゃー!少女漫画のヒロインもびっくりの一途さだね。天然記念物レベルだよ」
「なんだよ、もう。仕方ないだろ?あいつはまったく俺のことそんなふうに見てないんだから」
「でも、じゃあなんで今日は恵真に言い返したの?」
「それは、その…。あいつが言ったんだ。俺のこと狙ってる女の子がいるかもって。俺のこと、優しいしかっこいいからって」
「ふーん。それを聞いて嬉しくはならなかったんだ?」
「ああ。だって、俺のことを異性とか関係なく友達として見てると思ってたのに、そんなセリフ…。俺を男として認識してるけど、自分は興味ないって言われてる気がしたんだ」
なるほどね、とこずえは呟く。
「なあ、こずえ。俺、どうしたらいいと思う?」
「それ、恵真にも聞かれた。私、板挟みなんだけど」
「そっか、ごめん。恵真にはなんて言ったんだ?」
「んー、まあ…。伊沢に時間をあげてって、それだけ」
「そしたら?」
「分かったって。心細いけど、伊沢に頼らず一人で頑張るってさ」
恵真…と呟く伊沢に、こずえは思わず笑う。
「あんた今、キュンとしたでしょ?」
「してねーよ!」
「あはは!そんなムキになって否定しなくてもいいってば。もうさっさと告白しなよ。それがいいと思うよ?」
「…でも、絶対フラれるだろ?」
「まあ、多分ね」
「おい!そこは嘘でもいいから否定しろよ!」
「冗談だってば!分かんないよ?だって恵真、ボロボロ泣いてたし。気づいたんじゃない?当たり前だと思ってたあんたの存在が、どんなに大事かってことに。今なら頷くかもよ?」
え…と伊沢は考え込む。
「でもそんな、弱ってるところにつけ込むような真似は…」
「真面目か?!あんた、恵真のこと言えんの?何その優等生発言。あーもう!まどろっこしい!ガバッて抱きついて好きだって言えばいいだけでしょ?なんでそれが出来ないのよ?」
「おまっ、俺はお前とは違うの!そんなこと出来るかよ」
「はあー?だったらもう知らないからね。いつまでもウジウジしてなさい!」
「え、いや、それはその…」
「もう!あんた一応パイロットでしょうが!決断しなさい!なんならもう、海外ドラマみたいに無線でプロポーズしなさい!」
「バカ!そんなことしたらクビ飛ぶっつーの!」
「だったら地上で抱きつきなさい!その方がマシでしょ?」
はあ、と伊沢はため息をつく。
するとこずえは口調を変えた。
「伊沢、私マジであんたのことが心配だよ。もうこれ以上無理するのやめな?すぐにとは言わないけど、やっぱり恵真に気持ち打ち明けた方がいいよ。あんたの為にもね」
「…うん。そうだな、ありがとう。今まで自分一人で気持ち抱え込んでたから、聞いてもらっただけでも助かったよ」
「ま、話聞くくらいなら出来るからさ。いつでも電話してきなよ」
「分かった」
「なーんて、単にどうなったか知りたいだけだけどさ。進展あったら教えなさいよ?」
「ああ。分かった」
「じゃねー、Good Luck!」
「サンキュー」
通話を終え、こずえはやれやれと肩をすくめる。
「まったくもう、ウブな真面目同士、お似合いっちゃお似合いだけどね」
そして心の中で、恵真と伊沢にエールを送った。
社員食堂でランチを食べていると、伊沢が向かい側に腰を下ろす。
「伊沢くん、お疲れ様。ほんとだね、えーっと、1か月ぶり?」
「あー、そうかも。おいおい、俺達つき合ってるはずじゃなかったのか?」
「あはは、そうだね」
思わず笑ったが、恵真はすぐに真剣な表情になる。
「伊沢くん、その事なんだけどね。もう佐倉さんにはちゃんと伝わった訳だし、つき合ってるって噂、消した方がいいよね?」
「ん、そうか?別に放っておけばいいんじゃない?」
「でも伊沢くんにも迷惑かけてるし…」
「別に俺はなんともないけど?」
「だってこのままだと伊沢くん、好きな子にアタック出来ないよ?」
「アタックって…。お前、なんか妙に古臭いな」
もう、それはいいから!と、恵真は顔を寄せる。
「それに伊沢くんのこと狙ってる女の子も、伊沢くんにアタック出来ないじゃない?そんなの可哀想だよ」
すると伊沢は、まじまじと恵真を見つめる。
「え、何?アタックってまた変だった?」
「うん、変だった。それにお前、本気で言ってんの?俺のこと狙ってる女の子がいるって」
「当たり前だよ。伊沢くん、優しいしかっこいいし、パイロットの制服姿もすごく似合ってる。絶対狙ってる女の子いるよ」
そう言う恵真の予想に反して、伊沢は表情を曇らせる。
「伊沢くん?どうしたの?」
心配になって顔を覗き込むと、伊沢はキュッと口元を引き締めて恵真を見る。
「俺、お前からそんなふうに言われると辛い」
「え、どうして?私、何か気にさわること言った?」
「ああ、気にさわった」
え…と恵真は絶句する。
伊沢からこんなふうにきっぱりと拒絶されたことなど、今まで一度もなかった。
「伊沢くん、あの、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃなくて…」
「謝るな。お前は悪くないだろ?」
「ううん、だって、伊沢くんの気にさわること言っちゃったんだし」
「でもそれがどういう意味か、分かってないんだろ?なら、謝るな」
恵真はどうしていいか分からずに下を向く。
気を抜けば涙がこぼれそうだった。
はあ、と小さく伊沢のため息が聞こえた。
「恵真、ごめん。今のは俺が悪かった。自分が思ってるほど、上手く気持ちのコントロールが出来なかった」
恵真はそっと視線を上げる。
伊沢は恵真に笑ってみせたが、どこか辛そうだった。
「あの、伊沢くん。私…」
口を開くが、何を話していいか分からない。
「いいよ、何も言うな。ほら、食事まだ途中だろ?早く食べろ」
「うん…」
恵真は涙を堪えながら、味のしなくなったハヤシライスをひたすら口に運んだ。
◇
「こずえちゃん…」
手にしたスマートフォンに弱々しく呼びかけると、こずえの驚いた声がする。
「ど、どうしたの?恵真。ひょっとして泣いてる?」
「泣いてない」
「いや、泣いてるでしょ?」
「勝手に涙が出てくるだけ」
「それを泣いてるって言うの!どうした?何かあった?」
恵真は、ううっと肩で息を吸う。
あのあと、伊沢と別れてなんとか乗務をこなしたものの、マンションの部屋に帰るとやはり思い出してしまい、たまらず恵真はこずえに電話をかけた。
「あのね、私、伊沢くんを怒らせちゃった…」
「ええー?あの伊沢を?」
「うん。あ、ほんとに怒られた訳じゃないの。でも伊沢くんが我慢してくれただけ。きっと心の中では私のこと怒ってる。どうしよう…、こずえちゃん。私、今までずっと伊沢くんを頼ってきて、なんでも相談してきたの。その伊沢くんが、あんなふうに…」
思い出すとまた涙が溢れて言葉にならない。
「恵真、落ち着いて。何があったか話して。ね?」
うん、と頷いて恵真は食堂での伊沢との会話を話す。
「…なるほどね。そういうことか」
「そういうことって、え、こずえちゃんは分かるの?どうして伊沢くんが怒ったか」
「うん、分かるよ」
え!と恵真は驚いて声を上げる。
「どうして分かるの?教えて!伊沢くんは何を私に怒ったの?」
「んー、それは私の口からは言えない。でもね、恵真。伊沢は本気で恵真に怒った訳じゃないよ。ただ、そうだなー、歯がゆくなったのかな?」
恵真はこずえの言葉の意味を必死で考えてみたが、やはりよく分からない。
「こずえちゃん、私、どうしたらいい?謝りたいけど、悪くないのに謝るなって言われて…。でも、伊沢くんに嫌われたくないの。またいつもみたいに明るく話したいの。どうすればいいの?」
涙声で、すがるようにこずえに聞く。
「んー、難しいな。でもね、恵真。少し伊沢に時間をあげて?あいつ、今まで本当に恵真のことを大事に支えてきたと思うの。だから今度は恵真が伊沢のことを待ってあげて。ね?」
「…うん、分かった。心細いけど、伊沢くんを頼らずに一人で頑張ってみる」
「よし!えらいぞ。その分私が話を聞くから。いつでも電話してきなよ?」
「ありがとう…、ほんとにありがとう、こずえちゃん、ぐすん」
「もう、ほら!泣かないの!」
こずえは半分笑って恵真を励ます。
「明日もフライト?」
「うん。広島往復」
「お、いいねー!広島焼きでも食べて、元気出しな!」
「ありがとう。こずえちゃんも乗務頑張ってね。話聞いてくれてありがとね」
「はいよー!おやすみ、恵真」
「おやすみなさい」
通話を終えた恵真は、気合いを入れる。
(こずえちゃんの言う通り、いつまでも伊沢くんを頼っちゃいけない。これからは自分一人で頑張らなきゃ!)
ギュッと唇を噛み締めて、恵真は頷いた。
◇
その頃、通話を終えたこずえは、伊沢にメッセージを送っていた。
『おーい、伊沢ー。Emergency。Contact こずえ ASAP』
すると、すぐに電話が鳴る。
「もしもし?なんだよ、あの変なメッセージは」
開口一番そう言う伊沢に、こずえは小さくため息をつく。
「伊沢、あんた大丈夫?」
「は?なんだよ、大丈夫って」
「恵真が泣きながら電話してきたよ」
ウッと電話の向こうで伊沢は言葉を詰まらせる。
「まあでもさ、私が心配なのは恵真よりあんたよ。もう限界なんじゃない?」
「ちょっと待て、何が言いたい?」
「だーかーら!これ以上自分の気持ち抑え込むのは無理だって。恵真に言いなよ、好きだって」
「なっ、お前、何言って…」
伊沢は慌てて取り繕う。
「私にまで隠すことないでしょ?いやー、ほんとにあんたは健気だよ。航空大学校の頃からでしょ?かれこれ、何年になる?」
伊沢がボソッと、7年と呟く。
「うっひゃー!少女漫画のヒロインもびっくりの一途さだね。天然記念物レベルだよ」
「なんだよ、もう。仕方ないだろ?あいつはまったく俺のことそんなふうに見てないんだから」
「でも、じゃあなんで今日は恵真に言い返したの?」
「それは、その…。あいつが言ったんだ。俺のこと狙ってる女の子がいるかもって。俺のこと、優しいしかっこいいからって」
「ふーん。それを聞いて嬉しくはならなかったんだ?」
「ああ。だって、俺のことを異性とか関係なく友達として見てると思ってたのに、そんなセリフ…。俺を男として認識してるけど、自分は興味ないって言われてる気がしたんだ」
なるほどね、とこずえは呟く。
「なあ、こずえ。俺、どうしたらいいと思う?」
「それ、恵真にも聞かれた。私、板挟みなんだけど」
「そっか、ごめん。恵真にはなんて言ったんだ?」
「んー、まあ…。伊沢に時間をあげてって、それだけ」
「そしたら?」
「分かったって。心細いけど、伊沢に頼らず一人で頑張るってさ」
恵真…と呟く伊沢に、こずえは思わず笑う。
「あんた今、キュンとしたでしょ?」
「してねーよ!」
「あはは!そんなムキになって否定しなくてもいいってば。もうさっさと告白しなよ。それがいいと思うよ?」
「…でも、絶対フラれるだろ?」
「まあ、多分ね」
「おい!そこは嘘でもいいから否定しろよ!」
「冗談だってば!分かんないよ?だって恵真、ボロボロ泣いてたし。気づいたんじゃない?当たり前だと思ってたあんたの存在が、どんなに大事かってことに。今なら頷くかもよ?」
え…と伊沢は考え込む。
「でもそんな、弱ってるところにつけ込むような真似は…」
「真面目か?!あんた、恵真のこと言えんの?何その優等生発言。あーもう!まどろっこしい!ガバッて抱きついて好きだって言えばいいだけでしょ?なんでそれが出来ないのよ?」
「おまっ、俺はお前とは違うの!そんなこと出来るかよ」
「はあー?だったらもう知らないからね。いつまでもウジウジしてなさい!」
「え、いや、それはその…」
「もう!あんた一応パイロットでしょうが!決断しなさい!なんならもう、海外ドラマみたいに無線でプロポーズしなさい!」
「バカ!そんなことしたらクビ飛ぶっつーの!」
「だったら地上で抱きつきなさい!その方がマシでしょ?」
はあ、と伊沢はため息をつく。
するとこずえは口調を変えた。
「伊沢、私マジであんたのことが心配だよ。もうこれ以上無理するのやめな?すぐにとは言わないけど、やっぱり恵真に気持ち打ち明けた方がいいよ。あんたの為にもね」
「…うん。そうだな、ありがとう。今まで自分一人で気持ち抱え込んでたから、聞いてもらっただけでも助かったよ」
「ま、話聞くくらいなら出来るからさ。いつでも電話してきなよ」
「分かった」
「なーんて、単にどうなったか知りたいだけだけどさ。進展あったら教えなさいよ?」
「ああ。分かった」
「じゃねー、Good Luck!」
「サンキュー」
通話を終え、こずえはやれやれと肩をすくめる。
「まったくもう、ウブな真面目同士、お似合いっちゃお似合いだけどね」
そして心の中で、恵真と伊沢にエールを送った。
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