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3 黒いアイツ?
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「貴方が王太子様ですかぁ?」
私達がメルロー男爵令嬢の話をしていると、背後から間延びした呑気な声が聞こえて振り返る。
礼儀はなっていないけれど、容姿だけはそこそこ整ったご令嬢が、祈る様に胸の前で両手を組んで、ニコニコと嬉しそうに笑いながら熱っぽい瞳で殿下を見詰めていた。
無礼にも突然背後から声を掛けて来た令嬢だが、私は彼女に全く見覚えが無かった。
年齢は、恐らく私達と同じくらいだろうか?
おかしいわね。
王太子殿下の婚約者として、国内貴族の顔は全て覚えているつもりだったのだけれど・・・。
特に同年代ならば、学園でも見かける事があるはずなのだ。
だから、殿下に対して『王太子様ですか?』と、確認してくる事自体も変な話である。
「そうだが、君は?」
(このタイプの令嬢は、駆除してもまた直ぐに現れるんだな。
ゴ○ブリみたいだ)
令嬢を駆除とか言わない!
嫌われ率No.1の黒い害虫に喩えない!
キラキラ眩しい微笑みを浮かべたまま、とんでもない事を考えているセドリック殿下に、思わず脳内でツッコミを入れる。
「あ、初めましてぇ。
エマって言いま~す。
私、最近になってラプラス子爵の娘だって分かって、お邸に引き取られたばかりなんですぅ」
ああ、成る程。
引き取られたばかりの庶子であれば、礼儀がなっていないのも、お互いに顔を知らなかったのも納得だ。
まあ、その無礼を許すかどうかは、また別の問題だけれど。
「そうか、ラプラス子爵令嬢。
貴族のルールを早く覚えられる様に励みなさい」
セドリック殿下は、流石にイライラして来たのだろうか。
微笑んではいるのだが目が笑っていないし、声も普段より一段低い。
「やだぁ、〝ラプラス子爵令嬢〟だなんて。
挨拶したら、もうお友達じゃ無いですかぁ。
エマって呼んで下さい!」
(呼ぶ訳ないだろーが。
挨拶したら友達って、どういう理屈だ?舐めてんのか?)
心の声はかなりのお怒りモードなのに、王子様スマイルが崩れていないのが逆に怖い。
この不機嫌なオーラを全く感じ取れない鈍感なラプラス子爵令嬢が羨ましい。
「君はもう少しマナーを身につけた方がいい様だ」
「え~?マナーなんて、堅苦しいだけじゃ無いですかぁ。
だってぇ、そこの無表情な女の人より、私みたいな方が、可愛くて魅力的じゃないですか?
ね、そう思うでしょ?」
私の顔をチラリと窺い、嘲笑を含んだ様な醜い笑みを浮かべる。
そして、クネクネとシナを作りながら、殿下の腕に触れようとするラプラス子爵令嬢。
こういう、殿方に媚びる令嬢が好きな人もいるのだろうけれど、生憎殿下の好みでは無い。
殿下はさり気なく一歩下がって、彼女を避けた。
なんとなくだが、このご令嬢は、セドリック殿下の地雷を思いっきり踏み抜いている様な気がする。
気のせいである事を祈っておこう・・・。
「君の美的感覚は、ちょっと特殊みたいだね。
私の婚約者は、誰よりも可愛くて魅力的だ」
微笑みを貼り付けたまま、謎の冷気を発し始めた殿下は、私を連れてその場を立ち去ろうとする。
(アンジェにまで、無礼な発言をするとは・・・。
よし、消そう。跡形も無く)
待って!!
ダメダメ!消しちゃダメ!
しかも『跡形も無く』って、どーゆー事なの!?
「あぁっ!
待って下さい、私の王太子様ぁ」
焦った子爵令嬢は、殿下の袖を掴んだ。
「ラプラス子爵令嬢、でしたかしら?
王太子殿下に、許可も無く触れてはいけませんよ」
もぉやめてぇぇ!
ラプラス子爵令嬢、お願いだから黙って!
大人しくして!
このままだと、男爵家に続いて子爵家も一つ潰れちゃうよ。
なんとか崩壊寸前のアルカイックスマイルを浮かべながら彼女に注意を促した私だが、内心は大パニックである。
メルロー男爵令嬢が可愛く見えるくらい強烈なヤツが出て来ちゃったな。
後でラプラス子爵に、『ご息女を教育し直してから社交に出す様に』と忠告しなければ。
このタイプは教育しても無理かもしれないけど・・・。
なんとか頑張って、子爵!
お取り潰しにならない為に。
「もぉ!何なんですか?貴女。
私は王太子様とお話ししたいんですぅ!
邪魔しないで下さい」
『何なんですか』って、その王太子様の婚約者ですが。
さっき殿下が言っていたのに、聞いてなかったのか?
しかも、王太子殿下は『話したい時にいつでも話し掛けてオッケー!』みたいな立場の人じゃ無いんだよ。
そーゆーのは地下アイドルにでも求めなさいよ。
いや、地下アイドルでさえダメか。
取り敢えず、今は、この場をどう収めるかが問題よね。
困った私が殿下の護衛のクラウス様に視線を投げると、彼は頷き、キーキー喚く子爵令嬢を片手で拘束して、壁際に控えていた別の騎士へと引き渡した。
やっぱりクラウス様は頼りになるわぁ。
(クラウスめ!
アンジェの前だからって、カッコつけやがって・・・)
いやいや、彼はお仕事を全うしただけですから!
今日の夜会は、いつもの5倍は疲れる。
一晩で寿命が一気に縮まった思いだ。
「アンジェ、顔色が悪い。
一旦控室に戻ろうか?」
(今日は最初から、いつもと少しアンジェの様子が違っていた。
どうしたのだろう?心配だな)
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません。
なんだか疲れてしまったみたいです。
少し休ませて頂けば、すぐに良くなると思います。
一人で大丈夫ですので、少しだけ抜けさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、勿論だ。
だが、出来れば私も君の側に付いていたい。
もしも、一人になりたいと言うのならば、遠慮するけれど・・・・・・。
今日はもう、主要な人物との挨拶は済んでいるから、私も君も、閉会の時に少しだけ顔を出せば大丈夫だよ」
(アンジェが疲弊したのは、あの無礼な令嬢のせいか?
うん。やっぱり消そう)
いや、主に貴方のせいです。
私達がメルロー男爵令嬢の話をしていると、背後から間延びした呑気な声が聞こえて振り返る。
礼儀はなっていないけれど、容姿だけはそこそこ整ったご令嬢が、祈る様に胸の前で両手を組んで、ニコニコと嬉しそうに笑いながら熱っぽい瞳で殿下を見詰めていた。
無礼にも突然背後から声を掛けて来た令嬢だが、私は彼女に全く見覚えが無かった。
年齢は、恐らく私達と同じくらいだろうか?
おかしいわね。
王太子殿下の婚約者として、国内貴族の顔は全て覚えているつもりだったのだけれど・・・。
特に同年代ならば、学園でも見かける事があるはずなのだ。
だから、殿下に対して『王太子様ですか?』と、確認してくる事自体も変な話である。
「そうだが、君は?」
(このタイプの令嬢は、駆除してもまた直ぐに現れるんだな。
ゴ○ブリみたいだ)
令嬢を駆除とか言わない!
嫌われ率No.1の黒い害虫に喩えない!
キラキラ眩しい微笑みを浮かべたまま、とんでもない事を考えているセドリック殿下に、思わず脳内でツッコミを入れる。
「あ、初めましてぇ。
エマって言いま~す。
私、最近になってラプラス子爵の娘だって分かって、お邸に引き取られたばかりなんですぅ」
ああ、成る程。
引き取られたばかりの庶子であれば、礼儀がなっていないのも、お互いに顔を知らなかったのも納得だ。
まあ、その無礼を許すかどうかは、また別の問題だけれど。
「そうか、ラプラス子爵令嬢。
貴族のルールを早く覚えられる様に励みなさい」
セドリック殿下は、流石にイライラして来たのだろうか。
微笑んではいるのだが目が笑っていないし、声も普段より一段低い。
「やだぁ、〝ラプラス子爵令嬢〟だなんて。
挨拶したら、もうお友達じゃ無いですかぁ。
エマって呼んで下さい!」
(呼ぶ訳ないだろーが。
挨拶したら友達って、どういう理屈だ?舐めてんのか?)
心の声はかなりのお怒りモードなのに、王子様スマイルが崩れていないのが逆に怖い。
この不機嫌なオーラを全く感じ取れない鈍感なラプラス子爵令嬢が羨ましい。
「君はもう少しマナーを身につけた方がいい様だ」
「え~?マナーなんて、堅苦しいだけじゃ無いですかぁ。
だってぇ、そこの無表情な女の人より、私みたいな方が、可愛くて魅力的じゃないですか?
ね、そう思うでしょ?」
私の顔をチラリと窺い、嘲笑を含んだ様な醜い笑みを浮かべる。
そして、クネクネとシナを作りながら、殿下の腕に触れようとするラプラス子爵令嬢。
こういう、殿方に媚びる令嬢が好きな人もいるのだろうけれど、生憎殿下の好みでは無い。
殿下はさり気なく一歩下がって、彼女を避けた。
なんとなくだが、このご令嬢は、セドリック殿下の地雷を思いっきり踏み抜いている様な気がする。
気のせいである事を祈っておこう・・・。
「君の美的感覚は、ちょっと特殊みたいだね。
私の婚約者は、誰よりも可愛くて魅力的だ」
微笑みを貼り付けたまま、謎の冷気を発し始めた殿下は、私を連れてその場を立ち去ろうとする。
(アンジェにまで、無礼な発言をするとは・・・。
よし、消そう。跡形も無く)
待って!!
ダメダメ!消しちゃダメ!
しかも『跡形も無く』って、どーゆー事なの!?
「あぁっ!
待って下さい、私の王太子様ぁ」
焦った子爵令嬢は、殿下の袖を掴んだ。
「ラプラス子爵令嬢、でしたかしら?
王太子殿下に、許可も無く触れてはいけませんよ」
もぉやめてぇぇ!
ラプラス子爵令嬢、お願いだから黙って!
大人しくして!
このままだと、男爵家に続いて子爵家も一つ潰れちゃうよ。
なんとか崩壊寸前のアルカイックスマイルを浮かべながら彼女に注意を促した私だが、内心は大パニックである。
メルロー男爵令嬢が可愛く見えるくらい強烈なヤツが出て来ちゃったな。
後でラプラス子爵に、『ご息女を教育し直してから社交に出す様に』と忠告しなければ。
このタイプは教育しても無理かもしれないけど・・・。
なんとか頑張って、子爵!
お取り潰しにならない為に。
「もぉ!何なんですか?貴女。
私は王太子様とお話ししたいんですぅ!
邪魔しないで下さい」
『何なんですか』って、その王太子様の婚約者ですが。
さっき殿下が言っていたのに、聞いてなかったのか?
しかも、王太子殿下は『話したい時にいつでも話し掛けてオッケー!』みたいな立場の人じゃ無いんだよ。
そーゆーのは地下アイドルにでも求めなさいよ。
いや、地下アイドルでさえダメか。
取り敢えず、今は、この場をどう収めるかが問題よね。
困った私が殿下の護衛のクラウス様に視線を投げると、彼は頷き、キーキー喚く子爵令嬢を片手で拘束して、壁際に控えていた別の騎士へと引き渡した。
やっぱりクラウス様は頼りになるわぁ。
(クラウスめ!
アンジェの前だからって、カッコつけやがって・・・)
いやいや、彼はお仕事を全うしただけですから!
今日の夜会は、いつもの5倍は疲れる。
一晩で寿命が一気に縮まった思いだ。
「アンジェ、顔色が悪い。
一旦控室に戻ろうか?」
(今日は最初から、いつもと少しアンジェの様子が違っていた。
どうしたのだろう?心配だな)
「ご心配をお掛けして、申し訳ありません。
なんだか疲れてしまったみたいです。
少し休ませて頂けば、すぐに良くなると思います。
一人で大丈夫ですので、少しだけ抜けさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「ああ、勿論だ。
だが、出来れば私も君の側に付いていたい。
もしも、一人になりたいと言うのならば、遠慮するけれど・・・・・・。
今日はもう、主要な人物との挨拶は済んでいるから、私も君も、閉会の時に少しだけ顔を出せば大丈夫だよ」
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