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悲しみと決意
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「えー、では第三回リーダーミーティングを始めます」
9月の下旬に、久しぶりのミーティングが開かれた。
いつもの面々の中に瑠璃の姿はない。
だが、早瀬がパソコンの向きを変えて皆に見せると、瑠璃が赤ちゃんを抱いて微笑んでいた。
「うわー、可愛い!」
皆は、我先にと身を乗り出してパソコンを覗き込む。
「お陰様で無事に産まれました。今日はオンラインで参加させて頂きます。よろしくお願い致します」
瑠璃が頭を下げると、拍手が起こる。
「おめでとうございます!総支配人、瑠璃様」
一生も、笑顔で礼を言う。
山下は、ちらっと小雪に目を向けた。
誰よりも食い入るように、画面の向こうの赤ちゃんを覗き込み、満面の笑みを浮かべている。
(きっと、いつか自分がお世話をしたいと思っているのだろうな)
そう思うと、山下は胸が傷んだ。
ミーティングでは、前回候補に挙がった物件について、一生が早瀬と下見に行った事が報告される。
「ここは、築10年の物件なんだが、全戸で千近くもあり、とても大きなコミュニティマンションだ」
そう言って、撮影してきた動画を見せる。
「全戸80平米以上、バリアフリーも徹底されている。敷地内にコンビニ、公園、小児科や内科のクリニック、共用施設としてスポーツジムにカラオケルームまである」
おおー!と皆は動画を見ながら、感嘆の声を上げる。
「凄いですねー、お部屋も綺麗だし」
「ここだけで、一つの街みたいですね」
一生は、頷いて続ける。
「駅からは離れているんだが、その分静かな環境だ。学校や図書館なども近くにあるし、歩道も広くて整備されている。このマンションを取り扱っている不動産会社と話をしてみたが、少しずつ空き部屋が出始めて、だいたい30戸は確保出来そうだ。ここなら、高齢者の介護世帯と子育て世帯の両方に向いている。1階の1部屋を改築して、うちの社員が集まれる集会室にし、そこにヘルバーやベビーシッターを派遣しようかと思っている」
皆は、うんうんと頷きながら、熱心に耳を傾ける。
「良さそうですねー。私も早速心動かされてます」
「私も。とにかく広いし、設備も言う事なしですね」
「ここに会社から補助してもらって、格安で住めるなんて、みんな喜びますよ」
「でも確保出来るのは30戸なんですよね?希望者、もっと多いような気がします」
メンバーの声に、一生も頷く。
「ひとまず、全社員にアンケートを取ってみる。結果次第では抽選になるかもしれないが、好評であれば引き続き、部屋が空き次第買い取る事にする」
その後、別の物件もまたいくつか下見に行ってみると一生が話し、他のメンバーも引き続き情報収集と社員への聞き取りを行う事にし、ミーティングは終了となった。
お疲れ様でしたと挨拶をした後、早瀬の目配せで今井が前に歩み出る。
「総支配人、瑠璃様。これはここにいるメンバーからのお祝いです」
そう言って、大きな花束を一生に差し出す。
えっ?と一生が驚いていると、皆が拍手をしながら微笑んでいた。
「改めてご出産、おめでとうございます!総支配人、瑠璃様」
「あ、ありがとう!」
一生は花束を受け取ると、パソコンの画面越しに瑠璃に見せる。
「まあ、綺麗なお花!皆様、本当にありがとうございます」
瑠璃も嬉しそうに微笑んで礼を言った。
◇
10月に入り、生後1ヶ月半が経った蓮をぼちぼち外に連れ出せるようになると、瑠璃は久しぶりにすみれをナーサリーに預ける事にした。
「おはようございます!すみれちゃん、瑠璃さん」
小雪は待ってましたとばかりに、ナーサリーに入って来た瑠璃達に近付くと、瑠璃が抱いている赤ちゃんに顔を寄せる。
「うわー、可愛い!なんて綺麗なお顔の赤ちゃんなのかしら。初めまして、蓮くん」
「小雪先生、抱っこしてもらえる?」
「えっ!いいんですか?」
小雪は、瑠璃の言葉に目をキラキラとさせる。
瑠璃は、そっと蓮を小雪の腕に預けた。
「ほわー、可愛い!感激!ふんわり赤ちゃんのいい匂い…。柔らかくてフワフワで、あーもう、ずっと抱っこしていたい」
小雪は両目を細めて、嬉しそうに蓮を抱いている。
「ふふふ、もう少し大きくなったら、蓮もナーサリーにお願いしますね」
瑠璃の言葉に、はい!と答えたが、小雪は胸の奥がキュッと痛むのを感じていた。
企画広報課に顔を出してから一旦うちに帰って、また15時にお迎えに来ます、と言って、瑠璃は蓮と一緒にナーサリーを出て行った。
「すみれちゃん、久しぶりだね。今日は先生とたくさんお話しようね!」
「はい!」
すみれも可愛い笑顔で頷いてくれる。
この笑顔が見られるのも、あと少し。
それに、自分が蓮を預かる事はないのだろうと思うと、小雪は悲しさに涙が溢れそうになる。
けれど、すみれにそんな顔を見せる訳にはいかない。
すみれと最後まで笑顔で過ごせるように。
小雪は、とにかく今出来る事を精一杯頑張ろうと心に決めた。
9月の下旬に、久しぶりのミーティングが開かれた。
いつもの面々の中に瑠璃の姿はない。
だが、早瀬がパソコンの向きを変えて皆に見せると、瑠璃が赤ちゃんを抱いて微笑んでいた。
「うわー、可愛い!」
皆は、我先にと身を乗り出してパソコンを覗き込む。
「お陰様で無事に産まれました。今日はオンラインで参加させて頂きます。よろしくお願い致します」
瑠璃が頭を下げると、拍手が起こる。
「おめでとうございます!総支配人、瑠璃様」
一生も、笑顔で礼を言う。
山下は、ちらっと小雪に目を向けた。
誰よりも食い入るように、画面の向こうの赤ちゃんを覗き込み、満面の笑みを浮かべている。
(きっと、いつか自分がお世話をしたいと思っているのだろうな)
そう思うと、山下は胸が傷んだ。
ミーティングでは、前回候補に挙がった物件について、一生が早瀬と下見に行った事が報告される。
「ここは、築10年の物件なんだが、全戸で千近くもあり、とても大きなコミュニティマンションだ」
そう言って、撮影してきた動画を見せる。
「全戸80平米以上、バリアフリーも徹底されている。敷地内にコンビニ、公園、小児科や内科のクリニック、共用施設としてスポーツジムにカラオケルームまである」
おおー!と皆は動画を見ながら、感嘆の声を上げる。
「凄いですねー、お部屋も綺麗だし」
「ここだけで、一つの街みたいですね」
一生は、頷いて続ける。
「駅からは離れているんだが、その分静かな環境だ。学校や図書館なども近くにあるし、歩道も広くて整備されている。このマンションを取り扱っている不動産会社と話をしてみたが、少しずつ空き部屋が出始めて、だいたい30戸は確保出来そうだ。ここなら、高齢者の介護世帯と子育て世帯の両方に向いている。1階の1部屋を改築して、うちの社員が集まれる集会室にし、そこにヘルバーやベビーシッターを派遣しようかと思っている」
皆は、うんうんと頷きながら、熱心に耳を傾ける。
「良さそうですねー。私も早速心動かされてます」
「私も。とにかく広いし、設備も言う事なしですね」
「ここに会社から補助してもらって、格安で住めるなんて、みんな喜びますよ」
「でも確保出来るのは30戸なんですよね?希望者、もっと多いような気がします」
メンバーの声に、一生も頷く。
「ひとまず、全社員にアンケートを取ってみる。結果次第では抽選になるかもしれないが、好評であれば引き続き、部屋が空き次第買い取る事にする」
その後、別の物件もまたいくつか下見に行ってみると一生が話し、他のメンバーも引き続き情報収集と社員への聞き取りを行う事にし、ミーティングは終了となった。
お疲れ様でしたと挨拶をした後、早瀬の目配せで今井が前に歩み出る。
「総支配人、瑠璃様。これはここにいるメンバーからのお祝いです」
そう言って、大きな花束を一生に差し出す。
えっ?と一生が驚いていると、皆が拍手をしながら微笑んでいた。
「改めてご出産、おめでとうございます!総支配人、瑠璃様」
「あ、ありがとう!」
一生は花束を受け取ると、パソコンの画面越しに瑠璃に見せる。
「まあ、綺麗なお花!皆様、本当にありがとうございます」
瑠璃も嬉しそうに微笑んで礼を言った。
◇
10月に入り、生後1ヶ月半が経った蓮をぼちぼち外に連れ出せるようになると、瑠璃は久しぶりにすみれをナーサリーに預ける事にした。
「おはようございます!すみれちゃん、瑠璃さん」
小雪は待ってましたとばかりに、ナーサリーに入って来た瑠璃達に近付くと、瑠璃が抱いている赤ちゃんに顔を寄せる。
「うわー、可愛い!なんて綺麗なお顔の赤ちゃんなのかしら。初めまして、蓮くん」
「小雪先生、抱っこしてもらえる?」
「えっ!いいんですか?」
小雪は、瑠璃の言葉に目をキラキラとさせる。
瑠璃は、そっと蓮を小雪の腕に預けた。
「ほわー、可愛い!感激!ふんわり赤ちゃんのいい匂い…。柔らかくてフワフワで、あーもう、ずっと抱っこしていたい」
小雪は両目を細めて、嬉しそうに蓮を抱いている。
「ふふふ、もう少し大きくなったら、蓮もナーサリーにお願いしますね」
瑠璃の言葉に、はい!と答えたが、小雪は胸の奥がキュッと痛むのを感じていた。
企画広報課に顔を出してから一旦うちに帰って、また15時にお迎えに来ます、と言って、瑠璃は蓮と一緒にナーサリーを出て行った。
「すみれちゃん、久しぶりだね。今日は先生とたくさんお話しようね!」
「はい!」
すみれも可愛い笑顔で頷いてくれる。
この笑顔が見られるのも、あと少し。
それに、自分が蓮を預かる事はないのだろうと思うと、小雪は悲しさに涙が溢れそうになる。
けれど、すみれにそんな顔を見せる訳にはいかない。
すみれと最後まで笑顔で過ごせるように。
小雪は、とにかく今出来る事を精一杯頑張ろうと心に決めた。
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