【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

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170 施設への入所《レイラ?》

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「ん……」

 小さく呻いて寝返りを打ったエイリーンは、微かに睫毛を震わせながら、ゆっくりと瞼を開いた。


「エイリーン!
 貴方、エイリーンが目を覚ましたわっ!」

「あぁ、良かった!」

「……」

 ベッドの横には手を取り合って喜ぶ両親と、冷めた眼差しでその両親とエイリーンを見詰めている弟の姿があった。

「気分は悪くないかしら?」

「うん、大丈夫。喉が渇いたわ」

「そう、そうよね」

 母はウンウンと頷いた後、「気が利かないわね。言われなくても水くらい用意しなさいよっ!」と、目を三角にして侍女を叱り付けた。

「水よりも、コーラが良いわ」

「コーラ? コーラって何?」

 不思議そうに首を傾げる母に、エイリーンは眉根を寄せる。

「コーラはコーラよ。黒くてシュワッとした……、分かるでしょ?
 無いならコンビニで買って来れば良いじゃない」

「コン……?」

 意味の分からない言葉に、母は益々首を傾げる。
 エイリーンは面倒臭くなって、ヒラヒラと手を振った。

「ああ、もう良いわ。水で我慢すれば良いんでしょ。
 それより私のスマホは何処?」


 長い夢から目を覚ました彼女は、自分の前世が日本人の麗良であった事。そして、死の間際にプレイしていたゲームの世界に、エイリーン・ブリンドルとして生まれ変わったのだという事を、自然と理解していた。

 ただ、転生者である事を知った混乱により、前世と現世の境目が曖昧になっている事には、本人でさえも気付いていなかった。

 この世界に存在しない物の話ばかりするエイリーンに、両親の顔色がどんどん悪くなっていく。
 弟は小さく溜息をついて、静かに部屋を出て行った。


「我々も行こう。
 エイリーンも疲れているだろうから、もう少し眠りなさい」

「え、ええ。そうよね。
 後はよろしくね」

 父に促された母は、侍女にエイリーンを託すと、振り返りもせずに去って行った。

「……あ、そっか。
 ここは日本じゃないもんね。
 失敗しちゃったかな?」

 両親の背中を見送りながら小さく呟くエイリーンをチラリと見て、部屋に残された侍女は眉を顰めた。



 一方、廊下を歩く母は、エイリーンのおかしな発言の数々を思い出してオロオロしていた。

「どうしましょう?
 頭を打った影響かしら?」

「医者は大丈夫だと言っていたが、脳に影響が出ているのかもしれんな。
 あのヤブ医者がっ!!」

 彼等よりも少し前を歩いていた弟は、そんな会話をしている両親を振り返り、氷の様な眼差しを向けた。

「姉上がおかしいのは前からでしょう。
 貴方達が甘やかしていたせいでね」

「お前っ、親に向かってなんて事をっ!!」

 弟は無表情のまま肩を竦めると、激昂する父親を気にも留めずにサッと自室に入り、内側から扉に鍵を掛けた。



 翌日、ブリンドル伯爵家にヘーゼルダイン公爵からの文が届いた。
 ヘーゼルダイン家の嫡男にエイリーンが懸想をしている事を知っていた両親は、『もしや、縁談では?』と期待に胸を弾ませながら封を切ったが……。



「エイリーンッ!!!」

 バンッと乱暴に扉を開いた父が、強引に部屋へ押し入って来た。

「どうしました? お父様。
 そんなに慌てて……」

 大事を取って今日もベッドに横になっていたエイリーンは、父の剣幕に驚きつつも質問した。

「聞きたいのはこっちだっっ!!
 先程、ヘーゼルダイン公爵家から抗議の手紙が届いた!
 お前は一体何をしたんだ!?」

「違うんです。
 ちょっと誤解があって、嫌われてしまっただけなの。
 でも、大丈夫。私の運命の相手はアイザック様じゃなかったって、もう気付いたから」

 そう、麗良の最推しはアイザックでは無かったのだ。
 アイザックのキャラも気に入っていたが、あくまでも二番目である。

「ちょっと嫌われた、だと……?
 相手は筆頭公爵家の嫡男だぞ。大丈夫な訳がないだろう!
 しかも、嫌われたって分かっている癖に、まだ名前で呼んでいるのか!?」

「やぁねぇ、お父様。大袈裟だわ」

 ウフフと笑うエイリーンを父が化け物でも見る様な目で見ている事に、彼女は全く気付いていなかった。



 こうしてエイリーンは、無理矢理に療養施設へ入れられた。

 家族に捨てられた事については、思ったよりもショックを受けていなかった。
 前世の記憶を思い出して以来、両親への親愛をあまり感じなくなっていたから。

 だが、貴族令嬢の立場を失うのは困る。

(だって、貴族じゃなくなったら学園に入学出来ないじゃない。
 そうしたら、『彼』に出会えないわ)

『彼』とは、ヴィクター・リンメルの事である。

 見目麗しくも心に闇を抱えた不幸な男が、ヒロインのお陰で救われたせいで、重苦しい程の愛情と執着を向ける。
 エイリーンはそんなシチュエーションに強い憧れを抱いていた。
 誰かにとって替えの効かない唯一無二の相手になりたかった。
 そうすれば、きっと、自分がとても価値のある崇高な存在だと思えるから。

(キャラの中で一番闇が深いのがヴィクターなのよね。
 闇の深さだけで言えば二番目はクリスティアンなんだけど、彼はあんまり顔が好みじゃないから、アイザックの方が良いわ。
 まあ、アイザックには嫌われちゃったから攻略は無理だろうけど、ヴィクターなら……)

 自分はモブだけど、ゲームを何度もプレイしているから、ヴィクターの好みがどんな女性なのかは熟知している。
 顔立ちは化粧で誤魔化せるし、彼に気に入られる言動をすれば、きっと愛される。

 エイリーンはそう信じて疑わなかった。


 それから彼女は、常に慎重に言葉を選んで話す様にした。
 前世を思い出した混乱も徐々に落ち着いていき、うっかり麗良の時の知識を口にしてしまう事はなくなった。

(そろそろ、お父様が迎えに来てくれるんじゃないかしら?)

 彼女はそんな風に、呑気に考えていたのだ。
 まさか、両親が自分を殺そうとしているなんて、思いもせずに。
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