魔王様は転生王女を溺愛したい

転生王女の困惑

　中庭に着いた時には、鍛錬は終わったのかお兄様方は手にタオルを持って歓談していた。

「ローゼ！」

「ルヒトお兄様、カイルお兄様、お疲れ様でした。甘いものでもいかが？」

　レナードから籠を受け取り、中のクッキーを２人へと差し出す。
　２人は籠に手を伸ばしてクッキーを受け取るものの、私の背後のレナードに不審そうな目を向ける。

「どうして、レナードがローゼと一緒にいるんだ？」

「あら？お兄様のご指示じゃなかったのですか？」

　私がそう言うと、ルヒトお兄様は珍しく、その顔に不満をのせる。

「レナード、どういうことだ！」

「鍛錬中に少々用がありまして。席を外したついでに、姫様の荷物持ちをしただけですよ」

　理屈は合っている。だけど、ルヒトお兄様もカイルお兄様も納得していない顔をしていた。
　普段、気弱で温厚なルヒトお兄様がレナードを苦々しく睨んでいるのを見て、私はびっくりした。
　カイルお兄様にいたっては、親の仇の如き顔だ。

「まぁ、いいですわ。荷物を持って貰いましたし。それよりも、お兄様方、お部屋でお茶でもしませんか？」

　不穏な空気に、話題を変えることにする。うなづいたお兄様達と中庭を後にする私は、背中にレナードの視線を感じていた。

　自意識過剰とか、気のせいとかじゃないと思う。だって、チラッと振り返ったら、ばっちり目があってしまった。
　少しくらい逸らすとか出来ないわけ？
なんで、そんなガン見すんの？穴が開くわ！

　11歳の、子供を見る目じゃないわよ。
レナードってちょっとおかしい人なわけ？怖すぎるんだけど。

　内心の焦りを悟られないように、私はレナードから離れようと思ったけど、レナードは一定距離をあけて付いてくる。

　そうよね。ルヒトお兄様の護衛だものね。ついてくるわよね。なら、お兄様を見て！私じゃなくて。

　胃、胃に穴が開くわ。
人の視線ってこんなにストレスになるもの？これ、ストーカーと同じくない？
　お兄様達の溺愛って、これに比べたらものすごく優しいものだったのね。

　早く部屋に行こう。部屋に入りさえすればあの視線から逃れられる。
　思わず、早足になる私であったー