【完結】さよなら、大好きだった

miniko

文字の大きさ
25 / 28

25 花嫁修行

しおりを挟む
《side:ルルーシア》


「ルルーシア、明日はオルグレン公爵家のお茶会ですから、今夜は早めに休みなさい」

「はい、お義母様」

平日は学園でローレンス様と一緒に過ごす時間が多いが、休日は殆ど会う事が出来ない。
ローレンス様は次期侯爵としての教育を受けるのに忙しく、私は私で侯爵家と伯爵家の二人のお義母様に連れられて、高位貴族のお茶会に参加するのに忙しい。

お茶会と言っても、楽しくお話しして美味しいお茶を頂くのが目的では無い。

出来るだけ沢山の方に紹介して貰い、将来侯爵夫人になった時に役立つ人脈を作る為。
そして、高位貴族のご令嬢やご夫人と同席させて貰う事で、その立ち居振る舞いや考え方、話術などを見て学ぶ為である。

元父は、淑女教育だけは、きちんとした家庭教師を付けて学ばせてくれた。
それは、私を金持ちと結婚させる為の先行投資に過ぎなかったのだが、今となってみれば厳しい教育を受けておいて良かった。
お陰で礼儀作法や所作については、早い段階で合格点を貰えたのだから。

勉強も好きなので、教養についても然程問題ない。

だが、圧倒的に社交の経験が足りていないし、高位貴族特有の考え方や注意点などは、一から身に付けなければならないのだ。



最近、学園の廊下を歩いていても、沢山の女生徒に挨拶される様になった。

『おはようございます、ビリンガム様』

『ごきげんよう、ビリンガム様』

一見友好的に見えるのだが、彼女達が私の味方とは限らない。
寧ろほとんどの場合、権力に阿る姿勢や、隙あらば引き摺り下ろそうとする魂胆が見え隠れしている。

貼り付けた様な笑顔で近付いて来る人々の中には、以前私を『子爵令嬢の癖に』と罵倒した女生徒も含まれていた。

あの時の女生徒達の殆どは、伯爵家のご令嬢である。
私が養女になったビリンガム家とは、爵位こそ同じだが、その中にも細かい序列があって、ビリンガム家はかつての戦争で多くの武勲を挙げ、王家の覚えも目出度い名家なのだ。

だから彼女達も、私の顔色を窺わざるを得ない。

上級生や学園の職員でさえ、私に対する態度をあからさまに変えた人もいる。

(権力って恐ろしいわね)

そんな有象無象の中から信頼出来る人物を選分け、その他は逆にこちらが上手く利用しなければならないのだ。

(高位貴族とか、向いてないんだよなぁ)




翌日のオルグレン公爵家のお茶会はとても盛大で、沢山の人と新たに知り合う事が出来た。
中には私を蔑む様な視線を送る人もいたが、概ね好意的だった様だ。



「公爵夫人、ご無沙汰しております」

お開きの時間が近付いた頃、お茶会の会場となっている庭園の入り口から、ここに居るはずが無い人の声が聞こえて来て思わず振り返った。

「まあ、ローレンス様、お久し振りですわ。
本日はどうなさったんですの?」

「突然の訪問で申し訳ありません。
最近愛する婚約者との時間がなかなか取れなかったのですが、急遽時間が空いたので我慢出来ずに彼女を迎えに参りました」

「うふふ。若いって良いですねぇ」

主催者の公爵夫人にローレンス様が小っ恥ずかしい台詞をはいていて、私の顔が真っ赤に染まった。

「ルルーシア。
早く会いたくて、迎えに来てしまった」

蕩ける様な笑みを浮かべて私に駆け寄るローレンス様に、いくつもの生温かい視線が向けられている。
「あらあら」「まあまあ」みたいなご夫人達の声があちこちから聞こえる。
居た堪れない。

私は周囲の方々と公爵夫人に辞去の挨拶をして、ローレンス様の手を取り帰路に着いた。

こういった溺愛アピールも、私が舐められない為の作戦なのかもしれない。
いや、ただ普通に、少しでも一緒に過ごしたいと思ってくれているだけかもしれないけど・・・・・・。


帰りの馬車の中で、ローレンス様が心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「疲れた顔をしている。
頑張り過ぎなんじゃないか?
母達からは、既にある程度のレベルには達してると聞いた。
誰でも最初から上手くいくわけじゃないし、直ぐに完璧にならなくても、結婚してから学んでも良いと思うけど」

正直に言えばとても疲れる。
優しい言葉に甘えたくなるが、これは私が選んだ道なのだから、妥協はしたく無い。
それに・・・・・・

「ローレンス様の隣に立つのに必要な事だから、頑張りたいです。
貴方の足を引っ張る存在にはなりたく無い」

私の気持ちを伝えると、彼は頭を抱えて大きな溜息を吐いた。

「はあぁぁぁー・・・。
なんでそんなに可愛い事言うの?
凄く心配なのに、もの凄く嬉しい。
・・・・・・・・・複雑・・・・・・」

そう言って苦悩する彼が可愛く見えて、疲労を隠せなかった私の顔にも笑みが浮かんだ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】君を迎えに行く

とっくり
恋愛
 顔だけは完璧、中身はちょっぴり残念な侯爵子息カインと、 ふんわり掴みどころのない伯爵令嬢サナ。  幼い頃に婚約したふたりは、静かに関係を深めていくはずだった。 けれど、すれ違いと策略により、婚約は解消されてしまう。 その別れが、恋に鈍いカインを少しずつ変えていく。 やがて彼は気づく。 あの笑顔の奥に、サナが隠していた“本当の想い”に――。 これは、不器用なふたりが、 遠回りの先で見つけた“本当の気持ち”を迎えに行く物語

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

【完結】イアンとオリエの恋   ずっと貴方が好きでした。 

たろ
恋愛
この話は 【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。 イアンとオリエの恋の話の続きです。 【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。 二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。 悩みながらもまた二人は………

次は絶対に幸せになって見せます!

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢マリアは、熾烈な王妃争いを勝ち抜き、大好きな王太子、ヒューゴと結婚したものの、結婚後6年間、一度も会いに来てはくれなかった。孤独に胸が張り裂けそうになるマリア。 “もしもう一度人生をやり直すことが出来たら、今度は私だけを愛してくれる人と結ばれたい…” そう願いながら眠りについたのだった。 翌日、目が覚めると懐かしい侯爵家の自分の部屋が目に飛び込んできた。どうやら14歳のデビュータントの日に戻った様だ。 もう二度とあんな孤独で寂しい思いをしない様に、絶対にヒューゴ様には近づかない。そして、素敵な殿方を見つけて、今度こそ幸せになる! そう決意したマリアだったが、なぜかヒューゴに気に入られてしまい… 恋愛に不器用な男女のすれ違い?ラブストーリーです。

婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。 そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。 死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

処理中です...