魔王様は転生王女を溺愛したい

みおな

文字の大きさ
17 / 45

転生王女の涙2

しおりを挟む
「殺されかけた僕は、真の姿になってしまった。母は、そんな僕を見て恐怖と嫌悪を露わにし、そして、そのことに母は絶望して自らの命を絶ってしまったんだ」

 抱きしめられたままの私は、アルフレッド様の表情を見ることができない。だけど、その声は苦しそうで、私はその背中にそっと手を回した。

 この人は、自分の真の姿のせいで、お母様を亡くしてしまったことで、自分を責めている。
 だから、私が真の姿を見たいと言った時、躊躇ったのね。

「アルフレッド様、教えて下さってありがとうございます。アルフレッド様のお心がよくわかりましたわ」

 実の母親に恐怖と嫌悪を持たれたことに、どれだけ傷付いたか。しかも、母親が自殺する原因になったのだから、他人である私が何を言ったところで、覆すことは難しいだろう。

 真の姿を見せたくはないけど、理由を話さなければ私が納得しないと判断して、苦しいだろうに話してくれたに違いない。

 それを知った以上、私の我儘で見たいとは言えない。
 そう、我儘だ。好きになった人の全てを知りたいなんて、我儘なんだ・・・

 私は自分の性格をわかっているつもりだ。
 頭では、この人の苦悩も気持ちも理解して、全てを知りたいと言ってはいけないと分かっている。
 だけど、本心は・・・
知ることを許してもらえないことに、傷ついている。どれだけ好きだと言われても、それを信じきれない気がするほどに。

 鼻がツンとして、涙が浮かんでくる。
ダメだ。泣いたりしたら困らせてしまう。涙を堪えようとグッと唇を噛みしめようとした。

「駄目だ。噛んだりしたら傷になる」

 強張った体に気付いた彼の指が、私の唇を撫でる。

 こぼれてしまいそうな涙を堪えるために、上を向くと、私を見つめるアルフレッド様と目があった。
 揺れる視界の向こうの、アルフレッド様の眉間にシワがよっている。

 ああ。やっぱり、嫌われてしまったのね。違うと言ってくれたのは、私を気遣ってくれた彼の優しさなんだ。

 一層、視界が歪んだ。こぼれるのを耐えきれなくなった涙が、流れる。

 泣くのは卑怯だ。優しいこの魔王は、泣いたりしたら婚約を解消なんて言えなくなる。

 唇に触れたことで緩んだ腕から逃れるために、背中に回していた手を彼の胸元へと移動させる。
 そのまま、突き放そうとした私の、歪んだ視界に影が落ちた。

「ん・・・ふっ」

 唇に触れる柔らかい存在に、思わずアルフレッド様のシャツを握りしめる。

「駄目だ。僕から逃げるなんて許さない。君は僕の婚約者だろう?愛しいローゼ」

 離れた唇から、束縛の声が聞こえる。

「アルフレッド様・・・」

「例え君が本当の僕を知って、逃げようとしても、絶対に離さない。いっそ、このまま・・・」

「婚姻までは駄目ですよ、我が君、アルフレッド魔王陛下」

 アルフレッド様の腕が、私をキツく抱きしめようとした時、涼やかな声が部屋に響いた。
 慌てて、その腕の中から顔を上げると、アルフレッド様の後ろ側にフレイ様が立っていた。

「フレイ」

「魔王の伴侶となる者、婚前交渉は認められません。ローズマリー様は、魔王陛下のご正妃となられるお方でしょう?」

 フレイ様の言葉に、アルフレッド様は私を抱きしめていた腕を緩め、その体を離した。そして、欲望を耐えようと力の入った眉間を緩める。

 えっと、えっと、何だか衝撃的な事を聞いたような・・・婚前交渉?私、まだ12歳ですよ?えっと、じょ、冗談ですよね?

 あわあわしている私を見て、アルフレッド様はフッと微笑むと、私の頬にキスを落とした。

「我が愛しのローゼ。早く大人になっておくれ」

 マジですか~

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子に鉄槌を

ましろ
恋愛
私がサフィア王子と婚約したのは7歳のとき。彼は13歳だった。 ……あれ、変態? そう、ただいま走馬灯がかけ巡っておりました。だって人生最大のピンチだったから。 「愛しいアリアネル。君が他の男を見つめるなんて許せない」 そう。殿下がヤンデレ……いえ、病んでる発言をして部屋に鍵を掛け、私をベッドに押し倒したから! 「君は僕だけのものだ」 いやいやいやいや。私は私のものですよ! 何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。 逃げられるか、私っ! ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

政略結婚の指南書

編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】 貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。 母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。 愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。 屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。 惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。 戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい…… ※R15は保険です ※別サイトにも掲載しています

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

妾に恋をした

はなまる
恋愛
 ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。  そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。  早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。  実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。  だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。  ミーシャは無事ミッションを成せるのか?  それとも玉砕されて追い出されるのか?  ネイトの恋心はどうなってしまうのか?  カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?  

処理中です...