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第五十五話 荒れ果てた故郷の大地
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「っ……!?」
うそっ、そんなはずはない。私はずっと見ていたけど、アルフレッドは完璧に人形の振りが出来ていたはず。気づかれるわけがない。
……もしかして、この兵士は何かを疑っていて、ありもしないことを言って、私の動揺を誘っている? もしそうなら、動いているなんて嘘を言うのも納得できる。
「ぬいぐるみが動くだなんて、そんなことはありませんわ。あなた、きっとたくさん働いて疲れておりますのよ。国境の砦にお努めなんて、きっと大変でしょう?」
「これも仕事ですから。私がちゃんと仕事をしないと、三人の娘が路頭に迷ってしまいます」
娘……か。この方にも家族がいて、家族の生活と幸せのために頑張っているのね。
こういう話を聞かされたら、騙していることに胸が痛むが、心を鬼にしないとならない。一時の感情に流されては、この方を含めた、両国の善良な民達が、犠牲になってしまう。
「では、隣の部屋で身体検査をさせていただきます。部屋にいる女性の指示に従ってください」
「はい」
言われた通りの隣の部屋に行くと、五十代くらいの二人の女性が私を出迎えてくれた。
彼女達は、検査の簡単な説明の後に、私の体を調べたが、当然変なものが出てくることは無かった。
「セリア様、これで検査は完了しました。先程の部屋に戻って、お休みくださいませ」
「わかりました。ありがとうございました」
とてもゆったりな喋り方をする彼女達は、私を先程の部屋まで送ってくれた。
あのお二人、凄く穏やかで優しい方だったわね。検査をしている時、なるべく私の体に負担がかからないように調べてくれたし、服を着直す時も、驚くほど丁寧で優しい手つきだった。
それ以外にも、向こうでは大変だったねとか、こっちでゆっくり休んでねとか、まるで私の母親のように、優しい言葉までかけてくれたの。
彼女達の優しい気遣いは、私の胸の奥を、ポカポカとした暖かい気持ちにしてくれた。
「セリア様、お疲れ様でした。検査は無事に終了しました。それと、国王陛下に確認をしたところ、すぐに連れてくるようにとのことでした。お姉様も、大喜びだそうです」
そうよね、お姉様にとって、私は自分が聖女として君臨するためには、必要不可欠な存在だもの。帰って来たら、嬉しいに決まっている。
とはいっても、私がいなくなってから、まともに聖女の仕事は出来なかったであろうお姉様の元に、私が戻ってきたとしても、今までと同じような扱いをしてもらえるかは、甚だ疑問ではある。
「お義母様は、何か仰ってましたか?」
「そういえばご存じありませんでしたね。お后様は突然の病で、この世を去りました」
……はい? お義母様が、亡くなった? いつの間に? 一国の王家の人間が死ぬなんて、他の国にも伝わってもおかしくないのに、そんな話は一切聞いていない。
とにかく落ち着こう。よくわからないが、私が復讐をする相手が一人減ったということだ。これは甚だ遺憾ではあるが、お父様とお姉様に注力できると、前向きに考えよう。
……どうでもいいことだけど、一体どんな病気でお義母様は亡くなったのだろう? 願うならば、目一杯苦しんで逝ってくれているといいのだけど……こんな醜い思考は、絶対にアルフレッドに知られるわけにはいかないわね。
「なにかお聞きになっておりませんか?」
「特に目立った情報はございません。お話を聞いたのも、つい最近ですし、いつ葬儀を行うのかも存じ上げません。おそらく、王家に仕えている者しか知り得ない情報です」
本当に、ただお義母様が亡くなったことだけを知っているだけなのね。なんだか、きな臭く感じるわ……。
「失礼します。馬車の準備が出来ましたので、お乗りください」
迎えに来てくれた御者に連れられて、私は再び馬車に乗って国境を越え、見知った国へと帰っていく。次にこの道を通るときは、再びソリアン国に帰る時でしょうね。
「…………」
アルフレッドをギュッと抱きしめながら、ボーっと外を眺める。故郷を離れてから、さほど時が経っていないのに、少し懐かしさを覚える。
良い思い出なんて無いのに、懐かしさを感じるなんて、変な感じね。
「もう間もなく城下町に入ります。揺れるかもしれませんので、お気をつけて」
「揺れる……? きゃっ!」
ここまで安全運転で、揺れとはほとんど無縁だったはずなのに、城下町に入った途端、ガタガタと音を立てながら進み始めた。
それだけじゃない。どこからか爆発音が聞こえるし、何か叫んでいるような声も聞こえてくる。城下町で、一体何が起こっているというの?
「そーっと覗いてみようかしら……そーっと……」
キャビンの窓から外の様子を伺うと、そこには私の知っている城下町の姿は無かった。地面はあちこちが抉られ、建物はボロボロ。辺りには、うずくまる方や、暴言を吐き散らかしながら喧嘩をする方、血を流した武装集団が倒れていたりと……まるで、私が見た赤い月の日の予言の先取りみたいだ。
「アルフレッド、これって……」
「これは惨いな……指導者の不信の影響で、秩序が崩壊してしまっているのだろう。王家への不信は僕達も知っていて、いつ反乱が起きてもおかしくないとは思っていたが、ここまでの惨状とはね……」
「これも、お父様のせいで……」
この町で苦しんでいる人達は、今までは平和に暮らしていたというのに。お父様というたった一人のために、人生が狂わされてしまったのね……。
うそっ、そんなはずはない。私はずっと見ていたけど、アルフレッドは完璧に人形の振りが出来ていたはず。気づかれるわけがない。
……もしかして、この兵士は何かを疑っていて、ありもしないことを言って、私の動揺を誘っている? もしそうなら、動いているなんて嘘を言うのも納得できる。
「ぬいぐるみが動くだなんて、そんなことはありませんわ。あなた、きっとたくさん働いて疲れておりますのよ。国境の砦にお努めなんて、きっと大変でしょう?」
「これも仕事ですから。私がちゃんと仕事をしないと、三人の娘が路頭に迷ってしまいます」
娘……か。この方にも家族がいて、家族の生活と幸せのために頑張っているのね。
こういう話を聞かされたら、騙していることに胸が痛むが、心を鬼にしないとならない。一時の感情に流されては、この方を含めた、両国の善良な民達が、犠牲になってしまう。
「では、隣の部屋で身体検査をさせていただきます。部屋にいる女性の指示に従ってください」
「はい」
言われた通りの隣の部屋に行くと、五十代くらいの二人の女性が私を出迎えてくれた。
彼女達は、検査の簡単な説明の後に、私の体を調べたが、当然変なものが出てくることは無かった。
「セリア様、これで検査は完了しました。先程の部屋に戻って、お休みくださいませ」
「わかりました。ありがとうございました」
とてもゆったりな喋り方をする彼女達は、私を先程の部屋まで送ってくれた。
あのお二人、凄く穏やかで優しい方だったわね。検査をしている時、なるべく私の体に負担がかからないように調べてくれたし、服を着直す時も、驚くほど丁寧で優しい手つきだった。
それ以外にも、向こうでは大変だったねとか、こっちでゆっくり休んでねとか、まるで私の母親のように、優しい言葉までかけてくれたの。
彼女達の優しい気遣いは、私の胸の奥を、ポカポカとした暖かい気持ちにしてくれた。
「セリア様、お疲れ様でした。検査は無事に終了しました。それと、国王陛下に確認をしたところ、すぐに連れてくるようにとのことでした。お姉様も、大喜びだそうです」
そうよね、お姉様にとって、私は自分が聖女として君臨するためには、必要不可欠な存在だもの。帰って来たら、嬉しいに決まっている。
とはいっても、私がいなくなってから、まともに聖女の仕事は出来なかったであろうお姉様の元に、私が戻ってきたとしても、今までと同じような扱いをしてもらえるかは、甚だ疑問ではある。
「お義母様は、何か仰ってましたか?」
「そういえばご存じありませんでしたね。お后様は突然の病で、この世を去りました」
……はい? お義母様が、亡くなった? いつの間に? 一国の王家の人間が死ぬなんて、他の国にも伝わってもおかしくないのに、そんな話は一切聞いていない。
とにかく落ち着こう。よくわからないが、私が復讐をする相手が一人減ったということだ。これは甚だ遺憾ではあるが、お父様とお姉様に注力できると、前向きに考えよう。
……どうでもいいことだけど、一体どんな病気でお義母様は亡くなったのだろう? 願うならば、目一杯苦しんで逝ってくれているといいのだけど……こんな醜い思考は、絶対にアルフレッドに知られるわけにはいかないわね。
「なにかお聞きになっておりませんか?」
「特に目立った情報はございません。お話を聞いたのも、つい最近ですし、いつ葬儀を行うのかも存じ上げません。おそらく、王家に仕えている者しか知り得ない情報です」
本当に、ただお義母様が亡くなったことだけを知っているだけなのね。なんだか、きな臭く感じるわ……。
「失礼します。馬車の準備が出来ましたので、お乗りください」
迎えに来てくれた御者に連れられて、私は再び馬車に乗って国境を越え、見知った国へと帰っていく。次にこの道を通るときは、再びソリアン国に帰る時でしょうね。
「…………」
アルフレッドをギュッと抱きしめながら、ボーっと外を眺める。故郷を離れてから、さほど時が経っていないのに、少し懐かしさを覚える。
良い思い出なんて無いのに、懐かしさを感じるなんて、変な感じね。
「もう間もなく城下町に入ります。揺れるかもしれませんので、お気をつけて」
「揺れる……? きゃっ!」
ここまで安全運転で、揺れとはほとんど無縁だったはずなのに、城下町に入った途端、ガタガタと音を立てながら進み始めた。
それだけじゃない。どこからか爆発音が聞こえるし、何か叫んでいるような声も聞こえてくる。城下町で、一体何が起こっているというの?
「そーっと覗いてみようかしら……そーっと……」
キャビンの窓から外の様子を伺うと、そこには私の知っている城下町の姿は無かった。地面はあちこちが抉られ、建物はボロボロ。辺りには、うずくまる方や、暴言を吐き散らかしながら喧嘩をする方、血を流した武装集団が倒れていたりと……まるで、私が見た赤い月の日の予言の先取りみたいだ。
「アルフレッド、これって……」
「これは惨いな……指導者の不信の影響で、秩序が崩壊してしまっているのだろう。王家への不信は僕達も知っていて、いつ反乱が起きてもおかしくないとは思っていたが、ここまでの惨状とはね……」
「これも、お父様のせいで……」
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