【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき

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第五十六話 あなたは私のかけがえのない人

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「あの、もう少し早くお願いできますか?」

「かしこまりました」

 素直に私のお願いを聞いてくれた御者のおかげで、馬車の速度がぐんっと上がった。これなら、さほど時間がかからずにお城に到着できるだろう。

「……どうしてこの町はこんな有様になってしまったのですか?」

「王家の不祥事が発覚し、国民の耳にも入った結果、各地で国民の強い反発がありました。聖女と謁見する場も、それは酷い有様でした。王家が謝罪をすればまだよかったのですが……国王様は、民を武力で弾圧しようとしました」

「そんなことをすれば、余計に拗れてしまいますわ」

「仰る通り。ここ最近は、民の反発が更に強くなり、暴動が起こるようになりました。その間、王家は更に民を武力で弾圧し、追及してくる貴族を賄賂で買収したり、脅すことで味方を増やす愚行を行っていました。とはいっても、一部の貴族は今も王家に反発しているようですが」

 なんていうか、ありとあらゆる点で、民の事を考えていないというか、自分が一番という印象を受ける。何を今更って話ではあるけど……何も知らない民が知ったら、激昂してもおかしくない。

 これが、もしソリアン国の王家だったら、絶対に自分達のことなんて蔑ろにして、民の事を考えた行動を取るでしょうね。

「噂では、最近亡くなった宰相様や反発している貴族は、邪魔者として消されたなんて話もあるくらいです」

 えっ? そんな、あの宰相様まで、既に亡くなっていただなんて……私が虐げられていた時に、助けてはくれなかったが、国を出る時にはお世話になったから、喜ぶべきか悲しむべきか、複雑な心境だ。

「あの、そんな話をこんなところでしていて大丈夫なのですか?」

「この話は、既に国民に知れ渡ってますので、問題ありませんよ」

「知れ渡っているのに、いまだにお父様は国王の座についているのですか?」

「いくら民が団結しても、長年玉座に座り続けていた人間を引きずり下ろすのは、簡単なことではありません。貴族が手を貸してくれれば可能性はあるのですが……」

 その貴族は、お父様が既に対策している以上、協力してくれないというわけね。私が思っている以上に、カルネシアラ国の現状は酷いようだ。

「各地で暴動が起き、それの対応に軍が追われた結果、無法者が暴れ回れる環境になってしまいました。軍はそれらも放っておくことは出来ず、どちらも中途半端になり……国は乱れました。情報規制は上手くやれているので、外部には漏れていないのが、ある意味不幸中の幸いです」

「そうですわね。このことが知られれば、便乗して攻めこんでくる国が出てくるかもしれませんものね……」

 私は自然と溜息を漏らしながら、アルフレッドのことをギュッと抱きしめていた。

 どうして、ほんの一握りの人間のせいで、大勢の人間が不幸な目にあわなければいけないのだろう。私達は、同じ人間として、手を取り合って生きていかないといけないのに。

 ……なんて、私も偉そうに言える立場ではないわね。綺麗ごとを並べたって、私の心には、いまだに復讐という、禍々しくて醜い炎が、今も激しく燃え続けているのだから。


 ****


 無事にお城に到着した私は、いつものように何の出迎えもないまま、お父様の私室へと案内された。

 お城の中は、さすがに荒らされていないはいないが、何だか居心地が悪い。空気が淀んでいるというか……言葉では言い表せないような、気持ち悪さを感じるの。

「国王様。セリア様をお連れいたしました」

「通せ」

 部屋の中に入ると、ずいぶんとやつれたお父様が、椅子に座ったまま私を出迎えた。

 さすがのお父様とはいえ、このような状況ではストレスを感じて、外見に変化が出るのね。苦労してるって思うと、ほんの少しだけ胸がスッとするわ。

「お久しぶりです、お父様」

「挨拶は不要だ。事情は既に聞いている。向こうで手酷い扱いを受けて、逃げ帰ってきたようだな。まったく、ワシらを裏切るようなことをしたのだ。当然の罰といえよう」

「返す言葉もございません。あの時の私は、どうかしておりましたわ」

「本来なら、貴様の罪は死刑に値するのだが、今は状況が状況だ。セリアの聖女の力は、我々に大いに役立ってくれよう。当然、ワシ達のために力を使うだろうな?」

「仰せのままに。ここに来るまでに、事情は伺っております。王家に逆らう愚民達を制圧し、お父様のカルネシアラ国を取り戻しましょう!」

 変に疑われないためとはいえ、こんな愚かな男を支持するようなことを言っている自分に、反吐が出そうだ。少なくとも、既に気分が悪くなってきている。

「それにしても……ふん、バカな連中め。和平の象徴であるセリアに手を出すことが、どれだけ愚かなことかもわからぬのか。それも仕方がないか……フェルトは昔からバカだからな……とにかく、これでこちらから攻勢を仕掛けても、言い訳が立つ。計画を進めるのにちょうどいい」

「お父様? 何を小声でお話されているのですか?」

「貴様には関係のないことだ。貴様は指示された仕事だけしていればいい」

「はい、お任せくださいませ。心を入れ替えて、この国のために身を粉にして働く所存です」

「殊勝な心掛けだな。その心意気に免じて、またあの部屋を使わせてやる。ありがたく思うが良い」

 私の頭に伸びてくるお父様の手を、サッと避けると、ふふっと少し恥ずかしそうに笑ってみせた。

 危なかった……あそこで頭に触れられていたら、洗脳されていたかもしれない。

 実は、ここに来る前にレイラ様やフェルト殿下とお話をして、洗脳魔法の対策を教えてもらった。
 その中の一つに、一番簡単なかけかたが、頭に触れて魔力を流し込む方法と教えられたから、咄嗟に避けることが出来たというわけだ。

 もしまだ魔力を取り戻していないとしても、このままいけば、将来的に魔力を取りもどしてしまう。それがいつかわからない以上、危険そうなことは、徹底的に排除しないとね。

「……まあいい。話は以上だ。さっさと下がれ」

「はい。あ、最後に一つだけ……お母様に何があったのですか?」

「ワシにもよくわからない。突然心臓の発作が起こったようで、ぽっくり逝ってしまった。早く葬式をしたいのだが、状況が状況だからな。民にこれ以上の混乱を招くのも面倒だから、一般的には公表もしておらん」

 なるほど、そういうことだったのね。ただ、お母様にそんな発作が起こるような、持病があったなんて、聞いたことはない。

 私が知らないだけか、過剰なストレスのせいか、はたまた別の理由か……今の状態では、わからなさそうね。

「お答えくださり、ありがとうございました。では失礼します」

 私はお父様にお辞儀をしてから、兵士の人に案内されてお城の中を歩いていると、とある事に気が付いた。

 お城で働いている方々に、見覚えがない人がたくさんいるの。それどころか、私が知っている方々は、一人も見当たらない。

 もしかしたら、私を虐げていた使用人に、本当に不幸があったのかもしれない。それか、不幸に恐れをなして逃げだしたか……もし前者だとしたら、胸がスッとする。

 ソリアン国の方々やリズのおかげで、私はとても穏やかな生活を送れていたとはいえ、私を虐げていた人間達への怒りや憎しみ、復讐心が無くなったわけではない以上、もし悲惨な目にあえば、それは私にとって喜ばしいことだ。

 あえていうのなら、トラウマになるくらい、徹底的にやりたかったのだけど……仕方がないわね。

「こちらにどうぞ」

 連れてこられた場所は、私の想像通り、例の使われていない倉庫だった。誰にも手を付けていないのか、私が出ていった時から何も変わっていないみたいだ。

「国王様の命があるまで、ここにいるように」

「はい、わかりましたわ」

 お城を出る前は、人が変わった様に反抗していたというのに、帰って来たら素直な私に戻っているのが気味悪いのか、兵士は心底気持ち悪そうな顔で去っていった。

「アルフレッド、もう大丈夫ですわよ」

 荷物の中から出てきたアルフレッドは、ほんのりと顔が赤くなっている。思ったよりも、袋の中が暑かったみたいだ。

「ああ……ぷはっ。ジッとし続けるというのも、案外大変……って、なんだいここは?」

「私がお城を出る直前まで使っていた場所ですわ。確か、元々は使われなくなった倉庫だったはず」

「…………」

「こんな汚いところにあなたを連れてきてしまい、本当に申し訳なく思っておりますわ」

「謝る必要は無い。それにしても、実際にその現場を目の当たりにすると、怒りで頭がどうにかなりそうだよ」

 可愛いぬいぐるみみたいになっているはずなのに、私は思わず背筋が冷たくなった。それくらい、アルフレッドの強い怒りは、私に衝撃を与えてきた。

「それにしても、あの男の態度はなんだ? あれが実の娘に対する態度とは思えない。いかに王として優れた力を持っていたとしても、彼は人として、子の親として、救いようがないね」

 ここまで言うなんて珍しい。いつもなら、悪口を聞いたら笑って誤魔化したり、自分から言ったりしないのに……よほどお父様に怒っているのね。

「とりあえず、これからのことを考えましょう」

「そうだね。ここまで順調だったから、次も予定通りかな?」

「そのつもりですわ」

 これからやるべきことは、コツコツと戦争の情報を集めて、それを公の場や民達に公表することで、お父様を完全に失墜させること。そして、お父様の魔力の復活の理由を突き止め、それを止めることだ。

 それをするには、まず情報集めなのだが……急に動いたら、怪しまれてしまう。だから、ある程度はしおらしく言うことを聞いて、隙が出来たらコツコツ集める形を取る予定だ。

「さてと。今日は少し休もうじゃないか。いつ呼び出しがされるかわかったものじゃないからね」

「そうですわね」

 私は、ただのほし草が敷き詰められただけのベッドに横になると、そのままアルフレッドのことをギュッと抱きしめた。

「今日は積極的だね。ちょっと照れちゃうな」

「このベッドはチクチクしているので、私の体で少しでも防げればと思いまして」

「君は優しいね。僕は感動で泣いてしまいそうだよ」

「あ、あとそれと……まだ不安なので……アルフレッドを抱っこして、勇気を分けてもらいたいなって」

 ここに来たことには、何の後悔もためらいもない。ただ、失敗したら大変なことになるという考えが頭にちらつき、言いようのない不安に襲われるの。

「君は大丈夫さ。なにせ、この世界最強の魔法使いである、アルフレッドがいるからね!」

「ふふっ、あなたってそんな自画自賛をするお方でしたか?」

「いやぁ……笑えば気が楽になるかと思って、変なことを言ってみたのだが……自分のセンスのなさに絶望しかけたよ」

「あら、そうですの? ギャップがあって面白かったですし、可愛らしかったですよ?」

「そうかい? それならなによりだよ。君が良ければ、眠るまで楽しくて明るい、前向きな話をしようじゃないか。少しは気が晴れるはずさ」

 ああ、やっぱりアルフレッドは優しいわ。一生彼を手放したくない、かけがえのない存在になっている。それこそ、夢見た白馬に乗った王子様という理想像よりも、大切で素敵な存在になっていると、確信できる。

 だからなのかしら……私、自然ととある言葉が出てきたの。

「アルフレッド、全部終わったら……あなたと結婚したいですわ」
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