98 / 200
98 追撃のお茶会
しおりを挟む
その後、メルボーン子爵家のご子息はアイザックが紹介してくれた医師の診察を受けた。
特殊な風邪を拗らせていたらしいが、新たな医師に処方された薬の効果により緩やかに快方へ向かっていると聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。
『口は悪いけど子供には優しい、良い先生だった』と、メルボーン夫人には感謝された。
私は敢えて『プリシラから距離を取って欲しい』とお願いしたりはしなかったのだが、あれからメルボーン子爵夫人とプリシラが一緒にいる所は見掛けなくなった。
プリシラの悪評が流れていても、最近の彼女は我関せずと言った感じで無言を貫いており、今迄の様に取り成す事は無い。
それは私の意を汲み取っての行動かもしれないし、或いは彼女自身もプリシラの言動に何かしら思う所があったからかもしれない。
追い風が吹いている内に更なる策を実行したいと考えて、私はお茶会を開く事にした。
一応、婚約者として迷惑になってはいけないので、事前にアイザックの許可も取っている。
危険な作戦とかではないからか、休日に会えない事を淋しがられただけで、特に反対はされなかった。
『フレデリカとベアトリスにも協力してもらうと良い』
彼にそう勧められたので二人にも相談すると、嬉々としてお茶会への参加と協力を約束してくれた。
初めての私主催のお茶会という事で、リーザが中心となり、使用人全員が張り切って準備を進めてくれた。
ユーニスは招待客に関する情報の収集に忙しいので、代わりにエイダも臨時で公爵家から手伝いに来てくれている。
『オフィーリア様のお手伝いに行って来るね』と、パメラに言ったら、『パメラもフィーちゃんにあいたい』ってちょっと泣かれたらしい。
次の週末には会いに行って、グリングリンに撫で繰り回そうと思う。
皆んなの協力のお陰で、エヴァレット伯爵邸のささやかな庭が見違えるほどに素敵なお茶会会場へと変貌を遂げた。
そしてユーニスが集めてくれた情報は、招待客を選ぶ段階から非常に役に立った。
乗馬が趣味のご令嬢や、顧客のご息女を中心に、私に好意的なご令嬢が六割。後の四割はプリシラの取り巻きを招待した。
その中でもプリシラを盲目的に信奉している者と、何らかの政略的なメリットを期待してプリシラに侍っている者を半分ずつ選定する。
彼女達は決して一枚岩ではない。
一緒に行動していても、行動原理が全く違うのだから。
招待状を送ったほぼ全てのご令嬢から、早い段階で参加の返事が届いた。
おそらくプリシラ側の人達は、彼女と敵対する私を貶めたり、内情を探ったりするチャンスだとでも思っているのだろう。
招待客全員の食に関する好みやアレルギーは勿論、趣味や特技、実家の領地の特産品などについても、ユーニスの調査によって把握済み。
最初は『侍女に諜報能力って必要なの?』と、疑問に思ったけど……。
いや、めっちゃ便利だわ。
当日は天候にも恵まれて、絶好のお茶会日和となった。
(私って、結構強運じゃない?)
そんな風に楽観的な考えが一瞬だけ頭をよぎったけど、直ぐに矛盾に気が付いた。
そもそも強運の持ち主は、悪役令嬢に転生したりしないよね。
「ご招待頂きありがとうございます」
「ようこそお越しくださいました。ブライス伯爵令嬢。
本日のドレスもとてもお似合いで素敵ですね。もしかして、ブライス領で作られたシルクでしょうか?」
私が指摘すると、ブライス伯爵令嬢は誇らしそうに微笑んだ。
「ええ、良くお分かりになりましたわね」
「高品質で有名ですもの。
私も何着か持っていますが、上品な光沢で美しいドレープが出るので、とてもお気に入りなのです」
……とまあ、こんな感じで続々と到着する招待客を笑顔で迎え入れ、一人一人と丁寧に挨拶を交わす。
掴みは上々。やっぱり社交は事前の準備が大事だね。
プリシラに近しい令嬢達も、フレデリカやベアトリスの目が気になるのか、今の所大人しくしている。
招待客全員が揃い、お茶会は比較的和やかなムードでスタートした。
天候の話や話題のカフェについてなど、暫くは当たり障りのない会話が続く。
「───そう言えば、オフィーリア様とヘーゼルダイン様もご婚約が成立なさったのですよね?
おめでとうございます!」
場が温まって来た所で、誰かが婚約者についての話題に触れた。すると、待ってましたとばかりに話の流れは私の婚約の件へと移る。
社交界では今一番ホットな話題である。この話を聞きたくてお茶会に参加した令嬢も、きっと多いのだろう。
「ありがとうございます」
控えめな笑みを浮かべ、少し照れたように両手で頬を隠した。
「普段お二人の時はどの様に過ごしていらっしゃるの?」
「それを聞くなら、甘過ぎて胸焼けするのを覚悟した方が良いですわ。
お兄様なんて、最近は口を開けばオフィーリアの話ばかりですのよ」
私が答える前にフレデリカがそう忠告すると、キャッと黄色い歓声があがった。
「ヘーゼルダイン様が溺愛していらっしゃるという噂は本当なのですね」
「お二人はとってもお似合いだと、前々から思ってましたの」
私に好意的な令嬢達は夢見る乙女の様に瞳をキラキラと輝かせながら、話に花を咲かせる。
やっぱりこの世界でも、恋バナが好きな女性は多いらしい。
「そう言って頂けると嬉しいですわ。でも───」
私はここで表情を曇らせ、少しだけ口籠もってから言葉を続ける。
「どうやら、私達の婚約の経緯を悪い方へ誤解なさっている方々もいらっしゃるみたいで……」
特殊な風邪を拗らせていたらしいが、新たな医師に処方された薬の効果により緩やかに快方へ向かっていると聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。
『口は悪いけど子供には優しい、良い先生だった』と、メルボーン夫人には感謝された。
私は敢えて『プリシラから距離を取って欲しい』とお願いしたりはしなかったのだが、あれからメルボーン子爵夫人とプリシラが一緒にいる所は見掛けなくなった。
プリシラの悪評が流れていても、最近の彼女は我関せずと言った感じで無言を貫いており、今迄の様に取り成す事は無い。
それは私の意を汲み取っての行動かもしれないし、或いは彼女自身もプリシラの言動に何かしら思う所があったからかもしれない。
追い風が吹いている内に更なる策を実行したいと考えて、私はお茶会を開く事にした。
一応、婚約者として迷惑になってはいけないので、事前にアイザックの許可も取っている。
危険な作戦とかではないからか、休日に会えない事を淋しがられただけで、特に反対はされなかった。
『フレデリカとベアトリスにも協力してもらうと良い』
彼にそう勧められたので二人にも相談すると、嬉々としてお茶会への参加と協力を約束してくれた。
初めての私主催のお茶会という事で、リーザが中心となり、使用人全員が張り切って準備を進めてくれた。
ユーニスは招待客に関する情報の収集に忙しいので、代わりにエイダも臨時で公爵家から手伝いに来てくれている。
『オフィーリア様のお手伝いに行って来るね』と、パメラに言ったら、『パメラもフィーちゃんにあいたい』ってちょっと泣かれたらしい。
次の週末には会いに行って、グリングリンに撫で繰り回そうと思う。
皆んなの協力のお陰で、エヴァレット伯爵邸のささやかな庭が見違えるほどに素敵なお茶会会場へと変貌を遂げた。
そしてユーニスが集めてくれた情報は、招待客を選ぶ段階から非常に役に立った。
乗馬が趣味のご令嬢や、顧客のご息女を中心に、私に好意的なご令嬢が六割。後の四割はプリシラの取り巻きを招待した。
その中でもプリシラを盲目的に信奉している者と、何らかの政略的なメリットを期待してプリシラに侍っている者を半分ずつ選定する。
彼女達は決して一枚岩ではない。
一緒に行動していても、行動原理が全く違うのだから。
招待状を送ったほぼ全てのご令嬢から、早い段階で参加の返事が届いた。
おそらくプリシラ側の人達は、彼女と敵対する私を貶めたり、内情を探ったりするチャンスだとでも思っているのだろう。
招待客全員の食に関する好みやアレルギーは勿論、趣味や特技、実家の領地の特産品などについても、ユーニスの調査によって把握済み。
最初は『侍女に諜報能力って必要なの?』と、疑問に思ったけど……。
いや、めっちゃ便利だわ。
当日は天候にも恵まれて、絶好のお茶会日和となった。
(私って、結構強運じゃない?)
そんな風に楽観的な考えが一瞬だけ頭をよぎったけど、直ぐに矛盾に気が付いた。
そもそも強運の持ち主は、悪役令嬢に転生したりしないよね。
「ご招待頂きありがとうございます」
「ようこそお越しくださいました。ブライス伯爵令嬢。
本日のドレスもとてもお似合いで素敵ですね。もしかして、ブライス領で作られたシルクでしょうか?」
私が指摘すると、ブライス伯爵令嬢は誇らしそうに微笑んだ。
「ええ、良くお分かりになりましたわね」
「高品質で有名ですもの。
私も何着か持っていますが、上品な光沢で美しいドレープが出るので、とてもお気に入りなのです」
……とまあ、こんな感じで続々と到着する招待客を笑顔で迎え入れ、一人一人と丁寧に挨拶を交わす。
掴みは上々。やっぱり社交は事前の準備が大事だね。
プリシラに近しい令嬢達も、フレデリカやベアトリスの目が気になるのか、今の所大人しくしている。
招待客全員が揃い、お茶会は比較的和やかなムードでスタートした。
天候の話や話題のカフェについてなど、暫くは当たり障りのない会話が続く。
「───そう言えば、オフィーリア様とヘーゼルダイン様もご婚約が成立なさったのですよね?
おめでとうございます!」
場が温まって来た所で、誰かが婚約者についての話題に触れた。すると、待ってましたとばかりに話の流れは私の婚約の件へと移る。
社交界では今一番ホットな話題である。この話を聞きたくてお茶会に参加した令嬢も、きっと多いのだろう。
「ありがとうございます」
控えめな笑みを浮かべ、少し照れたように両手で頬を隠した。
「普段お二人の時はどの様に過ごしていらっしゃるの?」
「それを聞くなら、甘過ぎて胸焼けするのを覚悟した方が良いですわ。
お兄様なんて、最近は口を開けばオフィーリアの話ばかりですのよ」
私が答える前にフレデリカがそう忠告すると、キャッと黄色い歓声があがった。
「ヘーゼルダイン様が溺愛していらっしゃるという噂は本当なのですね」
「お二人はとってもお似合いだと、前々から思ってましたの」
私に好意的な令嬢達は夢見る乙女の様に瞳をキラキラと輝かせながら、話に花を咲かせる。
やっぱりこの世界でも、恋バナが好きな女性は多いらしい。
「そう言って頂けると嬉しいですわ。でも───」
私はここで表情を曇らせ、少しだけ口籠もってから言葉を続ける。
「どうやら、私達の婚約の経緯を悪い方へ誤解なさっている方々もいらっしゃるみたいで……」
2,457
あなたにおすすめの小説
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる