【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko

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21 君の為に出来る事(ダニエル視点)

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その日は、『午後のお茶の時間にトリシアの部屋を訪ねる』と、予めマリベルを通して伝えてあった。
トリシアの口から別れの言葉が飛び出すのが怖くて、話し合いを先延ばしにしていたが、日に日に辛そうになる彼女を見ていたら、漸く決心が付いた。

彼女の部屋の扉をノックする。

「どうぞ」

直ぐに入室を促されたが、その声は硬かった。

ソファーに向かい合って座る。
お茶を用意してくれたソニアを下がらせて、二人きりになった。
トリシアは緊張しているようで、膝に置いた手を、ギュッと握り締めていた。
爪が手の平に食い込んでいないか心配になる。

「時間を取らせて済まなかったね」

「いいえ・・・」

彼女は動揺を隠す様に、テーブルの中央に置いてある砂糖壺に、手を伸ばした。
その手を捕まえる。

「あっ・・・」

驚いてこちらを見た彼女は、ほんのり頬を染めたが、その瞳には困惑と少しの不安が滲んでいる。
久し振りに絡んだ視線が嬉しい様な、彼女の不安そうな表情が悲しい様な、複雑な気持ちだった。

彼女の手の平を見ると、爪跡が付いていた。

「ここ、赤くなっている。
強く握り締めていたから」

「あぁ、・・・本当ですね」


「・・・君が苦しんでいる原因を教えてくれないか?」

「ダニエル様?」

トリシアの瞳が揺らめく。
いつもの様に愛称で呼んでもらえなかった事に絶望しそうになるが、気を取り直して何とか話を続けた。

「本当は、君に聞かなくても原因を突き止めて排除出来ると良かったんだけど・・・。
どうやら、私は女性の心の機微に疎いらしい。
だから、素直に聞く事にした。
教えて欲しい。何に苦しんでいるのか」

じっと見つめると、フッと目を逸らされた。
俯いた彼女は、少し逡巡して口を開く。

「私・・・、恋を、したのです」

震える声でそう言った彼女の顔を、真っ直ぐに見られなかった。
荒れ狂う心を鎮める為に、こっそりと息を吐く。

「それは、エルミニオ殿以外を好きになったって事?」

「・・・はい」

『誰を』と、聞きそうになって、寸前で抑えた。
誰の名前が出ても、相手を恨んでしまいそうだったから。
覚悟していた事なのに、こんなにも胸が苦しい。
私は、上手く笑えているだろうか?

「・・・そうか。
今度は幸せになれそうか?」

「それは、難しいと思います」

彼女の片思いなのだろうか?
当たり前か。
私の妻でいる限り、他の男は近寄る事も出来ないのだから。

(やはり、離縁してあげるのが、彼女の為なのだろうか?)

そう思って落ち込みかけた時だった・・・

「・・・・・・私を愛してくれる人なんて、居るのでしょうか?」

蚊の鳴くような声で、独り言みたいにポツリと零された弱音は、彼女の自信の無さを表している。
俯き悲しそうな表情を浮かべる彼女を目にして、漸く自分がずっと間違っていた事に気が付いた。


───無理に初恋を忘れようとして、苦しんで欲しくない。

そう思っていたのも、確かに本心だった。

しかし、『私は愛さないから、君も愛さなくて良い』などと言ったのは、逃げだったのかも知れない。
最初から諦めていれば、傷付かないで済むのだから。

本当に彼女の事を思うのなら、下手な小細工なんてせずに、なりふり構わず愛を伝えるべきだったのだ。

『ハズレの癖に』

・・・あんな悪意に何度も傷付けられて、自分に自信を持つ事が出来なくなったトリシアに、愛を伝えて教えてあげるべきだった。

『私は君を深く愛している』と。
『君は素晴らしい魅力を沢山持っている女性なのだ』と。

今からでも遅くは無いだろうか?
この気持ちを伝える事は、彼女にとって負担にしかならないと思っていた。
だが、もしも、彼女が少しでも自信を取り戻す切っ掛けになるのなら・・・・・・。

「ここに居る」

「・・・・・・?」

「君を愛する者なら、ここに居る。
・・・トリシア、私は君が好きだよ。
君ほど美しくて魅力的な女性は居ない。
私にとって、君だけが特別だった。
私は君を愛していたんだ。
婚約する前から、ずっと・・・・・・」

「え・・・・・・?」

驚いて顔を上げた彼女は、しばらくの間、何を言われたのか理解出来ていないみたいに、ぼんやりとしていた。

次第に彼女の瞳が潤んでいき、透明な雫がポロポロと頬を伝っていく。
こんな時なのに、その涙を見て『綺麗だな』って思った。
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