冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき

文字の大きさ
21 / 60

第二十一話 ミシェルを選んだ理由

しおりを挟む
「…………」

 あたしがいないうちに部屋にやって来ていた男性は、あたしの方を見ながらニコニコしている。

 イヴァンさんほどではないけど、それでも大柄の部類に入るであろう、鍛え抜かれた立派な肉体を持っている。短く揃えた金の髪はややボサボサで、無精髭も生えている。

 普通なら貴族にしては身だしなみが適当なんだな~って思うけど、それが思えないほど、彼には特徴があった。

 左目には眼帯を巻き、右腕は完全に無くなっている。左足も無いのか、義足がついている。

 他にも、服の裾や首、顔からもうかがえるそれは、明らかに普通に生活していたら出来るものではない。

 そういえば……この国では、十五年前まで隣国と戦争をしていたと、以前通っていた学園の近代史の授業で聞いたことがある。その戦争では、今いる国が勝って、負けた方の国と合併したはずだ。
 もしかしたらこの傷は、その時に出来たものかな……気にならないと言えば嘘になるけど、聞いて嫌なことを思い出させる必要もないよね、うん。

「おー、思ったより早かったな? 仕事が早くて結構結構ってか? はっはっはっ!」
「兄上、今日来たばかりの相手の前で、はしたないことをしないでください」
「別にいいじゃないか。変に堅苦しいよりも、気が楽だろ?」
「は、はい。えっと……」
「おっとこれは失敬。うちとスチュワート家は全然関わりが無いから、俺のことを知らないよな! ごほんっ、俺はウィルモンド・バーンズ。現当主ってやつさ」
「と、当主様!?」

 楽しそうに笑う男性――ウィルモンド様とは対照的に、あたしは全身からサーっと血が引いていくの感じた。

 ど、どどど、どうしようどうしよう!? 家で一番偉い、当主のウィルモンド様に許可を貰わずに、アラン様と勝手に話を進めちゃってたよ!?
 これで、勝手なことをするな、ムカつくから死刑! とかなったら……死んでも死にきれないよー!

「あ、あのあのあの! ミシェルと申します! ご挨拶が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした!!」

 おでこを床にこすりつける勢いで土下座をして、ウィルモンド様に謝罪をする。
 すると、怒られると思ってたのに、ゲラゲラと笑っていた。

「気にすんな、既にアランから話は聞いていて、ちゃんと許可も出してるからな! それにしても……これはアランが驚くのも無理ねーや! 俺らが聞いていた、あのワガママ令嬢の面影が無いなんて騒ぎじゃねえ! 婚約破棄をされたパーティーの時も思ったけど、完全に別人じゃないか!」
「あ、えっと……なんて言えばいいか……」
「まあ、ミシェルの事情もアランから聞いて、知ってるんだけどな!」
「説明しようとしたのに損した!?」

 思わずツッコんじゃったけど、相手はこの家の当主様だよ!? もうちょっと振舞い方を気を付けなさい、あたし!

「前世を思い出すとか、そんなことあるんだなー? まあそれは置いといて。このこのー、女を雇いたいなんて、アランも隅に置けないな!」
「からかわないでください」

 あまり貴族らしくないウィルモンド様と、いつもはクールなのに、ちょっと翻弄されてるアラン様。その二人のやり取りを、ただぼんやりと見つめる。

「……あっ。そのー……事後報告になっちゃいましたけど、今日からここで働かせてもらうことになりました。よろしくお願いします!」
「おう、よろしくな! んで、給料はいくらくらいがいい? アランが連れてきた人材だから、欲しいだけあげちゃうぞー?」
「えぇ!? えっと……!」
「兄上、からかうのはよしてください」
「冗談だって! ちょっとからかっただけで慌てて、可愛い奴だな!」

 そう言うと、ウィルモンド様は杖を使って器用に立ち上がると、あたしの所にまで来て、ワシャワシャと頭を撫でた。
 イヴァンさんもこれをやってたけど、大人の男の人の間で、これが流行ってたりするのかな?

「ミシェル。アランのこと、よろしく頼むぜ」
「え……?」

 一瞬だけだったけど、今までのおちゃらけた雰囲気から一転して、とてもシリアスな雰囲気を感じ取った。

 なんていうか……うまく言葉に出来ないんだけど、真面目な感じと一緒に、悲しさとか悔しさとか、そういう気持ちを感じたのは、あたしの気のせいだろうか?

「さーてと。んじゃ、俺はそろそろ部屋に戻って仕事すっかなー。そうだアラン。ちょっと話があるから、一緒に来い」
「け、研究をしたいのですが……」
「数分程度で終わっから。ほら、さっさと来い」
「はあ……わかりました。ミシェル、ここでゆっくりしていてくれ。暇ならそこの魔法の本を読んでても構わない」
「はい、わかりました」

 そう言うと、ウィルモンド様はアラン様を連れて、部屋を出て行ってしまった。

 すぐに戻るとは言っていたけど、具体的な時間はわからないんだよね……ボーっとしてても仕方が無いし、出来る部分の掃除をしておこうかな?


 ****


■アラン視点■

「ふぅ、やっぱ自分の部屋が一番落ち着くぜ」
「机に脚を乗せてたら、行儀が悪いですよ。ああ、葉巻まで……」
「誰にも迷惑かけてねえんだから、問題ねえよ。それよりも時間が惜しいんだろう? さっさと本題に入るぞ」

 そう、今の俺には時間が無い。昨日までだったら、それなりに研究に時間をさけていたというのに、今日は全然研究が出来ていない。

「お前、なんだかんだであの娘のことが、それなりに気に入っているのだろう?」
「気にいっている? 兄上、笑えない冗談はおやめください」

 一体何を言い出すのかと思ったら、俺がミシェルを気に入ってるだって? どうしてそんな話になるんだ?

「ははっ、冗談なものか! お前は過去の経験から、基本的に家に関係している人間や、領民以外の他人に対して、何の興味も持たない。ましてや自分の懐に取り入れたりもしないだろう?」
「それは……イヴァン達に提案されたからであって……」
「彼女を監視するのだって、別に助手や使用人として近くに置いておく必要性は無いし、無理やり研究材料として利用することも可能だ。だが、お前はそれをしなかった……それが答えだろうよ」
「…………俺、は」

 そんなことはない。そう言うべきところなのだろうけど、なぜかその言葉は喉に詰まってしまったように、出てくることはなかった。

 ……ちっ、なんだこのスッキリしない気持ちは? 

「とりあえず言えることは、ミシェルは悪人ではないから、変なことをする必要はないってことだな。それは、お前が一番よくわかってんじゃねーか?」
「それは……そうですね。少なくとも、イヴァンの店で監視をしている感じでは、悪人には見えませんでしたが……どうして兄上がおわかりになられるのですか?」
「はっはっはっ! これでも、親父が亡くなってから、ずっと当主をしてるんだぜ? 人を見る目の一つや二つくらい、余裕で身につくさ!」

 高らかに笑いながら葉巻を吸う兄上の姿は、当主に相応しい貫禄を感じさせる。

「それにしても、いくら気に入っているとはいえ、他人には関心が無いお前が、随分と優しいじゃないか。気負い過ぎるな……だったか? ひゅ~、かっこい~!」
「なっ!? どうしてそれをご存じなのですか!?」
「さあ、なんでだろうな?」
「ぐっ……! 今すぐ忘れてください!」

 おかしい、あの部屋には俺とミシェルしかいなかったのに……魔法で覗き見でもしていたのか!? 我が兄ながら、何ともいやらしいことを……!

「ああもう、俺は部屋に戻らせてもらいます!」
「そんな子供みたいに拗ねんなって! 最後に一言言わせてくれよ~」
「遠慮します!」
「ミシェルなら、お前の冷え切った心に火を灯してくれるかもしれないぜ?」
「…………」

 俺は背中に兄上の真剣な声を受けながら、部屋を出て行った。

 まったく、なんの話かと思ったら……俺がミシェルを気にいっているだって?
 そんなことはない。彼女は、イヴァン達の勧めと、ちょうど真面目な人材が欲しかっただけで……。

「いや、でも……イヴァンの要求を跳ねのけてもよかったし、人材なんて探せばいくらでも……」

 考えられない……いや、考えたくないが……俺は知らないうちに、店に通ううちに、ミシェルをは既に問題ないと、無意識に判断したのか?

 それか……俺が既に、ミシェルのことを……さすがにそれはないか。
 こんなことを考えている暇なんて無い。一秒でも早く魔法を完成させて、また戦争が起こったとしても、誰も傷つかないようにしなければ。

 ――そんなことを思いながら自室に戻ると、部屋の前でミシェルが待っていた。

「あ、おかえりなさい! お話、終わりましたか?」
「ああ。どうしてこんな所に立っていた?」
「気になったところの掃除をし終わって、やることが無くなったので、こうして部屋の前で待ってました」

 俺がいないところで、勝手に掃除をしないでくれとは思ったが……。

「……えへへ」

 にへっと笑うミシェルの笑顔を見ていたら、文句なんて言えなかった。

「次にやるときは、一応俺に声をかけてからにしてくれ。それと……とても綺麗になったな」
「っ! やったやったー! アラン様に喜んでもらえた!」

 子供のように、ピョンピョン跳ねるミシェルを見ていたら、何故かほんの少しだけ口角が上がり、顔と胸の奥が少し熱くなった気がする。

 自分のことながら、笑ったのなんて……いつぶりかわからない。
 たしか、ここ何年も仏頂面で研究ばかりをし、たまに社交界に出ても、ほとんど無表情のままだったはずなのに。

 心に火を……か。冷えたままでも良いと思っていたが……わずかに今感じた熱は……悪くないな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...