アンコール マリアージュ

葉月 まい

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認めてもらえるでしょうか?!

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 「おやおやー?ひょっとして私は、見事なアシストをしたのかな?」

 真菜の休日に合わせて報告に来た二人に、社長は意味ありげな視線を投げてくる。

 「は、いや、その」
 「ふっ、まあそれはいい。とにかく、おめでとう!私も本当に嬉しいよ。真菜さん、よくぞこんな偏屈な男をもらってくれた。叔父として、その勇気に感謝するよ」
 「お、叔父さん!何を言って…」

 真がアタフタする。

 「いやー、本当に良かった。お前が結婚するなんて。しかも真菜さんと!でかしたぞ、真。あのお前が真菜さんを射止めるなんて。どんな仕事よりも難しい事をやってのけたな」
 「あの、何ですか?俺、褒められてるのか、けなされてるのか…」
 「それはもちろん、両方だ」

 そう言って、心底嬉しそうに社長は笑う。

 「で?兄さんには報告したのか?」

 真は急に顔を引き締める。

 「いえ、これからです」
 「そうか。まあそんなに硬くなるな。きっと喜んでくれるはずだ」

 そして真の肩に手を置くと、
 俺も、もう1度アシストしておいてやるよ、と社長は二人に笑いかけた。

*****

 「真さん、私、大丈夫かな?反対されないかな?」

 助手席から不安そうな声をかけると、真は真っ直ぐ前を見て運転しながら、分からん、とひと言返す。

 「ちょっと!そこは嘘でも、大丈夫だって言って下さいよ!」

 真菜は、思わず身を乗り出して真を見る。

 今日は真の両親に挨拶をする為、真の車で実家に向かっていた。

 「やっぱり、家柄とか身分の違いで反対されるかな…」

 ぽつりと真菜がこぼすと、それはない、と真は即座に否定する。

 「そんな考えをする親じゃない。ただ、なにせ俺も会うのは何年ぶりか分からん。人格変わってなきゃいいけど…」
 「ちょ、ちょっと!ますます不安になるんですけど」

 すると真は、ふっと優しく笑った。

 「大丈夫だ。何があっても俺は真菜を守る。それに、何がなんでも俺は真菜と結婚する。だから安心して、俺のそばにいろ」

 真菜は、うんと頷いて笑った。

 「まあまあ、ようこそ!お待ちしてたのよ。さあ、入ってちょうだい」
 「は、はい」

 玄関で、綺麗な50代の女性に出迎えられ、真菜は緊張気味に靴を脱ぐ。

 (この方が真さんのお母様?凄くお綺麗、若い!うちの、ザ・おばちゃん!みたいなお母さんとは違うわー)

 そして、どうぞ、と通されたリビングに、真菜はまたもや驚く。

 (広い!何ここ、ホームパーティーとか出来ちゃうよね?)

 キョロキョロしていると、にこにこと笑みを浮かべた、社長に良く似た顔の男性がソファから立ち上がった。

 「これはこれは。初めまして。真の父のすすむです。こっちは家内の和歌子わかこ
 「初めまして」

 にこやかに頭を下げられ、真菜も慌ててお辞儀する。

 「は、初めまして!齊藤 真菜と申します。よろしくお願い致します」
 「あら?齊藤って…。もう入籍済ませたのね?あなた達」
 「あ、いえ、違うんです!」

 真菜は手を振って否定する。

 「たまたま名字が一緒なんだ。ちなみに漢字も同じ」

 真が言うと、父親は、お?と驚いた。

 「へえー、じゃあ、うちと親戚なのかもね」
 「と、とんでもない!うちはこちら様とは違って、庶民の中の庶民でございます」

 ぶっ、と真が吹き出す。

 「真菜、お前、男の中の男!みたいだな」
 「ええ?私、一応女なんだけど…」
 「だから、そうじゃなくて!」

 すると母親が笑い出す。

 「まあ、なんだか楽しそうね。さ、どうぞ座って。今、お茶をお持ちしますね」
 「あ、私もお手伝いに参ります」
 「あら、いいのよ、そんな」
 「いえ。チーズケーキをお持ちしたので、もしよろしければこれもご一緒に…」
 「まあ!チーズケーキ?嬉しい!じゃあそれも頂きましょう」

 そして、二人でキッチンに立つ。

 「美味しそうなチーズケーキね。私も主人も、チーズケーキが大好きなの」
 「ええ。真さんからうかがいました。手土産を考えていたら、お二人ともチーズケーキがお好きだって」

 え、真が?と、意外そうに聞き返され、真菜は不思議に思いながら頷いた。

 「そう、あの子がそんなふうに…」

 ティーポットにお湯を注ぎながら、母親が話し始める。

 「あの子は、高校を卒業してから1度もこの家に帰って来なくてね」
 「え!そうなんですか?」
 「ええ。アメリカに留学して、その後そのままうちの関連会社の海外事業部に就職したの。今年の3月に帰国したのは知っていたけど、実家ではなく寮に入るとか言って。それで今は、横浜で暮らしてるとか?」
 「あ、はい。みなとみらいに」
 「そう。住所も教えてくれないのよ」
 「あの…それは何か理由があるんでしょうか?」
 「そうねえ。あの子、本当は父親の会社を継ぐつもりだったのよ。なのにいきなり、関連会社の方に行けって言われて。それで心を閉ざしてしまったのかもね。訳を話そうとしても聞く耳を持たなくて、気付いたら何年も顔を合わせなくなっていて…」

 そこまで言うと顔を上げ、ぱっと笑顔になる。

 「だからね、今日はもう、嬉しくて!真が結婚の報告に来るなんて。しかも、こんなに素敵なお嬢さんと!」
 「い、いえ、そんな、私なんて」 
 「ううん。私、もう既に、あなたのことが大好きよ!よろしくね、真菜さん」
 「こ、こちらこそ!よろしくお願いします」

 二人で、ふふっと微笑み合った。

 「真、お前、うちの会社に来るか?」

 ひとしきり雑談をしたあと、やがて父親がひと言そう言い、真は、えっ?と顔を上げた。

 真菜も、そんな真の横顔を見つめる。

 「お前、本当は院を卒業後、うちの会社に来るつもりだったんだろう?もちろん私もそのつもりだった。だがな、あの時、うちの社は、何て言うか、派閥争いが激しくてな」
 「…派閥?」
 「ああ。齊藤の血縁者だけで会社を組織するのに反発されてな。もちろん、私もその気持ちは分かるし、そもそも血縁者だけを役員にするつもりもない。だが、彼らの言い分を聞いていたら、単なる自分の保身の為としか思えなかった。会長の親父とも話し、時間をかけて分かってもらおうという事になったんだ。だが、そこに、大学院を卒業したばかりのお前を放り込む訳にもいかない。標的にされるからな。それで、昇の所に行かせたんだよ」

 知らなかった…と、真は小さく呟く。

 「話したくても、お前はあの時まともに口をきいてくれなかったからな。ずっとお前のことを心配していた。だが、聞いたぞ?昇から。お前と真菜さんのおかげで、アニヴェルセル・エトワールは、飛躍的に業績を伸ばしたそうじゃないか。真菜さんとお前の結婚を、万が一にも反対しようものなら、親戚としても会社としても大損害だと言われたよ」

 そう言って嬉しそうに笑う。

 「もちろん、反対なんてする訳がない。こんなに喜ばしい事はないよ。それにもう、うちのプルミエール・エトワールも落ち着いた。どうだ?お前もこっちに来るか?」

 真はじっと手元を見つめて考える。
 そして顔を上げると、はっきりと答えた。

 「いいえ、私はこれからもアニヴェルセル・エトワールにいます。我が社は素晴らしい会社です。日々感動と感謝に触れ、私自身も多くの事を学ばせてもらっています。そして、この仕事の素晴らしさを誰よりも私に教えてくれたのが、真菜です」

 そう言って隣の真菜に微笑む。

 「私はこれからも、この仕事に誇りを持ち、彼女に感謝しながらこの会社をより良いものにしていきたいと思っています」

 母親が目頭を押さえながら、何度も頷いている。

 「そうか、分かった。お前は私達の知らない間に、随分しっかりと成長したんだな。これも真菜さんのおかげだ。本当にありがとう。これからも、よろしくお願いしますね」
 「こちらこそ、よろしくお願い致します」

 そして真菜は、真と顔を見合わせて笑顔で頷いた。

*****

 「ひゃー!イケメンー!」
 「すげー、姉ちゃん、マジかよー」

 実家の玄関を開けるなり、真菜の母親と弟の真吾しんごは、真を見て大声を上げた。

 「ちょっと!恥ずかしいでしょ!」

 真菜が慌てて止める。

 「お、お父さん!凄い人が来たわよ!」

 母親がバタバタと走って行き、父親の手を引いて戻って来た。

 「こりゃまたー、盆と正月が一緒に来たなー」
 「な、何言ってんのよ?お父さんまで。真さん、すみません。もう上がって下さい」
 「ああ。じゃあ、お邪魔します」

 笑いを堪えながら真がそう言うと、
 「ひゃー!声までイケてる!」
 「マジだよ、イケボ!」
 またもや大騒ぎする。

 リビングに入ると挨拶もそこそこに、真は質問攻めにされる。

 「真さん、視力は大丈夫?真菜の顔は良く見えてますか?」
 「姉ちゃん、泣くと、すんげーブサイクになるんですよ。見たら、ドン引きしますよ」
 「やー、でも、そのあと返品されても困るんで。やめるなら、今のうちに…」

 真菜は、もうー!と怒って遮る。

 「何言ってんのよ?みんな」
 「だってお前、あとで真さんが正気に戻った時の為に、なあ?」
 「そうそう。クーリングオフについて、説明をね」
 「私は通販で売ってないっつーの!」

 真菜が大声を出すと、真は我慢の限界とばかりに笑い出した。

 「いや、そのすみません。どうにも、堪え切れなくて…」

 そしてようやく笑いを収めると、真剣に話し出す。

 「私は、視力も問題なく、真菜さんの顔も良く見えています。彼女が号泣すると顔が、その、やや変形するのも承知しています。それに、彼女を一生手放すつもりはありません。どうか、私を真菜さんと結婚させて頂けないでしょうか?」

 そう言って頭を下げると、また皆は、わー!と騒ぎ出す。

 「そ、そんな!頭を上げて下さい!」
 「そうですよ。私達の許可なんていりませんから!」
 「どうぞ!ご自由にお持ち下さい」
 「私はレジの横の飴玉かー!」

 真菜が叫んで、皆は大笑いする。

 「いやー、とにかく良かった!な、真菜」
 「ほんとよー。これは、この町の奇跡よ!あんた、伝説になるわよ」

 お酒も入り、寿司を囲みながら、終始嬉しそうな両親の横で、真吾がそっと真に話しかける。

 「でも真さん。これは単なるバカな弟の呟きなんですけど…。姉ちゃんを選んだ真さんは、なかなかお目が高いと俺は思います」

 すると真もニヤッと笑った。

 「真吾くん。実は俺もそう思ってるんだ」

 二人は、ニッと笑いながら、グラスをカチンと合わせた。

 「これからよろしくな、真吾くん」
 「はい、お兄さん」
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