冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき

文字の大きさ
10 / 60

第十話 あたしの魔法

しおりを挟む
「……あれ?」

 目を開けると、そこはあまりにも見慣れた光景だった。質素な部屋に置かれた勉強机に、何年にも渡る進学校の過去問集がしまわれた本棚だけが、自らを主張していた。

 その部屋では、一人の女の子が必死の形相で勉強していて、その姿を、綺麗な女性が監視するように見つめていた。

『真琴、また同じところを間違えているじゃないの! どうしてそんなに物覚えが悪いの!?』
『ご、ごめんなさいママ……』
『謝る暇があるなら、少しでも知識を頭に詰め込みなさい!』

 真琴と呼ばれた女の子は、ポロポロと大粒の涙を流しながら、母親と思われる女性に許しを請うが、そんなことなどお構いなしに、女性は女の子の頬に平手打ちをする。

 ……ああ、これは夢だ。それも、前世の子供の頃の、あたしの過去だ。

 小さい頃から母に勉強を強要されて、出来ないと罰を与えられる日々。今思い出してもつらくて、胸の奥がキュッと締め付けられる。

『もうやだ……勉強したくない……あたしも、他の子みたいにお外で遊びたいよぉ……』
『何を弱音を吐いているの!? あんなバカ達と一緒にいたら、あんたが更にバカになるじゃないの! あんたは良い学校に行って、良い会社に入らないといけないの!』

 いかにもあたしの将来のためにって感じを装ってるけど、あたしに養ってもらうためのくせに、偉そうに……今思い出しても、本当に嫌な気持ちになる。

『そんなの行きたくない……』
『行きたくないですって? どうしてあんたはそうやってママに反抗するの!? 子供は黙って親の言うことを聞いていればいいの!』
「っ……! やめなさい!」

 母は幼いあたしの胸ぐらを掴み、床に叩きつけてから、再び手を振り上げる。それを止めようとした瞬間に、目の前の勉強部屋から、急にリビングへと変化した。

『よぉ真琴ぉ……暇ならオレの酒に付き合えや』
『うっ……お酒臭い……パパ、飲み過ぎは体に良くないよ……』
『あぁ? てめぇ、誰に物を言ってんだ? 誰のおかげで飯が食えてると思ってんだ!』
『ご、ごめんなさい……痛い、叩かないで……』

 リビングでは、いかにも営業マンって感じの真面目な風貌の父親が泥酔している。そこにいた幼いあたしは、男性に理不尽な暴力を振るわれていた。

 酒癖が悪い、言ってしまえば酒クズの父親に、こうした暴力を振るわれることも、あたしの日常の一コマだ。

 確かに子供の頃のあたしは、父が稼いできたお金が無ければ生活は出来なかったよ。だからって、理不尽な暴力を振るわれる筋合いは、これっぽっちもない。

「やめて、その子は何も悪くないから!」

 先程同様に、理不尽な目に合う幼いあたしを助けようとするが、またしてもそれを邪魔するように、目の前の光景が変わった。

 今度は、少し歳を取った母と、あまり見たことがない、チャラい男性が、小さな兄妹に対して、何か高圧的に喋っている光景だ。

「こんな光景は、見たことがない……」

 自分で体験していないからなのか、話している内容が全く聞こえてこない。その代わりと言わんばかりに、チャラい男性は兄の方を蹴り飛ばした。

「その子達に、酷いことをしないで!」

 夢の中とはいえ、今度こそ止めなくちゃと思ったのに、何かがあたしの足首に掴みかかってきた。
 その手の主の方を見ると、まさに浮浪者と言ってもいいような風貌に変わり果てた、父の姿があった。

 仕事をリストラされて、酒に完全に溺れた時は、こんな顔をしていたのを、よく覚えている。

「いいから離しなさいよ! まってて、いまお姉ちゃんが助けに――」

 助けに行こうとした瞬間、母と新しい旦那は、二人の腕を乱暴につかんでどこかに消えてしまった。

「あっ……! 待って! ダメ、そんな人達についていっちゃ……! うぅ……ごめん、ごめんね……お姉ちゃんが情けないせいで、二人を悲しませて……お姉ちゃん、もっと頑張るから。だから、そんな人達のところに行かないで……!」

 家族と共に、周りの景色も完全に消え、辺りは漆黒に包まれてる空間になった。そんな空間で、あたしはもういない二人に謝り続けていると、どこからか声が聞こえてきた。

『『助けて……お姉ちゃん……』』
「っ……!!」

 二人の声は、あたしに助けを求めている声だった。
 所詮これは夢だ。本当は助けなんて求めてないかもしれないし、既に手遅れ……なんてことは考えたくない。

「それでも、お姉ちゃんは諦めないよ! 絶対に元の世界に帰るから! だから……待っててね、はる芽衣めい!」


 ****


「……はっ!?」

 目を覚ますと、そこは、最低限の家具と、多くの本達が置かれた部屋の中だった。そこに、あたしの乱れた呼吸音が響いている。

「やっぱり夢だったんだね……はぁ、寝汗が凄いや……それに」

 そっと目元に手をやると、涙で濡れた形跡があった。あんな嫌な過去を見させられて、家族がつらいところも見させられたら、泣きたくもなるよ。

「……気分転換に、お水をあげてこようかな」

 あたしは部屋から出ると、近くにある井戸から水を汲んできた。

 ちなみに、ここはお店から目と鼻の先にある小屋だ。
 既に住み始めて三ヶ月が経過していて、だいぶ私物が多くなってきている。私物といっても、全部魔法関連の本なんだけどね。

 この小屋は、もともとイヴァンさんが物置として使っていたものだったけど、あたしよりも前に働いていた人が、体調が悪くしてしまい、お店に通うのがつらくなってしまったから、その人が住めるように、小屋を改良したそうだ。

 その人は、後に家庭の事情で田舎に帰ってしまい、この小屋が開いてしまったから、住み込みを希望する人が使えるものとして残したんだって。

「はぁ~……嫌な夢を見ちゃったなぁ。それとも、二人を忘れないように、見させられたのかな? ふんだっ、余計なお世話だよ。あたしは二人を……悠と芽衣のことを、忘れたことは一度もないし」

 ぶつぶつと独り言を漏らしながら、井戸から汲んできた水を、小屋の周りに生えているお花や木にあげる。

 あたしがここに来た時、花や木の元気があまり無くて可哀想って思い、小屋の周りの花や木にお水を上げていたら、それが日課になっちゃったの。
 最近では、ここに遊びに来た野生動物にごはんをあげたりもしている。

「ふふっ、お水おいしい? 喜んでくれてよかった。あれ、君はどうしてそんなに悲しそうなの? あ、ここだと日差しがあまり当たらないんだね。ちょっと待ってね、植え替えてあげるから」

 あたしはお花を傷つけないように、丁寧に別の場所に移し替える。すると、悲しそうだったお花が、とても嬉しそうになった。

「ちゃんとこの魔法が使えていれば、動物や植物と、もっとちゃんとお喋りできるんだけどなぁ。他に使える魔法も、全然大したものじゃないし……」

 いつもお水を上げている植物全部にお水をあげた後、はぁと小さく息を漏らす。

 傍から見たら、今のあたしは植物と会話をする、ちょっぴり痛い人に見えるかもしれないけど……あたしには彼らの気持ちが理解できる。
 その理由は、あたしの使える少し特殊な魔法――動物や植物と心を通わす魔法が使えることだ。

 この特殊な魔法は、あたしのエルフの血が関係しているらしく、使い手がほとんどいない魔法だ。

 ただ、この魔法には欠陥があると言わざるを得ない。
 嬉しいとか悲しいとか、ぼんやりとした気持ちはわかるけど、動物や植物が具体的に何を考えているかはわからないし、あたしの気持ちは伝えられても、言葉として伝えることも出来ない。それと、この魔法は人間に使うことは出来ない。

 この他にも、魔法を使えないことはないけど……あたしは魔法の才能があまりないのか、まともに使えた試しがない。

 炎の魔法を使うと、なぜか大きな爆発音が鳴るだけで、肝心の炎はマッチ程度の火力しかない。
 水の魔法を使うと、なぜか指先からちょろちょろと水が出るだけ。
 氷の魔法を使うと、なぜか手がしもやけになってかゆくなる。
 雷の魔法を使うと、なぜか髪が逆立って大変なことになる。

 他にも色々な魔法を練習したけど、ちゃんと習得できた魔法はごくわずかだ。

「せめて、人間にも使えてれば、もう少し便利な魔法になったかもしれないのに……例えば、アラン様の気持ちを知るとか」

 お店の常連であるアラン様は、あまり感情を表情に出さないし、口数も多くないから、こういう魔法が使えれば、もっと理解が深まるんじゃないかと思う。

 まあ、人様の気持ちを勝手に覗き込むなんて、正直良い趣味とは言えないから、使えたとしても、ほとんど使わないような気はする。

「……あれ、どうしてあたしはアラン様を例えに出したんだろ? イヴァンさんだって、同じ様に考えてることがわかりにくい人なのに……うーん?」

 自分のことなのに自分が理解できないのは、ちょっとおかしな話だけど……まあいいや。お仕事まで少し時間があるから、本でも読んで、元の世界に帰る方法を探そっと!

「まあ、全然手掛かりがなくて、気持ちばっかりが焦っちゃうけど……諦めないんだから! 待っててね、悠! 芽衣! お姉ちゃん頑張るから!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

処理中です...