11 / 200
11 初めての気持ち《アイザック》
しおりを挟む
『いつまでも過去の男を想い続けてメソメソしているのは、性に合いません。
そんな無益な事に貴重な時間を使う位なら、自分を磨く事に時間を使った方がよっぽど有意義ですわ』
平凡で地味だと聞いていたオフィーリア・エヴァレット伯爵令嬢は、不敵な笑顔でそう言い放った。
(彼女の何処が平凡なんだ?)
貴族令嬢にとっての幸せは結婚である。そんな固定観念を持つ者が多いこの国において、彼女の考えはとても斬新であり、アイザックの心に鮮烈な印象を残した。
それと同時に、彼女の強気な発言は傲慢な性格の表れかもしれないとも思ったのだが───。
そんな懸念は直ぐに払拭された。
彼女はどちらかと言えば謙虚な性格で、使用人にすら気遣いを見せる人だった。
アイザックはオフィーリアへの興味を強めたのだが、残念ながら彼女の方は婚約を望んでくれなかった。
最初に両親からオフィーリアの話を聞いた時、本音を言えば婚約なんてしたくなかった。
女性は信用出来ないと思っていたから。
筆頭公爵家の嫡男であるアイザックは、将来的な地位も、財産も、母に似た美しい容姿も、父に似た頭脳と運動神経も、生まれた時から全ての物を手にしていた。
自己評価が高い訳ではなく、純然たる事実だ。
だが、そのせいで、彼のこれまでの女運は最悪だった。
ストーカーの様に付き纏われる事なんて日常茶飯事。
勝手に『私は彼の恋人だ』とか『私と彼は相思相愛で、婚約間近だ』などと嘘の噂を流されたりするのだって可愛い方で、アイザックを巡って女同士が取っ組み合いの喧嘩までする始末。
迷惑な事この上無い。
ライバルを蹴落とそうと画策する時の表情は醜悪でしかないのに、彼女達は何故それに気付かないのだろう?
(恋心に振り回されるなんて、愚かだ)
女性達の身勝手な姿ばかりを見せられた幼いアイザックは、すっかり恋愛に対する興味を失ってしまった。
そんな中で降って沸いた婚約話。
それは、愚妹が主催したお茶会での事故に起因していた。
貴族令嬢が魔獣に襲われ怪我をしたと聞いた時は、血の気が引いた。
体に傷を持った女性は、それだけで本人の能力など関係無く、理不尽に扱われてしまう。
しかもその原因が『魔獣に襲われたから』だなんて、さぞかし心の傷も深いだろう。
基本的には女性を嫌っているアイザックでも、それを思うと胸が痛んだ。
知らせを聞いて駆け付けた客室には、艶やかな黒髪の小さな女の子が眠っていた。
まだあどけなさの残るその少女は、眉根を寄せて苦悶の表情を浮かべながら、魘されている。
怪我をした時の夢でも見ているのだろうか?
苦しそうに唸り始めた彼女は、やがて大きな悲鳴を上げながら飛び起きた。
涙に濡れたアメジストの瞳が、アイザックに向けられる。
「……大丈夫、か?」
掠れる声でそう問い掛けたアイザックに、応えが返される事は無かった。
彼女は再び意識を失い、ベッドに沈んでしまったから。
それから一時間後には、オフィーリアの家族が迎えに来て、彼女は眠ったままエヴァレット伯爵家へと帰って行った。
後日、額の怪我が原因で、オフィーリアが婚約を解消したと聞いた。
両親はアイザックに『公爵家として責任を取らねばならない。彼女と婚約をしてくれないか?』と頭を下げた。
オフィーリアについては既に調査済みらしかった。
伯爵夫妻も彼女自身も、良い意味でも悪い意味でも地味で、噂らしい噂らしいさえ聞こえて来ない様な人物。
数ある伯爵家の中でエヴァレット家の序列は低い方だけど、ギリギリ高位貴族ではあるので、家格的にも釣り合いが取れない事も無い。
ヘーゼルダイン家はこれ以上の権力を必要としていないから、問題の無い人物であればそれで良しと判断された様だ。
アイザックは、恋に盲目になっている令嬢たちを嫌悪しており、この先自分が恋をする姿なんて想像も出来なかった。
だが、恋をする気が無かったとしても、どうせいつかは誰かと結婚しなければいけない立場なのだ。
だったら、親が良いと言う相手ならば、誰でも構わない。
兄としてフレデリカのお茶会を止められなかった事に、少なからず責任を感じていたのも手伝い、アイザックはアッサリと婚約を受け入れた。
(まあ、あの紫色の瞳はなかなか美しかったし、悪くないかもな)
などと、上から目線で考えていたのだ。
アイザックは、この時、婚約の打診を断られるなんて夢にも思っていなかったし、ましてや自分が恋心に振り回される立場になるなんて、想像も出来なかった。
そんな無益な事に貴重な時間を使う位なら、自分を磨く事に時間を使った方がよっぽど有意義ですわ』
平凡で地味だと聞いていたオフィーリア・エヴァレット伯爵令嬢は、不敵な笑顔でそう言い放った。
(彼女の何処が平凡なんだ?)
貴族令嬢にとっての幸せは結婚である。そんな固定観念を持つ者が多いこの国において、彼女の考えはとても斬新であり、アイザックの心に鮮烈な印象を残した。
それと同時に、彼女の強気な発言は傲慢な性格の表れかもしれないとも思ったのだが───。
そんな懸念は直ぐに払拭された。
彼女はどちらかと言えば謙虚な性格で、使用人にすら気遣いを見せる人だった。
アイザックはオフィーリアへの興味を強めたのだが、残念ながら彼女の方は婚約を望んでくれなかった。
最初に両親からオフィーリアの話を聞いた時、本音を言えば婚約なんてしたくなかった。
女性は信用出来ないと思っていたから。
筆頭公爵家の嫡男であるアイザックは、将来的な地位も、財産も、母に似た美しい容姿も、父に似た頭脳と運動神経も、生まれた時から全ての物を手にしていた。
自己評価が高い訳ではなく、純然たる事実だ。
だが、そのせいで、彼のこれまでの女運は最悪だった。
ストーカーの様に付き纏われる事なんて日常茶飯事。
勝手に『私は彼の恋人だ』とか『私と彼は相思相愛で、婚約間近だ』などと嘘の噂を流されたりするのだって可愛い方で、アイザックを巡って女同士が取っ組み合いの喧嘩までする始末。
迷惑な事この上無い。
ライバルを蹴落とそうと画策する時の表情は醜悪でしかないのに、彼女達は何故それに気付かないのだろう?
(恋心に振り回されるなんて、愚かだ)
女性達の身勝手な姿ばかりを見せられた幼いアイザックは、すっかり恋愛に対する興味を失ってしまった。
そんな中で降って沸いた婚約話。
それは、愚妹が主催したお茶会での事故に起因していた。
貴族令嬢が魔獣に襲われ怪我をしたと聞いた時は、血の気が引いた。
体に傷を持った女性は、それだけで本人の能力など関係無く、理不尽に扱われてしまう。
しかもその原因が『魔獣に襲われたから』だなんて、さぞかし心の傷も深いだろう。
基本的には女性を嫌っているアイザックでも、それを思うと胸が痛んだ。
知らせを聞いて駆け付けた客室には、艶やかな黒髪の小さな女の子が眠っていた。
まだあどけなさの残るその少女は、眉根を寄せて苦悶の表情を浮かべながら、魘されている。
怪我をした時の夢でも見ているのだろうか?
苦しそうに唸り始めた彼女は、やがて大きな悲鳴を上げながら飛び起きた。
涙に濡れたアメジストの瞳が、アイザックに向けられる。
「……大丈夫、か?」
掠れる声でそう問い掛けたアイザックに、応えが返される事は無かった。
彼女は再び意識を失い、ベッドに沈んでしまったから。
それから一時間後には、オフィーリアの家族が迎えに来て、彼女は眠ったままエヴァレット伯爵家へと帰って行った。
後日、額の怪我が原因で、オフィーリアが婚約を解消したと聞いた。
両親はアイザックに『公爵家として責任を取らねばならない。彼女と婚約をしてくれないか?』と頭を下げた。
オフィーリアについては既に調査済みらしかった。
伯爵夫妻も彼女自身も、良い意味でも悪い意味でも地味で、噂らしい噂らしいさえ聞こえて来ない様な人物。
数ある伯爵家の中でエヴァレット家の序列は低い方だけど、ギリギリ高位貴族ではあるので、家格的にも釣り合いが取れない事も無い。
ヘーゼルダイン家はこれ以上の権力を必要としていないから、問題の無い人物であればそれで良しと判断された様だ。
アイザックは、恋に盲目になっている令嬢たちを嫌悪しており、この先自分が恋をする姿なんて想像も出来なかった。
だが、恋をする気が無かったとしても、どうせいつかは誰かと結婚しなければいけない立場なのだ。
だったら、親が良いと言う相手ならば、誰でも構わない。
兄としてフレデリカのお茶会を止められなかった事に、少なからず責任を感じていたのも手伝い、アイザックはアッサリと婚約を受け入れた。
(まあ、あの紫色の瞳はなかなか美しかったし、悪くないかもな)
などと、上から目線で考えていたのだ。
アイザックは、この時、婚約の打診を断られるなんて夢にも思っていなかったし、ましてや自分が恋心に振り回される立場になるなんて、想像も出来なかった。
3,037
あなたにおすすめの小説
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる