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19 懇願
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《side:ローレンス》
「少しは落ち着いたらどうだ?」
ダリル・メイジャーに連れられてやって来た、メイジャー子爵家の応接室。
ソファーに浅く腰掛けて、無意識に貧乏揺すりをしていた俺は、呆れた様なダリルの言葉にハッと我に返った。
「・・・すまない」
「まあ、良いけど」
ダリルとはここ数日で、すっかり砕けた口調で話す様になった。
少しでも気持ちを落ち着けようと、深呼吸をしていると、応接室の扉がノックされて、メイジャー家の執事が姿を現した。
「ルルーシアお嬢様がいらっしゃいました」
「急に呼び出したりして、何の用なの?
私、今色々と忙しいって、ダリルだって知ってるで・・・・・・えっっ!?」
ブツブツと苦情を言いながら、執事の背後からルルーシアがひょっこり顔を出した。
そして、俺と目が合ってピシリと固まった。
会えなくなってまだ五日しか経っていないのに、もうずっと会ってなかった様な気がする。
「お前、ローレンス様に何も説明してなかったらしいじゃないか。
お前が自分で話すと言うから、僕は何も言わなかったのに・・・、流石に不誠実だろう。
ちゃんと話し合えよ」
ダリルはそう言い残して、ルルーシアの肩をポンと叩くと、執事を連れて部屋を出て行った。
残されたのは俺とルルーシアの二人きり。
未婚の男女が密室に二人という状況は、普通ならば咎められるべきなのだろうが、今はそんな事に構っている場合じゃない。
ルルーシアは気まずそうに項垂れながら、俺の向かいのソファーに腰を下ろした。
「何も言わずに居なくなって、ごめんなさい」
「結婚、するんだって?」
「はい」
俺に向けられた瞳には、何の感情も浮かんで無いように見える。
だが、さっきこの部屋に入って俺を目にした瞬間に、彼女がサッと左手を隠した事を俺は見逃さなかった。
その薬指には、確かに藤色のガラス玉が光っていたんだ。
「その結婚は、ルルーシアの本意ではないのだろう?」
「政略結婚ですので、私の意志は関係ありません」
「だが、相手の男は嗜虐趣味があると聞く」
「流石にその点は私も心配だったので、伯爵と離縁した前の奥様にコッソリ話を聞きに行きました。
彼女の話によれば、伯爵の性癖は噂ほど酷くは無く、相手に深い傷を負わせたりはしないそうです。
どうやら、私の様に真面目そうで融通が効かない雰囲気の女性がお好みらしく・・・・・・。
父と義母を反面教師として真面目に生きて来たのに、こんな所で仇になるとは思いませんでしたが・・・。
まあ、思ったほど酷い目には遭わないみたいなので、ご安心下さい」
力無く微笑む彼女に、カッと頭に血が上った。
「・・・・・・何を・・・、言ってる?
ふざけてるのか?
安心できる訳無いだろう!
貴女は、それで良いって言うのか!?」
思わず声を荒げた俺に、彼女は肩をすくめて見せた。
「貴族の結婚なんて、大体こんな物でしょう?
さあ、そろそろ良いですか?
私、まだ、引っ越しと結婚の準備で色々と忙しいのですよ」
他の男の妻になる話を淡々としている彼女に、焦燥感と苛立ちが募る。
立ち上がって部屋を出て行こうとする彼女の腕を引っ張り、衝動のままに強く抱き締めた。
「イ、ャ・・・・・・っ!」
俺の胸を押して、距離を取ろうとする彼女の仕草に益々苛立って、顎を掴んで強引に深く口付ける。
眼鏡の向こうで、藍色の瞳が大きく見開かれた。
「ぅん"~~~っっ!!」
抗議する様に、胸を拳でドンドンと叩かれて、漸く彼女を解放した。
「な・・・、よ、嫁入り前の令嬢に、なんて事するんですかっっ!!??」
ハアハアと肩で息をしながら猛烈に抗議してくる彼女は、毛を逆立てて威嚇する猫みたいだ。
「責任取って貰ってやるから、問題無い」
「はあぁっっ!?」
「次期侯爵との縁談だったら、貴女の両親も文句は無いだろう。
支度金だって、伯爵家より沢山くれてやる」
「一体何を考えてるんですか?」
困惑の表情を浮かべる彼女の両肩を掴んで、不安気に揺れる瞳を見つめた。
「貴女を手に入れる事だけを・・・。
カーライル伯爵に金で買われる位なら、俺に買われて欲しい」
彼女の表情が苦しそうに歪む。
「・・・・・・同情、ですか?
同情で優しくするなんて、残酷な人。
そうやって貴方が惑わせるから、私はっ・・・」
「好きだ」
「・・・・・・え・・・?」
「同情なんかじゃない。
俺は、ルルーシアが好きだ。
貴女の事が、誰よりも大切なんだ。
だから、頼むから・・・・・・
他の男の物になるなんて、簡単に言わないで」
その時の俺は、きっと物凄く情け無い顔をしていたのだろう。
彼女は驚いた様に目を丸くして、次の瞬間俺から視線を逸らした。
「・・・困り、ます」
全く絡まない視線は、拒絶の意思表示なのだろうか。
彼女の気持ちも確かめず、強引に口付けた事を今更ながら後悔する。
「俺が・・・、嫌いか?」
「好きだからっ、困ってるんですよっっ!!
貴方の想いに応えれば、もの凄く迷惑をかけてしまうって分かっているのに・・・・・・
なのに・・・・・・、こんなにも、
・・・・・・・・・・・・・・・嬉しくて・・・」
ああ、ダメだ。
可愛い。愛しい。
彼女を手放すなんて、最初から無理だったんだ。
ルルーシアの頬を濡らした透明な雫を親指で拭うと、漸く彼女が俺の目を見た。
「迷惑なんかじゃない。
だから、俺に攫われてくれ」
その言葉に、ルルーシアは戸惑いを見せながらも小さく頷いた。
「少しは落ち着いたらどうだ?」
ダリル・メイジャーに連れられてやって来た、メイジャー子爵家の応接室。
ソファーに浅く腰掛けて、無意識に貧乏揺すりをしていた俺は、呆れた様なダリルの言葉にハッと我に返った。
「・・・すまない」
「まあ、良いけど」
ダリルとはここ数日で、すっかり砕けた口調で話す様になった。
少しでも気持ちを落ち着けようと、深呼吸をしていると、応接室の扉がノックされて、メイジャー家の執事が姿を現した。
「ルルーシアお嬢様がいらっしゃいました」
「急に呼び出したりして、何の用なの?
私、今色々と忙しいって、ダリルだって知ってるで・・・・・・えっっ!?」
ブツブツと苦情を言いながら、執事の背後からルルーシアがひょっこり顔を出した。
そして、俺と目が合ってピシリと固まった。
会えなくなってまだ五日しか経っていないのに、もうずっと会ってなかった様な気がする。
「お前、ローレンス様に何も説明してなかったらしいじゃないか。
お前が自分で話すと言うから、僕は何も言わなかったのに・・・、流石に不誠実だろう。
ちゃんと話し合えよ」
ダリルはそう言い残して、ルルーシアの肩をポンと叩くと、執事を連れて部屋を出て行った。
残されたのは俺とルルーシアの二人きり。
未婚の男女が密室に二人という状況は、普通ならば咎められるべきなのだろうが、今はそんな事に構っている場合じゃない。
ルルーシアは気まずそうに項垂れながら、俺の向かいのソファーに腰を下ろした。
「何も言わずに居なくなって、ごめんなさい」
「結婚、するんだって?」
「はい」
俺に向けられた瞳には、何の感情も浮かんで無いように見える。
だが、さっきこの部屋に入って俺を目にした瞬間に、彼女がサッと左手を隠した事を俺は見逃さなかった。
その薬指には、確かに藤色のガラス玉が光っていたんだ。
「その結婚は、ルルーシアの本意ではないのだろう?」
「政略結婚ですので、私の意志は関係ありません」
「だが、相手の男は嗜虐趣味があると聞く」
「流石にその点は私も心配だったので、伯爵と離縁した前の奥様にコッソリ話を聞きに行きました。
彼女の話によれば、伯爵の性癖は噂ほど酷くは無く、相手に深い傷を負わせたりはしないそうです。
どうやら、私の様に真面目そうで融通が効かない雰囲気の女性がお好みらしく・・・・・・。
父と義母を反面教師として真面目に生きて来たのに、こんな所で仇になるとは思いませんでしたが・・・。
まあ、思ったほど酷い目には遭わないみたいなので、ご安心下さい」
力無く微笑む彼女に、カッと頭に血が上った。
「・・・・・・何を・・・、言ってる?
ふざけてるのか?
安心できる訳無いだろう!
貴女は、それで良いって言うのか!?」
思わず声を荒げた俺に、彼女は肩をすくめて見せた。
「貴族の結婚なんて、大体こんな物でしょう?
さあ、そろそろ良いですか?
私、まだ、引っ越しと結婚の準備で色々と忙しいのですよ」
他の男の妻になる話を淡々としている彼女に、焦燥感と苛立ちが募る。
立ち上がって部屋を出て行こうとする彼女の腕を引っ張り、衝動のままに強く抱き締めた。
「イ、ャ・・・・・・っ!」
俺の胸を押して、距離を取ろうとする彼女の仕草に益々苛立って、顎を掴んで強引に深く口付ける。
眼鏡の向こうで、藍色の瞳が大きく見開かれた。
「ぅん"~~~っっ!!」
抗議する様に、胸を拳でドンドンと叩かれて、漸く彼女を解放した。
「な・・・、よ、嫁入り前の令嬢に、なんて事するんですかっっ!!??」
ハアハアと肩で息をしながら猛烈に抗議してくる彼女は、毛を逆立てて威嚇する猫みたいだ。
「責任取って貰ってやるから、問題無い」
「はあぁっっ!?」
「次期侯爵との縁談だったら、貴女の両親も文句は無いだろう。
支度金だって、伯爵家より沢山くれてやる」
「一体何を考えてるんですか?」
困惑の表情を浮かべる彼女の両肩を掴んで、不安気に揺れる瞳を見つめた。
「貴女を手に入れる事だけを・・・。
カーライル伯爵に金で買われる位なら、俺に買われて欲しい」
彼女の表情が苦しそうに歪む。
「・・・・・・同情、ですか?
同情で優しくするなんて、残酷な人。
そうやって貴方が惑わせるから、私はっ・・・」
「好きだ」
「・・・・・・え・・・?」
「同情なんかじゃない。
俺は、ルルーシアが好きだ。
貴女の事が、誰よりも大切なんだ。
だから、頼むから・・・・・・
他の男の物になるなんて、簡単に言わないで」
その時の俺は、きっと物凄く情け無い顔をしていたのだろう。
彼女は驚いた様に目を丸くして、次の瞬間俺から視線を逸らした。
「・・・困り、ます」
全く絡まない視線は、拒絶の意思表示なのだろうか。
彼女の気持ちも確かめず、強引に口付けた事を今更ながら後悔する。
「俺が・・・、嫌いか?」
「好きだからっ、困ってるんですよっっ!!
貴方の想いに応えれば、もの凄く迷惑をかけてしまうって分かっているのに・・・・・・
なのに・・・・・・、こんなにも、
・・・・・・・・・・・・・・・嬉しくて・・・」
ああ、ダメだ。
可愛い。愛しい。
彼女を手放すなんて、最初から無理だったんだ。
ルルーシアの頬を濡らした透明な雫を親指で拭うと、漸く彼女が俺の目を見た。
「迷惑なんかじゃない。
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その言葉に、ルルーシアは戸惑いを見せながらも小さく頷いた。
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