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9 植物園
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《side:ローレンス》
「何か良い事でもあったの?」
出掛ける直前に母上にそう聞かれて、俺は初めて、自分の頬がだらしなく緩んでいる事に気が付いた。
「いえ、別に。
ちょっと出掛けてきます」
慌ててキリッと口元を引き締めるが、今更である。
「ふ~~ん・・・。まあ、良いけど。
気を付けて行ってらっしゃい」
意味有り気な眼差しを向けながら、ニヤニヤと楽しそうに笑う母上に見送られて馬車に乗り込み、ルルーシアと待ち合わせをしている公園へと急いだ。
母上は何かに気付いているのだろうか?
女性の勘は馬鹿に出来ない。
今日は約束のデート当日である。
本当ならば、家まで迎えに行くべきなのだろうが、ルルーシアに断られてしまった。
俺達の関係は疑似恋愛でしか無いのだから、家族や使用人に知られる訳にはいかないのだろう。
公園の噴水前に立っていた彼女は、シンプルな水色のワンピースを着ていた。
その凛とした横顔は美しいけれど、なんだか全てを拒絶している表情にも見える。
少し離れた場所で足を止めてしまった俺に、振り返った彼女が気付いて、フワリと微笑んだ。
風に靡く銀髪と、翻る水色のスカート。
「ごめん、待った?」
「いいえ、今来た所です」
「そう?良かった」
お決まりの遣り取りが、なんだか擽ったい。
「本日はよろしくお願い致します」
「硬いな。デートなんだから、リラックスして楽しもう」
緊張気味なルルーシアの手を握った。
「はぐれない様に」
無表情なままの彼女の頬がほんのりと赤くなる。
ピュアかよ。可愛い。
彼女の手を引いて向かったのは、公園から程近いカジュアルなレストランだ。
パステルカラーで統一された内装は明るい印象。
比較的リーズナブルな料金で美味しい料理を食べられるので、若者達に人気がある店だ。
以前俺に付き纏ってデートを強要した女性達は、格式高い高級店に連れて行けと強請っていたが、なんとなくルルーシアは、そういう店に連れて行っても緊張するばかりで喜んで貰えない様な気がした。
席に案内されると、ルルーシアは興味深そうにキョロキョロと店内を観察していた。
「とても可愛らしいお店ですね」
「ああ。若いカップルのデートの定番になっているそうだ。
料理は鴨のローストがお勧めらしいよ」
俺達は鴨のローストを中心に四品ほど注文し、シェアして食べる事にした。
「ローレンス様!
この海鮮サラダも美味しいですよ」
ルルーシアは取り分けたサラダを俺に差し出した。
過去一の良い笑顔である。
「ありがとう。
ルルーシアも沢山食べな」
彼女は鴨のローストを一口食べて瞳を輝かせている。
連れて来て良かった。
「流石、ローレンス様。
女性が喜ぶお店を良くご存知ですね」
無邪気に紡がれたその台詞にはちょっと引っかかる部分もあるが、料理は気に入って貰えたみたいでホッとした。
食事を終えた俺達は、先程待ち合わせをした公園に併設されている植物園へ移動した。
今の時期だと、丁度バラが満開のはず。
国立の植物研究所が運営しているその施設は、王宮の庭園にも引けを取らない広さと美しさで人気だ。
バラ園に入ると、むせかえる様な花の香りがした。
女神像を中心に、左右対称に設られたバラの花壇はとても広くて美しい。
「わあ・・・・・・。凄いですね」
「良い時期に来たな」
どこを見ても色取り取りのバラが咲き乱れている様は圧巻だ。
「こんなに満開の時に来れたのは初めてです」
タウンハウスを持つ貴族ならば、必ず訪れた事があると言うほど定番のスポットなのだから、ルルーシアも以前ここに来たことがあっても不思議はないのだが・・・・・・。
そんな風に言われると、前回は誰と一緒に来たのだろうかと気になってしまう。
何故か、あのダリルとか言う従兄弟の顔が脳裏にチラついた。
彼とも一緒に来た事があるのだろうか?
俺と同じ様に、手を繋いで歩いたのだろうか?
モヤモヤした気持ちを抱えて歩いていると、バラのアーチの手前で、軽薄そうなカップルとすれ違う。
ぶつからない様にと咄嗟にルルーシアの手を引いた。
『素敵ね』
『でも君の方が美しい』
カップルの男が、女性の肩を抱きながら、歯の浮く様な台詞を吐いている。
きっと、本当のプレイボーイならば、あんな風に振る舞う物なのだろう。
俺には難易度が高い。
何より、ルルーシアが固まってしまいそうだ。
『恋を教える』などと大層な契約をしてしまったが、こんな事で良いのだろうか。
まだ手を繋いでいる事にも慣れずに、頬を染めたままのルルーシアにチラリと視線を向ける。
目が合って嬉しそうに微笑んだ彼女を見たら、コレはコレで良いんじゃないかと思えた。
俺達は手を繋いだまま、ポツリポツリと言葉を交わしつつ、ゆっくりとバラの庭園を散策した。
一通り庭園を回った後、ルルーシアを連れて管理事務所の方へ向かう。
「どちらに向かっているのですか?」
「会わせたい人がいるんだ」
実は、コレが植物園に連れて来た本当の目的なのだ。
「何か良い事でもあったの?」
出掛ける直前に母上にそう聞かれて、俺は初めて、自分の頬がだらしなく緩んでいる事に気が付いた。
「いえ、別に。
ちょっと出掛けてきます」
慌ててキリッと口元を引き締めるが、今更である。
「ふ~~ん・・・。まあ、良いけど。
気を付けて行ってらっしゃい」
意味有り気な眼差しを向けながら、ニヤニヤと楽しそうに笑う母上に見送られて馬車に乗り込み、ルルーシアと待ち合わせをしている公園へと急いだ。
母上は何かに気付いているのだろうか?
女性の勘は馬鹿に出来ない。
今日は約束のデート当日である。
本当ならば、家まで迎えに行くべきなのだろうが、ルルーシアに断られてしまった。
俺達の関係は疑似恋愛でしか無いのだから、家族や使用人に知られる訳にはいかないのだろう。
公園の噴水前に立っていた彼女は、シンプルな水色のワンピースを着ていた。
その凛とした横顔は美しいけれど、なんだか全てを拒絶している表情にも見える。
少し離れた場所で足を止めてしまった俺に、振り返った彼女が気付いて、フワリと微笑んだ。
風に靡く銀髪と、翻る水色のスカート。
「ごめん、待った?」
「いいえ、今来た所です」
「そう?良かった」
お決まりの遣り取りが、なんだか擽ったい。
「本日はよろしくお願い致します」
「硬いな。デートなんだから、リラックスして楽しもう」
緊張気味なルルーシアの手を握った。
「はぐれない様に」
無表情なままの彼女の頬がほんのりと赤くなる。
ピュアかよ。可愛い。
彼女の手を引いて向かったのは、公園から程近いカジュアルなレストランだ。
パステルカラーで統一された内装は明るい印象。
比較的リーズナブルな料金で美味しい料理を食べられるので、若者達に人気がある店だ。
以前俺に付き纏ってデートを強要した女性達は、格式高い高級店に連れて行けと強請っていたが、なんとなくルルーシアは、そういう店に連れて行っても緊張するばかりで喜んで貰えない様な気がした。
席に案内されると、ルルーシアは興味深そうにキョロキョロと店内を観察していた。
「とても可愛らしいお店ですね」
「ああ。若いカップルのデートの定番になっているそうだ。
料理は鴨のローストがお勧めらしいよ」
俺達は鴨のローストを中心に四品ほど注文し、シェアして食べる事にした。
「ローレンス様!
この海鮮サラダも美味しいですよ」
ルルーシアは取り分けたサラダを俺に差し出した。
過去一の良い笑顔である。
「ありがとう。
ルルーシアも沢山食べな」
彼女は鴨のローストを一口食べて瞳を輝かせている。
連れて来て良かった。
「流石、ローレンス様。
女性が喜ぶお店を良くご存知ですね」
無邪気に紡がれたその台詞にはちょっと引っかかる部分もあるが、料理は気に入って貰えたみたいでホッとした。
食事を終えた俺達は、先程待ち合わせをした公園に併設されている植物園へ移動した。
今の時期だと、丁度バラが満開のはず。
国立の植物研究所が運営しているその施設は、王宮の庭園にも引けを取らない広さと美しさで人気だ。
バラ園に入ると、むせかえる様な花の香りがした。
女神像を中心に、左右対称に設られたバラの花壇はとても広くて美しい。
「わあ・・・・・・。凄いですね」
「良い時期に来たな」
どこを見ても色取り取りのバラが咲き乱れている様は圧巻だ。
「こんなに満開の時に来れたのは初めてです」
タウンハウスを持つ貴族ならば、必ず訪れた事があると言うほど定番のスポットなのだから、ルルーシアも以前ここに来たことがあっても不思議はないのだが・・・・・・。
そんな風に言われると、前回は誰と一緒に来たのだろうかと気になってしまう。
何故か、あのダリルとか言う従兄弟の顔が脳裏にチラついた。
彼とも一緒に来た事があるのだろうか?
俺と同じ様に、手を繋いで歩いたのだろうか?
モヤモヤした気持ちを抱えて歩いていると、バラのアーチの手前で、軽薄そうなカップルとすれ違う。
ぶつからない様にと咄嗟にルルーシアの手を引いた。
『素敵ね』
『でも君の方が美しい』
カップルの男が、女性の肩を抱きながら、歯の浮く様な台詞を吐いている。
きっと、本当のプレイボーイならば、あんな風に振る舞う物なのだろう。
俺には難易度が高い。
何より、ルルーシアが固まってしまいそうだ。
『恋を教える』などと大層な契約をしてしまったが、こんな事で良いのだろうか。
まだ手を繋いでいる事にも慣れずに、頬を染めたままのルルーシアにチラリと視線を向ける。
目が合って嬉しそうに微笑んだ彼女を見たら、コレはコレで良いんじゃないかと思えた。
俺達は手を繋いだまま、ポツリポツリと言葉を交わしつつ、ゆっくりとバラの庭園を散策した。
一通り庭園を回った後、ルルーシアを連れて管理事務所の方へ向かう。
「どちらに向かっているのですか?」
「会わせたい人がいるんだ」
実は、コレが植物園に連れて来た本当の目的なのだ。
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