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11 貴方を諦める勇気
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国全体が王太子殿下の婚約解消という衝撃的なニュースに沸いた、次の週末。
私はミゲルをプレシアド伯爵邸に呼び出した。
季節はもう春だと言うのに、私の心の中を表した様な、寒風吹き荒ぶ日だった。
暖炉の炎がチラチラと揺れる応接室で、私達は向かい合って、ソファーに腰を下ろす。
「今日は、ちょっと込み入った話をしなければならないの。
しばらく席を外してくれないかしら?」
紅茶を淹れてくれた侍女に、退室するように指示を出す。
「かしこまりました。
御用の際は、ベルでお呼び下さい」
「ええ。有難う」
まあ婚約者とはいえ、密室に二人きりは良くないので、扉は少し開けたままなのだが。
「改まって呼び出したと思ったら、人払いまでするなんて・・・一体何の話なの?」
先に口を開いたミゲルは、少し警戒している様子だ。
「あのね、・・・あの、私達の婚約は政略でしょう?」
勇気を出して切り出した私の言葉に、ミゲルの眉がピクリと動く。
「・・・・・・まあ、そうだね・・・」
「あのね、政略の重要性は、私だって理解しているの。
でもね、もし・・・もしもよ?
今の婚約者よりも、政略的な価値がある相手が見つかったとしたら、話は変わってくると思わない?」
「は?」
ミゲルの声が低くなり、明らかに不機嫌そうになるけれど、私もここで引く訳にはいかないのだ。
「だから、私よりも、ミゲルとベニート伯爵家に相応しい女性がいたなら・・・」
「何?もっと条件の良い相手を紹介するとでも言うの?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
私の話を遮って、ミゲルが深いため息を吐く。
「そんなに自由になりたいか?
君がどんなにリカルド・サムディオを想っていようと、僕との結婚はほぼ決定事項だよ。
残念だったね」
ミゲルは眉根を寄せて、私から目を逸らすと、声を絞り出す様にそう言った。
予想外の言葉に驚く。
自由になりたいのはミゲルの方だろう。
「そんな事は分かってます。
大体、誰がリカルド様の話なんてしたのよ!?」
「じゃあ何の話なんだよ!?」
「クリスティナ様の話に決まってるでしょうっ!?」
私が叫ぶと、彼は先程迄とは一変して、ポカンとした表情になった。
暫しの沈黙の間、時折、暖炉の薪がパチッと弾ける音だけが室内に響く。
「・・・・・・は?
なんでここで、クリスティナの名前が出て来るんだ?」
ミゲルが「心底わからない」と言う様な顔をする。
「・・・だから、クリスティナ様が王太子殿下とのご婚約を解消なさったから、ミゲルが積年の想いを伝えるチャンスなんじゃないかって・・・」
そう言いながら、やっぱり胸が苦しくなる。
「ちょっと待って。
積年の想いって何!?」
それを私に説明させるのか?
ちょっと残酷じゃないか?
「あのね、私、知ってるの。
ミゲルが婚約の顔合わせの時に言ってた〝好みの女性〟って、クリスティナ様の事なんでしょ?
だから、私は・・・」
「っ違う!!!」
ミゲルは焦った様に立ち上がって、大きな声を出した。
驚いて固まってしまった私の瞳を、ミゲルは射抜く様に真っ直ぐに見つめる。
ち が う ?
意外過ぎるミゲルの反応に、頭が真っ白になった。
私はミゲルをプレシアド伯爵邸に呼び出した。
季節はもう春だと言うのに、私の心の中を表した様な、寒風吹き荒ぶ日だった。
暖炉の炎がチラチラと揺れる応接室で、私達は向かい合って、ソファーに腰を下ろす。
「今日は、ちょっと込み入った話をしなければならないの。
しばらく席を外してくれないかしら?」
紅茶を淹れてくれた侍女に、退室するように指示を出す。
「かしこまりました。
御用の際は、ベルでお呼び下さい」
「ええ。有難う」
まあ婚約者とはいえ、密室に二人きりは良くないので、扉は少し開けたままなのだが。
「改まって呼び出したと思ったら、人払いまでするなんて・・・一体何の話なの?」
先に口を開いたミゲルは、少し警戒している様子だ。
「あのね、・・・あの、私達の婚約は政略でしょう?」
勇気を出して切り出した私の言葉に、ミゲルの眉がピクリと動く。
「・・・・・・まあ、そうだね・・・」
「あのね、政略の重要性は、私だって理解しているの。
でもね、もし・・・もしもよ?
今の婚約者よりも、政略的な価値がある相手が見つかったとしたら、話は変わってくると思わない?」
「は?」
ミゲルの声が低くなり、明らかに不機嫌そうになるけれど、私もここで引く訳にはいかないのだ。
「だから、私よりも、ミゲルとベニート伯爵家に相応しい女性がいたなら・・・」
「何?もっと条件の良い相手を紹介するとでも言うの?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
私の話を遮って、ミゲルが深いため息を吐く。
「そんなに自由になりたいか?
君がどんなにリカルド・サムディオを想っていようと、僕との結婚はほぼ決定事項だよ。
残念だったね」
ミゲルは眉根を寄せて、私から目を逸らすと、声を絞り出す様にそう言った。
予想外の言葉に驚く。
自由になりたいのはミゲルの方だろう。
「そんな事は分かってます。
大体、誰がリカルド様の話なんてしたのよ!?」
「じゃあ何の話なんだよ!?」
「クリスティナ様の話に決まってるでしょうっ!?」
私が叫ぶと、彼は先程迄とは一変して、ポカンとした表情になった。
暫しの沈黙の間、時折、暖炉の薪がパチッと弾ける音だけが室内に響く。
「・・・・・・は?
なんでここで、クリスティナの名前が出て来るんだ?」
ミゲルが「心底わからない」と言う様な顔をする。
「・・・だから、クリスティナ様が王太子殿下とのご婚約を解消なさったから、ミゲルが積年の想いを伝えるチャンスなんじゃないかって・・・」
そう言いながら、やっぱり胸が苦しくなる。
「ちょっと待って。
積年の想いって何!?」
それを私に説明させるのか?
ちょっと残酷じゃないか?
「あのね、私、知ってるの。
ミゲルが婚約の顔合わせの時に言ってた〝好みの女性〟って、クリスティナ様の事なんでしょ?
だから、私は・・・」
「っ違う!!!」
ミゲルは焦った様に立ち上がって、大きな声を出した。
驚いて固まってしまった私の瞳を、ミゲルは射抜く様に真っ直ぐに見つめる。
ち が う ?
意外過ぎるミゲルの反応に、頭が真っ白になった。
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