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82 頼もしい協力者
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公爵家の馬車で自邸へ帰る道中。
向かいの席には、ニコニコと嬉しそうに微笑むユーニスが座っている。
「ユーニスは、どうして私の侍女に立候補したの?」
エイダが好意を持ってくれた理由は、なんとなく分かる。
あの日の出来事を、何故か大袈裟に捉えて感謝してくれているみたいだから。
でも、ユーニスは?
ユーニスはその場に居合わせただけで、私とは直接会話もしていないのだ。
「実は、エイダは私の兄と夫婦なんですよ。
兄はヘーゼルダイン公爵邸で庭師をしています」
「あ、じゃあパメラは……」
「ええ、姪っ子ですね」
「成る程、それで。
でも……、貴女達が私を好意的に見てくれているのは嬉しいけど、私が何もしなくてもパメラは元気に生まれて来てくれたと思うわよ?」
過大評価されている気がして、なんとも居心地が悪くなる。
そんな私の言葉にユーニスは小さく頷いた。
「それは私もエイダも分かっていますよ。
ただ、オフィーリア様のお心遣いが嬉しかったのです。
私と兄は、以前、別の貴族のお邸に勤めておりましたが、そこでは使用人が奴隷の様な扱いを受けていました。
エイダも公爵邸で私達と出会う前は、何処かの貴族に仕えていたそうですが、そこも酷かったとか」
突如始まったユーニスの昔話に、チクリと胸が痛んだ。
使用人や平民を同じ人間だと思っていない貴族がいるというのは、話には聞いた事がある。
私の周りには被害者も加害者もいないので、実感した事がなかったけれど。
眉根を寄せた私を安心させる様に、ユーニスはフワリと笑みを浮かべた。
「もう終わった事ですから、そんなお顔をなさらないでください。
公爵家に仕える様になってからは、とても幸せですよ。
当時のフレデリカ様は少し我儘なところもありましたが、可愛いと思える程度でしたし、他のご家族は皆様お優しい方ばかりなので。
でも、この平和がいつまで続くのかは、アイザック様の奥様になられるお方次第なので、私だけでなく使用人達は皆、どんな方が選ばれるのか心配していたのです」
貴族家の家政は当主夫人が任される事が多い。
アイザックが爵位を継いだら元公爵夫人は引退し、アイザックの妻が使用人達の管理をするのだ。
妻の性格によっては、邸内の雰囲気が一気に変わってしまう可能性もある。
「だから、オフィーリア様が婚約者に内定して皆が安心しました。
実は、専属侍女に立候補したのも、私達だけじゃなかったんですよ。
アイザック様の厳しいチェックをくぐり抜けて、なんとか候補の座を手にしましたが」
フレデリカや公爵夫人だけでなく、使用人の皆さんまで歓迎してくれているのだと知って、胸がポカポカと温かくなった。
アイザックの厳しいチェックの内容は少し気になる所だけど、今は深く考えない様にしよう。
「そんな風に言ってもらえて嬉しいわ。ありがとう」
「こちらこそ、お側に置いて下さってありがとうございます。
ご遠慮なく何でもお申し付け下さいね」
「本当に、何でも?」
「ええ、勿論です」
「……因みに、私の行動は逐一公爵家に報告されるのかしら?」
貴族社会において、情報は大きな力を持つ。
断罪回避を確実な物にする為にも情報の収集は必要不可欠だ。
ユーニスが諜報が得意だと聞いた時、協力してもらえるんじゃないかとちょっとだけ期待した。
でも、何を頼んだかを全て報告されるなら、ユーニスに情報を集めてもらう訳にはいかない。
別にやましい事を頼むつもりはないが、『何故その情報が必要だったのか?』と聞かれたりしたら、乙女ゲームの事を隠して上手く説明をする自信が無いからだ。
「旦那様とアイザック様には、オフィーリア様の身に危険が及びそうな場合だけは報告を、とのご指示を頂いております。
私は旦那様に雇われている身ですが、専属としてお仕えする以上、一番に忠誠を誓うのはオフィーリア様です。
どうしても必要な時以外は、たとえ公爵家の方にもオフィーリア様の情報を漏らしたりはしません。
ですから遠慮なさらずに、なんでも命じて下さいませ」
「じゃあ、調べて欲しい事があるのだけど……。
急ぎではないから、侍女の仕事の合間で良いわ」
私がユーニスに調査を依頼したのは二つ。
一つは、あの匂いの正体。
リンメル先生とニコラスから感じた、蜂蜜とシナモンみたいな香りである。
前世の私はそんなに沢山の乙女ゲームをプレイした訳ではないから、乙女ゲームあるあるみたいな物はよく分からない。
でも、ゲームによっては攻略を補助するためのアイテムとして、アクセサリーやお菓子などが用意されている場合があると小説や漫画などで読んだ事があった。
課金したり、ミニゲームをクリアしたりする事で手に入るらしい。
その補助アイテムを身に付けたり、相手に食べさせたりすると、好感を持たれやすくなるのだ。
この乙女ゲームにそういう類の物は登場しなかったと思うけど、もしも私が知らない、もしくは忘れているだけだとしたら……。
ゲームプレイ中であれば『便利だな』としか思わないけど、現実に存在するとしたら、魅了とか惚れ薬とか精神に影響を与えるヤバい物体って事だよね?
怖っっ!!
───と、いう訳で。
学園内で蜂蜜とシナモンのお菓子が出回っているか?
もし出回っているとしたら、誰が持ち込んでいるのか?
クリスティアンやその周辺に、その菓子を食べた人がいるか?
などなどをユーニスに調べてもらう事にした。
あともう一つは、ずっと気になっていた淑女教育の教師、セリーナ・メルボーン子爵夫人について。
彼女とプリシラの関係性を中心に、調査をお願いした。
そろそろ別の角度からも、断罪回避を進めないとね。
本当はサディアス殿下の為人についても知りたい所だけど、王家には下手に近付かない方が良いだろう。
ユーニスを危険に晒す訳にはいかないから。
向かいの席には、ニコニコと嬉しそうに微笑むユーニスが座っている。
「ユーニスは、どうして私の侍女に立候補したの?」
エイダが好意を持ってくれた理由は、なんとなく分かる。
あの日の出来事を、何故か大袈裟に捉えて感謝してくれているみたいだから。
でも、ユーニスは?
ユーニスはその場に居合わせただけで、私とは直接会話もしていないのだ。
「実は、エイダは私の兄と夫婦なんですよ。
兄はヘーゼルダイン公爵邸で庭師をしています」
「あ、じゃあパメラは……」
「ええ、姪っ子ですね」
「成る程、それで。
でも……、貴女達が私を好意的に見てくれているのは嬉しいけど、私が何もしなくてもパメラは元気に生まれて来てくれたと思うわよ?」
過大評価されている気がして、なんとも居心地が悪くなる。
そんな私の言葉にユーニスは小さく頷いた。
「それは私もエイダも分かっていますよ。
ただ、オフィーリア様のお心遣いが嬉しかったのです。
私と兄は、以前、別の貴族のお邸に勤めておりましたが、そこでは使用人が奴隷の様な扱いを受けていました。
エイダも公爵邸で私達と出会う前は、何処かの貴族に仕えていたそうですが、そこも酷かったとか」
突如始まったユーニスの昔話に、チクリと胸が痛んだ。
使用人や平民を同じ人間だと思っていない貴族がいるというのは、話には聞いた事がある。
私の周りには被害者も加害者もいないので、実感した事がなかったけれど。
眉根を寄せた私を安心させる様に、ユーニスはフワリと笑みを浮かべた。
「もう終わった事ですから、そんなお顔をなさらないでください。
公爵家に仕える様になってからは、とても幸せですよ。
当時のフレデリカ様は少し我儘なところもありましたが、可愛いと思える程度でしたし、他のご家族は皆様お優しい方ばかりなので。
でも、この平和がいつまで続くのかは、アイザック様の奥様になられるお方次第なので、私だけでなく使用人達は皆、どんな方が選ばれるのか心配していたのです」
貴族家の家政は当主夫人が任される事が多い。
アイザックが爵位を継いだら元公爵夫人は引退し、アイザックの妻が使用人達の管理をするのだ。
妻の性格によっては、邸内の雰囲気が一気に変わってしまう可能性もある。
「だから、オフィーリア様が婚約者に内定して皆が安心しました。
実は、専属侍女に立候補したのも、私達だけじゃなかったんですよ。
アイザック様の厳しいチェックをくぐり抜けて、なんとか候補の座を手にしましたが」
フレデリカや公爵夫人だけでなく、使用人の皆さんまで歓迎してくれているのだと知って、胸がポカポカと温かくなった。
アイザックの厳しいチェックの内容は少し気になる所だけど、今は深く考えない様にしよう。
「そんな風に言ってもらえて嬉しいわ。ありがとう」
「こちらこそ、お側に置いて下さってありがとうございます。
ご遠慮なく何でもお申し付け下さいね」
「本当に、何でも?」
「ええ、勿論です」
「……因みに、私の行動は逐一公爵家に報告されるのかしら?」
貴族社会において、情報は大きな力を持つ。
断罪回避を確実な物にする為にも情報の収集は必要不可欠だ。
ユーニスが諜報が得意だと聞いた時、協力してもらえるんじゃないかとちょっとだけ期待した。
でも、何を頼んだかを全て報告されるなら、ユーニスに情報を集めてもらう訳にはいかない。
別にやましい事を頼むつもりはないが、『何故その情報が必要だったのか?』と聞かれたりしたら、乙女ゲームの事を隠して上手く説明をする自信が無いからだ。
「旦那様とアイザック様には、オフィーリア様の身に危険が及びそうな場合だけは報告を、とのご指示を頂いております。
私は旦那様に雇われている身ですが、専属としてお仕えする以上、一番に忠誠を誓うのはオフィーリア様です。
どうしても必要な時以外は、たとえ公爵家の方にもオフィーリア様の情報を漏らしたりはしません。
ですから遠慮なさらずに、なんでも命じて下さいませ」
「じゃあ、調べて欲しい事があるのだけど……。
急ぎではないから、侍女の仕事の合間で良いわ」
私がユーニスに調査を依頼したのは二つ。
一つは、あの匂いの正体。
リンメル先生とニコラスから感じた、蜂蜜とシナモンみたいな香りである。
前世の私はそんなに沢山の乙女ゲームをプレイした訳ではないから、乙女ゲームあるあるみたいな物はよく分からない。
でも、ゲームによっては攻略を補助するためのアイテムとして、アクセサリーやお菓子などが用意されている場合があると小説や漫画などで読んだ事があった。
課金したり、ミニゲームをクリアしたりする事で手に入るらしい。
その補助アイテムを身に付けたり、相手に食べさせたりすると、好感を持たれやすくなるのだ。
この乙女ゲームにそういう類の物は登場しなかったと思うけど、もしも私が知らない、もしくは忘れているだけだとしたら……。
ゲームプレイ中であれば『便利だな』としか思わないけど、現実に存在するとしたら、魅了とか惚れ薬とか精神に影響を与えるヤバい物体って事だよね?
怖っっ!!
───と、いう訳で。
学園内で蜂蜜とシナモンのお菓子が出回っているか?
もし出回っているとしたら、誰が持ち込んでいるのか?
クリスティアンやその周辺に、その菓子を食べた人がいるか?
などなどをユーニスに調べてもらう事にした。
あともう一つは、ずっと気になっていた淑女教育の教師、セリーナ・メルボーン子爵夫人について。
彼女とプリシラの関係性を中心に、調査をお願いした。
そろそろ別の角度からも、断罪回避を進めないとね。
本当はサディアス殿下の為人についても知りたい所だけど、王家には下手に近付かない方が良いだろう。
ユーニスを危険に晒す訳にはいかないから。
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