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11 解呪
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あーあ、だから言ったのにねぇ……。
「どうしましょうね、コレ」
カウンターに突っ伏して、眉間に皺を寄せながら小さく唸っているアルバートを眺めていたら、つい深い溜息が出てしまった。
閉店時間を過ぎた今、レオン様を含めて、他のお客さん達はもう皆んな帰った後だ。
「アルバート様、起きて下さーい。
もう閉店ですよー」
肩を揺すりながら声を掛けても、眉間の皺が僅かに深くなるだけで、全く起きる気配が無い。
「後半だいぶ無茶な飲み方してたからな。
……仕方ない、二階の休憩室に運ぼうか」
苦笑いしたリッキーさんとハワードくんが頷き合う。
黒猫亭の二階には、私が借りている下宿部屋の他に、従業員が食事をしたり休憩を取るための小さな部屋が一つあるのだ。
大柄なリッキーさんがアルバートを背負って二階に上がり、休憩室のソファーに寝かせた。
「ケイティ一人で大丈夫?今日は俺もここに泊まろうか?」
「大丈夫でしょ。
これだけ酔ってれば襲われることもないだろうし、部屋には鍵も掛かるから。
それに、アルバート様をソファーに寝かせたら、ハワードくんが寝る場所は無いよ?」
一応未婚の男女が隣室に寝る事を、ハワードくんは気にしてくれたみたいだけど、まあ相手は元婚約者だしね。
「ケイティ、悪いけど、たまにで良いから様子を見てやってくれないか?
多分大丈夫だとは思うけど、急性アルコール中毒とかになるといけないから」
リッキーさんはアルバートの容体も少し心配みたい。
「ええ、良いですよ」
そうして、リッキーさんとハワードくんはそれぞれの家に帰って行った。
今、この建物に住んでいるのは、私だけ。
リッキーさんとエリノアさんはこの建物の裏手にあるお家に住んでいて、ハワード君は近くのアパートで一人暮らしをしている。
だから、今夜は元婚約者のこの人と、二人っきりで過ごさなければならないのだ。
とは言え、こんな酔っ払いが相手じゃあ、ロマンチックな何かが起きるとも思えないけど。
固く目を閉じた彼の顔を見ていると、別れたあの日を思い出して、少しだけ切ない気持ちになった。
相変わらず険しい表情で眠るアルバートに、私の部屋から持って来た毛布を掛けてやる。
微かに意識が浮上したのか、薄っすらと目を開けた彼が掠れた声で何か呟いた。
「……こー……ぁ……」
コーデリア。
そう呼ばれた気がして、一瞬ギクリと動きを止めた。
(いや、まさか、ね……)
目が覚めたら喉が渇いているだろうから、氷水を入れた水差しとコップをソファーの脇のテーブルにセットする。
吐きたくなった時用の洗面器とタオルも枕元に用意して、サッサと隣の下宿部屋へ帰った。
軽くシャワーを浴びて寝支度を整えた後、一応もう一度だけ隣室に彼の様子を見に行ったのだが、眉間の皺は消えていて、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っていた。
顔色も悪く無いし、どうやら急性中毒の心配は無さそうだ。
(人の気も知らないで……)
呑気な寝顔を少し憎らしく思いながら、下宿部屋に戻って、小さなベッドに潜り込む。
隣の部屋に彼が寝ていると思うと、ソワソワと落ち着かなくて、なかなか寝付く事が出来なかった。
翌朝は、いつもよりも早く起床した。
確か、アルバートは今日は休みだって言っていたけど、何か用事があるかもしれないから、早めに起こしてあげた方が良いかもしれないと思って。
せっかくのお休みだから、デートの予定とか、あるのかもしれないし……。
その可能性を考えると、胸の奥がチクッと痛んだけど、私はその痛みに気付かない振りをした。
休憩室の扉を開けると、彼はまだソファーに横たわっている。
昨夜はよく眠れたみたいだ。
「アルバート様、朝ですよ」
声を掛けながら、彼の肩に手を伸ばした瞬間───。
突然手首を掴まれて、強く引き寄せられた私は、何故かアルバートの腕の中に閉じ込められていた。
「全部、思い出したよ、コーデリア。茶色の髪も似合ってる。
どうして僕を捨てたの?
……まあいいや。どうせもう二度と、放してあげるつもりは無いから」
「アルバート、様?」
「逃げても無駄だよ。だからもう諦めて。
だって、僕はコーデリアを思い出す前から、ケイティに惹かれていた。
たとえ再び記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度だって君に恋をしてしまうんだ」
私の体をかき抱きながらそう言ったアルバートの声は震えていて、怒っている様でもあり、泣いている様でもあった。
「どうしましょうね、コレ」
カウンターに突っ伏して、眉間に皺を寄せながら小さく唸っているアルバートを眺めていたら、つい深い溜息が出てしまった。
閉店時間を過ぎた今、レオン様を含めて、他のお客さん達はもう皆んな帰った後だ。
「アルバート様、起きて下さーい。
もう閉店ですよー」
肩を揺すりながら声を掛けても、眉間の皺が僅かに深くなるだけで、全く起きる気配が無い。
「後半だいぶ無茶な飲み方してたからな。
……仕方ない、二階の休憩室に運ぼうか」
苦笑いしたリッキーさんとハワードくんが頷き合う。
黒猫亭の二階には、私が借りている下宿部屋の他に、従業員が食事をしたり休憩を取るための小さな部屋が一つあるのだ。
大柄なリッキーさんがアルバートを背負って二階に上がり、休憩室のソファーに寝かせた。
「ケイティ一人で大丈夫?今日は俺もここに泊まろうか?」
「大丈夫でしょ。
これだけ酔ってれば襲われることもないだろうし、部屋には鍵も掛かるから。
それに、アルバート様をソファーに寝かせたら、ハワードくんが寝る場所は無いよ?」
一応未婚の男女が隣室に寝る事を、ハワードくんは気にしてくれたみたいだけど、まあ相手は元婚約者だしね。
「ケイティ、悪いけど、たまにで良いから様子を見てやってくれないか?
多分大丈夫だとは思うけど、急性アルコール中毒とかになるといけないから」
リッキーさんはアルバートの容体も少し心配みたい。
「ええ、良いですよ」
そうして、リッキーさんとハワードくんはそれぞれの家に帰って行った。
今、この建物に住んでいるのは、私だけ。
リッキーさんとエリノアさんはこの建物の裏手にあるお家に住んでいて、ハワード君は近くのアパートで一人暮らしをしている。
だから、今夜は元婚約者のこの人と、二人っきりで過ごさなければならないのだ。
とは言え、こんな酔っ払いが相手じゃあ、ロマンチックな何かが起きるとも思えないけど。
固く目を閉じた彼の顔を見ていると、別れたあの日を思い出して、少しだけ切ない気持ちになった。
相変わらず険しい表情で眠るアルバートに、私の部屋から持って来た毛布を掛けてやる。
微かに意識が浮上したのか、薄っすらと目を開けた彼が掠れた声で何か呟いた。
「……こー……ぁ……」
コーデリア。
そう呼ばれた気がして、一瞬ギクリと動きを止めた。
(いや、まさか、ね……)
目が覚めたら喉が渇いているだろうから、氷水を入れた水差しとコップをソファーの脇のテーブルにセットする。
吐きたくなった時用の洗面器とタオルも枕元に用意して、サッサと隣の下宿部屋へ帰った。
軽くシャワーを浴びて寝支度を整えた後、一応もう一度だけ隣室に彼の様子を見に行ったのだが、眉間の皺は消えていて、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っていた。
顔色も悪く無いし、どうやら急性中毒の心配は無さそうだ。
(人の気も知らないで……)
呑気な寝顔を少し憎らしく思いながら、下宿部屋に戻って、小さなベッドに潜り込む。
隣の部屋に彼が寝ていると思うと、ソワソワと落ち着かなくて、なかなか寝付く事が出来なかった。
翌朝は、いつもよりも早く起床した。
確か、アルバートは今日は休みだって言っていたけど、何か用事があるかもしれないから、早めに起こしてあげた方が良いかもしれないと思って。
せっかくのお休みだから、デートの予定とか、あるのかもしれないし……。
その可能性を考えると、胸の奥がチクッと痛んだけど、私はその痛みに気付かない振りをした。
休憩室の扉を開けると、彼はまだソファーに横たわっている。
昨夜はよく眠れたみたいだ。
「アルバート様、朝ですよ」
声を掛けながら、彼の肩に手を伸ばした瞬間───。
突然手首を掴まれて、強く引き寄せられた私は、何故かアルバートの腕の中に閉じ込められていた。
「全部、思い出したよ、コーデリア。茶色の髪も似合ってる。
どうして僕を捨てたの?
……まあいいや。どうせもう二度と、放してあげるつもりは無いから」
「アルバート、様?」
「逃げても無駄だよ。だからもう諦めて。
だって、僕はコーデリアを思い出す前から、ケイティに惹かれていた。
たとえ再び記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度だって君に恋をしてしまうんだ」
私の体をかき抱きながらそう言ったアルバートの声は震えていて、怒っている様でもあり、泣いている様でもあった。
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