【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき

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第二十話 頬へのキス!?

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「あ、あわわわわ……」

 後ろから、リズの慌てた声が聞こえてきているような気がするが、それを気にしている余裕はない。だって、頬とはいえ、異性に初めてキスをされたんだ。平静でいろという方が無理な話だ。

 なんとかして、落ち着かないといけないのに、心臓のバクバクが一向に収まる気配がない。顔どころか体中が熱くて、汗も止まらない。

「おや、二人共そんなに顔を赤くして、どうしたんだい? これくらい、普通の挨拶だろう? それに、僕達は結婚するのだし、何も問題はない」

「……き、キスされた……ほっぺに……男性に、キスされた……」

「セリア様? 大丈夫かい?」

「はっ…………え、ええ」

 全然大丈夫じゃないわよ! 誰のせいで、こんなにドキドキしていると思っているの!? やっぱり、この方は私の復讐相手だわ! 今回のことも含めて、絶対に痛い目に合わせてやるんだからっ!

「王族ってすごい……あっ! あの、その……申し遅れました! り、りり、リズです! よろしくお願いします、アルフレッド王子!」

「よろしくね、リズ嬢」

 今度は頬ではなく、手の甲にキスをされたリズは、色々と限界になったのか、頭から煙を出してしまっている。

 リズにはそうするなら、私の時もしなさいよ! そうすれば、こんなに必死に冷静になる必要はなかったのに!

「立ち話もなんだから、座って話そうか」

 アルフレッド様は私達のために椅子を引いてくれたり、部屋の温度は大丈夫かと聞いてくれたりと、丁寧で優しい対応をしてくれた。

「今日は君達のために、おいしい茶葉と菓子を手に入れたんだ。気に入ってもらえると嬉しいな」

 屈託のない笑顔はとても眩しく、なによりもとても魅力的に見える。私がもし彼に処刑される未来を知っていなかったり、戦争なんてしていなかったら、おそらく一瞬で惚れてしまってもおかしくないくらい、アルフレッド様の笑顔は素敵だ。

 ……って、私ったら、なに浮ついたことを考えているの!? 優しそうな笑顔に、騙されちゃダメ! 相手は復讐相手! お母様を奪った戦争を起こした、ソリアン国の王家……!

「ところで、おでこは大丈夫だったかい?」

「あ、ええ……その節は、情けない姿をお見せしてしまい、大変申し訳ございませんでした。それと、素敵なお見舞いを贈ってくださり、ありがとうございました」

「どういたしまして。あの花、僕の好きな花なんだけど、気に入ってくれたかな?」

「はい、とても」

 本当は、あの花もこのお城に持ってきたかったのだが、残念なことに既に枯れてしまっている。

「そうだ、お見舞いの件について、君に謝罪をしなければならない」

「えっ? 謝罪、ですか?」

「あの時は、君のおでこのことを気にして薬を贈ったが、もっと沢山送っておけばよかったと思ってね。今もだろうけど……君、体のあちこちを痛めているだろう?」

「っ……!?」

 どうして、アルフレッド様が私の怪我のことを知っているの? 外からは気づかれないように、肌が出ないドレスを着ているし、動きにも出さないようにしていたのに。

「セリア様、怪我をしていたんですか!?」

「え、ええ……アルフレッド様、どうしてそれをご存じなのですか?」

「動きを見ていればわかるさ。あの時も今も、若干動きがぎこちないし、時々一瞬顔が歪んでいる。それが、僕には痛みを隠しているように見えたのさ。まあ、随分と誤魔化しているようだから、普通の人は見ても気づかない程度のものだろうけどね」

 なんて観察眼だ。ずっと一緒に過ごしていた家族や、お城の人でも気づかないようなものを、あんな一瞬で見抜いてしまうだなんて。

 やはり、この人は油断できない。警戒しておくに越したことは無さそうだ。

「念の為に、色々な薬と肌に刺激が少ない服を用意しておいた。もうすぐ湯浴みの準備ができるから、その後に適切に処置させよう」

「お話中に失礼します。お茶のご用意できました」

「ありがとう。さあどうぞ、めしあがれ」

 応接室でお茶の準備をしていた女性から、お花の良い香りがする紅茶と、色とりどりのクッキーを出してもらった。

 こんな素敵なもの、ずっと虐げられてきた私が食べたことなんて、あるわけもなく……思わず、ごくりと喉を鳴らした。

 相手はソリアン国の王家。このお茶とクッキーに、何が混ぜられているかわからないのだから、迂闊に手を出してはいけない……それはわかっているのに、おいしそうな見た目と匂いに勝てず、手が伸びてしまった。

「では、お言葉に甘えて。いただきます……」

 紅茶をゆっくりと口に含む。爽やかなお花の香りがスッと鼻を抜けていく。
 クッキーもサクサクで、バターの風味が口の中に優しく広がっていく。甘さが控えめだからか、いくらでも食べられそうだ。

「お、おいひぃ……! おいひぃれふぅ……! こんなおいひいの、うまれへはひめへれふぅ……!」

「もう、リズ。はしたないですわよ。食べるか喋るか、どっちかになさい」

 幸せの絶頂と言わんばかりに堪能するリズの様子に、思わずクスクスと笑っていたが、実は私もおいしさに感動していた。少しでも気を抜いたら、涙が溢れ出てしまいそうだ。

 なにせ私は、生まれてこの方、まともな食事を食べたことがない。家族が豪華な食事を食べているのを眺めながら、硬くなったパンや、野菜クズしか入っていないスープばかりだった。

「素直なのはいいことさ。たくさん用意してあるから、遠慮なく食べてほしい。あっ、でもあんまり食べ過ぎると、夕食に響くかもしれないから、そこは各自気をつけてね。あははっ」

 そ、そんな笑顔で明るく振舞っても、私は絶対に騙されない。騙されないんだから……!

「アルフレッド様。お話中に申し訳ございません。国王様がお呼びです」

「父上が? わかった、すぐに向かうと伝えてくれ。申し訳ない、お二方。僕は少々席を外すから、ゆっくり過ごしてくれ。では、また後で」

 よほど急ぎの用事なのだろうか。アルフレッド様は、急いで部屋を後にしていく。

 はぁ、なんだか長旅とは比較にならないくらい、どっと疲れてしまった。今のうちに、ゆっくり休んでおこう。

「わたしも、ここでゆっくりしていていいのでしょうか?」

「何も言われておりませんし、よろしいのではなく?」

「うーん……いや、わたしはセリア様のお友達ですが、一緒に来た使用人でもあるのですから、お仕事はちゃんとしませんと! 近くにいる人に、どうすればいいか聞いてきますね! あ、何かあったら呼んでください! わたし、三秒で駆け付けますから!」

 リズは、引き止める前に颯爽と部屋を出ていってしまった。

 仕事熱心なのはとても良いことだけど……せっかくゆっくり出来るのだから、もう少しお喋りがしたかったわね……残念……。
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