【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko

文字の大きさ
15 / 26

15 嫉妬と後悔(ダニエル視点)

しおりを挟む
私の瞳の色の宝石を身に着けたトリシアは、想像以上に魅力的だった。
ドレスを作るのを断られてしまった反動で、つい派手なアクセサリーを贈ってしまったが、大粒のタンザナイトに負けないくらい、トリシア自身が美しい。

普段は髪に隠れている、白い頸が官能的だ。
触れたくて堪らない欲求を、なんとか理性で抑え込む。
しかし、このドレスは少々背中が開き過ぎているんじゃ無いだろうか?
今日は他の男とは踊らせない様にしなければ。(今日である)

会場には既に華やかに着飾った参加者が集まっており、それぞれに歓談している。
私達が入場すると、多くの視線がこちらに向けられ、寄り添うトリシアの動きが硬くなったのを感じた。

「大丈夫だよ。
皆んな、君が美しいから見ているだけなのだから」

「ご冗談を」

冗談などでは無い。
紛れも無い事実だ。
彼女は自分が地味であると思っているらしい。

こんなに可愛いのに、何故今まで男に口説かれる経験が少なかったのだろうか?
隙だらけで心配になる。
実際には、トリシアの様に可憐で楚々とした女性が好みの男は多いのだ。
出来るだけ目を離さない様にしているが、もっと自覚して自分でも気を付けて欲しい。


「相変わらず、夫人にだけは優しいんだなぁ」

ニヤニヤ笑いながら近付いてきたレジェスに若干イラッとした。

「当たり前だ。
それよりレジェス、あんまりトリシアを見るな。減る」

彼女を背に隠す様に、一歩前に出る。

「減らねーよ!!
っつーか、女嫌いの公爵様はどこに行った?
別人過ぎて怖いよ!!」

「失礼だな。
私は、トリシアに対しては元からこうだ」

普段は想いを隠しているが、社交の場では隠す必要が無いのだ。
『仲の良い夫婦を演じる』と言う契約なのだから、彼女も不審に思う事は無いだろう。
普段抑圧されている分、多少暴走している感は否めないが・・・。


ホール全体に響いていた騒めきが、急にピタリと静まる。
王族方の入場が始まったのだ。
全員が揃った所で、国王陛下の挨拶があり、その後は、他国からの来賓達が順番に祝辞を述べる。
欠伸を噛み殺しながら、適当に聞き流す。

楽団の演奏が開始され、王族方がファーストダンスを踊り終わると、参加者達も続々とダンスの輪に加わり始めた。

「じゃあ俺は、美しいご令嬢達と踊って来ようかな」

レジェスは浮き浮きとした様子で離れて行った。

「私達も踊ろうか」

「はい。喜んで」

トリシアの手を取って、ホールの中央へエスコートする。
ホールドの形を組むと、大きく開いた背中の素肌に手が触れる。
薄い手袋越しではあるが、彼女の体温が伝わって、ドクンと心臓が跳ねた。
やはり、今夜は他の男と踊らせる訳にはいかない。
絶対に。

トリシアはダンスもとても上手い。
滑らかなステップを踏む彼女を見ていると、ちょっとした悪戯心が湧いて来た。
アドリブで、彼女をクルリとターンさせると、栗色の瞳が驚いた様に見開かれた。

(可愛い過ぎる)

「トリシアと踊るのは楽しい」

「私も、ダンのリードは踊り易くて楽しいですよ。
急にアドリブを入れるところは、ちょっと困りますけど」

上目遣いで軽く睨まれてしまった。

「つい、驚かせたくなって」

気持ちを隠さなくて済む社交の場では、いつも少し浮かれてしまう。


結局、二曲続けて踊り、シャンパングラスを片手に壁際へ戻る。
その途中でトリシアが、ふと足を止めた。
彼女の視線の先を辿ると、セレスティナとエルミニオが、仲睦まじく寄り添っている。

───トリシアは、いつも直ぐに彼を見つける。

先程迄の浮かれた気持ちが、冷や水を掛けられたみたいに急激に萎む。

セレスティナがトリシアに気付いて、嬉しそうに手を振り、こちらに寄って来た。
トリシアの表情はあまり変わらないが、微かに緊張した空気を感じる。

「パティ、会えて嬉しいわ。
久し振りに会ったら、なんだか、とっても綺麗になったみたいね」

無邪気に語り掛ける姉に、彼女は少し困ったような微笑みを浮かべる。

「嫌ですわ、お姉様ったら・・・」

「本当よ。ねぇ、エル」

話を振られたエルミニオが、トリシアに向けて優しく微笑むのを見ると、なんだかムカムカしてきた。
報われぬトリシアの気持ちを考えてのことなのか、それとも醜い嫉妬心なのか、自分でも分からない。
或いは、その両方なのかもしれないが。

「ああ、本当に美しくなった。
出会った頃は小さかったのに、いつの間にか大人の女性になってしまったな。
そうだ、久し振りに僕ともダンスを踊ってくれないか?」

───嫌だ。

差し出された彼の手に、トリシアが反応する前に、やんわりとその手を押し戻す。

「申し訳ありません。
折角ですが、私はとても狭量なのです。
美しい妻が他の男と踊るのは、いくら義兄と言えども、我慢出来そうにありません」

「ははっ。そうかそうか、パティはとても愛されているんだね」

エルミニオは、楽しそうに私を揶揄った。

ああ、つい勝手に断ってしまった。

チラリとトリシアの顔色を窺うと、ほんの少し悲しそうな、傷付いたような表情に見えた。
胸がズキズキと痛んで、後悔が押し寄せてくる。



彼女は、やっぱり、彼と踊りたかったのだろうか・・・・・・。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。

海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。 「君を愛する気はない」 そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。 だからハッキリと私は述べた。たった一文を。 「逃げるのですね?」 誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。 「レシールと向き合って私に何の得がある?」 「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」 「レシール・リディーア、覚悟していろ」 それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。 [登場人物] レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。  × セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

処理中です...