魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな

文字の大きさ
7 / 45

転生王女の誕生日

しおりを挟む
 私の誕生日当日。
私は王族専用の入口で、お兄様方とその合図を待っていた。

 広間では、華やかな衣装に身を包んだ貴族たちが談笑しながら、私たちの登場を待っている。

 楽団の合図のあと、国王陛下、王妃、王太子殿下の順で入場し、末の娘の私は最後に入ることになる。そして、陛下のお言葉のあと、誕生日に集まってくれた人々に礼を述べる。

 私は、頭の中で礼の言葉を復唱した。

 ローズマリーとして転生して、国王陛下である父様や、お兄様方、世話をしてくれる侍女たちとの接触には慣れたものの、他の貴族と会うのは初めてである。

 私の転生事情を知っている父様に、貴族図鑑なるものを借りて、主な貴族の特徴は必死になって覚え込んだが、正直不安しかない。

 顔に不安が現れていたのだろう。父様がチラリとこちらを見て、フン、と鼻を鳴らす。

「辛気臭い顔だな。誕生日くらいにこやかにしたらどうだ」

「・・・そうですね。表情筋が死んでるのは、父様似なのかもしれませんね」

 誕生日の娘に対して、辛気臭いって。本当、この人は愛情表現が下手だ。おそらくは、緊張するなと言いたいんだろう。
 これ、29歳の麻里の記憶がある私だから分かるけど、12歳のローズマリーにはわからないわよ。嫌われてるって思われると思う。
 現に、お兄様たちは渋い顔だ。彼らはローズマリーを溺愛してるからね。

「言い返せる元気はあるようだな」

「お気遣いいただきまして」

「別に気遣っておらん」

「さようで」

 私は、週に1度のペースで父様の執務室を訪れている関係で、父様に対して別段なんの緊張もしなくなっていた。
 転生事情を知ってると分かった時に、への愛情を知ったことも関係しているかもしれない。

 気安い会話を交わす私たちを、お兄様たちは唖然と見つめていた。あら?私、何かやらかしたかしら?だが、私が何かを言おうと口を開く前に、楽団の合図が鳴り響いた。

 入場して、目に入ってきた世界は、あまりにも煌びやかだった。
 男性はともかく、女性の方々の華やかで色とりどりのドレス。宝飾品がシャンデリアに煌き、広間一面を照らし出している。

 め、目がチカチカする。

 第一印象がそれなのだから、麻里がどれだけ庶民だったかが、分かるというものだ。

 私が、圧倒されているうちに、父様とルヒトお兄様の挨拶が終わったみたいだ。次は、本日の主役たる私の番である。
 前世が社会人だったし、挨拶くらいは出来るけど、さすがにこれだけの人間の注目を浴びると、緊張する。

「今日は、私ローズマリーの誕生の祝いに集まっていただき、ありがとうございます。サフィロス王国と、国民皆様の繁栄を心より望みます」

 私の挨拶に、わぁっと歓声が上がる。概ね好意的に受け取られたみたいだ。
 小さく息を吐く。
12歳といえど、私は第2王女である。この広間に集った人たちより身分が上なのだ。
 あまり、遜った物言いをするものではないとは分かっているものの、庶民だった身としては緊張するのもやむ得ないだろう。

 これから、招待者からのお祝いの言葉を受けなければならない。
 サフィロス王国の公爵家を筆頭に、他国の王族たち。お祝いの品は前持って贈られているので、挨拶だけとはいえ、相当な人数だ。

 そろそろ貼り付けた笑顔も品切れになりそうな頃、その人物は訪れた。

「アイリス王女殿下、誕生の祝いを申し上げる。クリムゾン魔国、アルフレッド・フォン・グランツィートだ」


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

処理中です...