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第7章 旅立ち
7ー3 人狼たちの時間1(初日夜)
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〈1日目夜〉
配役は「人狼」、義務は他陣営誰かの殺害、この部屋は全員人狼の「人狼部屋」ーパソコン前から離れナラヤンたちは顔を見合わせた。
話しても何の策も見つからない。
「ふざけてやがる」
怒りの声はバーラムだ。
人狼は全部で9人。他の部屋の人狼と話せるかもしれないとナラヤン、ダウド、バーラムは0時過ぎに4号室を忍び出た。
『夜中にバーラムが外に出たのはこれが最初で最後だった』
もうひとりの住人ラーフルは部屋に戻っていない。
就寝前アナウンスが流れている時に叫ぶともう直ぐだとの声が返ったきりでそれも4号室の住人を不安に陥れていた。
ナラヤンたちが最初に出会ったのはそのラーフルの死体だった。
男子棟から中央棟への廊下中程、うつろな目で倒れる彼を見た時きゃっと女の子のような悲鳴をあげたのがダウドで、ナラヤンはめまいを覚えて意識が遠くなりかける。ダウドとバーラムのふたりが体を支えてくれた。
だがそれ以上近づこうとしないふたりに、ラーフルの脇に膝をついて彼の名を呼び、小さく肩を叩き最後に脈や息を確かめた。
「亡くなっていると思う」
立ち上がって伝える。
どうしてだ、「ルール違反」で時間に戻れなかったからじゃないのか。
小声で話しながら彼らはそこでもう気力を失っていた。少なくともナラヤンはそうだ。
それでも目的の他の部屋の人間と会うために中央棟に出る。
間引かれた照明で暗い広間。時計側の奥にあるソファーに座ったことで初めは異常に気付かなかった。
女子棟側の通路からナイナ、コマラ、ミナの3人が顔を出したのは間もなくで、彼女らも「人狼部屋」だがもうひとりのニルマラは「漂泊者」で陣営は同じでも「人狼」ではないので外に出られない、と一緒に行こうと促した時に白状したという。
「それ本当か」
ダウドがつぶやけばナイナも少し引っかかったけれどと返す。
ふた部屋揃っても何の知恵も出なかった。
連れ立って薄暗い館内を練り歩けば二つ謎が増えた。
・明朝火葬室に送ろうとしていたディーパックの遺体がシーツだけ残して見当たらなくなっていたこと。
・広間の中央窓の下の方が割られて中に破片が散らばっていたこと。
どちらもまた6人を恐がらせ追い詰めた。
それでも「人狼」の「義務」を考えるよりは恐くない。ナラヤンたちは現実と直面するのを避けるよう謎について議論を続けた。
ディーパックの件はラーフルの遺体と考え合わせれば間もなく答えらしきものにたどり着いた。親しかったディーパックを今日中に送ってやろうとしたラーフルが時間ぎりぎりに火葬室に遺体を送り、自分は23時の就寝時刻に戻れなくなったのだろう。
窓の件では考えるほどより悪い想像が大きくなる。
外から割られて血もついているガラス。
誰かが就寝時刻から人狼の時間までの1時間の間にこの建物の中に押し入ったに違いない。
女子が怯え出し、ナラヤンたちも得体の知れない侵入者に青ざめる。
それぞれ部屋に戻って人狼の「道具箱」から護身用に何か持って来ようと一度解散した。
『バーラムはその後、外に戻ろうとはしなかった』
「部屋の中にいる方が安全だ。殺さなければ殺されるというならそれがおれの今回の人生なのだろう」
運命を受け入れることを表明したバーラムは椅子に座りそのまま瞑目して合掌した。
静かな祈りの姿にナラヤンは羨望を感じた。
真似たい思いに駆られたが、このまま自分たちが外に出ず、万一侵入者にナイナたちが襲撃されたら無責任だ。ダウドとふたり再度部屋から出る。
だからポケットに入れた縄は悪い奴を見つけた時に縛っておくための用心だった。
護身用としてはナラヤンは棒、ダウドは刃の大きいナイフを持参した。
広間に姿を見せたのはナイナだけだった。防犯用の唐辛子スプレーを手にしていたが、
「こんなの、力が強い人になら取られちゃって凶器になるだけなのよね」
こちらを見てほっとした顔を見ればやはり出てきて良かったと思う。
実りのない話を続けての0時45分。
時間をはっきり覚えているのは、嘔吐しつつ顔を上げた時壁の時計が目に入ったからだ。
『あの夜、広間に戻したのはぼくだ。気分が悪くなって、そのまま片付けることもしないで、後から「人狼」がベジタリアン食堂の使用者ではないかと指摘される原因を作ってしまった』
『Warning! Warning! Out of rules!』
あちらこちらでモニターが光り文字が点滅する。待ち望んだ明るさがこれとは皮肉だ。
『人狼は一晩につき1人を殺害しなくてはなりません。このまま具体的に行動へ向かう様子が見えない場合、1時以降、5分ごとに警告薬を注入します」
この薬を5分ごとに打たれたらどうなるか。体がナラヤンたちに教えた。
「三時までに出来なかったら、ではなかったのか」
ナラヤンは上に向かって叫んで抗議した。返答はない。
警告薬の注入は部屋にこもった人狼にも行われた。どうしようとコマラとミナが広間に駆け込んで来る。
頭痛、異常な鼓動、いくつかを感じながらナラヤンは気持ちを鎮めようと試みた。
今までに起こったことを頭の中で反芻し考えを巡らせる。
「ひとつ確実なことがある。今ハルジートは部屋にひとりだ」
座り込んでいたカーペットの上で顔をあげた。
「ナラヤン?」
信じられないとの声で止めたのがコマラ。
「お前……」
ダウドも絶句する。
「心配ない。カルマは全てぼくが受けるから。君たちは安心して眠れる」
『この時ぼくは思い上がっていた。国に殉じた軍人のようにぼくが犠牲になればそれですむと思った。この行動は人狼みんなのためで神に捧げるならカルマもほとんど戻らない。頭の中だけでそんな理屈をこねくり回してぼくは悪に足を踏み入れた』
侵入者の正体が不明な中女子だけで部屋に返す訳にはいかない。
3人とダウドには部屋の外で待機していてもらうことにした。
「もしぼくに何かあったら。例えば返り討ちで動けなくでもなったら、部屋から引っ張り出すとか出来る範囲で助けてくれると嬉しい」
2号室は電気が点いたままで、
『ハルジートはうなされつつ眠っていた。それも神様が自分の決断を支持してくれた証だとあの時は思った』
暴力に自信はない。ベッドの上素早く首下に縄を通し交差し、両手で力いっぱい引き絞った。
「……!」
顔は見ないようにしたがそのうち暴れ出し縄を抑えるのが困難になってきた。
体を翻し交差したままの縄を肩の上で背負うように、全体重をかけて引き続けた。
背後の反応がなくなってもしばらく引いた。
様子を見る際にも油断せず合わせた縄を左手で握ったまま生死を確かめた。
するりと首から縄を解く。
何かが自分の中からも滑り落ちた気がした。ただ心は平静で、おさまりかけた呼吸とまだ早い鼓動だけが行為の残りを示していた。
『本日の人狼の仕事の完了を確認しました』
ひとつの遺体とひとりの生者だけの広い寝室。モニターの文章をいやに事務的だと感じた。
小さな苛立ちと裏腹の安堵。どちらの感情の把握すら出来ずナラヤンは凍った心で部屋の外で出た。話しかけようとしたダウドへ唇に指を立て静粛を促す。見つかったら大変だ。
『後は女子を部屋に送ってダウドと一緒に自分の部屋に戻ってきた。バーラムは上掛けを被って寝ていたが起き上がった』
「何をしたんだ!」
この部屋にもあのモニターの文章が流れたという。
「その通りだよ」
言って彼の顔が驚愕や嫌悪に変わり始めるのから目を背けた。
『これがぼくの最初の殺人だ。初日の夜はひとりでやった。翌日からはダウドも手を染めることとなってしまった』
画面の中のナラヤンは暗い目をより翳らせた。
配役は「人狼」、義務は他陣営誰かの殺害、この部屋は全員人狼の「人狼部屋」ーパソコン前から離れナラヤンたちは顔を見合わせた。
話しても何の策も見つからない。
「ふざけてやがる」
怒りの声はバーラムだ。
人狼は全部で9人。他の部屋の人狼と話せるかもしれないとナラヤン、ダウド、バーラムは0時過ぎに4号室を忍び出た。
『夜中にバーラムが外に出たのはこれが最初で最後だった』
もうひとりの住人ラーフルは部屋に戻っていない。
就寝前アナウンスが流れている時に叫ぶともう直ぐだとの声が返ったきりでそれも4号室の住人を不安に陥れていた。
ナラヤンたちが最初に出会ったのはそのラーフルの死体だった。
男子棟から中央棟への廊下中程、うつろな目で倒れる彼を見た時きゃっと女の子のような悲鳴をあげたのがダウドで、ナラヤンはめまいを覚えて意識が遠くなりかける。ダウドとバーラムのふたりが体を支えてくれた。
だがそれ以上近づこうとしないふたりに、ラーフルの脇に膝をついて彼の名を呼び、小さく肩を叩き最後に脈や息を確かめた。
「亡くなっていると思う」
立ち上がって伝える。
どうしてだ、「ルール違反」で時間に戻れなかったからじゃないのか。
小声で話しながら彼らはそこでもう気力を失っていた。少なくともナラヤンはそうだ。
それでも目的の他の部屋の人間と会うために中央棟に出る。
間引かれた照明で暗い広間。時計側の奥にあるソファーに座ったことで初めは異常に気付かなかった。
女子棟側の通路からナイナ、コマラ、ミナの3人が顔を出したのは間もなくで、彼女らも「人狼部屋」だがもうひとりのニルマラは「漂泊者」で陣営は同じでも「人狼」ではないので外に出られない、と一緒に行こうと促した時に白状したという。
「それ本当か」
ダウドがつぶやけばナイナも少し引っかかったけれどと返す。
ふた部屋揃っても何の知恵も出なかった。
連れ立って薄暗い館内を練り歩けば二つ謎が増えた。
・明朝火葬室に送ろうとしていたディーパックの遺体がシーツだけ残して見当たらなくなっていたこと。
・広間の中央窓の下の方が割られて中に破片が散らばっていたこと。
どちらもまた6人を恐がらせ追い詰めた。
それでも「人狼」の「義務」を考えるよりは恐くない。ナラヤンたちは現実と直面するのを避けるよう謎について議論を続けた。
ディーパックの件はラーフルの遺体と考え合わせれば間もなく答えらしきものにたどり着いた。親しかったディーパックを今日中に送ってやろうとしたラーフルが時間ぎりぎりに火葬室に遺体を送り、自分は23時の就寝時刻に戻れなくなったのだろう。
窓の件では考えるほどより悪い想像が大きくなる。
外から割られて血もついているガラス。
誰かが就寝時刻から人狼の時間までの1時間の間にこの建物の中に押し入ったに違いない。
女子が怯え出し、ナラヤンたちも得体の知れない侵入者に青ざめる。
それぞれ部屋に戻って人狼の「道具箱」から護身用に何か持って来ようと一度解散した。
『バーラムはその後、外に戻ろうとはしなかった』
「部屋の中にいる方が安全だ。殺さなければ殺されるというならそれがおれの今回の人生なのだろう」
運命を受け入れることを表明したバーラムは椅子に座りそのまま瞑目して合掌した。
静かな祈りの姿にナラヤンは羨望を感じた。
真似たい思いに駆られたが、このまま自分たちが外に出ず、万一侵入者にナイナたちが襲撃されたら無責任だ。ダウドとふたり再度部屋から出る。
だからポケットに入れた縄は悪い奴を見つけた時に縛っておくための用心だった。
護身用としてはナラヤンは棒、ダウドは刃の大きいナイフを持参した。
広間に姿を見せたのはナイナだけだった。防犯用の唐辛子スプレーを手にしていたが、
「こんなの、力が強い人になら取られちゃって凶器になるだけなのよね」
こちらを見てほっとした顔を見ればやはり出てきて良かったと思う。
実りのない話を続けての0時45分。
時間をはっきり覚えているのは、嘔吐しつつ顔を上げた時壁の時計が目に入ったからだ。
『あの夜、広間に戻したのはぼくだ。気分が悪くなって、そのまま片付けることもしないで、後から「人狼」がベジタリアン食堂の使用者ではないかと指摘される原因を作ってしまった』
『Warning! Warning! Out of rules!』
あちらこちらでモニターが光り文字が点滅する。待ち望んだ明るさがこれとは皮肉だ。
『人狼は一晩につき1人を殺害しなくてはなりません。このまま具体的に行動へ向かう様子が見えない場合、1時以降、5分ごとに警告薬を注入します」
この薬を5分ごとに打たれたらどうなるか。体がナラヤンたちに教えた。
「三時までに出来なかったら、ではなかったのか」
ナラヤンは上に向かって叫んで抗議した。返答はない。
警告薬の注入は部屋にこもった人狼にも行われた。どうしようとコマラとミナが広間に駆け込んで来る。
頭痛、異常な鼓動、いくつかを感じながらナラヤンは気持ちを鎮めようと試みた。
今までに起こったことを頭の中で反芻し考えを巡らせる。
「ひとつ確実なことがある。今ハルジートは部屋にひとりだ」
座り込んでいたカーペットの上で顔をあげた。
「ナラヤン?」
信じられないとの声で止めたのがコマラ。
「お前……」
ダウドも絶句する。
「心配ない。カルマは全てぼくが受けるから。君たちは安心して眠れる」
『この時ぼくは思い上がっていた。国に殉じた軍人のようにぼくが犠牲になればそれですむと思った。この行動は人狼みんなのためで神に捧げるならカルマもほとんど戻らない。頭の中だけでそんな理屈をこねくり回してぼくは悪に足を踏み入れた』
侵入者の正体が不明な中女子だけで部屋に返す訳にはいかない。
3人とダウドには部屋の外で待機していてもらうことにした。
「もしぼくに何かあったら。例えば返り討ちで動けなくでもなったら、部屋から引っ張り出すとか出来る範囲で助けてくれると嬉しい」
2号室は電気が点いたままで、
『ハルジートはうなされつつ眠っていた。それも神様が自分の決断を支持してくれた証だとあの時は思った』
暴力に自信はない。ベッドの上素早く首下に縄を通し交差し、両手で力いっぱい引き絞った。
「……!」
顔は見ないようにしたがそのうち暴れ出し縄を抑えるのが困難になってきた。
体を翻し交差したままの縄を肩の上で背負うように、全体重をかけて引き続けた。
背後の反応がなくなってもしばらく引いた。
様子を見る際にも油断せず合わせた縄を左手で握ったまま生死を確かめた。
するりと首から縄を解く。
何かが自分の中からも滑り落ちた気がした。ただ心は平静で、おさまりかけた呼吸とまだ早い鼓動だけが行為の残りを示していた。
『本日の人狼の仕事の完了を確認しました』
ひとつの遺体とひとりの生者だけの広い寝室。モニターの文章をいやに事務的だと感じた。
小さな苛立ちと裏腹の安堵。どちらの感情の把握すら出来ずナラヤンは凍った心で部屋の外で出た。話しかけようとしたダウドへ唇に指を立て静粛を促す。見つかったら大変だ。
『後は女子を部屋に送ってダウドと一緒に自分の部屋に戻ってきた。バーラムは上掛けを被って寝ていたが起き上がった』
「何をしたんだ!」
この部屋にもあのモニターの文章が流れたという。
「その通りだよ」
言って彼の顔が驚愕や嫌悪に変わり始めるのから目を背けた。
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