異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~

タカノ

文字の大きさ
7 / 17

第7話:新居は、出る(幽霊が)

しおりを挟む
「……高い。高すぎるよ、日本の不動産事情は!」

私はアパートの傾いた畳の上で、不動産屋から貰ってきた物件案内図面をバシバシと叩いた。

「駅徒歩五分、築二十年、1DKで家賃八万!? 礼金二ヶ月!? 泥棒じゃないか!」

「しゃ、社長。これでも、この辺りでは相場より安い方でして……」

善さんが申し訳なさそうに言う。彼は昨日から、私の無茶振りな条件(広くて、頑丈で、駅から近くて、激安な物件)をクリアすべく、不動産屋を何軒も回らされていたのだ。

「こっちの物件は? 元ラーメン屋の居抜き。厨房設備付きで十五万」

「油臭そうだから却下」

「じゃあ、こっちは? 駅前の新築オフィスビル。五十坪で……」

「家賃五十万!? 馬鹿お言い、そんなの払ったら私の老後資金が消し飛ぶよ!」

私は頭を抱えた。異世界では国から土地も屋敷もタダで貰えていたから、この「場所代」という概念がどうにも腹立たしい。

「……ねえ。これ、何?」

それまで黙って私の横で柿ピーをかじっていたリオが、書類の束から一枚の図面を引っ張り出した。

「ん?」

見てみると、それは駅前の繁華街から少し外れた裏通りにある、築三十年の雑居ビルの情報だった。 3階建ての2階部分。広さは二十坪(約六十六平米)。今の六畳一間に比べれば天国のような広さだ。

で、家賃は――驚きの「五万円」。

「……は? 五万? 桁が一つ間違ってるんじゃないのかい?」

「あ、えっと……それはですね……」

善さんが急に言い淀んだ。視線を泳がせ、冷や汗をかいている。

「その物件、不動産屋さんも最初は隠してたんですけど、私がしつこく安いところって言ったら、渋々出してきて……。その、いわくつき、というか……」

「いわくつき?」

「……『出る』らしいんですよ」

善さんが声を潜めた。

「前のテナントは学習塾だったらしいんですが、生徒が『夜中に子供の泣き声がする』とか『トイレの花子さんを見た』とか言い出して、一ヶ月で夜逃げしたそうで……。その前も、その前も、長続きしないとかで……」

「へえ」

私は柿ピーを一つ摘み、ポリポリとかじった。

「……幽霊かい」

「ひっ! しゃ、社長、怖くないんですか!?」

「何言ってんだい。生きてる人間の方がよっぽど怖いよ。借金取りとか、税務署とかね」

私は鼻で笑い飛ばした。 八十八年も生きてりゃ、幽霊の類いなんて何度か遭遇したことがある。異世界にはアンデッドモンスターなんてのもウジャウジャいたしね。それに比べりゃ、日本の幽霊なんて可愛いもんさ。

「それに、家賃五万だよ? 礼金・敷金ゼロ。更新料なし。こんな好条件、幽霊の一人や二人出たって安いもんじゃないか」

「で、でも……!」

「決まりだ。善さん、すぐに内見の予約を入れな。明日見に行くよ」

「えええぇぇ……」

善さんの情けない声が、傾いた部屋に響いた。

***

翌日。 私たちは問題の雑居ビルの前に立っていた。 外壁は薄汚れたグレーで、窓ガラスは埃で曇っている。一階にはシャッターが閉まったままの古本屋があり、全体的にどんよりとした空気が漂っている。

「こちらです……。足元にお気をつけください……」

案内してくれた不動産屋の中年男性も、心なしか顔色が悪い。塩を撒きながら歩きたい気分なのだろう。

ギシギシと鳴る薄暗い階段を上り、二階のフロアへ。 ドアを開けた瞬間。

ゾワリ。

私の肌が粟立った。 (……なるほど。こりゃあ、いるね)

カビと埃の匂いに混じって、淀んだ、冷たい空気が肌にまとわりついてくる。私の【魔力感知】が、部屋の隅々から発せられる微弱な負のエネルギーを捉えた。

別に悪霊ってほどじゃない。この場所に染み付いた、過去の住人たちのネガティブな感情の吹き溜まりみたいなものだ。それが時々、ラップ音やら何やらの怪奇現象を引き起こすのだろう。

「ううっ……なんか、寒気がします……」

霊感ゼロのはずの善さんですら、ガタガタ震えている。リオは「カビ臭いな」と鼻をつまんでいるだけだが。

「ど、どうされますか? 正直、あまりおすすめはしませんが……」

不動産屋が早く帰りたそうに言った。

私は部屋の中央までスタスタと歩いていった。広さは十分だ。簡単な間仕切りを作れば、施術スペースと待合室を分けられる。トイレも小さいがある。

「……気に入ったよ。ここに決める」

「えっ!? ほ、本当ですか!?」

不動産屋が目を丸くした。

「ああ。ただし、条件がある。このカビ臭いのと、窓の汚れ。入居までにクリーニングしてくれるなら、即決するよ」

「も、もちろんです! 大家さんも喜びます!」

不動産屋は契約書を取りに戻るため、慌てて階段を駆け下りていった。

部屋に残されたのは、私と、震えるおっさんと、不機嫌なヤンキー女。そして――見えない「先客」たち。

「……さて」

私は誰もいない部屋の隅に向かって、声をかけた。

「悪いけど、ここ、私たちが借りるからね。出て行っとくれ」

当然、返事はない。代わりに、ピシッというラップ音が鳴った。威嚇かい? 生意気な。

「……社長、誰と話してるんですか……?」

善さんが涙目で後ずさる。

私はため息をつき、両手をパンと打ち鳴らした。

「仕方ないねえ。少し荒療治といこうか」

私は体内の魔力を練り上げ、部屋全体へと拡散させた。 使うのは、神聖魔法の一つ【浄化(ピュリファイ)】。アンデッドや呪いを消し去る、聖女の得意技だ。

(――悪しきものよ、去れ。ここは光が満ちる場所なり)

カッ!!

目に見えない、しかし強烈な清浄な光が、部屋の隅々まで炸裂した。

ギャアアァァァ……(という幻聴が聞こえた気がする)。

淀んでいた空気が、一瞬で弾け飛んだ。 ジメジメしていた湿気が消え、代わりにカラッとした、陽だまりのような温かい空気が満ちる。

「……あれ?」

善さんがキョロキョロと辺りを見回した。

「なんか、急に空気が美味くなったような……? 寒気も消えたぞ?」

「換気扇が回ったんじゃないの?」

リオが適当なことを言う。

私は満足げに頷いた。これで「出る」問題は解決だ。 ついでに、部屋全体に強力な【防虫・防カビ・抗菌結界】も張っておいた。これでゴキブリも寄り付かないクリーンな環境の出来上がりだ。

「……フフフ。相場の半額以下で、優良物件ゲットだぜ」

私は誰もいない空間に向かって、ニヤリと笑った。 幽霊さんたち、ありがとうよ。あんたたちのおかげで、私の老後資金がまた少し潤ったよ。

こうして私たちは、新たな「城」を手に入れた。 株式会社『コガネ』第二章、スタートだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

処理中です...