婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき

文字の大きさ
44 / 44

エピローグ

しおりを挟む
 思い出の小舟に乗った私とラルフは、波の音を聞きながら、ゆっくりと沖へと進んでいく。

 波の音とオールを漕ぐ音が、疲れた体にとても心地いい。なんだか眠くなってきちゃう……って、ダメよ私! 今日は久しぶりのデートなんだから、ちゃんと起きて楽しまなきゃ!

「船に乗るなら、もうちょっとシュッとした服を着た方が良かったかな? このドレス、フリフリが多いから、結構場所を取っちゃってないかな?」
「漕ぐのに支障は出てませんし、問題無いでしょう。さて、漕ぐのはこの辺にしておきましょうか。あまり陸地から離れてしまうと、帰るのが大変ですからね」

 丁度陸が見えるぐらいのところで、ラルフは漕ぐのをやめた。

 こうして沖から地上を見ると、やっと地上について喜んだあの時のことを思い出す。

「やっぱり夜の湖は冷えるね……ねえラルフ、そこに大きな毛布があるけど、使っていいの?」
「もちろんです。そのために用意したので」
「じゃあ……そっちに行ってもいい?」
「はい、どうぞ」

 ラルフは毛布を羽織り、大きく腕を広げて私を迎える体制を取ると、私はその腕の中に笑顔で入った。

 あの時は、これなら毛布が一つで足りるとか、くっついてると暖かいなーとか思ってたけど、今は……胸が少しキュッとなって、ドキドキして……でもとても心も体も温かくなっている。

「今思うと、あの時の私ってかなり大胆なことをしてたよね。あーんしたり、抱きついたり、くっついて毛布にくるまったり……そのくせ、自分がしてもらう立場になると、すごく恥ずかしがって……自分のことながら、すごい勝手だなって思うよ」
「良いではありませんか。私はどんなシエル様でも愛しておりますよ」

 うん、ラルフならそう言ってくれるだろうなって思ったけどさ、それに甘えてばかりっていうのも良くないって思うんだよね。

「そうだ、忘れないうちに……はい、これ!」
「これは?」
「誕生日のプレゼントだよ!」
「そうでしたか。ありがとうございます、シエル様」

 私は一旦ラルフから離れてから、持ってきたプレゼントが入った箱を差し出した。

 もう、ラルフってば……冷静を保っているようにしているけど、口角が上がってしまうのを無理やり抑えてるのがバレバレだよ? こんな時くらい、素直に喜べばいいのに。

 ……そういうところも、可愛いしギャップがあって好きなんだけどね。

「開けてみてもいいですか?」
「うん、もちろん!」
「では……これは、懐中時計? 私の名前が彫られている……」

 私が用意したのは、銀の装飾がとても綺麗な懐中時計だ。ラルフが今使っている懐中時計が、結構ボロボロになっていたから、これだ! って思って買ってきたんだ。

「とても綺麗ですし、軽くて持ち運びやすいです。シエル様、ありがとうございます。本当に……ありがとうございます。これは、一生大切にします」
「もう、大げさだよ~。マーチャント家にいた時も、誕生日は毎年あげてたでしょ?」
「それはそうですが、恋人になってから初めてのプレゼントだったので」

 なるほど、その気持ちはわかるかも。私も毎年ラルフから誕生日にプレゼントをもらってたけど、 今年の誕生日は恋人になれた日というのもあってか、例年の誕生日よりも嬉しかったし!

「喜んでもらえて良かった~! ユーゴ様に相談した甲斐があったよ!」
「ユーゴ様に?」
「うん。あの人は職人さんだから、その繋がりで腕の良い時計職人がいないか聞きに行ったんだ。それで教えてもらった人に、それを特注で作ってもらったんだ!」
「そうだったんですね。最近お忙しいのに、わざわざありがとうございます」
「これくらい、ラルフにしてもらったことと比べたら全然だよ!」

 マーチャント家で出会った……ううん、再会してから今日まで、なにがあっても私の隣にいて、私を守ってくれて……私を愛してくれたラルフへの恩は、プレゼント一つで返せるものじゃない。

 ラルフへの恩は、私の人生の全てをかけて返すものだと思っているんだけど、返し切るまえにどんどん恩が積み重なっていっちゃう気がするけどね!

「本当に、あなたは優しい方ですね。やはり、これを用意したのは間違ってなかった」
「え、何の話?」
「実は、私もあなたにプレゼントがあるんです」
「私に? 今日はラルフの誕生日だよね?」
「はい。ですが、あなたの誕生日が付き合い始めた記念日のように、今日を新しい記念日にしたいんです」

 そう言うと、ラルフは小さな箱を取り出して私の前に差し出して開けると、その中に入っていた物を、私の左手の薬指にはめた。

「え、うそっ……ラルフ、これって!」
「ご家族のことに決着がつきましたし、お付き合いを始めてからそれなりに時間が経ったので、頃合いかと思いまして」
「も、もう……指輪は一緒に見に行こうって言ったのに……」
「勿論それは覚えておりましたが、前々からサプライズにするつもりでして。こほん……シエル様、私と結婚して、世界一幸せな家庭を一緒に作ってください」

 待ってよ、あまりにもサプライズすぎるって! 嬉しくて涙が止まらない……せっかくもらった指輪をもっと見たいのに、涙で前が全然見えないよ!

「……もっと格好のつく言葉を言いたかったのですが、緊張して言葉が出てきませんでした。月並みなプロポーズで申し訳ない」
「そんなことはないよ。ありがとう、ラルフ。私……幸せだよ。私は体力と根性と、あとは食べる量くらいしか取り柄がないけど……って、これは取り柄と言って良いのかな? とにかく、こんな私でよければ、末永くよろしくお願いします!」

 私はラルフに強く抱きつきながら、幸せにあふれたキスを交わした。

 これが初めてのキスじゃないのに、初めての時のようにドキドキしている。でも、初めての時以上に幸せで、心身共に満たされていくのを感じた。

「結婚するってなると、色々と忙しくなるね。お義母様とナディア様……あ、お義姉様って呼んだ方が良いのかな? 二人と使用人に報告して、マーヴィン様とダニエル様にも報告して……あ、式はどうしよう?」
「ご安心ください。母上と姉上はプロポーズのことをご存じですし、既に式場の予約も、招待したい方達に招待状を送るのも済ませております。ああ、それとユーゴ様にウェディングドレスの発注もしております」
「い、いつの間に……!?」

 私の知らないところで、そんなに進んでいたなんて思ってもなかったよ……仮に私が断ってたら、どうするつもりだったのかな? まあ、断るなんて絶対に無いけどさ! 

「ねえラルフ、私にも出来ることは無いかな?」
「そうですね、私の隣で幸せに笑ってくれれば、それでいいですよ」
「そ、そういうのじゃなくて! 色々やってもらってばかりだから、私も何かしたいなって!」
「なるほど、シエル様は優しいですね。では……」

 十秒ほど考え込んだラルフは、私にニコッと笑ってみせた。その笑顔は、夜空のお星様が束になっても敵わないくらい、優しく輝いていた。

「色々と動いて疲れてしまったので、その疲れを癒していただけないでしょうか?」
「それはもちろん構わないけど、どうすればいい? 肩とか揉む?」
「いえ、今日はこうして一緒にのんびり過ごせば、疲れなんてどこかに行ってしまうはずです」
「そんなことでいいの?」
「そんなことが、私にとって至福の一時なのです」
「ラルフがそう言うなら」

 私はあの時のように、ラルフの胸の中で背中を預けて夜空を見上げる。そんな私のことを、ラルフが背中から抱きしめてくれた。

 自由を求めて家を飛び出した私が、こんな素敵な旦那様と、素敵な光景を眺められる日が来るなんて、思ってもなかったよ。

 ラルフ、私は今……とても自由で、とても楽しくて、とても……幸せだよ! これからも沢山愛してね! もちろん私も沢山愛するから!

「ラルフ、世界で一番、あなたを愛してるよ!」

 私は満面の笑みでそう伝えてから、ラルフともう一度キスを交わしたのだった――
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

公爵令息様を治療したらいつの間にか溺愛されていました

Karamimi
恋愛
マーケッヒ王国は魔法大国。そんなマーケッヒ王国の伯爵令嬢セリーナは、14歳という若さで、治癒師として働いている。それもこれも莫大な借金を返済し、幼い弟妹に十分な教育を受けさせるためだ。 そんなセリーナの元を訪ねて来たのはなんと、貴族界でも3本の指に入る程の大貴族、ファーレソン公爵だ。話を聞けば、15歳になる息子、ルークがずっと難病に苦しんでおり、どんなに優秀な治癒師に診てもらっても、一向に良くならないらしい。 それどころか、どんどん悪化していくとの事。そんな中、セリーナの評判を聞きつけ、藁をもすがる思いでセリーナの元にやって来たとの事。 必死に頼み込む公爵を見て、出来る事はやってみよう、そう思ったセリーナは、早速公爵家で治療を始めるのだが… 正義感が強く努力家のセリーナと、病気のせいで心が歪んでしまった公爵令息ルークの恋のお話です。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】魔力の見えない公爵令嬢は、王国最強の魔術師でした

er
恋愛
「魔力がない」と婚約破棄された公爵令嬢リーナ。だが真実は逆だった――純粋魔力を持つ規格外の天才魔術師! 王立試験で元婚約者を圧倒し首席合格、宮廷魔術師団長すら降参させる。王宮を救う活躍で副団長に昇進、イケメン公爵様からの求愛も!? 一方、元婚約者は没落し後悔の日々……。見る目のなかった男たちへの完全勝利と、新たな恋の物語。

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

処理中です...