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9 幸せの形は様々
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それから大きな問題もなく、穏やかな生活が続いた。
相変わらず、お飾りの妻には分不相応なほどに丁寧な扱いを受けている気がするが、慣れというのは恐ろしい物で、それも少しづつ気にならなくなりつつある。
約束通り、社交の場に出る時はいつも一緒だ。
常に寄り添い、仲の良い婚約者を演じた甲斐があって、今ではお似合いの二人だなんて言われているらしい。
(九割がたお世辞だという事は、言われなくても分かっている)
ダンはプライベートの時でも、甘やかな眼差しを私に向ける事がある。
普段クールな人からそんな風に見つめられると、ちょっと心臓に悪い。
「二人きりの時まで仲良しカップルのフリをしなくても良いんですよ。
無防備にそんな表情を見せるから、ご令嬢達が勘違いして寄ってくるのでは無いですか?」
「トリシア以外にこんな顔は見せないから、それは無いだろう」
フッと優しく目を細めた彼に、思わず半眼になった。
(そういう所だぞ!)
そんな風に、婚約中の同居期間は平和に過ぎていき、いつの間にか一年が経って、とうとう結婚式の当日がやって来た。
数日前から、毎日、公爵家の侍女達に身体中を擦られ、揉まれ、洗われ、塗りたくられて、お肌は艶々のプルプルだ。
私はただ座って、されるがままで居ただけなのに、疲労感が凄い。
何故だろう?
昨日の夜は流石に緊張で、余り眠れなかった。
クマが出来ていないと良いけど・・・
まあ、優秀な侍女達が化粧で隠してくれるだろう。
真っ白なウエディングドレスに袖を通して、アクセサリーも身に着ける。
最後にティアラを飾ったら・・・・・・鏡の中には幸せそうな美女が写っていた。
いつも鏡に写る地味な女は何処にも居ない。
公爵家の侍女の力、恐るべし!!
「奥様、世界一お綺麗です!」
ソニアが頬を赤らめて褒めてくれる。
大袈裟ではあるが、とても嬉しい。
契約結婚とは言え、一生に一度(かもしれない)の晴れ舞台に、こんなに美しくして貰えるなんて、最高の気分だ。
「ありがとう。
皆んなが磨き上げてくれたお陰ね」
「うふふ。
旦那様も、きっとお喜びになられますよ」
・・・どうだろう?
世の殿方が、お飾りの妻の婚礼衣装にどれ程の関心を寄せる物なのかは分からないが、ダンはドレスを嬉々として選んでいたから、喜んでくれるかもしれない。
喜んでくれると良いな。
「準備が出来たと聞いたんだが・・・」
噂をすれば・・・丁度良いタイミングで、ダンが私の控室にやって来た。
しかし、私の姿を見て固まっている。
彼の顔の前で、片手をヒラヒラ振ってみるが、なかなか再起動しない。
「ダン?どうしました?」
「ああ。・・・済まない。
とても似合っているよ」
簡潔な褒め言葉であるが、その耳が若干赤くなっているのを私は見逃さなかった。
(ああ、満足してくれている)
一年以上も一緒に暮らしていたら、いつの間にか、無表情にしか見えなかった顔から、彼の感情が少しだけ読める様になっていた。
今日は朝から機嫌が良さそうだ。
礼拝堂の大きな扉の外に立ち、入場を待つ私の足は緊張で震えていた。
「大丈夫か?」
ぶっきらぼうに問い掛けるダンの瞳には、微かに心配が滲んでいる。
「ええ。大丈夫です」
安心させる為にニコリと微笑んだ所で、扉が開かれた。
私をお父様に託し、ダンが先に入場する。
「パティはイングレース公爵家で大切にされている様だね」
そう言ったお父様は、ホッとした様な、寂しい様な、複雑な顔で微笑んだ。
「はい。ダニエル様も、公爵家の使用人の皆さんも、とっても良くして下さるの。
私、幸せよ」
「そうか・・・良かった」
お父様の瞳に涙の膜が張ったのを見て、これが契約結婚だと言う事実に、申し訳無さが込み上げる。
(私、家族を騙しているのよね)
でも、大切にして貰っているのも、幸せなのも、本当だ。
その幸せの形が、お父様が思っているのと少し違うだけ。
再び扉が開き、お父様のエスコートでバージンロードを一歩づつ進む。
ヴェールの隙間からこっそりと会場を見渡せば、皆んながこちらに優しい眼差しを向けてくれていて、胸が熱くなった。
お母様とお姉様は目を潤ませていて、今にも涙が溢れそうだ。
そのお姉様を、優しく気遣うお義兄様が目に入っても、以前ほど胸は痛まない。
(ダンのお陰だわ)
私は祭壇の前で待つ仮初めの夫に、深く感謝した。
相変わらず、お飾りの妻には分不相応なほどに丁寧な扱いを受けている気がするが、慣れというのは恐ろしい物で、それも少しづつ気にならなくなりつつある。
約束通り、社交の場に出る時はいつも一緒だ。
常に寄り添い、仲の良い婚約者を演じた甲斐があって、今ではお似合いの二人だなんて言われているらしい。
(九割がたお世辞だという事は、言われなくても分かっている)
ダンはプライベートの時でも、甘やかな眼差しを私に向ける事がある。
普段クールな人からそんな風に見つめられると、ちょっと心臓に悪い。
「二人きりの時まで仲良しカップルのフリをしなくても良いんですよ。
無防備にそんな表情を見せるから、ご令嬢達が勘違いして寄ってくるのでは無いですか?」
「トリシア以外にこんな顔は見せないから、それは無いだろう」
フッと優しく目を細めた彼に、思わず半眼になった。
(そういう所だぞ!)
そんな風に、婚約中の同居期間は平和に過ぎていき、いつの間にか一年が経って、とうとう結婚式の当日がやって来た。
数日前から、毎日、公爵家の侍女達に身体中を擦られ、揉まれ、洗われ、塗りたくられて、お肌は艶々のプルプルだ。
私はただ座って、されるがままで居ただけなのに、疲労感が凄い。
何故だろう?
昨日の夜は流石に緊張で、余り眠れなかった。
クマが出来ていないと良いけど・・・
まあ、優秀な侍女達が化粧で隠してくれるだろう。
真っ白なウエディングドレスに袖を通して、アクセサリーも身に着ける。
最後にティアラを飾ったら・・・・・・鏡の中には幸せそうな美女が写っていた。
いつも鏡に写る地味な女は何処にも居ない。
公爵家の侍女の力、恐るべし!!
「奥様、世界一お綺麗です!」
ソニアが頬を赤らめて褒めてくれる。
大袈裟ではあるが、とても嬉しい。
契約結婚とは言え、一生に一度(かもしれない)の晴れ舞台に、こんなに美しくして貰えるなんて、最高の気分だ。
「ありがとう。
皆んなが磨き上げてくれたお陰ね」
「うふふ。
旦那様も、きっとお喜びになられますよ」
・・・どうだろう?
世の殿方が、お飾りの妻の婚礼衣装にどれ程の関心を寄せる物なのかは分からないが、ダンはドレスを嬉々として選んでいたから、喜んでくれるかもしれない。
喜んでくれると良いな。
「準備が出来たと聞いたんだが・・・」
噂をすれば・・・丁度良いタイミングで、ダンが私の控室にやって来た。
しかし、私の姿を見て固まっている。
彼の顔の前で、片手をヒラヒラ振ってみるが、なかなか再起動しない。
「ダン?どうしました?」
「ああ。・・・済まない。
とても似合っているよ」
簡潔な褒め言葉であるが、その耳が若干赤くなっているのを私は見逃さなかった。
(ああ、満足してくれている)
一年以上も一緒に暮らしていたら、いつの間にか、無表情にしか見えなかった顔から、彼の感情が少しだけ読める様になっていた。
今日は朝から機嫌が良さそうだ。
礼拝堂の大きな扉の外に立ち、入場を待つ私の足は緊張で震えていた。
「大丈夫か?」
ぶっきらぼうに問い掛けるダンの瞳には、微かに心配が滲んでいる。
「ええ。大丈夫です」
安心させる為にニコリと微笑んだ所で、扉が開かれた。
私をお父様に託し、ダンが先に入場する。
「パティはイングレース公爵家で大切にされている様だね」
そう言ったお父様は、ホッとした様な、寂しい様な、複雑な顔で微笑んだ。
「はい。ダニエル様も、公爵家の使用人の皆さんも、とっても良くして下さるの。
私、幸せよ」
「そうか・・・良かった」
お父様の瞳に涙の膜が張ったのを見て、これが契約結婚だと言う事実に、申し訳無さが込み上げる。
(私、家族を騙しているのよね)
でも、大切にして貰っているのも、幸せなのも、本当だ。
その幸せの形が、お父様が思っているのと少し違うだけ。
再び扉が開き、お父様のエスコートでバージンロードを一歩づつ進む。
ヴェールの隙間からこっそりと会場を見渡せば、皆んながこちらに優しい眼差しを向けてくれていて、胸が熱くなった。
お母様とお姉様は目を潤ませていて、今にも涙が溢れそうだ。
そのお姉様を、優しく気遣うお義兄様が目に入っても、以前ほど胸は痛まない。
(ダンのお陰だわ)
私は祭壇の前で待つ仮初めの夫に、深く感謝した。
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