115 / 200
115 良薬は口に苦し
しおりを挟む
大股で此方へと近寄るニコラスに、ベアトリスは微かな警戒心を漂わせながら微笑んだ。
「ニコラスはどうして此方へ?」
「王宮に書類を提出した帰りだ。
クリスティアン殿下の護衛兼側近候補を降りる事になったから」
「……そう。それは残念だったわね」
「いや、それは別に。
俺が自分で決めた事だし」
ふーん。自ら側近を降りたのか。
ちょっと意外ね。
「あら、そうなの」
「………………その、今から少しだけ、時間をもらえないだろうか?
話したい事があるんだ」
「それは……」
ニコラスの願いにどう答えるべきか決めかねているのか、ベアトリスはチラリと私達を振り返った。
「つい最近までポンコツの腰巾着だった男とベアトリスを二人にするのは心配だけど、私達の前でも話せるのなら良いんじゃないかしら?
折角の機会だから、ベアトリスも言いたい事を全部言ってやれば良いのよ」
愛らしい唇を笑みの形に釣り上げながら、刺々しい言葉を発するフレデリカ。
彼女もニコラスのこれまでの挙動に思うところがあったのだろう。
それにしても、ポンコツの腰巾着って……。
「それで構わない」と頷くニコラスを連れて、私達は先程のカフェへと戻った。
店内に入ると、フレデリカが店のオーナーとベアトリスに何やらヒソヒソと耳打ちした。
オーナーは少し困った表情で、ベアトリスはグッと親指を立ててニヤリと笑う。
「彼女達、明らかに何か企んでますよね?」
私の問いに、アイザックが苦笑いで頷いた。
「そうみたいだな」
ベアトリスとニコラスは、二人掛けの席に向かい合わせで着席し、私達はその隣のテーブルに着いた。
緊張した面持ちのオーナーが、ベアトリス達にお茶を提供する。
「粗茶ですが」
(カフェのお茶が粗茶じゃダメじゃない?)
そう思った私だが、直ぐにその言葉の本当の意味を知る事となる。
優雅な仕草でお茶を飲んだベアトリスを見て、ニコラスもカップを手に取り口を付けたのだが……。
「ブッ……! ゴホッ、ゲフッ!!」
一口飲んだ途端に吹き出しそうになって、思いっきり咳き込んだ。
「苦っっ!!!
なっ、なんだ、コレは?」
「あら、ご存知ないのかしら?
センブリ茶と言って、最近ご令嬢達の間で流行りつつあるお茶なのよ(大嘘)。
お味は強烈だけど、健康には大変良いらしいわ。
苦味も慣れると癖になるのですって」
未だにハンカチで口元を抑えながら咽せているニコラスに、ベアトリスはシレッとした顔で適当な嘘をつく。
「そ、そうなのか……」
チョロ過ぎる。
流行る訳ないだろ。ちょっとは疑え。
「あの……、何故、カフェにセンブリ茶が?」
隣のテーブルに聞こえない様に小声で疑問を呈すると、フレデリカがクスクス笑いながら答えてくれた。
「オーナーは胃が弱いらしくてね。自分用に常備しているのを知ってたから、一杯提供してもらったの」
(もしかして、オーナーさんが胃を傷めてるのって、フレデリカが無茶な事ばかり要求するからなのでは?)
伯爵子息にセンブリ茶を出してしまった事にびびって縮こまっている気が弱そうなオーナーに、私はチラリと憐憫の眼差しを向けた。
涼しい顔をしてお茶を飲み続けているベアトリスを見るに、きっと彼女のカップに入っているのは普通の紅茶なのだろう。
一方のニコラスは、再び恐々とカップに口を付けて「ウグッ」と謎の呻き声を上げ、盛大に顔を顰めた。
なんでもう一口いった?
チャレンジャーかよ。
「…ふっ……アハハハ」
堪え切れずにフレデリカがお腹を抱えてケラケラと笑い出した。
良く見ると、ベアトリスの肩もちょっと震えている。
ニコラスは何故笑われているのか理解出来ないらしく、困惑した顔で首を傾げた。
「……コホンッ。
それで? 何か私に話があるのでしょう?」
軽く咳払いをして仕切り直したベアトリスだが、まだ少し口元が笑っている。
「ああ、その……、ベアトリスには、一度謝っておかなきゃいけないと思ったんだ」
それを聞いてベアトリスはスッと瞳を細めた。
「謝るとは、何についてかしら?」
「……クリスティアン殿下を、諌められなかった事についてだ。
済まなかった」
若干の不機嫌さを滲ませるベアトリスに、ニコラスは少しオドオドしながら頭を下げて謝罪を口にした。
ベアトリスは深く溜息をつく。
「はあぁぁ……。
謝って欲しいのは、そこでは無いのに。
まあ良いわ。
護衛兼側近候補を降りると決めたのも、主を諌められなかったからなのかしら?」
「……それもある」
「そもそもフェネリーのおじ様は、前からクリスティアン殿下と離れるべきだと仰っていたらしいじゃない。
なのにどうして頑なに、あんなポンコツに仕えていたの?」
騎士団長であるフェネリー伯爵も、とっくにクリスティアンを見限っていたのか。
本当に四面楚歌状態だな。
「それは……」
ニコラスは少し気まずそうに言い淀む。
「それは?」
ベアトリスに話の先を促され、意を決した様に再び口を開いたニコラスは、信じられない言葉を発した。
「……それは、ベアトリスが、王子妃になるかもしれなかったから」
「ハァッ!?」
何言ってんだ? コイツ。
「ニコラスはどうして此方へ?」
「王宮に書類を提出した帰りだ。
クリスティアン殿下の護衛兼側近候補を降りる事になったから」
「……そう。それは残念だったわね」
「いや、それは別に。
俺が自分で決めた事だし」
ふーん。自ら側近を降りたのか。
ちょっと意外ね。
「あら、そうなの」
「………………その、今から少しだけ、時間をもらえないだろうか?
話したい事があるんだ」
「それは……」
ニコラスの願いにどう答えるべきか決めかねているのか、ベアトリスはチラリと私達を振り返った。
「つい最近までポンコツの腰巾着だった男とベアトリスを二人にするのは心配だけど、私達の前でも話せるのなら良いんじゃないかしら?
折角の機会だから、ベアトリスも言いたい事を全部言ってやれば良いのよ」
愛らしい唇を笑みの形に釣り上げながら、刺々しい言葉を発するフレデリカ。
彼女もニコラスのこれまでの挙動に思うところがあったのだろう。
それにしても、ポンコツの腰巾着って……。
「それで構わない」と頷くニコラスを連れて、私達は先程のカフェへと戻った。
店内に入ると、フレデリカが店のオーナーとベアトリスに何やらヒソヒソと耳打ちした。
オーナーは少し困った表情で、ベアトリスはグッと親指を立ててニヤリと笑う。
「彼女達、明らかに何か企んでますよね?」
私の問いに、アイザックが苦笑いで頷いた。
「そうみたいだな」
ベアトリスとニコラスは、二人掛けの席に向かい合わせで着席し、私達はその隣のテーブルに着いた。
緊張した面持ちのオーナーが、ベアトリス達にお茶を提供する。
「粗茶ですが」
(カフェのお茶が粗茶じゃダメじゃない?)
そう思った私だが、直ぐにその言葉の本当の意味を知る事となる。
優雅な仕草でお茶を飲んだベアトリスを見て、ニコラスもカップを手に取り口を付けたのだが……。
「ブッ……! ゴホッ、ゲフッ!!」
一口飲んだ途端に吹き出しそうになって、思いっきり咳き込んだ。
「苦っっ!!!
なっ、なんだ、コレは?」
「あら、ご存知ないのかしら?
センブリ茶と言って、最近ご令嬢達の間で流行りつつあるお茶なのよ(大嘘)。
お味は強烈だけど、健康には大変良いらしいわ。
苦味も慣れると癖になるのですって」
未だにハンカチで口元を抑えながら咽せているニコラスに、ベアトリスはシレッとした顔で適当な嘘をつく。
「そ、そうなのか……」
チョロ過ぎる。
流行る訳ないだろ。ちょっとは疑え。
「あの……、何故、カフェにセンブリ茶が?」
隣のテーブルに聞こえない様に小声で疑問を呈すると、フレデリカがクスクス笑いながら答えてくれた。
「オーナーは胃が弱いらしくてね。自分用に常備しているのを知ってたから、一杯提供してもらったの」
(もしかして、オーナーさんが胃を傷めてるのって、フレデリカが無茶な事ばかり要求するからなのでは?)
伯爵子息にセンブリ茶を出してしまった事にびびって縮こまっている気が弱そうなオーナーに、私はチラリと憐憫の眼差しを向けた。
涼しい顔をしてお茶を飲み続けているベアトリスを見るに、きっと彼女のカップに入っているのは普通の紅茶なのだろう。
一方のニコラスは、再び恐々とカップに口を付けて「ウグッ」と謎の呻き声を上げ、盛大に顔を顰めた。
なんでもう一口いった?
チャレンジャーかよ。
「…ふっ……アハハハ」
堪え切れずにフレデリカがお腹を抱えてケラケラと笑い出した。
良く見ると、ベアトリスの肩もちょっと震えている。
ニコラスは何故笑われているのか理解出来ないらしく、困惑した顔で首を傾げた。
「……コホンッ。
それで? 何か私に話があるのでしょう?」
軽く咳払いをして仕切り直したベアトリスだが、まだ少し口元が笑っている。
「ああ、その……、ベアトリスには、一度謝っておかなきゃいけないと思ったんだ」
それを聞いてベアトリスはスッと瞳を細めた。
「謝るとは、何についてかしら?」
「……クリスティアン殿下を、諌められなかった事についてだ。
済まなかった」
若干の不機嫌さを滲ませるベアトリスに、ニコラスは少しオドオドしながら頭を下げて謝罪を口にした。
ベアトリスは深く溜息をつく。
「はあぁぁ……。
謝って欲しいのは、そこでは無いのに。
まあ良いわ。
護衛兼側近候補を降りると決めたのも、主を諌められなかったからなのかしら?」
「……それもある」
「そもそもフェネリーのおじ様は、前からクリスティアン殿下と離れるべきだと仰っていたらしいじゃない。
なのにどうして頑なに、あんなポンコツに仕えていたの?」
騎士団長であるフェネリー伯爵も、とっくにクリスティアンを見限っていたのか。
本当に四面楚歌状態だな。
「それは……」
ニコラスは少し気まずそうに言い淀む。
「それは?」
ベアトリスに話の先を促され、意を決した様に再び口を開いたニコラスは、信じられない言葉を発した。
「……それは、ベアトリスが、王子妃になるかもしれなかったから」
「ハァッ!?」
何言ってんだ? コイツ。
2,267
あなたにおすすめの小説
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる