【完結】氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話

miniko

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氷の仮面を付けた婚約者と王太子の話

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「誕生日おめでとう、セディ」
この国の王太子である私の私室に、急に訪れたマティウス。
いくら乳兄弟とは言え、もう少し私の
立場ってものを考えて貰いたい。

「祝ってくれるのは有り難いが、せめて先触れを出してから来てくれないか?」
こめかみを抑えながら、そう返すが、
「まあまあ、堅い事言うなってー。
せっかくプレゼントを用意したんだからさ」
と、いつもの通り気にしない様子で、謎のペンダントを手渡してきた。

「なんだ?」
「他人の心の声が聞ける魔道具なんだって。
これで氷の仮面の下を覗いてみたら?」

マティウスは、将来有望な魔術師であり、古い魔道具のコレクターでもある。

貰った魔道具を詳しく見てみる。
繊細な加工。
ペンダントヘッドの部分は、魔石が付いた蓋が開くようになっていて、中に小さな空洞があった。

「ここに、心を聞きたい相手の髪の毛を入れる」
「なんだか悪趣味だな」
思わず眉間に皺が寄る。
「婚約者なら、髪の毛1本くらい簡単に手に入るだろ?
アンジェリク嬢の本音、知りたくない?」

知りたいに決まってるだろうが。



今日は、私、セドリック・バラデュールの17歳の誕生日だ。
その祝賀で、国内外の貴族を集めて盛大な夜会が開かれる。

入場のタイミングを待つ私の隣に立つのは、アンジェリク・リーネルト公爵令嬢。
愛してやまない私の婚約者だ。
いつでも無表情か冷たい微笑みを浮かべるだけの彼女は「氷の仮面を付けている」と揶揄される。

幼少期はとても感情表現が豊かな女の子だったが、王太子妃教育の賜物か、今ではほとんど感情を見せない。
立派だと思うし、冷たい表情も美しいが、少し寂しくもある。

ふと、隣を見ると、アンジェの肩に髪の毛が1本・・・・・・。
気付かれないように、さっと手の中に隠した。
クルクルと丸めてペンダントヘッドの中に押し込んで蓋を閉める。

心の声を勝手に聞くなど、卑劣だと思っていたのに・・・・・・
誘惑に負けてしまった。



入場し、壇上で挨拶をした後は、会場を回って招待客と歓談する。

(あー、来たよ。バカ女。もう嫌だ、胃が痛い)
突然、アンジェの声が頭に直接響いた。
バカ女っ・・・?
アンジェはなかなか口が悪いんだな。

彼女の視線の先を見ると、学園でも私に付き纏っている男爵令嬢が、こちらに向かっていた。
あー、あれは確かにバカ女だ。

「お誕生日おめでとうございます!セディ様」
「メルロー男爵令嬢、王太子殿下を愛称で呼んではいけません」
(何度言われたら理解するの?
小鳥程度の脳みそしか無いの?
いや、小鳥に失礼だったわね)

心の声は辛辣だが、相変わらずの無表情だ。

「そんな事ばっかり言ってるから、モテないんですよアンジェリク様ぁ」
(あなたは尻軽だから遊び人が寄ってきてるだけじゃない。
そして私の事も名前で呼ぶのは許してないんだけど。
本っ当に、失礼な女)

「祝いの言葉をありがとう。メルロー男爵令嬢」
儀礼的な返事をしつつ、宥めるようにアンジェの腰を引き寄せる。

「セディ様は婚約者がいらっしゃるから・・・・・・私、遠慮しちゃって、学園ではあんまりお話しできないので、久し振りにお話しできて嬉しいですぅ」
(マジか。遠慮してアレですか?
多分、誰よりも自由に話しかけてるけど。もっと遠慮してくださっても良いのですよー?
ってゆーか、その〝セディ様の婚約者〟が、今まさに目の前にいるのに、よくも馴れ馴れしく話しかけたわね。
私が見えてないのか?
脳みそだけじゃなくて、視野も小さいのかな?
眼科紹介しましょうか?)

やばい。普段無口なくせに、心の声が饒舌すぎる。
吹き出しそうになるのを必死で我慢しつつ、男爵令嬢との会話をなんとか続ける。

「ああ、今日は夜会を楽しんでくれ」
「ありがとうございます。
今日はプレゼントを用意出来なかったのですが、今度クッキーを焼いて学園に持って行きますね。
私、お菓子作り得意なんです!」
「いや、それは・・・」
私が少し困った顔をすると、すかさずアンジェが
「王族に手作りの食べ物を渡してはいけませんよ。これも以前言ったはずです」
と、注意してくれた。

「酷い!アンジェリク様は、お菓子が作れないから、私に嫉妬してそんな意地悪言うんですね!」
(はぁ?公爵令嬢がお菓子作る必要ないでしょ。
なぜそんな事で嫉妬しなきゃいけないのかしら?意味わからない。
何の為に菓子職人がいると思ってるの?
私は王太子妃教育で忙しいの。あなたと違って、菓子作ってる暇なんてないのよ)

アンジェは軽く咳払いをすると、淡々と話し始めた。
「もしも、貴女のクッキーを食べた後に、偶然殿下の体調が悪くなったとしましょう。
クッキーのせいではなかったとしても、貴女は疑われ拘束されます。
そして無実が証明出来なければ、最悪の場合、ご家族全員、連座で処刑になってしまうのですよ」
メルロー男爵令嬢の顔色が悪くなる。

「そんな・・・大袈裟な」
「王族というのは、小さな出来事でも大袈裟な事件になってしまうお立場なのですよ」
アンジェは子供に言い聞かせるように、丁寧に説明した。

「そうやって、私が何も知らない下級貴族だからって、いつもバカにして!」
メルロー男爵令嬢が涙目でアンジェに詰め寄ろうとするが、私の護衛騎士クラウスが無言で間に入った。

(素敵・・・!クラウス様、相変わらずカッコいい)
はあっ!?
アンジェ、今何思った?

クラウスもアンジェと目が合うと、ほんのり耳が赤くなった。
しかし、すぐに何かを感じたのか、微かに肩を震わせる。

いかん。無意識に殺気を飛ばしてた。

「殿下、他にもお話しなさりたい方々がお待ちですわ」
アンジェがさり気なく私の腕に触れて、その場を辞すように促す。
「そうだな。ではまたな。メルロー男爵令嬢」
男爵令嬢はまだ何か喚いていたが、私達は踵を返した。
(これ以上、話が通じない人間と関わったらストレスで死ぬわ)
同感だ。
アンジェを不快にさせるあの女、いつか潰そう。そうしよう。


一通り主要な招待客に挨拶を済ませ、私達はバルコニーで休憩していた。
「アンジェは、強い男が好みなの?
クラウスみたいな」
(えっっ?は?なんで?
私、無表情だって言われてるけど、顔に出てた?
筋肉フェチだってバレてるのかしら?
絶対引かれてるわ。恥ずかしい!)
心の声は大慌てのアンジェだが、その表情は完璧なアルカイックスマイルだ。

フェチ・・・・・・って事は、鍛え上げた肉体を愛でるのが趣味なのか。
クラウスに恋してると言うわけではないのかも?
ちょっと冷静になった。

少し離れた位置で警護に当たるクラウスは、突然名前を出されて、まだ青褪めているけれど。

「好み・・・そう、ですね。
護ってくださる騎士の皆様は素敵ですし、いつも感謝しておりますわ」
「では、私もアンジェに好かれるように、もっと鍛練を頑張らねばいけないね」
(ん?それって、私に好かれたいって事?)

「アンジェと私は夫婦になるのだから」
(あー、夫婦になれば王太子妃・・・・・・やがては王妃になるのよね。
嫌だわ。責任が重すぎる)

ああ、やっぱり。

元々彼女が王妃の座を望んでいないのは、分かっていた。
アンジェは、繊細で気が弱いところがあるのだ。
氷の仮面は彼女の柔らかい心を守る為の鎧だ。

もう、手を離してあげなければいけないのかな。
そうすればようやく彼女は、氷の仮面を捨てることが出来る。
そしてクラウスのような男の隣で、幸せそうに笑うのだろう。

胸の中が真っ黒に塗りつぶされていくような感覚。

(でも・・・)
再びアンジェの心の声が聞こえだして、意識が浮上した。

(でも、セドリック殿下は生まれた時から、その重責に耐えているのよね。
そして私より何倍も努力して、立派な王を目指している。
私には王妃の資質なんて無いけど、もっと勉強すれば・・・・・・
少しでも、彼を支える事が出来るのなら・・・・・・)

思いがけない心の声に、思わず目を見張る。
そんな風に思っていてくれたなんて、知らなかった。

「私も殿下に好かれるように、精進しますね。
夫婦になるのですから」
そう言ってアンジェは、いつもより柔らかく笑った。




翌日、マティウスが相変わらず先触れ無しで、私室にやって来た。

「どうだった?アンジェリク嬢の心の声」
男爵令嬢に無表情でツッコミを入れるアンジェを思い出して、思わず口元が緩む。

「何ニヤニヤしてるの?気持ち悪い」
「ホントお前失礼だな。
でも、まあ、一応礼を言っておくか。
アンジェの本音が聞けて良かったよ」
「なーんだ、いい感じだったのか。
他に好きな男でもいたら面白いと思ったのに」
マティウスは揶揄うように笑った。

〝クラウス様カッコいい〟

胸の奥が微かに痛むが、気付かないフリをする。
「いいんだよ、もしそうだとしても。時間はいくらでもあるんだ。
これからゆっくり私を好きになってもらうさ」

私は魔道具から、アンジェの髪を取り出した。

「これ、返すよ。面白かったけど、これからは自力で気持ちを聞くから」
「そう?わかった。
・・・どうでもいいけど、その髪の毛、なんで捨てないの?」
アンジェの髪をハンカチに包んだ私に、マティウスは引き攣った顔で問う。

「ん?これか?
アンジェの心の声を聞いた記念に保存しておくんだよ」
「気持ち悪い!!!」


【終】
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