【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko

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5 音楽室の彼女(ダニエル視点)

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彼女の存在を初めて認識したのは、私が学園の三年生、彼女が一年生の夏頃だった。

生徒会の仕事で帰宅が遅くなった私が、誰もいない放課後の廊下を歩いていると、美しいピアノの旋律が聞こえて来て足を止めた。
その演奏技術の巧みさと優しい音色に、思わず聴き入った。

(一体、どんな人物が弾いているのだろう?)

興味を引かれた私は、音楽室の中をそっと覗き見る。
その時、ピアノの前に座っていたのが、後に私の婚約者となるパトリシアだった。

栗色の大きな瞳に長い睫毛が影を落とし、ミルクティー色の艶やかな髪が窓から入る日差しにキラキラ輝いていた。
色味こそ地味だが、凛として美しい顔立ちである。
微かな笑みを浮かべながら、楽しそうに演奏する様子が可愛らしくて、目が離せなかった。

私は少しの間、彼女に見惚れていたのだが、演奏に夢中な彼女は、私に全く気付かない。
その事にホッとした様な、少し残念な様な、不思議な気持ちになった事を、今でも良く覚えている。


一度その存在を意識してしまうと、あらゆる場面で彼女が視界に入ってくる。

彼女はいつも、下位貴族の令嬢や学園の雑務をこなす職員などにも、丁寧な言葉遣いで親切に接していた。
侯爵家のご令嬢としては、非常に珍しいタイプである。
そんな様子を目撃する度に、彼女の朗らかな微笑みを好ましく思った。

しかし、パトリシアを観察している内に、彼女が一人の男性をいつも目で追っている事を知ってしまう。
その相手は、パトリシアの姉であるセレスティナ嬢の婚約者、エルミニオ殿だった。
彼女は二人の前では無邪気な妹を演じている。
だが、遠くからエルミニオ殿を見付けると、決まって悲しそうな表情で、ひっそりと彼を見つめるのだ。
パトリシアが彼に報われぬ恋をしているのだと理解した時、胸の奥に鋭い痛みを感じた。

それからは彼女を見るのが辛かった。
辛いのに、何故か目が離せなかった。

それでも、この気持ちの正体が分からなかった。
・・・いや、分からない振りをしていた。
今思えば、単に認めるのが怖かったのかもしれない。
パトリシアを見ていると胸が苦しくなるのは、彼女の切ない恋心に共感してしまうせいだろうと、無理矢理思い込んでいた。

しかし、パトリシアが彼を見つめていた回数と同じだけ、私も彼女を見つめているのだと言う単純な事実に気付いてしまった時、とうとう自分の心を誤魔化す事が出来なくなったのだと悟った。




卒業後、直ぐに公爵の地位につく事が決まっていた私は、ご令嬢達から見ると優良物件だった様で、常に沢山の女性に囲まれていた。

「ダニエル様、今週末、我が家のお茶会に是非いらして下さいませ」

「いいえ、ウチのお茶会に・・・」

「申し訳無いが、私は忙しいので茶会に出ている暇など無い」

やんわりと断っても、なかなか諦めては貰えないので、少しだけ強い言葉を使う。

「では、来週なら如何です?」

「ダニエル様は、貴女達の様な下位貴族が声を掛けて良いお方では無いのよ?」

「そんな言い方酷いわ!」

女性同士の醜い争いが目の前で繰り広げられ、私は深い溜息を吐いた。

(追い払っても直ぐにまた集まってくる様子は、さながらチョコレートに群がる蟻の様だな)

つい、失礼な感想が頭に浮かんでしまったのも許して貰いたい。

どんなに冷たく接しても、全く動じないメンタルの強さは、逆に感心する程である。
付き纏われるだけならば、まだマシだが、争いに発展する事も少なくなかった。

派手な容姿を持った女性ほど、自信満々で、こちらの迷惑も顧みず強引に迫ってくる。
他の女性を罵って押し退ける様子は、醜悪にしか見えない。
派手な美人が皆、性格が悪い訳では無いと分かっているが、私はその様な容姿の女性が少々苦手になった。

パトリシアの様に素敵な令嬢もこの国には沢山いるはずなのに、私に近寄る女は何故こうも身勝手なのか。
下手に権力を持っているのが悪いのだろうか?
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