【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

文字の大きさ
111 / 200

111 無実の証明

しおりを挟む
 クリスティアンに証明の機会を与えられたので、私達を取り囲んでいる野次馬に声を掛けた。

「それではそちらにいらっしゃる皆様、念の為もう少し離れて下さいませ」

 私の指示で人垣が動き、あっと言う間に広い空間が出来る。

「はい、そのくらいで結構です」

 次に庭園の通路の隅に落ちていた手頃な石を拾い上げ、自分のハンカチで汚れを拭うと、ベアトリスにそれを手渡した。

「ベアトリス様、これをあちらに向かって思いっきり投げてみて下さい」

 人が居なくなった方向を示してそうお願いすると、ベアトリスは戸惑いながらもそちらの方を向いて立った。

「思いっきりですよ」

「何がしたいのか良く分からないけど……、オフィーリアが言うならやってみるわね。
 ……───えいっっ!!」

 大きく振り被ったベアトリスの右手から放たれた小石は、明後日の方向へと飛んで行き、いちメートル足らずの距離でポトリと落ちる。

「「「「…………」」」」

 周囲の人々は皆、唖然とした表情でベアトリスを見詰めた。

 うーん。思った以上に飛ばなかったな。

「それが全力ですか?」

「ええ、見ているだけだと簡単そうなのに、なかなか難しいのねぇ」

 ベアトリスは自分でも納得いかないのか、キョトンとした表情で首を捻っている。

 可愛いな。

 いや、いかん。ほっこりしてる場合じゃなかった。

「ご覧になりました? やっぱり不可能です」

 私がクリスティアンに向かってそう言うと、彼は盛大に顔を顰めた。

「そんなの何の証明にもならない。
 ベアトリスの力加減次第じゃないか」

「いいえ。間違いなくこれがベアトリス様の限界です。
 ……と言うか、貴族令嬢であれば皆、似たり寄ったりだと思いますよ」

「……は?」

「だって、ほとんどの令嬢が物を投げた経験など生まれてから一度もないのですから。
 殿方には簡単に思えるのでしょうけど、貴族の女性は遠くに物を投げるなんて出来ません。
 ましてや人混みに紛れつつ卵を標的に命中させるなんて、絶対に不可能です」

 平民ならば子供の頃は男の子と混じって外で遊んだり、フルーツなんかをポイッと投げて渡したりする事もあるのかもしれないけど、淑やかさを強いられる貴族令嬢は幼い頃であっても物を投げるなんて許されない。
 体の動かし方やコツを全く分かっていないのだから、その能力は幼児と変わらぬ程度である。

「そんなの嘘だ。
『貴族令嬢が気に入らない使用人の顔にカトラリーや筆記具を投げ付けた』なんて話は、私の耳にも日常的に入ってくるぞ」

 マジか。
 どこの世界の日常よ?
 そんな昼ドラみたいな事が頻繁に起こっているのだとしたら、この国の令嬢教育を早急に見直すべきじゃない?

「私はそんなお話一度も聞いた事がありませんが……。
 その場合、おそらく手を伸ばせば触れられるくらいの近距離だからこそ、ぶつける事が可能だったのでは?」


 その後、試しにプリシラを含め、赤髪でも長身でもない何人かの令嬢が石投げに挑戦したが、結果は予想通り。ベアトリスと大差はなかった。

 まあ、実は私ならば余裕で投げられるのだけど。
 目撃された容姿には当てはまらないのだから、あえて言及する必要は無いよね?

 多くの生徒は私の主張に納得してくれたみたいだが、それでもクリスティアンは諦めなかった。

「ベアトリスが密かに特訓を積んでいる可能性だってある!」

 ねーよ。

 無駄に粘り強さを発揮すんなや。
 諦め悪い所はプリシラにそっくりだな。
 なんかの病気か? 伝染病か?

 あまりに苛々し過ぎて、つい脳内の言葉遣いが悪くなってしまうわね。
 ここまで人を苛立たせるのって、一種の才能だと思うわ。

「何の為にでしょうか?」

「それは、プリシラを陥れる為、に……」

 段々と声が小さくなったのは、自分でもおかしな事を言ってると途中で気付いたからだろうか?
 ちょっとは考えてから口を開けよ。

「取るに足らない男爵令嬢に卵をぶつける為だけに、公爵令嬢が物を投げる秘密特訓を行なったのだと、第二王子殿下は主張なさるのですね?
 仮にベアトリス様がどうしてもウェブスター嬢に意地悪をしたかったとしても、他にもっと有効な方法がいくらでもあると思うのですが……。
 態々特訓を行なってまで卵をぶつける手段に拘った理由は、一体何なのでしょうか?」

 あまりに馬鹿馬鹿しい主張に、周囲からもクスクスと笑いが漏れ始める。

「でもっっ!!」

 その笑い声を掻き消す様に、プリシラが声を上げる。

 出たよ。プリシラの『でも』。

「でもっ……、私が見たのは確かに女子生徒でしたっ!!
 この学園の女子生徒は皆んな貴族令嬢です。
 エヴァレット様の主張通りなら、容疑者がいなくなってしまうわ!」

「ま、まさか、女装をした男子生徒だったと言うのか?」

 言わねーわ。
 話がややこしくなるから、めい探偵はちょっと黙ってくれないかな?

「フェネリー様」

 私はポンコツ二人の言葉には答えず、ニコラスに声を掛けた。

「おいっ、無視するなよ!」

 喚くクリスティアン。
 もう本当に面倒だから黙ってて。

「聞いていればおのずと答えが分かりますよ」

 冷ややかな視線を向けてそう言う。
 私の隣でアイザックも殺気を込めて睨み付けているせいか、クリスティアンは不服そうな顔をしながらも口をつぐんだ。
しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

処理中です...