60 / 200
60 袂を分かつ
しおりを挟む
午前の授業を終えて、昼食をとりに食堂へ行こうと席を立つ。
ベアトリスとアイザックを誘おうとしたのだが、アイザックは何故か荷物を鞄に詰め込んで、帰り支度を始めていた。
「あら?
アイザック様、今日は何かお家のご用事でもあるのですか?」
「あー……、家の用事ではないのだが……」
アイザックはキョロキョロと視線だけで周囲の様子を探り、近くに人がいない事を確認すると、私達を手招きする。
「何です?」
私とベアトリスが身を寄せると、声を潜めて話し始めた。
「まだ正式に発表はされていないんだが……。
実は、サディアス殿下の側近に就くことになったんだよ。
その仕事の関係で急遽王宮へ行かなければならなくなったから、今日は早退する」
「へえ。ポンコツ王子じゃなくて、王太子殿下に付く事にしたのね」
ベアトリスがニッコリと綺麗な笑みを浮かべる。
「ああ。
クリスティアンの方を降りた当初から打診は受けていたのだが、僕はまだ学生だし、面倒だから返事を保留にしていたんだ。
だが、どうやらクリスティアンが僕を側近候補に戻そうとして、色々と妙な動きをしているみたいだから。
その上、国王陛下もヘーゼルダインと王家の繋がりが薄くなる事を懸念して、僕かフレデリカに王妃殿下や王太子妃殿下の実家との縁談を押し付けようと企んでるみたいでさぁ。
王太子妃殿下の兄君の娘なんて、まだ四歳だぞ。冗談じゃない。
それならいっそ、サディアス殿下の側近に入った方がマシだと思ってね」
「では、完全にクリスティアン殿下の派閥からは抜けるって事ですね」
なんだかアイザックにとっては色々と大変そうな状況だが、クリスティアン殿下の側近候補に戻る可能性がゼロになるなら、私にとっては良いニュースだ。
でも、王太子殿下の側近か……。
アイザックが益々遠い人になっちゃう気がして、少しだけ淋しい。
こんな風に気楽に会話が出来るのも、あと僅かな期間だけなんだろうな。
「と言うか、元々はクリスティアン殿下の派閥と言うのは存在しないんだよ。
僕達は、王太子殿下の治世を支える第二王子のサポートをする為の側近候補だったから、そもそもクリスティアンを推してる訳ではなかった。
今の側近候補やその親達がどう考えているのかは知らないけど、クリスティアンでは国を統べる能力は無いからね」
言われてみればその通りだわ。
能力のないクリスティアン殿下を推す者がいるとしたら、彼を傀儡の王にして自身が実権を握りたいという野望を抱く人物だろう。
だが、ヘーゼルダイン公爵はそんな汚い手段を使わずとも、既に王家に次ぐ強大な権力と金を手にしている。
態々国政を不安定にする様な行動を取る必要なんてないのだ。
「私が婚約者になったのも、アイザックの所と同じ様な理由よ。
王太子と第二王子の能力の差がハッキリしているのは、余計な継承争いを産まないっていうメリットもあるのだけど、もしも万が一の事があった時に困るしね」
「それもそうですね」
サディアス殿下の身に何かが起きて、王太子位が移った場合、ポンコツ第二王子の妃までポンコツだったら、あっと言う間に国が傾いてしまう。
(例えばプリシラみたいな、偏った思想の人が第二王子妃だったら……)
想像したら、ゾッとした。
やっぱり、ゲームのエンディングの後、この国崩壊したんじゃない?
「まあ、そんな訳だから、これからは度々学園を休んだり早退したりする事になりそうだ」
「やっぱり、王太子殿下の側近ともなると、お仕事大変なのでしょうね。
お体にはくれぐれも気を付けてください」
疲れた顔でこめかみを押さえるアイザックへ労いの言葉を送ると、柔らかな微笑みが返される。
「ありがとう。
覚悟はしていたんだけど、サディアス殿下は思った以上に人使いが荒くて、正直ちょっとだけ打診を受けた事を後悔してるよ。
一応、学生の内は手加減をしてくれているらしいが、それでコレなら卒業後が思いやられる。
過労死する未来しか見えない」
「それだけ期待されてるって事なんだから、頑張りなさいな」
弱音を吐いたアイザックに、ベアトリスが発破をかける。
「他人事みたいに言うなよ」
「だって他人だもの。
まあ、憎らしいくらい何でも完璧に熟すアイザックなら、なんとかなるでしょ。
恋愛だけはダメダメだけど」
「え? 意外。
アイザック様って、恋愛方面は苦手なんですか?
国宝級の美丈夫なのに、なんか勿体無いですねぇ」
ベアトリスの言葉に素直な感想を述べたら、アイザックに苦い物でも飲み込んだみたいな顔をされた。
何故かベアトリスも、残念な子を見る様な目でこちらを見ている。
「ん? もしかして私、何か変な事言いました?」
「無邪気も過ぎると罪深いよな」
「オフィーリアが鈍いのは、今に始まった事じゃないでしょう?」
よく分からないけど、なんだか馬鹿にされてる気がする。何故?
「さて、気は進まないけど、そろそろ行かなくちゃ」
そう言ったアイザックは、溜息と共に重い腰を上げた。
「お気を付けて、いってらっしゃいませ」
「あぁ、その台詞良いね。オフィーリア。
新婚さんみたいでやる気が出たよ。ありがとう」
アイザックは嬉しそうに微笑む。
新婚さんってなんだ? 三枝か?
「骨は拾ってあげるわ」
「変なフラグ立てるのヤメロ」
縁起でもない事を言い出したベアトリスに、アイザックは先程までの嬉しそうな表情をスンッと消して文句をつけた。
ベアトリスとアイザックを誘おうとしたのだが、アイザックは何故か荷物を鞄に詰め込んで、帰り支度を始めていた。
「あら?
アイザック様、今日は何かお家のご用事でもあるのですか?」
「あー……、家の用事ではないのだが……」
アイザックはキョロキョロと視線だけで周囲の様子を探り、近くに人がいない事を確認すると、私達を手招きする。
「何です?」
私とベアトリスが身を寄せると、声を潜めて話し始めた。
「まだ正式に発表はされていないんだが……。
実は、サディアス殿下の側近に就くことになったんだよ。
その仕事の関係で急遽王宮へ行かなければならなくなったから、今日は早退する」
「へえ。ポンコツ王子じゃなくて、王太子殿下に付く事にしたのね」
ベアトリスがニッコリと綺麗な笑みを浮かべる。
「ああ。
クリスティアンの方を降りた当初から打診は受けていたのだが、僕はまだ学生だし、面倒だから返事を保留にしていたんだ。
だが、どうやらクリスティアンが僕を側近候補に戻そうとして、色々と妙な動きをしているみたいだから。
その上、国王陛下もヘーゼルダインと王家の繋がりが薄くなる事を懸念して、僕かフレデリカに王妃殿下や王太子妃殿下の実家との縁談を押し付けようと企んでるみたいでさぁ。
王太子妃殿下の兄君の娘なんて、まだ四歳だぞ。冗談じゃない。
それならいっそ、サディアス殿下の側近に入った方がマシだと思ってね」
「では、完全にクリスティアン殿下の派閥からは抜けるって事ですね」
なんだかアイザックにとっては色々と大変そうな状況だが、クリスティアン殿下の側近候補に戻る可能性がゼロになるなら、私にとっては良いニュースだ。
でも、王太子殿下の側近か……。
アイザックが益々遠い人になっちゃう気がして、少しだけ淋しい。
こんな風に気楽に会話が出来るのも、あと僅かな期間だけなんだろうな。
「と言うか、元々はクリスティアン殿下の派閥と言うのは存在しないんだよ。
僕達は、王太子殿下の治世を支える第二王子のサポートをする為の側近候補だったから、そもそもクリスティアンを推してる訳ではなかった。
今の側近候補やその親達がどう考えているのかは知らないけど、クリスティアンでは国を統べる能力は無いからね」
言われてみればその通りだわ。
能力のないクリスティアン殿下を推す者がいるとしたら、彼を傀儡の王にして自身が実権を握りたいという野望を抱く人物だろう。
だが、ヘーゼルダイン公爵はそんな汚い手段を使わずとも、既に王家に次ぐ強大な権力と金を手にしている。
態々国政を不安定にする様な行動を取る必要なんてないのだ。
「私が婚約者になったのも、アイザックの所と同じ様な理由よ。
王太子と第二王子の能力の差がハッキリしているのは、余計な継承争いを産まないっていうメリットもあるのだけど、もしも万が一の事があった時に困るしね」
「それもそうですね」
サディアス殿下の身に何かが起きて、王太子位が移った場合、ポンコツ第二王子の妃までポンコツだったら、あっと言う間に国が傾いてしまう。
(例えばプリシラみたいな、偏った思想の人が第二王子妃だったら……)
想像したら、ゾッとした。
やっぱり、ゲームのエンディングの後、この国崩壊したんじゃない?
「まあ、そんな訳だから、これからは度々学園を休んだり早退したりする事になりそうだ」
「やっぱり、王太子殿下の側近ともなると、お仕事大変なのでしょうね。
お体にはくれぐれも気を付けてください」
疲れた顔でこめかみを押さえるアイザックへ労いの言葉を送ると、柔らかな微笑みが返される。
「ありがとう。
覚悟はしていたんだけど、サディアス殿下は思った以上に人使いが荒くて、正直ちょっとだけ打診を受けた事を後悔してるよ。
一応、学生の内は手加減をしてくれているらしいが、それでコレなら卒業後が思いやられる。
過労死する未来しか見えない」
「それだけ期待されてるって事なんだから、頑張りなさいな」
弱音を吐いたアイザックに、ベアトリスが発破をかける。
「他人事みたいに言うなよ」
「だって他人だもの。
まあ、憎らしいくらい何でも完璧に熟すアイザックなら、なんとかなるでしょ。
恋愛だけはダメダメだけど」
「え? 意外。
アイザック様って、恋愛方面は苦手なんですか?
国宝級の美丈夫なのに、なんか勿体無いですねぇ」
ベアトリスの言葉に素直な感想を述べたら、アイザックに苦い物でも飲み込んだみたいな顔をされた。
何故かベアトリスも、残念な子を見る様な目でこちらを見ている。
「ん? もしかして私、何か変な事言いました?」
「無邪気も過ぎると罪深いよな」
「オフィーリアが鈍いのは、今に始まった事じゃないでしょう?」
よく分からないけど、なんだか馬鹿にされてる気がする。何故?
「さて、気は進まないけど、そろそろ行かなくちゃ」
そう言ったアイザックは、溜息と共に重い腰を上げた。
「お気を付けて、いってらっしゃいませ」
「あぁ、その台詞良いね。オフィーリア。
新婚さんみたいでやる気が出たよ。ありがとう」
アイザックは嬉しそうに微笑む。
新婚さんってなんだ? 三枝か?
「骨は拾ってあげるわ」
「変なフラグ立てるのヤメロ」
縁起でもない事を言い出したベアトリスに、アイザックは先程までの嬉しそうな表情をスンッと消して文句をつけた。
2,917
あなたにおすすめの小説
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる