冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき

文字の大きさ
5 / 60

第五話 お幸せになってください

しおりを挟む
 フレリック様の口にした言葉によって、楽しそうな空気に包まれていた会場が、一転して張り詰めた空気となり、同時にどよめきが聞こえてきた。

 中でも一番取り乱していたのは、あたしのお父様であるクレマン・スチュワートだった。

「そ、そんな話は何も聞いていないぞ!」
「仰る通り、なにもご相談はしておりませんので」
「ふざけるな! そんなことがまかり通ると思っているのか!? そもそも、一体何がどうしてそうなった!?」
「クレマン様は、なにもご存じないのですか? まあ、それも致し方なありませんか。家の発展のことばかり考えていて、自分の娘のことなど、道具のことのようにしか考えていないのですからね」
「うぐっ……な、なんて口の利き方を……!」

 確かに失礼な言い方にも聞こえるけど、残念ながらそれは事実だ。
 だから、お父様も強く言い返せず、悔しそうに唇を噛むことしか出来ないみたい。

「エリーザから何度も相談されていたのですよ。長い間、学園でミシェルからいじめを受けていて、教師に言っても改善してくれない、何度も死を覚悟するくらいつらい思いをしているから、婚約者である私に何とかしてほしいとね」
「…………」

 前世の記憶がなくて、ワガママな性格になっていたとはいえ、自分のしたことで一人の女の子が傷ついてしまったと思うと、胸が張り裂けそうになる。

「そんな話を聞いて、結婚したいと思うお人好しが、どこの世界にいるのですか? だから私は、ミシェルとの婚約を破棄することを決めたのです。ああ、このことは父上も了承済みです」
「勝手な真似をして! こんな野暮ったくて華の無い女の何が良いのだ!? それに、スチュワート家とカルフォン家の長年の繋がりを忘れたのか!?」
「別に忘れてなどいませんよ。しかし、あなた方のような醜い方達との関係を今後も良好にするために、一人の女性を犠牲にする選択は、我らカルフォン家には無かっただけのことです。それと、あなたのような人間には、エリーザの良さはわからないでしょう」

 うん、ここまではあたしが知っている通りの流れだ。
 前回は、ここであたしはお父様と一緒に猛抗議をして、それでも受け入れてもらえずに結局婚約破棄が決まり……あたしは破滅に向かうということだね。

 そんな未来、絶対に受け入れたくないよ! あたしは何としてでも、元の世界に戻って家族に会うんだから!

「相談を受けているうちに、彼女の心根の優しさや笑顔に惹かれました。父上も、ミシェルと結婚するよりも、エリーザと結婚する方が良いと仰ってくれました。そういうわけだ、ミシェル。すまないが君との婚約は破棄――」
「はい、よろこんで!!」
「させてもら、う……はっ?」

 まさか、あたしがこんなに素直に受け入れると思っていなかったのだろう。フレリック様は何とも間抜けな声を漏らし、ポカーンとした顔で固まっていた。

「……ごほん。ミシェル、もう一度伝える。君とのこんや――」
「よろこんで破棄させてもらいます!!」
「…………」

 フレリック様やエリーザ様を含めた、多くの人があたしの言葉を聞き、彼と同じようにポカーンと口を開けている。

「ミシェル!? き、きき、貴様……!」
「お父様、ワタクシがエリーザ様に酷いことをしてきたのは、紛れもない事実です。だから、その罰を受けなければなりません」
「そんもののために、有望な嫁ぎ先を失うというのか!? 我がスチュワート家に泥を塗るつもりか!?」
「はい、その通りです」
「っ!!!!」

 お父様は、真っ直ぐな目で見つめながら頷いたのが気にいらなかったのか、公共の場だと言うのに、あたしのほっぺたを思い切り叩いた。

 叩かれたほっぺたがビリビリと痛むけど、悲しいことに叩かれることについては、前世では日常だったから、この程度はへっちゃらだったりする。

「今はこれだけにしてやる。あとで私の部屋に来い! ああ、それと! 貴様らカルフォン家とは絶縁を宣言する! もう金輪際関わってくるな!」
「ええ、もちろん。父上もよろしいですか?」
「ああ。先代からの付き合いがあるというだけで、色々と曲がったお方のご機嫌取りをしなくて済むのは、ありがたい話だ」
「き、貴様ぁ……! 恩を仇で返すとは、まさにこのことか! もういい、私は帰らせてもらう! それと……この恨み、いつか返してやるからな!」

 まるで三下の悪役のような、品の無い恨み節を吐き捨てたお父様は、会場を逃げるように去る。
 その後を急いで追いかけたが、お父様は使用人を全員連れて、馬車に乗って帰ってしまった。それも、あたしが乗る予定だった馬車まで連れて。

「ちょ、ちょっと! 馬車無しでどうやって帰ればいいの!?」

 こんな動きにくいドレスとヒールの高い靴で歩いて帰るとか、無理にも程があるよ! それに、外はもう真っ暗なんだよ!?

 ……はぁ……仕方がない、あとでフレリック様にお願いして、馬車を一台用意してもらおう……用意してくれるかわからないけど……。

「……フレリック様、父が大変失礼しました」

 あたしは、溜息を漏らしながら会場の中に戻り、フレリック様に深々と頭を下げて、謝罪の意を示した。

「フレリック様。どうかエリーザ様とお幸せに」
「……あ、ああ」
「それと、こんな言葉で許してもらえるなんて思ってないけど……ごめんなさい、エリーザ様」
「えっ……?」

 あたしは、エリーザ様の前に立つと、深々と頭を下げた。

「ワタクシがあなたにしてきたことは、いじめなんて言葉で片付けられない。暴行や器物破損、それに人格否定も……本当に酷いことをしてしまった。本当に……本当にごめんなさい……」
「そ、そんな……お気になさらず……」

 気弱で優しいエリーザなら、あたしが謝ったらすぐに許してくれるかもと、少しだけ思っていた。
 でも、その優しさに甘えていては、あたしはあたしを許せない。だから、誠心誠意謝った。

「では、ワタクシは失礼しますね。これ以上この場にいたら、せっかくのおめでたい日が、更に台無しになってしまいますので」
「帰るって……失礼だが、君は本当にあのミシェルなのか?」
「はい、ミシェルですが」
「私の知っているミシェルなら、もっと癇癪を起こすと思っていたのだが」
「わ、私もそれは気になってました……まるで、精神が別の人間になったような……」
「ぎくっ……」

 エリーザ様の疑問は、ある意味的を得ている。
 前世を思い出したことで、あたしの考え方はミシェルじゃなくて、前世の真琴としての考え方になっているから、ある意味精神が変わっているとも言えるもんね。

「せ、精神を入れ替えるなんて魔法は、ワタクシには出来ませんよ。色々あって、考え方を改めただけです。今更と言われれば、その通りではありますけどね……あ、あはは」
「な、なるほど……?」

 まずい、多分納得してもらえてない雰囲気だよ! なんとかこの場を去ってしまわないと、余計なことを聞かれてしまうかもしれない!

「あっ、あの! フレリック様に最後に一つお願いがあるのですが!」
「なんだ?」
「帰るための、馬車を一台用意してくれませんか? 父が馬車を全て連れていってしまったので、帰る術が無くて……」
「なるほどな。さすがに夜分に女性を一人で歩いて帰らせるほど、私も愚かではない。改心した君への最後の選別として、すぐに用意させよう」
「ありがとうございます、フレリック様! ではワタクシは外でお待ちしております」

 いまだに怪訝な表情を浮かべるフレリック様とエリーザ様に頭を下げてから、あたしは会場を後にする。

 ……とりあえず、前回の時とは違う流れに出来たと思う。これであたしが処刑される事態にならなければいいんだけど……。





「はっはっはっ! 公の場で婚約破棄をされるのは、何度か見たことがあるが、こんなに快く受ける令嬢は初めてだな!」
「兄上、そんな大声で笑ったら、みっともないですよ」
「硬いことを言うな、アラン! それにしても、あのミシェル嬢が、あそこまで素直になるとはな! パーティーでは、目を見張るほどのワガママっぷりを発揮していたのにな!」
「何か裏があるのかもしれません」
「まあ、その辺は本人のみが知るところだな。さあ、我々はパーティーを楽しもうではないか! ほれ、アランも久しぶりなんだから、楽しめ楽しめ!」
「はぁ……半ば無理やり参加させられたパーティーで、楽しめと言われても……早く帰って研究をしたい……あ、お待ちください兄上!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...