【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

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162 メイクの魔法

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 エイリーン・ブリンドルは、子供の頃のお茶会で、その頃私がアイザックと親しいと噂になっていた事に嫉妬して、理不尽に突っ掛かって来たご令嬢だ。
 とは言っても、悪役よりも目立つ縦ロールだった事と、軽いジャブ程度の嫌味を言われて倍返ししてしまった事くらいしか覚えていない。

 いやぁ、我ながらあの頃は大人げなかったわ。

 その後は何度かお茶会とかで顔を合わせたが、返り討ちを警戒したのか不自然なまでに距離を保たれていたし、そうこうしている内にいつの間にか全く姿を見かけなくなっていた。

 だから、今日アイザックの口から名前を聞くまで、すっかりその存在を忘れ去っていたのだけど、そう言えば彼女は蜂蜜みたいな琥珀色の瞳にライトブラウンの髪だった気がする。

「まさか、死んでいたなんて……」

 考えてみれば、フレデリカの森のお茶会に参加したりベアトリスの取り巻きになろうとしていたり、結構上昇志向が強そうなタイプだったのに、学園内で一度も見かけた事がないなんて変よね?

「実は、彼女はオフィーリアに迷惑をかけてから一年ちょっと経った頃、秘密裏に療養施設へと入れられていたらしいんだ。
 症状が落ち着いて実家に戻れることになり、手続きをしていた所で、流行り病によって命を落としたとされている」

 療養施設といえば、教会が運営している。
 またしても教会が絡んでくるのか。

 それに、あそこは精神的な問題を抱えた人が入る施設である。

 私が前世の記憶を思い出した当時、家族にさえもその話をしなかったのは、おかしくなったと思われてしまうのではないかと危惧したからだ。
 もしかしたらエイリーンが転生者で、前世の記憶に関する事をうっかり口走ってしまったとしたら……。
 療養施設に入ることになったのも頷ける。

 だとすると、やはりレイラがエイリーンである可能性も出て来るのではないだろうか?
 レイラはプリシラに前世の知識を踏まえてアドバイスをしていた節があるのだから。

「アイザックは、そのエイリーンが生きている可能性があると思いますか?」

「無いとは言い切れない。
 だが、エイリーンがたった一人で多くの人を騙すのは不可能だろう。
 協力者の力を借りて自ら別人になりすましているのか、それとも両親が死を偽装して娘を捨てたのか……」

「いずれにしても、関係者に話を聞く必要がありますね」

「うん。
 ブリンドル伯爵夫妻には、サディアス殿下が話を聞くって言ってた。
 後は施設長だな」

 療養施設の施設長は、例の感染症を蔓延させた実行犯の妹さんを人質にしていた罪により、処遇が決まるまで王宮の地下牢に勾留されている。
 なんか、叩けばどんどん埃が出そうである。

「だが、そもそも前男爵夫人の邸にいた女性がエイリーン・ブリンドルだったとしても、彼女がヴィクターの恋人のレイラだという確証は無いんだよな。
 男爵夫妻の間でも、似顔絵と同一人物であるかどうか、意見が分かれていたし」

 その肖像画は、現在サディアス殿下の手に渡っているらしいので、私が見せて貰うのは難しい。
 その代わりと言ってはなんだが、アイザックの感想を聞いてみる事にした。

「アイザックはご覧になってみて、どう思いました?」

「どちらとも言えない。
 肖像画の女性とエイリーンはとても似ていると思うが、レイラの似顔絵はそれに比べると大人しそうと言うか……。
 マドック男爵が言う様に、印象が違う気もするんだ」

「その程度の違いであれば、化粧でなんとでもなりそうです」

「ああ。男爵夫人もそう言ってた」

 だとすると、やっぱり女性の意見の方が正しい気がする。

「じゃあ、この場で実演して見せましょうか。
 リーザ、お願い出来るかしら?」

 部屋の隅に控えていたリーザに声を掛けると、彼女は「お任せください」と腕捲りをした。

 リーザの手により、テーブルの上にメイク道具がズラリと並べられていく。

「化粧って、こんなに色々な道具を使うのか?」

「ええ、殿方には馴染みがないでしょうけど。
 お化粧直し用にリーザが持ち歩いてくれている物なので、これでもほんの一部ですよ」

「女性は大変だな」

「でも、化粧で雰囲気を変えるのは、ちょっと楽しくもあるんです。
 リーザ、優しそうな顔にしてくれる?」

「かしこまりました」

 今日の私はいつも通りの薄化粧である。
 私はベアトリスみたいに派手な美人では無いが、悪役なだけあって、かなり気が強そうな顔立ちをしている。
 下手に大人しそうに見せても、舐められて絡まれたりしたら面倒なので、普段は素材を活かしたメイクにしてもらっていた。



 リーザの手により、メイク落とし用のオイルで眉と目元のポイントメイクだけを落とされる。
 その後、化粧水を染み込ませたコットンで、優しくオイルを拭き取ってもらった。

「へえ、そうやって化粧を落とすのか。
 オフィーリアは化粧をしてなくても変わらないね」

「あんまりジッと見ないでください」

 自分で言い出した事とはいえ、メイクの過程を間近で真剣に見られるのは、思った以上に恥ずかしい。

 眉毛は剃ると後々面倒なので、コンシーラーで余分な部分を塗り潰しつつ、少し垂れ気味にして気が弱そうな印象に。
 アイラインは目尻を下方向に少し長めに引いて、下瞼の目尻側にはピンクブラウンのシャドウを軽く入れた。

 流石はリーザである。
 注文通り、優しく柔らかい顔立ちに仕上げてくれた。
 見慣れないから何か落ち着かないけど、我ながらなかなか可愛らしいと思う。

「こんな感じで如何でしょう」

 やり切ったという得意げな顔で、リーザがアイザックに感想を求めた。

「個人的にはいつもの方が好きだけど、こっちも凄く愛らしいよね。
 オフィーリアは何でも似合うんだな」

 リーザはアイザックの言葉を聞いて、とても満足そうに頷いている。

「ええ、ええ。そうでしょうとも。
 お嬢様はどんなメイクをしてもお美しいのです」

 いや、今聞きたいのは、そういう感想じゃないんですけど?

「そうじゃなく!
 少し化粧をいじっただけで、かなり印象が変わりましたでしょう? と、お聞きしているんですよ」

「ああ、そうだった。つい見惚れてしまった。
 うん、確かに全然印象が違うね」

「でしょう?
 全部の化粧を落とすと大変なので、今回は目元だけを変えましたが、ハイライトやシャドウを使えば顔の輪郭や、鼻の高さも若干違って見えます。
 頬紅を乗せる位置を変えるだけでも、かなり印象が変わるんですよ」

「成る程なぁ。
 化粧というのは奥深いのだな。
 実際に見てみると、肖像画の女性が『レイラ』である可能性が高い気がしてきた」

 アイザックが納得してくれたなら、態々目の前で化粧を落とした甲斐があった。
 私とリーザは視線を交わして頷き合った。



 その後、アイザックの膝に抱き上げられ、「可愛い可愛い」と何度も過剰に褒められてグッタリしたのは、また別の話である。

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