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19 気付きたく無かった
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名乗りもしない女性に突然罵倒されて、幼い頃の悲しい記憶が蘇った。
影で貶められ、嘲笑されていた事。
そして、エルミニオ様が言ってくれた私を肯定する言葉。
今回は、ダンが私を庇ってくれた。
『私にとってトリシアだけが特別だ』
『目が届く範囲に君が居てくれないと、不安で息も出来ない』
その言葉に、私を見る優しい眼差しに、心が震えた。
(どうしよう。・・・凄く、嬉しい)
そう感じた次の瞬間、湧き上がった歓喜を打ち消す様に、すぐに絶望が襲って来る。
だって、この台詞も彼の演技なのだから・・・。
ああ、こんな所まで、あの時と同じ。
私を庇ってくれる人は、今回も・・・・・・愛してはくれない。
胸の中に渦巻く感情の波に飲み込まれない様に、私は必死で無表情を貫いた。
嫌だ。
イヤだ。
気付きたくなんか無い。
気付いたって、苦しむだけだ。
でも、もう否定する事も難しい。
───私は、ダンが好きなのだ。
初恋は、姉の婚約者。
二度目の恋は、『私を愛さない』契約結婚の相手。
何故だろう?
私の恋は、いつも実らない。
あの女性が吐いた暴言は、ただの言い掛かりだって分かっている。
でも・・・・・・
もしも、私がお姉様の様に魅力的な女性だったら、もっと美しかったら、彼に本物の愛を向けて貰えたのだろうか?
ダンは、婚約以来、私がなるべくエルミニオ様と関わらずに済む様に、気を遣ってくれている。
公爵邸では、私が快適に過ごせる様に、いつも心を砕いてくれる。
他人には決して見せない心からの笑みを、私の前では惜しげもなく見せてくれる。
私を傷付ける者から守ろうとしてくれる。
私は、お飾りの妻である事を忘れてしまいそうなほどに、大切にされていた。
・・・こんなの、好きにならない訳が無いじゃないか。
『君を愛する事は無いし、君からの愛も求めない』
お見合いの時は、確かにあの言葉に救われた。
だから、これは八つ当たりだ。
八つ当たりだと分かっているけど・・・、
(あんな風に言った癖に、優しくするなんて、酷いわ)
そう思わずにいられなかった。
これ以上、好きになってはいけない。
だから、出来るだけダンと顔を合わせない様にした。
「トリシア、今度の週末、一緒に舞台でも見に行かないか?」
「申し訳ありません。
次の週末は、お父様に会いに行こうかと思っているのです」
以前は、お義兄様と顔を合わせなくて済む様に、イングレース公爵邸に避難した。
そして今は、ダンと顔を合わせなくて済む様に、実家を訪問する。
なんて滑稽で身勝手な女なんだろう。
「・・・そうか・・・」
寂しそうに呟く彼に、良心がズキズキと痛む。
私はこれから、どうするべきなのだろうか?
このまま、彼への気持ちを隠して、お飾りの妻を続けるのか、それとも・・・
答えを出せないまま、二か月もの時が過ぎてしまった。
マリベルとソニアも心配そうに私とダンの関係を見守っている。
申し訳ないと思いつつも、取り繕う余裕もなかった。
そんなある日、今後の身の振り方を考える過程でふと思い立って、契約結婚の詳細を話し合った時の契約書を見直してみた。
そこに書かれている条文を読むと、あの時放った自分の言葉を、昨日のことの様に鮮明に思い出す。
『お好きな方が出来たら、その方と子をお作りになられては如何ですか?
お相手の女性が、結婚出来ない身分の方であれば、生まれた子供は私の子として育てますし、結婚が可能なお相手であれば、私は離縁して頂いても構いません』
ああ・・・、私は確かにそう言った。
心臓がドクドクと煩く音を立てて、視界が滲んで来た。
(・・・・・・私は、本当に馬鹿だ)
その時は、それが最善だと思っていたのだ。
しかし、今となっては・・・・・・
ダンが愛した女性が産んだ子を、自分の子供として愛し、育てる事など出来るのだろうか?
正直、自信が無い。
それに、今以上に彼を好きになってしまってからでは、離縁する事も辛いだろう。
社交の際に私に向ける甘い微笑みを、別の女性に向ける彼を想像しただけで、締め付けられる様に胸が苦しい。
みっともなく泣いて縋ってしまうかも知れない。
女性に付き纏われるのが嫌で契約結婚したのに、その妻から望まぬ好意を向けられるなんて、彼にとっては迷惑でしか無いはず。
そして、あの時、彼は言った。
『私に好きな女性が出来たら離縁するのならば、君の方にメリットが無くなった場合にも離縁しなければいけないね。
例えば、義兄殿以外の男性を好きになった場合とか・・・』
ダンが、結婚出来る立場の女性を好きになったら、離縁する。
そして、私が、エルミニオ様以外の男性を好きになった時も離縁する。
そういう契約である。
と、言う事は・・・・・・
自室のベッドに転がり、天井を見つめながら、私は一人悶々と考え続けた。
影で貶められ、嘲笑されていた事。
そして、エルミニオ様が言ってくれた私を肯定する言葉。
今回は、ダンが私を庇ってくれた。
『私にとってトリシアだけが特別だ』
『目が届く範囲に君が居てくれないと、不安で息も出来ない』
その言葉に、私を見る優しい眼差しに、心が震えた。
(どうしよう。・・・凄く、嬉しい)
そう感じた次の瞬間、湧き上がった歓喜を打ち消す様に、すぐに絶望が襲って来る。
だって、この台詞も彼の演技なのだから・・・。
ああ、こんな所まで、あの時と同じ。
私を庇ってくれる人は、今回も・・・・・・愛してはくれない。
胸の中に渦巻く感情の波に飲み込まれない様に、私は必死で無表情を貫いた。
嫌だ。
イヤだ。
気付きたくなんか無い。
気付いたって、苦しむだけだ。
でも、もう否定する事も難しい。
───私は、ダンが好きなのだ。
初恋は、姉の婚約者。
二度目の恋は、『私を愛さない』契約結婚の相手。
何故だろう?
私の恋は、いつも実らない。
あの女性が吐いた暴言は、ただの言い掛かりだって分かっている。
でも・・・・・・
もしも、私がお姉様の様に魅力的な女性だったら、もっと美しかったら、彼に本物の愛を向けて貰えたのだろうか?
ダンは、婚約以来、私がなるべくエルミニオ様と関わらずに済む様に、気を遣ってくれている。
公爵邸では、私が快適に過ごせる様に、いつも心を砕いてくれる。
他人には決して見せない心からの笑みを、私の前では惜しげもなく見せてくれる。
私を傷付ける者から守ろうとしてくれる。
私は、お飾りの妻である事を忘れてしまいそうなほどに、大切にされていた。
・・・こんなの、好きにならない訳が無いじゃないか。
『君を愛する事は無いし、君からの愛も求めない』
お見合いの時は、確かにあの言葉に救われた。
だから、これは八つ当たりだ。
八つ当たりだと分かっているけど・・・、
(あんな風に言った癖に、優しくするなんて、酷いわ)
そう思わずにいられなかった。
これ以上、好きになってはいけない。
だから、出来るだけダンと顔を合わせない様にした。
「トリシア、今度の週末、一緒に舞台でも見に行かないか?」
「申し訳ありません。
次の週末は、お父様に会いに行こうかと思っているのです」
以前は、お義兄様と顔を合わせなくて済む様に、イングレース公爵邸に避難した。
そして今は、ダンと顔を合わせなくて済む様に、実家を訪問する。
なんて滑稽で身勝手な女なんだろう。
「・・・そうか・・・」
寂しそうに呟く彼に、良心がズキズキと痛む。
私はこれから、どうするべきなのだろうか?
このまま、彼への気持ちを隠して、お飾りの妻を続けるのか、それとも・・・
答えを出せないまま、二か月もの時が過ぎてしまった。
マリベルとソニアも心配そうに私とダンの関係を見守っている。
申し訳ないと思いつつも、取り繕う余裕もなかった。
そんなある日、今後の身の振り方を考える過程でふと思い立って、契約結婚の詳細を話し合った時の契約書を見直してみた。
そこに書かれている条文を読むと、あの時放った自分の言葉を、昨日のことの様に鮮明に思い出す。
『お好きな方が出来たら、その方と子をお作りになられては如何ですか?
お相手の女性が、結婚出来ない身分の方であれば、生まれた子供は私の子として育てますし、結婚が可能なお相手であれば、私は離縁して頂いても構いません』
ああ・・・、私は確かにそう言った。
心臓がドクドクと煩く音を立てて、視界が滲んで来た。
(・・・・・・私は、本当に馬鹿だ)
その時は、それが最善だと思っていたのだ。
しかし、今となっては・・・・・・
ダンが愛した女性が産んだ子を、自分の子供として愛し、育てる事など出来るのだろうか?
正直、自信が無い。
それに、今以上に彼を好きになってしまってからでは、離縁する事も辛いだろう。
社交の際に私に向ける甘い微笑みを、別の女性に向ける彼を想像しただけで、締め付けられる様に胸が苦しい。
みっともなく泣いて縋ってしまうかも知れない。
女性に付き纏われるのが嫌で契約結婚したのに、その妻から望まぬ好意を向けられるなんて、彼にとっては迷惑でしか無いはず。
そして、あの時、彼は言った。
『私に好きな女性が出来たら離縁するのならば、君の方にメリットが無くなった場合にも離縁しなければいけないね。
例えば、義兄殿以外の男性を好きになった場合とか・・・』
ダンが、結婚出来る立場の女性を好きになったら、離縁する。
そして、私が、エルミニオ様以外の男性を好きになった時も離縁する。
そういう契約である。
と、言う事は・・・・・・
自室のベッドに転がり、天井を見つめながら、私は一人悶々と考え続けた。
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