【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき

文字の大きさ
65 / 75

第六十五話 危険回避の方法

しおりを挟む
「こっちから音が聞こえたような……」

 見なくても、声の位置でわかる。お父様は、着実に私達の方に近付いてきている。このままでは、見つかるのは時間の問題だろう。

 まさに絶体絶命。でも私は諦めない。私に何があろうとも、アルフレッドだけは絶対に生きて帰らせるのだから。
 それが、私が巻き込んでしまった責任であり、愛する人を助けたいという愛情なの。

「…………」

 私は、黙ってアルフレッドを下ろして自分の後ろに隠れさせようとしたが、アルフレッドは小さく首を横に振る。そして、アルフレッドの体が突然ぐにゃぐにゃになり……小さなネズミの姿になった。

「チュー…………クチュ、クチュー!」

「うおっ、こんなところにネズミがいたのか……変わった鳴き声のネズミであるな……先程のは、この声が人の声に聞こえたのか」

「チュー!」

 ネズミに変身したアルフレッドは、その場から一目散に逃げだした。

 まさか、アルフレッドにそんな切り札があったなんて、全然知らなかったわ。あれならアルフレッドは逃げられるし、私も運が良ければ見つからずに済むはずだ。

「……あのネズミから、魔力を感じるのは何故だ?」

 うっ、ネズミには普通魔力なんて無いものね……おかしいと思うのも無理はない。私の方から何かするべきなの? でも、今の私が余計なことをしたら、アルフレッドの邪魔をしてしまうかもしれない!

「チュチュー」

「こら、魔法陣の方に行くな! 貴様ごときで影響が出る代物ではないが……ああ、そうか。この部屋は妻の魔力で満ちているから、迷い込んだネズミが魔力を帯びているのか」

 す、すごいわ。お父様を完全に騙してしまったわ! これも、アルフレッドの狙い通りだったのかしら!? ああもう、今のをリズに早く報告して、私の未来の旦那差で、私の理想の王子様は、とっても聡明で素敵な人だって、一晩中自慢したいわ!

「まったく……今日のところは、帰って休むとしよう。近々、妻の埋葬とセリアの公表を兼ねた葬儀で忙しくなるから、休めるうちに休んでおかねばな」

 ブツブツと独り言を言いながら、お父様は扉を閉めて部屋を後にした。
 その瞬間、私はありとあらゆる力が抜けてしまい、その場で情けなくへたり込んでしまった。

「あ、危なかった……アルフレッド、全てあなたのおかげですわ。本当にありがとうございます」

「ちゅー……よっと。いやなに、子供だましの変身魔法を使ったら、存外うまく行っただけさ」

 元の姿に戻ったアルフレッドは、大したことはないと謙遜する感じだが、一方の私は、あまりにも自分が不甲斐なくて、顔があげられなくなっていた。

「私があんなミスをしなければ、危険な状態にならずに済んだというのに……ごめんなさい」

「失敗は誰にでもあるものさ。それよりも、僕はちゃんと彼が来た時にどう対処するか考えていたことを、高く評価したいよ」

「あ、ありがとうございます……えへっ」

 私のしたことなんて、ただ部屋の資格を使って隠れただけなのに、そんなに褒められると、照れてしまう。

「まあなんにせよ、これは初めて不幸を回避したといってもいいんじゃないかな?」

「まだ断言は出来ませんわ。本来のここでの不幸が、別の形で襲ってきますから」

「その時は、また僕達が力を合わせて乗り越えれば良いさ。大丈夫、僕達の愛の力があれば、百人力どころか、一万人力さ!」

「あ、愛の力って、なんでもできる万能パワーではありませんのよ?」

「君もわかっているだろう? 愛する人のためなら頑張れる、いつも以上の力が出せる……とね」

 それは、まさにその通りだ。私の魔法なんて、それこそ子供騙しというか、子供が使うような低レベルの魔法しかないが、アルフレッドやリズ、それに私を支えてくれたたくさんの方々のためなら、たくさんたくさん頑張れるわ!

「さてと、あまり長居はしたくないし……そろそろ撤収するかい?」

「えっと、そこの本棚に帳簿がありまして。以前の告発でも使ったものなのです」

「なんでこんなところに本だなと思っていたけど、隠しておいたということか。彼の誤算は、ここが見つからないと高をくくって、一纏めにしてしまったことだね」

「おそらくそうかと。出来る範囲で、この帳簿の記録もほしいのですわ」

「どれどれ……ん? これは……」

 ぺらり、ぺらりとページをめくっていたアルフレッドは、眉間にしわを刻み込ませた。

「この帳簿、魔法に対する障壁がある。どうやら、記録が出来ないようになっているようだ」

「そんな、どうにかなりませんか?」

「出来なくはないが……これをするには、今僕が使える魔力のほとんどを使わないといけなくなる」

「えっと、つまり?」

「今ここで元の姿に戻るわけにはいかない以上、体を動かす魔力も使うことになるから……僕はほとんど動けなくなる」

 そんな……ということは、ここからは私一人でやらなくてはいけないということ?

 一人でも全然平気なんて、私には言えない。アルフレッドの存在は、私にとってあまりにも大きすぎるものだから。
 でも、アルフレッドに心配をかけたくないし、ここで立ち止まっているわけにはいかない。私がやらなくてはいけないの。

「私は一人で大丈夫です」

「わかった。それじゃあ……始めるよ」

 アルフレッドが本に触れると、突然本から電流が走り、バチバチという高音が部屋を支配し始めた。

「くっ……これは、中々難しいね」

「な、何か問題でも!?」

「今の魔力では足りなさそうだ。このままではこの魔法に焼き殺されてしまう」

「なんですって!? 私に何か出来ることはありますか!?」

「あるとも。君にしか出来ないことが。今すぐに、僕の体に君の魔力の一部を渡してほしい」

「そんなことをして大丈夫なのでしょうか? 私も、お義母様のように……」

「ああなるのは、あくまで魔法の儀式のせいだからね。それに、死に至るほどの魔力を渡す必要は無いから、安心してほしい」

 私が傷つくのは構わないが、アルフレッドが傷つくのは嫌だ。だから、とりあえず大丈夫と聞けたのは良かった。

 ……とはいえ、私にそんなことが出来るのだろうか? いくら勉強をしているとはいえ、魔法素人の私に?

「大丈夫、君は毎回レイラの授業を受けていたじゃないか!」

「えっ……どうしておわかりに?」

「未来の妻のことくらいわからなくてどうするのさ。君なら出来る! さあ、僕の体に魔力をギューンと詰め込んで! 体にググっと力を入れて、それを僕にハァッ! と押し付けるように!」

「ぜ、全然意味が分かりませんわ! でも……やってみます!」

 私は、体にググっと力を入れて、自分の体にある僅かな魔力を両手に集中させてから、アルフレッドをギュッと抱きしめると、ハアッ! と魔力押し付けて、アルフレッドの体にギューン! と詰め込んだ。

「うおぉぉぉ!! セリアの魔力と愛情と優しさと温もりと愛情が僕の中にー!!」

「ま、真面目にやってください! あと二度も愛情って言わなくてもいいですから!」

 アルフレッドのことだから、変に自分に心配をかけないように、わざと悪ふざけをしてるのくらい、私だってわかっているわ。

「アルフレッド、どうでしょうか!?」

「ああ、これなら……!」

 本とアルフレッドの間で、文字通りバチバチになりながら、ほんの解除に勤しむアルフレッドの姿は、まさに勇敢な勇者様のようだ。

 私も、本当はもっと力になりたいのに……いえ、違うわね。あくまでこの場での戦場はアルフレッドというだけであって、私の戦場はこの後に控えている。それも、この作戦で一番の大舞台といっても過言ではない。

「……ふう」

「アルフレッド! 大丈夫ですの!?」

 気の抜けた声を漏らすアルフレッドは、まさに満身創痍な状態だった。こんなに疲弊した姿なんて、見たことがない。

「これくらい余裕……と言いたいが、さすがに疲れたかな……ああ、記録の方は全部残ってるから、安心してくれ」

「記録は確かに大切ですが、それであなたが怪我したり……い、いなくなったりでもしたら、本末転倒ですのよ……!」

 失敗すれば、もしかしたらアルフレッドの命はなかったかもしれない。そんな不安が頭をよぎったら、ポロポロと大粒の涙が流れてきた。

「僕のために泣かないでくれ、セリア。僕達が泣くときは、結婚した時と、子供が生まれた時と、長い天命を終えて、死が僕らを分かつ時だけだ」

「ぐすっ……それ以外の時は?」

「笑ったり、怒ったり、すねたり、照れたり……なんでもいいさ。色々な表情を浮かべて生きていけばいいさ」

 そこまで話し終えたアルフレッドは、一度大きく息を吸い込んでから、可愛らしい丸い目を閉じた。

「アルフレッド?」

「魔力の回復に努めるから……少し眠りにつくよ。記録は君の手で、いくらでも出せるようにしてあるから……それに、僕にはとっておきの切り札がある……だから、安心して……」

「切り札……? よくわかりませんが……わかりましたわ。本当にありがとうございます。そして、お疲れ様でした……おやすみなさい」

 無事にここでほしいものを全て手に入れた私は、手の中で寝息を立てるアルフレッドに、慈愛を込めたキスをしてから、例のボロボロの元倉庫へと戻っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!

ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。 貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。 実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。 嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。 そして告げられたのは。 「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」 理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。 …はずだったが。 「やった!自由だ!」 夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。 これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが… これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。 生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。 縁を切ったはずが… 「生活費を負担してちょうだい」 「可愛い妹の為でしょ?」 手のひらを返すのだった。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

処理中です...