悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな

文字の大きさ
39 / 57

聖女からの提案《シオン視点》

しおりを挟む
 フローラの言ったその言葉に、僕もソルも、まるで空気さえも凍ってしまったように、辺りは静寂に包まれた。

 フローラは今、なんと言った?
リアナが、可愛いリアナが聖女?

 聖女の文献は、王家にも伝わっている。
代々王となる者にしか開くことのできない扉がある。その奥に厳重に隠された文献。

 僕も立太子した時点では、まだその文献の存在は知らなかった。
 国王陛下である父上のみが知り、開くことのできる扉。

 知らされたのは、聖女であるフローラが婚約者となった時点だ。それは、聖女が妻になるということに対する恩恵のようなものだ。
 聖女が現れ、その聖女が婚約者になった時のみ、王太子の時点での扉への関与が認められる。

 現に、前聖女は王家に嫁がなかったため、父上が扉のことを知らされたのは、国王陛下に即位してからだそうだ。

 その文献の中にある。
『闇の聖女』とは、国に混乱と破滅をもたらす存在。その聖女は、魔族を繁栄させ数百年もの間、世界を混沌に落としたと。

「そんな・・・リアナが・・」

「シオン様?闇の聖女とは一体・・・?」

 立ち上がることもできないほど、打ちのめされる僕を、闇の聖女の意味を知らないソルが不審そうに見つめている。

 ソル・・・
ソル、すまない。

 リアナが闇の聖女であるのならば、僕はリアナに毒杯を飲まさなければならない。
 闇の聖女の力に呑まれてしまう前に、リアナを・・・

 可愛い可愛い、僕の異母妹。
リアナを死なせても、僕は共に逝ってやることができない。
 この国には、後継は僕しかいない。聖女が存在する今、僕がその義務を放棄することはできない。

 せめて、せめて弟でもいれば、共に逝ってやれるのに。
 なんの罪もないリアナを死なせて、僕は生き長らえねばならない。

「大丈夫です」

 絶望に染まる僕の思考に、フローラの声が響いた。 

「フローラ?」

「大丈夫です、シオン様。その道を選ばないために私はおふたりにお話しすることにしたのですから。まずは、闇の聖女についてソル様にも分かるようにお話しますね」

 そして、フローラはソルと僕に『闇の聖女』という存在について語った。
 それは僕の知っている『闇の聖女』そのもので、だけど、文献に載っていない事実も含まれていた。

「覚醒・・・させなければいいの、か?」

「ええ。覚醒してしまえば、闇の聖女は倒すことも封じることも出来ません。私の力など通じず、世界は混沌に沈みます。聖女が再び眠りにつくまでその地獄は続きます」

「どうすればいい?」

「人の悪意に触れさせなければいいのです。悲しませたり苦しませたりしなければいいのです。宿主が絶望した時に闇の聖女は覚醒すると伝えられています。ですから、シオン様にも、そしてソル様にも、リアナ様が笑っていられるように、幸せで生涯を終えられるように、今以上にリアナ様を愛し、守って欲しいのです」

 その覚悟を持って欲しいから、明かしたのだとフローラは続けた。

 大切な異母妹を、リアナを殺さずに済むのならー

 命がけで守る。全ての悪意から遠ざけ、守り抜く。

 そして、ソルもそうだろう。
ソルはリアナのことをずっと想っていた。
 リアナを悲しませる存在など許すわけがない。きっと、これから隠していたリアナへの愛を前面に出して、リアナが困るほどに愛しんでいくだろう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

処理中です...