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193 ささやかな報復
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私とアイザックはフェネリー伯爵邸へ向かう馬車に揺られていた。
賢い皆様はもうお気付きだろう。
そう、あの『ベアトリスの制裁』がついに決行されるのである。
フェネリー家の子息であるニコラスは勿論、フレデリカとメイナードも見届け人として呼ばれているらしい。
膝の上に座らせた私の髪を撫でながら、アイザックが少し迷う様に口を開いた。
「あの女……、元ブリンドル伯爵令嬢だけど」
「はい」
『レイラ』と呼ぶべきか、『エイリーン』と呼ぶべきか悩んだ末に、元の家名で呼ぶ事にしたらしい。
「不本意だけど、国外追放する事になったよ」
「意外ですね。もっと重い刑になるのかと思ってました」
「やっぱり足りない? オフィーリアがそう言うなら、今からでも……」
「違う違うっ!!」
アイザックの言葉に慌てて首を横に振る。
確かに彼女がアイザックまで標的にしようとした事は許せないし、重い刑罰が科されたとしても全く同情はしないけど、別に極刑を望んでいた訳ではない。
私の意見一つで重罰に変更するとか、責任重大すぎる。
まあ、ゲームの中でベアトリスとオフィーリアが火刑に処された事を思うと、随分甘い気がするけど、元々そっちの方がおかしかったのだ。
「いや、叛逆に関与していた割には軽いなぁと、単純に疑問に思っただけで」
「うん、僕もそう思うけど、まあ色々あってね」
ハッキリ言わないって事は、何かサディアス殿下の思惑が絡んでいるのだろう。
「私としては、今後一生関わらないで済むなら、それだけで良いんですけどね。
ただ、前から疑問だったんですが、国外追放って追放先の国の迷惑にならないんですか?」
犯罪者を他の国に捨てるって、普通に考えたら国際問題になりそうだよね?
「相手の国に同意を得るのが基本だね。
それか、何処の国にも属していない深い森とか、無人島とかに捨てて来るとかね」
サラッと言ってるけど、何の準備もなく無人島や未開の地に放り出されるって、実質死刑では?
それに同意を得るってのも、なんか不穏な感じがする。
同意するって事は、何かよっぽどの弱味があるのか、若しくは相手国にもメリットがあるはずで……。
例えば、放逐された途端に捕まって、労働力として酷使されるとか、奴隷として売られるとか……。
「因みに、今回は何処へ?」
「知りたい?」
「………いえ。大丈夫です」
ニッコリ笑ったアイザックに、背筋がゾワッとした。
これ、多分聞くと後悔するヤツ。
『不本意』とか言いながら、あまり不機嫌な顔をしてない様に見えたのは、そういう事かと妙に納得してしまった。
多分、アイザックが納得する場所に追放される予定なのだ。
「まあ、二度とこの国の地を踏む事は無いから、その点は安心して」
アイザックがそう確約してくれたので、この件についてはもう忘れる事にした。
フェネリー伯爵邸に到着し、案内された応接室には、既にクリスティアン以外の皆が揃っていた。
少し緊張気味だったベアトリスが、私を見て微笑む。
「来てくれたのね、オフィーリア。
頑張って殴るから、しっかり見ていてね!」
「え、ええ。頑張ってください」
両手を握って意気込みを語るベアトリスに、苦笑いで頷いた。
『頑張って殴る』って、始めて聞く言葉だよ。
そこへ少々疲れた表情のクリスティアンが、フェネリー伯爵に連れられて入室した。
「やあ、皆さんお揃いですね。
本日はクリスティアンの為にお集まり頂き、ありがとうございます。
彼は学園生活を耐え、王族でなくなった事で一応の禊を済ませました。
しかし、それとは別に、長年迷惑をかけてきたベアトリス嬢へのケジメをつけたいと申しておりますので、どうぞお付き合い下さい」
フェネリー伯爵は敢えてそう言ったのだろうけど、クリスティアンが自ら希望した訳では無い事は、ここにいる全員が良く知っている。
「本当に、よろしいのですね?」
ベアトリスはクリスティアンに最終確認をする。
「ああ。何か区切りをつけた方が、私も君も少しはスッキリするだろう」
「歯を食いしばった方が良いですよ」
ベアトリスのアドバイスに、クリスティアンはフッと小さく笑った。
あんまり甘く見ない方が良いと思うけど。
「では、参ります」
ベアトリスが静かに振り上げた右手は、鞭の様にしなり、勢い良くクリスティアンの頬を打った。
バシンッッと大きな音が響き、クリスティアンは驚愕の表情で膝から崩れ落ちた。
「なんだ、グーじゃないんだな」
そう呟いたアイザックを軽く睨む。
「その話はもう忘れてくれませんか?」
「それは無理じゃないかしら?
王太子をグーで殴るなんて、インパクトありすぎて忘れられないわよ」
フレデリカの言葉に、私は頭を抱えたくなった。
「~~~っっ!?!?」
声にならない叫びを上げるクリスティアン。
打たれた左の頬を手で押さえながら、横座りに倒れた姿は、さながら悲劇のヒロインの様である。
それを見たメイナードは必死で笑いを堪え、ニコラスは痛みを想像したのか顔を大きく歪めた。
「あー、スッキリしましたわ。
それにしても、私みたいなか弱い女性に叩かれたくらいで膝を突くなんて、騎士としてやっていけないのでは?」
ベアトリスは晴れ晴れとした顔でクリスティアンを揶揄う。
「……そ、それは、油断していただけであってっ!!
だって君、少し前まで小石も投げられなかったではないかっ!」
「ふふっ。辺境に嫁ぐ事になったので、護身術を習ってるんです」
そんな二人の遣り取りを黙って見守っていたフェネリー伯爵は、ガハハと豪快に笑いながら、クリスティアンの腕を無造作に掴み、ヒョイと片手で立ち上がらせた。
「いやぁ、ベアトリス嬢は筋が良いですな。
それに比べてクリスティアンは……。
まあ、これから私が鍛えて立派な騎士にして見せましょう」
「あら、頼もしい!」
微笑み合うフェネリー伯爵とベアトリスとは対照的に、過酷な鍛錬を想像したクリスティアンの顔色は見る見る内に悪くなった。
賢い皆様はもうお気付きだろう。
そう、あの『ベアトリスの制裁』がついに決行されるのである。
フェネリー家の子息であるニコラスは勿論、フレデリカとメイナードも見届け人として呼ばれているらしい。
膝の上に座らせた私の髪を撫でながら、アイザックが少し迷う様に口を開いた。
「あの女……、元ブリンドル伯爵令嬢だけど」
「はい」
『レイラ』と呼ぶべきか、『エイリーン』と呼ぶべきか悩んだ末に、元の家名で呼ぶ事にしたらしい。
「不本意だけど、国外追放する事になったよ」
「意外ですね。もっと重い刑になるのかと思ってました」
「やっぱり足りない? オフィーリアがそう言うなら、今からでも……」
「違う違うっ!!」
アイザックの言葉に慌てて首を横に振る。
確かに彼女がアイザックまで標的にしようとした事は許せないし、重い刑罰が科されたとしても全く同情はしないけど、別に極刑を望んでいた訳ではない。
私の意見一つで重罰に変更するとか、責任重大すぎる。
まあ、ゲームの中でベアトリスとオフィーリアが火刑に処された事を思うと、随分甘い気がするけど、元々そっちの方がおかしかったのだ。
「いや、叛逆に関与していた割には軽いなぁと、単純に疑問に思っただけで」
「うん、僕もそう思うけど、まあ色々あってね」
ハッキリ言わないって事は、何かサディアス殿下の思惑が絡んでいるのだろう。
「私としては、今後一生関わらないで済むなら、それだけで良いんですけどね。
ただ、前から疑問だったんですが、国外追放って追放先の国の迷惑にならないんですか?」
犯罪者を他の国に捨てるって、普通に考えたら国際問題になりそうだよね?
「相手の国に同意を得るのが基本だね。
それか、何処の国にも属していない深い森とか、無人島とかに捨てて来るとかね」
サラッと言ってるけど、何の準備もなく無人島や未開の地に放り出されるって、実質死刑では?
それに同意を得るってのも、なんか不穏な感じがする。
同意するって事は、何かよっぽどの弱味があるのか、若しくは相手国にもメリットがあるはずで……。
例えば、放逐された途端に捕まって、労働力として酷使されるとか、奴隷として売られるとか……。
「因みに、今回は何処へ?」
「知りたい?」
「………いえ。大丈夫です」
ニッコリ笑ったアイザックに、背筋がゾワッとした。
これ、多分聞くと後悔するヤツ。
『不本意』とか言いながら、あまり不機嫌な顔をしてない様に見えたのは、そういう事かと妙に納得してしまった。
多分、アイザックが納得する場所に追放される予定なのだ。
「まあ、二度とこの国の地を踏む事は無いから、その点は安心して」
アイザックがそう確約してくれたので、この件についてはもう忘れる事にした。
フェネリー伯爵邸に到着し、案内された応接室には、既にクリスティアン以外の皆が揃っていた。
少し緊張気味だったベアトリスが、私を見て微笑む。
「来てくれたのね、オフィーリア。
頑張って殴るから、しっかり見ていてね!」
「え、ええ。頑張ってください」
両手を握って意気込みを語るベアトリスに、苦笑いで頷いた。
『頑張って殴る』って、始めて聞く言葉だよ。
そこへ少々疲れた表情のクリスティアンが、フェネリー伯爵に連れられて入室した。
「やあ、皆さんお揃いですね。
本日はクリスティアンの為にお集まり頂き、ありがとうございます。
彼は学園生活を耐え、王族でなくなった事で一応の禊を済ませました。
しかし、それとは別に、長年迷惑をかけてきたベアトリス嬢へのケジメをつけたいと申しておりますので、どうぞお付き合い下さい」
フェネリー伯爵は敢えてそう言ったのだろうけど、クリスティアンが自ら希望した訳では無い事は、ここにいる全員が良く知っている。
「本当に、よろしいのですね?」
ベアトリスはクリスティアンに最終確認をする。
「ああ。何か区切りをつけた方が、私も君も少しはスッキリするだろう」
「歯を食いしばった方が良いですよ」
ベアトリスのアドバイスに、クリスティアンはフッと小さく笑った。
あんまり甘く見ない方が良いと思うけど。
「では、参ります」
ベアトリスが静かに振り上げた右手は、鞭の様にしなり、勢い良くクリスティアンの頬を打った。
バシンッッと大きな音が響き、クリスティアンは驚愕の表情で膝から崩れ落ちた。
「なんだ、グーじゃないんだな」
そう呟いたアイザックを軽く睨む。
「その話はもう忘れてくれませんか?」
「それは無理じゃないかしら?
王太子をグーで殴るなんて、インパクトありすぎて忘れられないわよ」
フレデリカの言葉に、私は頭を抱えたくなった。
「~~~っっ!?!?」
声にならない叫びを上げるクリスティアン。
打たれた左の頬を手で押さえながら、横座りに倒れた姿は、さながら悲劇のヒロインの様である。
それを見たメイナードは必死で笑いを堪え、ニコラスは痛みを想像したのか顔を大きく歪めた。
「あー、スッキリしましたわ。
それにしても、私みたいなか弱い女性に叩かれたくらいで膝を突くなんて、騎士としてやっていけないのでは?」
ベアトリスは晴れ晴れとした顔でクリスティアンを揶揄う。
「……そ、それは、油断していただけであってっ!!
だって君、少し前まで小石も投げられなかったではないかっ!」
「ふふっ。辺境に嫁ぐ事になったので、護身術を習ってるんです」
そんな二人の遣り取りを黙って見守っていたフェネリー伯爵は、ガハハと豪快に笑いながら、クリスティアンの腕を無造作に掴み、ヒョイと片手で立ち上がらせた。
「いやぁ、ベアトリス嬢は筋が良いですな。
それに比べてクリスティアンは……。
まあ、これから私が鍛えて立派な騎士にして見せましょう」
「あら、頼もしい!」
微笑み合うフェネリー伯爵とベアトリスとは対照的に、過酷な鍛錬を想像したクリスティアンの顔色は見る見る内に悪くなった。
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