【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

文字の大きさ
133 / 200

133 選ばれし者

しおりを挟む
「星型の痣に、何か心当たりが?」

 そう質問した私に、アイザックは渋面を作ったまま口を開く。

「うん。……いや、ここではちょっと。
 帰りに馬車の中で話すよ。
 取り敢えず、リンメル先生は思ったよりも危険かもしれないから、なるべく近寄らないで」

「分かりました。気を付けます」

 真剣な表情で忠告され、緊張が走った。

「ベアトリスやフレデリカ達にも、後で僕から話しておくから」

「はい」

 アイザックの視線の先には、少し離れた場所でドリンクチケットを販売しているベアトリスの姿がある。



 その後は私もアイザックも、休む間もなくお茶を淹れ続けなければならない状況に陥った。
 忙しく働いている間は、他の事を考える余裕など全く無くなり、そうこうしている内にいつの間にか祭りは終了した。

 お茶マニアによるマニアックな商品ラインナップのお陰か、会計担当者によれば、我がクラスの売上はかなり高かったらしい。

 準備期間も当日も慌ただしくて、とても大変な思いをした。
 それでも終わってみれば、達成感の様な物を得る事が出来たし、認めたくはないが、私もちょっとだけ楽しんでいた部分があるかも。


 非日常的なイベント特有の奇妙な高揚感を残しつつ、アイザックと共に帰りの馬車へと乗り込む。

「内密な話をするから、今日は御者の隣に乗ってくれ」

 アイザックが侍従にそう言うと、意味あり気な笑みが返された。

「オフィーリア様、無体な事をされそうになったら、躊躇なく叫んでくださいね」

「……良いからサッサと行け」

 射殺しそうな視線で睨まれた侍従は、「はいはい、退散しますよぉ」と肩を竦めて出て行った。


 隣同士の座席に座り、馬車の扉が閉まると、アイザックは少し声を潜めて話し始めた。

「さっきの話の続きなんだけど、リンメル先生の星型の痣って、どの位の大きさだった?」

「二センチ位の小さな物でしたよ」

「濡れて張り付いた手袋越しに、透けて見えたんだよね?」

「はい」

「じゃあ、薄ぼんやりとしか見えてなかったかなぁ?
 どんな形の星だったか、分かる?」

「うーん……、くっきり見えたわけじゃ無いんですが、八芒星って言うんでしょうか。
 こんな風に、尖った角が八つ飛び出た形の……」

 アイザックの掌に指で形を描きながら説明する。
 同じ八芒星でも正方形を二つ重ねた形じゃなくて、もっとギザギザと尖った感じのマークに見えた。

「そうか、やっぱり……。
 もしかしたら、リンメル先生は教皇の血筋なのかもしれないな」

「は?」

 教皇って、あの教皇?
 姫殿下事件の黒幕として、サディアス殿下も疑っている、あの教皇だよね?

「この国の教皇の座は世襲制で、建国以来ずっと同じ一族が守っているのは、オフィーリアも知っているよね?」

「あ、はい」

 彼等は初代教皇の末裔である事に誇りを持っている。
 もしかすると、王家以上に血筋を大切にしているかもしれない程だ。

「ここだけの話だけど、実は、初代教皇の直系の血族にのみ現れる、不思議な星型の痣がある。
 彼等はそれを、神に選ばれし者の証だと主張しているんだ」

「……そんな話、聞いた事がありませんが」

「そうだろうね。
 これは国の中枢を担う者達と、教会幹部にのみ知られている事実だから」

「何故公表しないのです?」

 初代教皇の血族が教会トップを受け継ぐやり方に、堂々と異を唱える者はあまりいないが、密かに不満を抱いて者はかなり多いと思う。
 王家に次ぐ権力をずっと独占しているのだから、反発する気持ちは理解出来る。

 そんな不思議な痣があるなら、一族の正当性を訴えるのに効果的に利用しそうな気がするけど。

「それは、痣が彼等にとって『選ばれし者の証』であると同時に、直系血族を見分ける為の印でもあるからだよ。
 その印を確認する事で、本当に教皇の血を引く子供なのかを確認しているんだ」

「あ、成る程。
 偽造を防ぐ為に、痣の事は伏せられているんですね」

 痣の存在を公表すれば、当然それを偽造して教皇の落とし胤を装う者が出て来るだろう。
 ヘナみたいな染色剤や刺青なんかを利用して、それっぽい印を肌に描く事は可能かもしれない。

「そういう事。
 痣を持って生まれた者達は、普段は洋服などでそれを隠しながら生きている。
 三代前の教皇の絵姿を見た事が無いかな?
 ほら、大きな額飾りをつけている……」

「ああ、あれって当時の流行りだったのかと思っていましたが……。
 額に痣があったのですか?」

「そうらしいよ。隠すの大変そうだよね。
 他にも顎先に痣があった教皇は長い顎髭を生やしていたりとか、色々と工夫するらしい」

 もしもリンメル先生が隠しているのが、その痣だったとしたら……。

 年齢的に見て、先生は今の教皇の次男になるのか。
 歳が離れた教皇の弟って線は、ちょっと無理があるかな?

「リンメル先生の事は気になっていたから、既に調べてあったんだが、前伯爵夫妻の実子では無いらしい。
 生みの母は前伯爵の姉で、父親は不明。
 前伯爵はあまり評判の良く無い男だったが、体を患って数年前から領地で療養している。
 その機会に、リンメル先生が正式に爵位を継いだらしい。
 前伯爵の夫人は、随分前から公の場に姿を見せない。
 心を病んでいるとか、実はもう死んでいるとか、色んな噂が飛び交っているよ」

 前半はゲームの設定と同じなので知っていたが、義両親の情報については初耳だ。

「父親が不明という事は、教皇の血族である可能性も否定出来ないですね」

「ああ。
 現教皇は、サディアス殿下を引き摺り下ろそうとしている危険人物かもしれない。
 もしも先生との繋がりがあるのなら、先生の事ももっと警戒しなきゃならないし、調べ直した方が良いだろう。
 香の件も含めて、サディアス殿下に報告しても構わないかな?」

 サディアス殿下との情報共有は、必要かもしれない。
 もしかしたら、姫殿下の事件にも何か関わっている可能性もあるし。

「構いませんよ。アイザックにお任せします」

 そう言って頷いた私の頭を、アイザックは優しく撫でて、ニッコリと微笑んだ。

「大丈夫だよ。
 そんなに不安そうな顔をしないで」

 そう囁かれて初めて、自分がとても険しい表情をしていた事に気が付いた。

しおりを挟む
感想 1,006

あなたにおすすめの小説

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

処理中です...