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1 怪しい魔道具
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私の名前はアンジェリク・リーネルト。
この国の王太子であるセドリック殿下の婚約者だ。
今日は、王家主催の大規模な夜会が行われる。
年に一度、その年の豊穣を祈る祭りの最終日に王城で開かれるこの夜会は、国内貴族達が非常に楽しみにしている年中行事の一つだ。
私も勿論、王太子殿下のパートナーとして参加する予定となっている。
王宮の中にある専用の控室にて、ちょっと早めに身支度を終えた私は、のんびりとお茶を楽しんでいた。
突然、控室の扉をノックする音が響く。
殿下が迎えに来たにしては、少々早過ぎる時間だ。
不思議に思いながら声を掛けた。
「どなた?」
「マティウスだよー」
入室を許可する意味を込めて、侍女に小さく頷く。
彼女が扉を開けると、朗らかな笑顔の男性が入って来た。
彼は、セドリック殿下の乳兄弟のマティウス様。
優秀な魔術師であり、魔道具コレクターとしても有名である。
私にとっても、幼い頃からよく見知った、気の置けない人物だ。
「どもどもー。
アンジェリク嬢は、相変わらず美しいねぇ。
忙しい時にごめんね。
話はすぐに済むから、お茶は要らないよー」
マティウス様は相変わらず、チャラ・・・いえ、軽はk・・・・・・ゲフンッ!
あぁ、上手く言葉を選べないわ。
なんという事でしょう。
こんなんじゃ、王太子妃教育のマナー講師に叱られちゃう。
心の中では少し慌てているが、表面上は王太子妃教育で培ったアルカイックスマイルを貫いている。
あまり表情を変えないせいで、世間では『氷の仮面を付けている』などと揶揄されている私だが、この表情は動揺を隠すのにとても便利なのだ。
「マティウス様、どうなさったのですか?」
「うん。ちょっとアンジェリク嬢に渡したい物があってね・・・」
「渡したい物、ですか?」
「これなんだけど。
君とセディの絆を深める為の魔道具だよー。
これを、今日の夜会の間、ドレスの隠しポケットにでも入れて、身に付けておいて欲しいんだ」
楽しそうにニッコリと笑うマティウス様に、若干嫌な予感がする。
彼は悪戯が大好きなのだ。
「絆を深める・・・・・・ですか?」
「そうそう。
未来の国王夫妻が円満な関係でいる事は、この国にとって凄く有益だよねー」
「まぁ、そうですが」
「そーゆー訳だから、ちゃんと持っててよね。
あ、蓋は開けちゃダメだよ。
あと、他の人の手に渡るとかなり危険だから、注意してね。
使い終わったら、僕かセディに渡して。
じゃあ、また夜会の会場で」
マティウス様は、絆を深める魔道具とやらを私に押し付ける様に渡すと、詳しい説明もせずに、すぐに部屋を出て行った。
使い終わったらって・・・、持ち歩けと言われただけで、使い方の説明は受けていない。
持っていれば分かるって事なのかしら?
私は、手の平に残された魔道具のペンダントをじっと見つめた。
ペンダントヘッドに、蓋の様に開閉出来そうな部分がある。
開けちゃダメって、コレの事?
その魔道具を持ち歩くべきなのかどうか、迷ったのだが・・・。
マティウス様は、悪戯好きではあるけれど、私や殿下を害する事は絶対に無い。
その点だけは信頼出来る。
ならば、持ち歩いてみても良いのかもしれないと考えた。
未来の夫であるセドリック殿下との絆が本当に深まるのであれば、私にとっても喜ばしい事なのだから。
暫くして、殿下が控室に迎えに来た。
「アンジェ。会いたかった。
今日も私の婚約者は、世界で一番美しい」
「ありがとうござ・・・」
(あ"あ"ぁぁ~~!!マジで可愛い!
可愛すぎてどうにかなりそうだ!)
世界で一番だなんて、殿下の大袈裟過ぎる褒め言葉に、無難なお礼を述べようとしたのだが、それを遮る様に、頭の中に直接殿下の声が響いて来た。
しかも、その内容が若干おかしい。
───えっ?何これ?
殿下の声は、まだまだ続く。
(ああ、美し過ぎて、この世のものとは思えない。
神が創り賜うた最高傑作だ。
ありがとう、神様。感謝します。
アンジェが婚約者だなんて、私は世界一の幸せ者だな。
何時間でも愛でていられる。
・・・・・・・・・・・・以下略)
は?何?
現在進行形で、怖いくらいに褒められ続けてるんだけど。
しかし、殿下の表情は先程迄と全く変わらず、穏やかな微笑みを湛えている。
所謂、王子様スマイルと呼ばれる物だ。
そして、口は一切開いていない。←ここ重要!!
殿下は喋っていないのだ。
もしも、この状態で喋っているのだとしたら、いっこく堂も裸足で逃げ出す程の匠の技である。
どうなってるの!?
訳が分からない褒め殺しにあって、次第に私の頬に熱が上がって来た。
(あれっ?アンジェの頬がほんのり赤く無いか?
はぁぁ~、尊い。
しかし、何故だろう?
今、なんで急に頬を染めたのか、理由がよく分からないな。
とにかく、この表情だけは誰にも見せたくない。
独り占めしたい。
氷の仮面も美しいけれど、ちょっと目を潤ませて頬を染めたアンジェは最っ高に可愛い。
今すぐに抱き締めたい。
夜会欠席しちゃダメかな?
ああ、このままアンジェを愛でていたい。
いや、でも、熱があるって可能性があるか!?
大変だ、直ぐに医者に見せなければ!)
「アンジェ、いつもと様子が違うみたいだけど、もしかして体調が悪い?」
「いいえ、何ともありません。
ご心配をおかけして、申し訳ありません」
私が赤面した事に反応した台詞が頭の中に響いた。
・・・・・・と、いう事は。
これってもしかして、殿下の心の声がリアルタイムで聞こえている・・・とか?
そんな馬鹿な、ねぇ?
───あぁっ!!でも私、今、怪しげな魔道具を持ってるんだったわ!
じゃあ、マティウス様の仕業なのかしら?
彼の悪戯?
ちょっと待って!
じゃあ、さっき頭に響いた台詞が殿下の本音って事なの!?
そう気付いたら、益々頬が熱くなる。
『絆を深める』
間違ってはいない気もするけれど・・・。
・・・・・・どうしましょう。
今からコレを何処かに置いて行く?
でも、誰か他の人の手に渡ったら、多分、その人に殿下の心の声が聞こえちゃうのよね?
それは結構マズい気がする。
そう言えば、マティウス様も『他の人の手に渡ると危険』とか言ってたな。
成る程、確かに・・・・・・って、感心してる場合じゃないわよ!
この部屋には鍵が掛けられる引き出しとかは無いし・・・・・・。
他の安全な場所に保管しに行く時間も無い。
誰かに預ける事も出来ないとなると・・・
持って行く・・・しか、無いのか!?
この国の王太子であるセドリック殿下の婚約者だ。
今日は、王家主催の大規模な夜会が行われる。
年に一度、その年の豊穣を祈る祭りの最終日に王城で開かれるこの夜会は、国内貴族達が非常に楽しみにしている年中行事の一つだ。
私も勿論、王太子殿下のパートナーとして参加する予定となっている。
王宮の中にある専用の控室にて、ちょっと早めに身支度を終えた私は、のんびりとお茶を楽しんでいた。
突然、控室の扉をノックする音が響く。
殿下が迎えに来たにしては、少々早過ぎる時間だ。
不思議に思いながら声を掛けた。
「どなた?」
「マティウスだよー」
入室を許可する意味を込めて、侍女に小さく頷く。
彼女が扉を開けると、朗らかな笑顔の男性が入って来た。
彼は、セドリック殿下の乳兄弟のマティウス様。
優秀な魔術師であり、魔道具コレクターとしても有名である。
私にとっても、幼い頃からよく見知った、気の置けない人物だ。
「どもどもー。
アンジェリク嬢は、相変わらず美しいねぇ。
忙しい時にごめんね。
話はすぐに済むから、お茶は要らないよー」
マティウス様は相変わらず、チャラ・・・いえ、軽はk・・・・・・ゲフンッ!
あぁ、上手く言葉を選べないわ。
なんという事でしょう。
こんなんじゃ、王太子妃教育のマナー講師に叱られちゃう。
心の中では少し慌てているが、表面上は王太子妃教育で培ったアルカイックスマイルを貫いている。
あまり表情を変えないせいで、世間では『氷の仮面を付けている』などと揶揄されている私だが、この表情は動揺を隠すのにとても便利なのだ。
「マティウス様、どうなさったのですか?」
「うん。ちょっとアンジェリク嬢に渡したい物があってね・・・」
「渡したい物、ですか?」
「これなんだけど。
君とセディの絆を深める為の魔道具だよー。
これを、今日の夜会の間、ドレスの隠しポケットにでも入れて、身に付けておいて欲しいんだ」
楽しそうにニッコリと笑うマティウス様に、若干嫌な予感がする。
彼は悪戯が大好きなのだ。
「絆を深める・・・・・・ですか?」
「そうそう。
未来の国王夫妻が円満な関係でいる事は、この国にとって凄く有益だよねー」
「まぁ、そうですが」
「そーゆー訳だから、ちゃんと持っててよね。
あ、蓋は開けちゃダメだよ。
あと、他の人の手に渡るとかなり危険だから、注意してね。
使い終わったら、僕かセディに渡して。
じゃあ、また夜会の会場で」
マティウス様は、絆を深める魔道具とやらを私に押し付ける様に渡すと、詳しい説明もせずに、すぐに部屋を出て行った。
使い終わったらって・・・、持ち歩けと言われただけで、使い方の説明は受けていない。
持っていれば分かるって事なのかしら?
私は、手の平に残された魔道具のペンダントをじっと見つめた。
ペンダントヘッドに、蓋の様に開閉出来そうな部分がある。
開けちゃダメって、コレの事?
その魔道具を持ち歩くべきなのかどうか、迷ったのだが・・・。
マティウス様は、悪戯好きではあるけれど、私や殿下を害する事は絶対に無い。
その点だけは信頼出来る。
ならば、持ち歩いてみても良いのかもしれないと考えた。
未来の夫であるセドリック殿下との絆が本当に深まるのであれば、私にとっても喜ばしい事なのだから。
暫くして、殿下が控室に迎えに来た。
「アンジェ。会いたかった。
今日も私の婚約者は、世界で一番美しい」
「ありがとうござ・・・」
(あ"あ"ぁぁ~~!!マジで可愛い!
可愛すぎてどうにかなりそうだ!)
世界で一番だなんて、殿下の大袈裟過ぎる褒め言葉に、無難なお礼を述べようとしたのだが、それを遮る様に、頭の中に直接殿下の声が響いて来た。
しかも、その内容が若干おかしい。
───えっ?何これ?
殿下の声は、まだまだ続く。
(ああ、美し過ぎて、この世のものとは思えない。
神が創り賜うた最高傑作だ。
ありがとう、神様。感謝します。
アンジェが婚約者だなんて、私は世界一の幸せ者だな。
何時間でも愛でていられる。
・・・・・・・・・・・・以下略)
は?何?
現在進行形で、怖いくらいに褒められ続けてるんだけど。
しかし、殿下の表情は先程迄と全く変わらず、穏やかな微笑みを湛えている。
所謂、王子様スマイルと呼ばれる物だ。
そして、口は一切開いていない。←ここ重要!!
殿下は喋っていないのだ。
もしも、この状態で喋っているのだとしたら、いっこく堂も裸足で逃げ出す程の匠の技である。
どうなってるの!?
訳が分からない褒め殺しにあって、次第に私の頬に熱が上がって来た。
(あれっ?アンジェの頬がほんのり赤く無いか?
はぁぁ~、尊い。
しかし、何故だろう?
今、なんで急に頬を染めたのか、理由がよく分からないな。
とにかく、この表情だけは誰にも見せたくない。
独り占めしたい。
氷の仮面も美しいけれど、ちょっと目を潤ませて頬を染めたアンジェは最っ高に可愛い。
今すぐに抱き締めたい。
夜会欠席しちゃダメかな?
ああ、このままアンジェを愛でていたい。
いや、でも、熱があるって可能性があるか!?
大変だ、直ぐに医者に見せなければ!)
「アンジェ、いつもと様子が違うみたいだけど、もしかして体調が悪い?」
「いいえ、何ともありません。
ご心配をおかけして、申し訳ありません」
私が赤面した事に反応した台詞が頭の中に響いた。
・・・・・・と、いう事は。
これってもしかして、殿下の心の声がリアルタイムで聞こえている・・・とか?
そんな馬鹿な、ねぇ?
───あぁっ!!でも私、今、怪しげな魔道具を持ってるんだったわ!
じゃあ、マティウス様の仕業なのかしら?
彼の悪戯?
ちょっと待って!
じゃあ、さっき頭に響いた台詞が殿下の本音って事なの!?
そう気付いたら、益々頬が熱くなる。
『絆を深める』
間違ってはいない気もするけれど・・・。
・・・・・・どうしましょう。
今からコレを何処かに置いて行く?
でも、誰か他の人の手に渡ったら、多分、その人に殿下の心の声が聞こえちゃうのよね?
それは結構マズい気がする。
そう言えば、マティウス様も『他の人の手に渡ると危険』とか言ってたな。
成る程、確かに・・・・・・って、感心してる場合じゃないわよ!
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