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7 契約は慎重に
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「ダニエル様にお話があります。
お時間を取って頂けないか、聞いてみてくれない?」
「奥様の為なら、直ぐにお時間を作って下さると思いますよ」
ニコニコ答えたマリベルのその言葉通り、私は直ぐに応接室に呼ばれた。
美貌の若き公爵様は、黒い革張りのソファーに腰を下ろして脚を組んでいるだけのその姿も、一枚の絵画のように優美である。
「話があるんだって?
何か、足りない物でもあったか?」
何を言い出すのか、この人は。
「いえ、逆です。充分過ぎます。
お飾りの妻に過ぎない私に、あんなに沢山のドレスや宝飾品を買い与えて、どうなさるおつもりなのですか?」
「誰よりも美しく着飾って、私の隣に寄り添うのが、君の役割だからさ。
そうでなければ、私に近付く女性達への牽制にならないだろう?」
一応、筋は通っている気がする。
罠では無さそうかも。
少なくとも、殺されて食われる事は無いみたい。
しかしながら、着飾ったところで、元が私なのだから、たかが知れているだろう。
美しい妻を侍らせたいのであれば、完全な人選ミスでは無いか?
「お考えは分かりました。
私でお役に立てるか分かりませんが、ダニエル様のお隣に立つ時には、出来るだけ華やかに着飾る様に気を付けます」
「まあ、君はそのままでも充分美しいけれど」
「・・・・・・」
突然の貴族的な社交辞令に、少し動揺してしまい、頬が熱くなる。
しかし、発言者であるダニエル様は、完全な無表情。
動揺して損した。
「丁度良い機会なので、契約の細かい条件を話し合っておこうか」
「・・・はい」
「まず、私の方の条件だが、社交の場には出来るだけ夫婦で出席したい。
そして人前では仲の良い夫婦を演じて欲しい。
不仲だと思われると、後妻や愛妾狙いの女性が寄って来そうだ」
「そうですね。
私の方も、夫婦円満だと思われた方が好都合です」
ダニエル様と円満アピールしておけば、誰も私がお義兄様に片想いをしてるとは思わないだろうから。
「では、その一環として、お互いを愛称で呼ぶ事を提案する。
君は周りの人から、なんと呼ばれているんだ?」
「家族や親しい友人からは、パティと呼ばれていますね」
「義兄殿は?」
「エルミニオ様も、パティです」
「そうか・・・。
では、私はトリシアと呼ぼう」
意外な要求に驚きつつも、確かに、特別な愛称で呼び合うのは、対外的に円満をアピールするのには有効な気がする。
「良いですよ。私は、ダニエル様を何とお呼びすれば?」
「友人にはダニーと呼ばれているが、君にはダンと呼んで欲しい」
「ダン様」
「様は要らない」
「・・・・・・ダン」
慣れない!
何だかとっても気恥ずかしい!
ダニエ・・・じゃなかった・・・ダンは満足気に頷いた。
「公爵夫人としての仕事はどうしますか?
所詮はお飾りの妻なので、金銭が関わる事など、何処まで口出しして良い物なのか・・・」
「契約とはいえ、信用できない者と結婚しようとは思わないよ。
こちらとしては、気にせずトリシアの裁量で経費を使って貰って構わないが、面倒であればイバンに任せてしまっても大丈夫だ」
愛は無くとも信用してくれているのだと思うと、とても嬉しい。
「では、取り敢えず、日常の家政に関する事だけ任せてみて頂いて、それ以外はその都度相談しましょう」
「そうだな」
「ところで、寝室は・・・別々、ですよね?」
「私は一緒でも良いが」
「えっ?」
もしかして、契約って閨事も含まれてるの?
食われるって、そっちの意味だった?
いやーん・・・。
確かに次代を残すのは、貴族の義務ではあるけどさぁ、それならそうと初めから・・・・・・
「冗談だ。そんなに怯えるな。
君の部屋は公爵夫人用だから、私の部屋との間に夫婦の寝室があるが、後でマリベルから鍵を受け取って、そちら側の扉を封鎖すると良い」
無表情だから、冗談がわかり難いっ!!
ちょっと慌てちゃったじゃない!
「・・・わかりました。
ですが、後継はどうなさるおつもりなのでしょう?」
「血縁の近さにはあまり拘っていない。
親戚から養子を取っても良いと思っている。
その場合は、君に母親役をしてもらう事になるが」
「それは構いませんが、ダニエ、・・・ダンの恋愛対象が女性なのであれば、お好きな方が出来たら、その方と子をお作りになられては如何ですか?
養子を取るのはいつでも出来ますので、最終手段にされれば宜しいかと。
お相手の女性が、結婚出来ない身分の方であれば、生まれた子供は私の子として育てますし、結婚が可能なお相手であれば、私は離縁して頂いても構いません。
この結婚におけるそちら側のメリットが無くなったら、契約の意味がありませんから・・・」
真っ当な意見を述べたつもりだったのだが、ダンは一瞬固まった。
「・・・・・・いや。その可能性は限りなく低いと思ってくれ」
「やはり、ど・・・」
「違う」
彼は疲れた表情で、大きく溜息を吐いた。
珍しく、動揺しているみたい。
「私に好きな女性が出来たら離縁するのならば、君の方にメリットが無くなった場合にも離縁しなければいけないね。
例えば、義兄殿以外の男性を好きになった場合とか・・・」
私の胸のど真ん中に、まだエルミニオ様が居座っている。
エルミニオ様以外の男性に恋をする未来なんて、想像出来ないけれど・・・・・・。
そんな日がいつか来るのだろうか?
来てくれると良いな。
「そうですね」
願いを込めて頷いた。
お時間を取って頂けないか、聞いてみてくれない?」
「奥様の為なら、直ぐにお時間を作って下さると思いますよ」
ニコニコ答えたマリベルのその言葉通り、私は直ぐに応接室に呼ばれた。
美貌の若き公爵様は、黒い革張りのソファーに腰を下ろして脚を組んでいるだけのその姿も、一枚の絵画のように優美である。
「話があるんだって?
何か、足りない物でもあったか?」
何を言い出すのか、この人は。
「いえ、逆です。充分過ぎます。
お飾りの妻に過ぎない私に、あんなに沢山のドレスや宝飾品を買い与えて、どうなさるおつもりなのですか?」
「誰よりも美しく着飾って、私の隣に寄り添うのが、君の役割だからさ。
そうでなければ、私に近付く女性達への牽制にならないだろう?」
一応、筋は通っている気がする。
罠では無さそうかも。
少なくとも、殺されて食われる事は無いみたい。
しかしながら、着飾ったところで、元が私なのだから、たかが知れているだろう。
美しい妻を侍らせたいのであれば、完全な人選ミスでは無いか?
「お考えは分かりました。
私でお役に立てるか分かりませんが、ダニエル様のお隣に立つ時には、出来るだけ華やかに着飾る様に気を付けます」
「まあ、君はそのままでも充分美しいけれど」
「・・・・・・」
突然の貴族的な社交辞令に、少し動揺してしまい、頬が熱くなる。
しかし、発言者であるダニエル様は、完全な無表情。
動揺して損した。
「丁度良い機会なので、契約の細かい条件を話し合っておこうか」
「・・・はい」
「まず、私の方の条件だが、社交の場には出来るだけ夫婦で出席したい。
そして人前では仲の良い夫婦を演じて欲しい。
不仲だと思われると、後妻や愛妾狙いの女性が寄って来そうだ」
「そうですね。
私の方も、夫婦円満だと思われた方が好都合です」
ダニエル様と円満アピールしておけば、誰も私がお義兄様に片想いをしてるとは思わないだろうから。
「では、その一環として、お互いを愛称で呼ぶ事を提案する。
君は周りの人から、なんと呼ばれているんだ?」
「家族や親しい友人からは、パティと呼ばれていますね」
「義兄殿は?」
「エルミニオ様も、パティです」
「そうか・・・。
では、私はトリシアと呼ぼう」
意外な要求に驚きつつも、確かに、特別な愛称で呼び合うのは、対外的に円満をアピールするのには有効な気がする。
「良いですよ。私は、ダニエル様を何とお呼びすれば?」
「友人にはダニーと呼ばれているが、君にはダンと呼んで欲しい」
「ダン様」
「様は要らない」
「・・・・・・ダン」
慣れない!
何だかとっても気恥ずかしい!
ダニエ・・・じゃなかった・・・ダンは満足気に頷いた。
「公爵夫人としての仕事はどうしますか?
所詮はお飾りの妻なので、金銭が関わる事など、何処まで口出しして良い物なのか・・・」
「契約とはいえ、信用できない者と結婚しようとは思わないよ。
こちらとしては、気にせずトリシアの裁量で経費を使って貰って構わないが、面倒であればイバンに任せてしまっても大丈夫だ」
愛は無くとも信用してくれているのだと思うと、とても嬉しい。
「では、取り敢えず、日常の家政に関する事だけ任せてみて頂いて、それ以外はその都度相談しましょう」
「そうだな」
「ところで、寝室は・・・別々、ですよね?」
「私は一緒でも良いが」
「えっ?」
もしかして、契約って閨事も含まれてるの?
食われるって、そっちの意味だった?
いやーん・・・。
確かに次代を残すのは、貴族の義務ではあるけどさぁ、それならそうと初めから・・・・・・
「冗談だ。そんなに怯えるな。
君の部屋は公爵夫人用だから、私の部屋との間に夫婦の寝室があるが、後でマリベルから鍵を受け取って、そちら側の扉を封鎖すると良い」
無表情だから、冗談がわかり難いっ!!
ちょっと慌てちゃったじゃない!
「・・・わかりました。
ですが、後継はどうなさるおつもりなのでしょう?」
「血縁の近さにはあまり拘っていない。
親戚から養子を取っても良いと思っている。
その場合は、君に母親役をしてもらう事になるが」
「それは構いませんが、ダニエ、・・・ダンの恋愛対象が女性なのであれば、お好きな方が出来たら、その方と子をお作りになられては如何ですか?
養子を取るのはいつでも出来ますので、最終手段にされれば宜しいかと。
お相手の女性が、結婚出来ない身分の方であれば、生まれた子供は私の子として育てますし、結婚が可能なお相手であれば、私は離縁して頂いても構いません。
この結婚におけるそちら側のメリットが無くなったら、契約の意味がありませんから・・・」
真っ当な意見を述べたつもりだったのだが、ダンは一瞬固まった。
「・・・・・・いや。その可能性は限りなく低いと思ってくれ」
「やはり、ど・・・」
「違う」
彼は疲れた表情で、大きく溜息を吐いた。
珍しく、動揺しているみたい。
「私に好きな女性が出来たら離縁するのならば、君の方にメリットが無くなった場合にも離縁しなければいけないね。
例えば、義兄殿以外の男性を好きになった場合とか・・・」
私の胸のど真ん中に、まだエルミニオ様が居座っている。
エルミニオ様以外の男性に恋をする未来なんて、想像出来ないけれど・・・・・・。
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