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12 一緒に帰ろう
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「・・・そうじゃないんでしょう?」
今にも泣き出しそうな顔で、問いかける殿下に、私はポツリポツリと話し始めた。
「フェリクス兄様とは、そんな関係ではありません」
「そうみたいだね。安心したよ」
「兄様の婚約者のシルビア様とは、私も友人として親しくさせて頂いてます。
今回は、シルビア様のお誕生日祝いの夜会に参加する為に、兄様とこちらへ・・・。
シルビア様が私の事を心配して下さったので、ご厚意に甘えて、そのまま滞在する事に・・・」
「うん。こんな場所に居るなんて、なかなか思い付かなくて苦労した」
ーーー言わなければならない。
ここまで来たら、もう、ちゃんと伝えなければ。
意を決して、顔を上げる。
「アルベルト殿下、私達はもう無理だと思います。
別々の幸せを探しましょう?
私は私の、貴方は貴方の幸せを。
そしてその二つが交わる事は、きっとありません。
この婚約から解放されて、お互いに自由になる事だけが、私の望みです」
アルベルト殿下が、眉根を寄せて、苦悶の表情になる。
「それは、何故?」
「・・・だって貴方は、私の事を愛していないじゃないですか」
「はぁっっ!?
そんな事、あるわけないだろう!!」
「いいえ。貴方がそう仰ったのを、確かに聞きました」
珍しく声を荒げた彼に、あの日立ち聞きしてしまったのだと伝えた。
そして、そのせいで全てを信じられなくなった事も。
「・・・・・・あれを、聞いていたのか・・・。
ああ、確かにあの日だったかもしれない。
え、でもあの時間は、まだ王子妃教育じゃ・・・・・・」
殿下は力無く崩れ落ち、膝をつきながら、呟いている。
「あの日は先生の急用で、授業がすぐに中止になってしまったのです。
それで偶然、聞いてしまって。
ですから、婚約は解消・・・」
「待って、誤解だから!!!」
「あんなにハッキリと仰ったのに、それは無理があるのでは?」
思わず胡乱な目をしてしまう。
「違うんだってば!
・・・・・・リリは・・・、兄上の事をどれくらい知ってる?」
急に何の話?
「・・・ライナルト殿下ですか?
少し苛烈だけれど、優秀な王子だと、噂に聞いています」
「うん。確かに執務に関しては優秀だけど、ちょっとした悪癖があってね」
「悪癖?」
「そう。僕の大事なものを奪おうとするんだよ」
二人の仲が良くないのは知っていた。
特に、ライナルト殿下は、側妃様のお子様だという事にコンプレックスを持っていて、アルベルト殿下を敵視している。
小さな頃から、一つしか歳の変わらない、正妃様の子であるアルベルト殿下と比べられて、負けるなと言われ続けて育ったのだから、無理からぬ事だ。
「初めは5歳くらいの頃だったかな。
僕が一番信頼していた従者だった。
兄上の派閥の貴族に嵌められて、何か弱味を握られたらしくてね。
僕の元を去る時に、泣きながら謝って来た。
彼の言う事が事実なのか、それとも彼自身が兄上を選んだのかは、その時は判断出来なかった。
まあ、自主的に僕の元を去るような従者は要らないし、簡単に弱味を握られるような者も側には置けないから、仕方ないなと諦めた」
アルベルト殿下は、その言葉とは裏腹に、とても苦しそうな顔をした。
「それは・・・お辛かったでしょう」
「まあね。
その時は、兄上が彼に目を付けたのは、偶然かなとも思ってた。
でもその後も、物でも人でも、僕が大事にしていると分かると、手を出して来るようになってね。
似た様な手口で、友人や護衛騎士も・・・奪っては捨てるを繰り返した。
僕は、大事な物をあまり周りに見せないようになった。
・・・でも、油断したんだ。
兄上の婚約者の家は、リリの家よりも力があるから、きっと手放したくは無いだろう。
だったら、彼女の不興を買うような事はしないだろうし、弟の婚約者を奪ったりしたら、外聞も悪過ぎる。
成長してからは、僕も護りを固められるようになってきて、ここ最近は、兄上も諦めたのか大人しくしていたし。
だから、リリには絡んで来ないだろうって思ってた。
あの日、兄上から〝リリアナ嬢を、愛しているのだね〟と聞かれたら、急に怖くなったんだ」
「それで・・・〝愛してなどいない〟と・・・?」
「・・・・・・すまなかった。
なんとか兄上に、そう信じさせなければと思って焦ったんだ。
・・・・・・本心で無いとは言え、僕が酷い言葉で君を深く傷つけた事については、本当に反省している。
だけど、君がいなくなった事で、僕も苦しんだ。
大好きな婚約者が、他の男と突然消えた時の絶望を、君は想像出来る?」
アルベルト殿下は、拳を握りしめ、悲しそうな笑みを浮かべた。
その声は少し震えている。
私は、もう一度、彼の愛を信じる事が出来るのだろうか?
正直言って、分からない。
心の傷は深過ぎて、まだ塞がりきっていない。
私の中にある不安の種が、いつまた芽吹くのか怖い気もする。
だけど・・・・・・
「リリアナ。
頼むから、僕にチャンスをくれないか?
もう一度だけ、僕の手を取って欲しい。
兄上からも、他の全ての物からも、全力で君を守ると約束する。
君を愛しているんだ。
一緒に帰ろう?」
大好きだった彼の瞳が不安に揺れるのを見ていたら、自然と小さく頷いていた。
今にも泣き出しそうな顔で、問いかける殿下に、私はポツリポツリと話し始めた。
「フェリクス兄様とは、そんな関係ではありません」
「そうみたいだね。安心したよ」
「兄様の婚約者のシルビア様とは、私も友人として親しくさせて頂いてます。
今回は、シルビア様のお誕生日祝いの夜会に参加する為に、兄様とこちらへ・・・。
シルビア様が私の事を心配して下さったので、ご厚意に甘えて、そのまま滞在する事に・・・」
「うん。こんな場所に居るなんて、なかなか思い付かなくて苦労した」
ーーー言わなければならない。
ここまで来たら、もう、ちゃんと伝えなければ。
意を決して、顔を上げる。
「アルベルト殿下、私達はもう無理だと思います。
別々の幸せを探しましょう?
私は私の、貴方は貴方の幸せを。
そしてその二つが交わる事は、きっとありません。
この婚約から解放されて、お互いに自由になる事だけが、私の望みです」
アルベルト殿下が、眉根を寄せて、苦悶の表情になる。
「それは、何故?」
「・・・だって貴方は、私の事を愛していないじゃないですか」
「はぁっっ!?
そんな事、あるわけないだろう!!」
「いいえ。貴方がそう仰ったのを、確かに聞きました」
珍しく声を荒げた彼に、あの日立ち聞きしてしまったのだと伝えた。
そして、そのせいで全てを信じられなくなった事も。
「・・・・・・あれを、聞いていたのか・・・。
ああ、確かにあの日だったかもしれない。
え、でもあの時間は、まだ王子妃教育じゃ・・・・・・」
殿下は力無く崩れ落ち、膝をつきながら、呟いている。
「あの日は先生の急用で、授業がすぐに中止になってしまったのです。
それで偶然、聞いてしまって。
ですから、婚約は解消・・・」
「待って、誤解だから!!!」
「あんなにハッキリと仰ったのに、それは無理があるのでは?」
思わず胡乱な目をしてしまう。
「違うんだってば!
・・・・・・リリは・・・、兄上の事をどれくらい知ってる?」
急に何の話?
「・・・ライナルト殿下ですか?
少し苛烈だけれど、優秀な王子だと、噂に聞いています」
「うん。確かに執務に関しては優秀だけど、ちょっとした悪癖があってね」
「悪癖?」
「そう。僕の大事なものを奪おうとするんだよ」
二人の仲が良くないのは知っていた。
特に、ライナルト殿下は、側妃様のお子様だという事にコンプレックスを持っていて、アルベルト殿下を敵視している。
小さな頃から、一つしか歳の変わらない、正妃様の子であるアルベルト殿下と比べられて、負けるなと言われ続けて育ったのだから、無理からぬ事だ。
「初めは5歳くらいの頃だったかな。
僕が一番信頼していた従者だった。
兄上の派閥の貴族に嵌められて、何か弱味を握られたらしくてね。
僕の元を去る時に、泣きながら謝って来た。
彼の言う事が事実なのか、それとも彼自身が兄上を選んだのかは、その時は判断出来なかった。
まあ、自主的に僕の元を去るような従者は要らないし、簡単に弱味を握られるような者も側には置けないから、仕方ないなと諦めた」
アルベルト殿下は、その言葉とは裏腹に、とても苦しそうな顔をした。
「それは・・・お辛かったでしょう」
「まあね。
その時は、兄上が彼に目を付けたのは、偶然かなとも思ってた。
でもその後も、物でも人でも、僕が大事にしていると分かると、手を出して来るようになってね。
似た様な手口で、友人や護衛騎士も・・・奪っては捨てるを繰り返した。
僕は、大事な物をあまり周りに見せないようになった。
・・・でも、油断したんだ。
兄上の婚約者の家は、リリの家よりも力があるから、きっと手放したくは無いだろう。
だったら、彼女の不興を買うような事はしないだろうし、弟の婚約者を奪ったりしたら、外聞も悪過ぎる。
成長してからは、僕も護りを固められるようになってきて、ここ最近は、兄上も諦めたのか大人しくしていたし。
だから、リリには絡んで来ないだろうって思ってた。
あの日、兄上から〝リリアナ嬢を、愛しているのだね〟と聞かれたら、急に怖くなったんだ」
「それで・・・〝愛してなどいない〟と・・・?」
「・・・・・・すまなかった。
なんとか兄上に、そう信じさせなければと思って焦ったんだ。
・・・・・・本心で無いとは言え、僕が酷い言葉で君を深く傷つけた事については、本当に反省している。
だけど、君がいなくなった事で、僕も苦しんだ。
大好きな婚約者が、他の男と突然消えた時の絶望を、君は想像出来る?」
アルベルト殿下は、拳を握りしめ、悲しそうな笑みを浮かべた。
その声は少し震えている。
私は、もう一度、彼の愛を信じる事が出来るのだろうか?
正直言って、分からない。
心の傷は深過ぎて、まだ塞がりきっていない。
私の中にある不安の種が、いつまた芽吹くのか怖い気もする。
だけど・・・・・・
「リリアナ。
頼むから、僕にチャンスをくれないか?
もう一度だけ、僕の手を取って欲しい。
兄上からも、他の全ての物からも、全力で君を守ると約束する。
君を愛しているんだ。
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