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6 妻の条件(ダニエル視点)
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その後問題無く学園を卒業し、予定通りに若くして公爵となった私は、周囲から早期の結婚を望まれた。
しかし、私には、妻となる女性を選ぶ際の、絶対に譲れない条件があった。
それは、使用人に無闇に高圧的な態度を取らない事。
簡単な様でいて、これがなかなか難しいのだ。
その日も、お見合いと言う名目で、見た目だけは美しいご令嬢が、公爵家の庭園にやって来た。
「ダニエル様、お招き有難うございます」
楚々とした印象の彼女と暫く歓談した所で、イバンが私を呼びに来る。
「旦那様、領地の方に少々問題が・・・」
耳打ちをされて、軽く頷く。
「済みません。直ぐに戻りますので」
彼女に断りを入れて、席を立った。
二階にある執務室からは、庭園の彼女の様子が良く見える。
本当は、急ぎで対応しなければならない問題など起きてはいない。
席を外したのは、私がいない時の彼女を観察するため。
窓から外を覗くと、丁度彼女が立ち上がって、ソニアの肩を押した所だった。
「公爵家の侍女なのに、こんな不味い紅茶しか淹れられないの!?」
王室御用達の茶葉を使って、王宮侍女並みの技術で淹れられた紅茶が不味いそうだ。
彼女は残念な舌を持っているのか、もしくは、残念な性格なのか。
どちらにしても、コイツは無いな。
「アンタ達なんて、私が嫁いで来たら、全員解雇してやるわ!」
残念なのは、どうやら性格の方だったらしい。
彼女がここに嫁ぐ未来は、永遠に来ない。
高位貴族の子女は、『使用人との身分の差をハッキリさせなければならない』という教育を受けているせいもあるのだろう。
しかし、それは、必要以上に傲慢な態度を取れば良いと言う意味ではない筈だ。
そこを履き違えている人間の、なんと多い事か。
私は幼い頃に、両親を流行り病で亡くした。
正式な後継ぎである私が学園を卒業するまでは、父の弟である叔父上が、中継ぎの公爵となり、卒業したら直ぐに私が公爵位を継ぐと決まった。
学者肌の叔父上にとって、一時的とは言え公爵になる事は、とても面倒だったに違いない。
しかし、地質学の権威として王家の覚えも目出たく、地位に対する野心を持たない彼が、一番の適任者だったのだ。
実際、叔父上は嫌々ながらも責務を全うしてくれた。
研究第一の彼は、公爵としての仕事は代官にやらせていたのだが、決して任せきりにはせず、必要に応じて的確な指示を出し、不正をされていないか抜き打ちチェックも欠かさない。
そんな風に私に代わって公爵家と領地を守ってくれた叔父上だったが、残念ながら、私の親代わりになってくれた訳では無い。
現地調査の為、常に飛び回っている叔父上と顔を合わせるのは、年に数回程度である。
私の家族代わりになってくれたのは、公爵家の使用人達だった。
そんな大事な家族達に高圧的な態度を取る女性を、愛する事など出来る訳がない。
子が生まれたら離縁すれば良いという者もいるが、その短い期間ですら嫌だし、いくら嫌いな相手でも、子を成す為だけに結婚するのは失礼だろうと思う。
もう、遠縁の家の子息でも養子に取れば良いと思っていた。
だから私は二十一歳になっても、婚約者すら居ない状態だった。
栗色の瞳を思い出して、ふと考える。
パトリシアならば───。
身分の低い者達にも礼を失する事の無かった彼女ならば、使用人達にも優しくしてくれるのだろうな。
だが、彼女が愛しているのは別の男で、私は彼女と話した事も無い、完全な他人なのだ。
学園を卒業した今となっては、遠くから見つめる事すら許されない存在なのである。
「セレスティナ様が、エルミニオ様と、とうとう結婚するらしいよ」
「マジか~。
いよいよ諦めないといけないのか~」
「お前、まだそんな事言ってたのか!
万が一婚約が解消されても、お前にはチャンスなんか無いだろう。
妹の方で我慢したらどうだ?」
(は!?コイツ今、なんて言った?)
夜会で小耳に挟んだ男達の噂話に、思わず足を止めて、彼等を睨んだ。
私の視線に気付いた男が、肩を震わせる。
「侯爵家のご令嬢に対して、失礼過ぎる発言だな。
お前等そんなに偉いのか?
我慢も何も、彼女の方が、お前等の様なクズは選ばないだろう」
苛立ちのままに言い放って、相手の反応も待たずにその場を後にした。
気分が悪い。
今日はもう帰ろう。
しかし・・・・・・そうか、とうとうその日が来たのか。
パトリシアは、まだ婚約者すら決めていないらしい。
おそらくエルミニオ殿への想いを捨てられずにいるのだろう。
二人が結婚する事は、ずっと前から決まっていた事だろうけれど、パトリシアが傷付いているのではないかと心配になった。
一人で泣いているのではないかと思うと、居ても立っても居られない。
───ならば、私が彼女と契約結婚するのはどうだろうか?
不意に思いついたソレが、名案のような気がした。
彼女が側に居てくれるなら、愛されなくても、夫婦生活が無くても構わない。
もしかしたら、彼女にとっても、秘めた恋心を知られる可能性が低くなる事や、姉夫婦が暮らす実家から離れられる事などが、少しは救いになるのではないだろうか。
そして、私は見合いの席で、ひとつだけ嘘を交えた台詞を吐いた。
「これは契約結婚だ。
君を愛する事は無いし、君からの愛も求めない」
───君が好きだ。
だけど、私は君に、この想いを伝えたりはしない。
だから、安心して。パトリシア。
同じ想いを、返そうとする必要など無いんだ。
君は私を愛さなくて良い。
しかし、私には、妻となる女性を選ぶ際の、絶対に譲れない条件があった。
それは、使用人に無闇に高圧的な態度を取らない事。
簡単な様でいて、これがなかなか難しいのだ。
その日も、お見合いと言う名目で、見た目だけは美しいご令嬢が、公爵家の庭園にやって来た。
「ダニエル様、お招き有難うございます」
楚々とした印象の彼女と暫く歓談した所で、イバンが私を呼びに来る。
「旦那様、領地の方に少々問題が・・・」
耳打ちをされて、軽く頷く。
「済みません。直ぐに戻りますので」
彼女に断りを入れて、席を立った。
二階にある執務室からは、庭園の彼女の様子が良く見える。
本当は、急ぎで対応しなければならない問題など起きてはいない。
席を外したのは、私がいない時の彼女を観察するため。
窓から外を覗くと、丁度彼女が立ち上がって、ソニアの肩を押した所だった。
「公爵家の侍女なのに、こんな不味い紅茶しか淹れられないの!?」
王室御用達の茶葉を使って、王宮侍女並みの技術で淹れられた紅茶が不味いそうだ。
彼女は残念な舌を持っているのか、もしくは、残念な性格なのか。
どちらにしても、コイツは無いな。
「アンタ達なんて、私が嫁いで来たら、全員解雇してやるわ!」
残念なのは、どうやら性格の方だったらしい。
彼女がここに嫁ぐ未来は、永遠に来ない。
高位貴族の子女は、『使用人との身分の差をハッキリさせなければならない』という教育を受けているせいもあるのだろう。
しかし、それは、必要以上に傲慢な態度を取れば良いと言う意味ではない筈だ。
そこを履き違えている人間の、なんと多い事か。
私は幼い頃に、両親を流行り病で亡くした。
正式な後継ぎである私が学園を卒業するまでは、父の弟である叔父上が、中継ぎの公爵となり、卒業したら直ぐに私が公爵位を継ぐと決まった。
学者肌の叔父上にとって、一時的とは言え公爵になる事は、とても面倒だったに違いない。
しかし、地質学の権威として王家の覚えも目出たく、地位に対する野心を持たない彼が、一番の適任者だったのだ。
実際、叔父上は嫌々ながらも責務を全うしてくれた。
研究第一の彼は、公爵としての仕事は代官にやらせていたのだが、決して任せきりにはせず、必要に応じて的確な指示を出し、不正をされていないか抜き打ちチェックも欠かさない。
そんな風に私に代わって公爵家と領地を守ってくれた叔父上だったが、残念ながら、私の親代わりになってくれた訳では無い。
現地調査の為、常に飛び回っている叔父上と顔を合わせるのは、年に数回程度である。
私の家族代わりになってくれたのは、公爵家の使用人達だった。
そんな大事な家族達に高圧的な態度を取る女性を、愛する事など出来る訳がない。
子が生まれたら離縁すれば良いという者もいるが、その短い期間ですら嫌だし、いくら嫌いな相手でも、子を成す為だけに結婚するのは失礼だろうと思う。
もう、遠縁の家の子息でも養子に取れば良いと思っていた。
だから私は二十一歳になっても、婚約者すら居ない状態だった。
栗色の瞳を思い出して、ふと考える。
パトリシアならば───。
身分の低い者達にも礼を失する事の無かった彼女ならば、使用人達にも優しくしてくれるのだろうな。
だが、彼女が愛しているのは別の男で、私は彼女と話した事も無い、完全な他人なのだ。
学園を卒業した今となっては、遠くから見つめる事すら許されない存在なのである。
「セレスティナ様が、エルミニオ様と、とうとう結婚するらしいよ」
「マジか~。
いよいよ諦めないといけないのか~」
「お前、まだそんな事言ってたのか!
万が一婚約が解消されても、お前にはチャンスなんか無いだろう。
妹の方で我慢したらどうだ?」
(は!?コイツ今、なんて言った?)
夜会で小耳に挟んだ男達の噂話に、思わず足を止めて、彼等を睨んだ。
私の視線に気付いた男が、肩を震わせる。
「侯爵家のご令嬢に対して、失礼過ぎる発言だな。
お前等そんなに偉いのか?
我慢も何も、彼女の方が、お前等の様なクズは選ばないだろう」
苛立ちのままに言い放って、相手の反応も待たずにその場を後にした。
気分が悪い。
今日はもう帰ろう。
しかし・・・・・・そうか、とうとうその日が来たのか。
パトリシアは、まだ婚約者すら決めていないらしい。
おそらくエルミニオ殿への想いを捨てられずにいるのだろう。
二人が結婚する事は、ずっと前から決まっていた事だろうけれど、パトリシアが傷付いているのではないかと心配になった。
一人で泣いているのではないかと思うと、居ても立っても居られない。
───ならば、私が彼女と契約結婚するのはどうだろうか?
不意に思いついたソレが、名案のような気がした。
彼女が側に居てくれるなら、愛されなくても、夫婦生活が無くても構わない。
もしかしたら、彼女にとっても、秘めた恋心を知られる可能性が低くなる事や、姉夫婦が暮らす実家から離れられる事などが、少しは救いになるのではないだろうか。
そして、私は見合いの席で、ひとつだけ嘘を交えた台詞を吐いた。
「これは契約結婚だ。
君を愛する事は無いし、君からの愛も求めない」
───君が好きだ。
だけど、私は君に、この想いを伝えたりはしない。
だから、安心して。パトリシア。
同じ想いを、返そうとする必要など無いんだ。
君は私を愛さなくて良い。
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