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14 自爆する者
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「注文いいですか?」
「はーい、ただいま伺います」
アルバートの記憶が戻って一ヶ月が経とうとしているが、私の生活に大きな変化は無い。
相変わらず黒猫亭で『ケイティ』として毎日元気に働いていた。
───カランカラン。
「いらっしゃいま、せ……」
扉の方を振り返ると、アルバートが店に入って来る所だった。
「こんばんは、ケイティ」
嬉しそうな笑顔からそっと目を逸らす。
「こんばんは。カウンターへどうぞ」
ぶっきらぼうに席へと案内する様子を、ハワードくんがニヤニヤしながら見ていた。
少しだけ以前と変わった事といえば、アルバートが毎日二回、店に通って来る様になった事と、ハワードくんとリッキーさんが、私とアルバートの様子を生温かい目で見る様になった事。
アルバートが私への好意を全く隠そうとしなくなったからだ。
本当に勘弁して欲しい。
これからどうするべきなのか、その方針さえ決まらないのに、アルバートはそんな私の気持ちなどお構いなしに、グイグイせまって来る。
「ケイティ、次の休日、この近くに新しく出来たカフェに一緒に行かないか?」
「行きません。ご注文は?」
「…ガーリックシュリンプとビール」
「ケイティちゃんも相変わらず冷たいねぇ。デートくらいしてやりゃあ良いのに。
兄ちゃん、負けるなよー」
もはや恒例となった私とアルバートの遣り取りに、常連のお客さんがヤジを飛ばす。
「ありがとうございますっ!頑張ります!」
(いや、頑張らんで良いからっ!)
笑顔で声援に答えるアルバートに溜息が出そうだ。
好きで冷たくしているわけじゃ無いのに。
出来る事なら私だってアルバートの隣にいたい。
当たり前だ。嫌いになって逃げたわけでは無いのだから。
だけど、今の社交界での私の立場は没落貴族の令嬢だし、事実はどうであれ、犯罪者の娘だと周囲に思われているのだ。
そんな私が、伯爵家の子息であるアルバートとの未来なんて、望んだらいけない。
そんなある日、衝撃のニュースがアルバートの口からもたらされた。
「どうやらマクダウェル侯爵が捕縛されたらしいよ」
「はぁっ!?」
大事な話があるからと言われ、閉店後の休憩室で話を聞く事になったのだが……。
私の父を嵌めた犯人とおぼしき人物の、予想外の近況に驚愕を隠せない。
「一体どういう事なの?」
「エルウッド子爵邸だった建物に、不法侵入したんだ」
やはり、横領事件はマクダウェル侯爵の仕業だったのだそうだ。
そして、それを父に知られたかもしれないと思った侯爵は、私の両親を事故に見せかけて殺した。
捕縛されたマクダウェル侯爵の供述によれば、ここ数日、毎晩彼の夢枕に私の父が立って、『不正の証拠は隠してある。お前はもうすぐ終わりだ』と囁かれているそうだ。
最初はただの夢だと笑い飛ばしていた侯爵だが、毎晩繰り返される悪夢に、次第に疑心暗鬼になった。
父から何か聞いているのではと不安になり、エルウッド家の唯一の生き残りである私を探したのだが見つからず、邸になんらかの手掛かりが残っているかもしれないと、現在は空き家になり立ち入り禁止となっている旧エルウッド子爵邸に侵入した。
そこを偶然警邏中だった騎士に見つかり、捕まった。
そして取り調べで不法侵入の動機を追求され、最初はなんとか誤魔化そうとしたものの、辻褄の合わない部分が出てきた事で更に厳しく追求されて、横領や殺人の罪も自供するハメになったのだ。
侯爵は悪夢のせいで相当精神的に追い詰められており、今ではかなり憔悴した様子らしい。
記憶が戻ってからのアルバートは、もしもマクダウェル侯爵が私の父を殺したのであれば私の命も狙われるかもしれないと思い、ずっと侯爵の動向を探っていたのだそうだ。
そして、やはり私を探している様子だった侯爵に、偽の目撃情報を流したりして混乱させ、私の居場所を隠してくれていた。
私がウジウジ悩んで彼を避けている間も、彼は私を守ろうとしてくれていたのだ。
「ねぇ、コーデリア。事件はもう終わったんだよ。
君が僕から逃げる理由は、もう無いよね?」
「はーい、ただいま伺います」
アルバートの記憶が戻って一ヶ月が経とうとしているが、私の生活に大きな変化は無い。
相変わらず黒猫亭で『ケイティ』として毎日元気に働いていた。
───カランカラン。
「いらっしゃいま、せ……」
扉の方を振り返ると、アルバートが店に入って来る所だった。
「こんばんは、ケイティ」
嬉しそうな笑顔からそっと目を逸らす。
「こんばんは。カウンターへどうぞ」
ぶっきらぼうに席へと案内する様子を、ハワードくんがニヤニヤしながら見ていた。
少しだけ以前と変わった事といえば、アルバートが毎日二回、店に通って来る様になった事と、ハワードくんとリッキーさんが、私とアルバートの様子を生温かい目で見る様になった事。
アルバートが私への好意を全く隠そうとしなくなったからだ。
本当に勘弁して欲しい。
これからどうするべきなのか、その方針さえ決まらないのに、アルバートはそんな私の気持ちなどお構いなしに、グイグイせまって来る。
「ケイティ、次の休日、この近くに新しく出来たカフェに一緒に行かないか?」
「行きません。ご注文は?」
「…ガーリックシュリンプとビール」
「ケイティちゃんも相変わらず冷たいねぇ。デートくらいしてやりゃあ良いのに。
兄ちゃん、負けるなよー」
もはや恒例となった私とアルバートの遣り取りに、常連のお客さんがヤジを飛ばす。
「ありがとうございますっ!頑張ります!」
(いや、頑張らんで良いからっ!)
笑顔で声援に答えるアルバートに溜息が出そうだ。
好きで冷たくしているわけじゃ無いのに。
出来る事なら私だってアルバートの隣にいたい。
当たり前だ。嫌いになって逃げたわけでは無いのだから。
だけど、今の社交界での私の立場は没落貴族の令嬢だし、事実はどうであれ、犯罪者の娘だと周囲に思われているのだ。
そんな私が、伯爵家の子息であるアルバートとの未来なんて、望んだらいけない。
そんなある日、衝撃のニュースがアルバートの口からもたらされた。
「どうやらマクダウェル侯爵が捕縛されたらしいよ」
「はぁっ!?」
大事な話があるからと言われ、閉店後の休憩室で話を聞く事になったのだが……。
私の父を嵌めた犯人とおぼしき人物の、予想外の近況に驚愕を隠せない。
「一体どういう事なの?」
「エルウッド子爵邸だった建物に、不法侵入したんだ」
やはり、横領事件はマクダウェル侯爵の仕業だったのだそうだ。
そして、それを父に知られたかもしれないと思った侯爵は、私の両親を事故に見せかけて殺した。
捕縛されたマクダウェル侯爵の供述によれば、ここ数日、毎晩彼の夢枕に私の父が立って、『不正の証拠は隠してある。お前はもうすぐ終わりだ』と囁かれているそうだ。
最初はただの夢だと笑い飛ばしていた侯爵だが、毎晩繰り返される悪夢に、次第に疑心暗鬼になった。
父から何か聞いているのではと不安になり、エルウッド家の唯一の生き残りである私を探したのだが見つからず、邸になんらかの手掛かりが残っているかもしれないと、現在は空き家になり立ち入り禁止となっている旧エルウッド子爵邸に侵入した。
そこを偶然警邏中だった騎士に見つかり、捕まった。
そして取り調べで不法侵入の動機を追求され、最初はなんとか誤魔化そうとしたものの、辻褄の合わない部分が出てきた事で更に厳しく追求されて、横領や殺人の罪も自供するハメになったのだ。
侯爵は悪夢のせいで相当精神的に追い詰められており、今ではかなり憔悴した様子らしい。
記憶が戻ってからのアルバートは、もしもマクダウェル侯爵が私の父を殺したのであれば私の命も狙われるかもしれないと思い、ずっと侯爵の動向を探っていたのだそうだ。
そして、やはり私を探している様子だった侯爵に、偽の目撃情報を流したりして混乱させ、私の居場所を隠してくれていた。
私がウジウジ悩んで彼を避けている間も、彼は私を守ろうとしてくれていたのだ。
「ねぇ、コーデリア。事件はもう終わったんだよ。
君が僕から逃げる理由は、もう無いよね?」
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