悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな

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溺愛という名の心配《シオン視点》

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「シオンお兄様なんて嫌い!」

 リアナに言われた言葉が、胸に刺さって苦しくて仕方ない。

 闇の聖女として覚醒させないために、少しの危険もリアナに近づけたくない。
 そのためにも、学院に通う時間は出来るだけ少なくしたかった。王宮内なら、ソルがいれば安心だからだ。常にいる者以外は、リアナのいる居住区には立ち入れない。

 だが、そのせいでリアナに嫌われてしまった。わかってる。仕方ない。嫌われても、リアナを失うよりはマシだ。
 けれど、ため息が漏れる。大切な大切な異母妹に言われた言葉が胸を締めつける。

 何度目かのため息をついた時、王太子執務室のドアが小さくノックされた。

 カイが扉に向かう。フローラか?
扉を開けたカイが、小声で何か会話を交わした後、僕を振り返った。

「シオン殿下。リアナ王女殿下がおいでになりました」

「リアナ!!」

 慌てて、執務机から立ち上がる。カイの向こう側に、小さな体がチラリと見えた。

 ソルに背を押され、リアナはおずおずと執務室に入ってくる。

「あの・・・シオンお兄様、少しお時間よろしいですか?」

「あ、ああ」

「あの、お様・・・ごめんなさい。お兄様が私のことを心配して下さってるのわかっていたのに・・・」

 俯きがちで謝ってくるリアナに、胸が痛んだ。
そう。リアナはわかっている。僕やソル、フローラがリアナを心配していることを。
 わかっている上で、もう少し学院に通いたいと願ったのだ。

 リアナの願いを叶えてやれない自分に嫌気がさす。きっと、ソルやフローラも同じ気持ちだろう。

「リアナ、すまない」

「シオンお兄様・・・」

「リアナの願いを叶えてやれない僕を許してくれとは言えない。だけど、リアナ。お願いだ。どうかどうか耐えてくれ」

 嫌わないで欲しい、とは言えなかった。優しいリアナは、僕がそう言えば嫌いだと言えないだろう。嫌いにならないように努力しようとするだろう。嫌われても仕方ないのだと自分に言いきかせる。

「お兄様、そんなお顔なさらないで。ごめんなさい。ごめんなさい」

 リアナが僕の胸に、その小さな体で抱きついてきた。
 こぼれる涙と、震える体・・・
ああ。僕はこの小さな異母妹が愛しくてたまらない。

 我儘で、僕にべったりだった異母妹が学院に入学する日に倒れてから、まるで別人になったように、僕と距離を取るようになった。
 それを望んでいたはずなのに、今度は僕が異母妹から離れられなくなってしまった。

 フローラ、君の言う通りだ。
僕は、リアナを手放したくないから、ソルと婚約させ、このまま僕の側に置こうと思ったんだ。

 どんなに望んでも、僕とリアナは半分は血が繋がっている。絶対に結ばれることはない。
 それでも、もしリアナが僕を望んでくれたなら、僕は全てを捨ててでもリアナを取ったかもしれない。

 だけど、リアナの中に闇の聖女が宿っていると聞いた時ー
 その道を選ばずに済んだことに、心から安堵した。

 どれだけ僕が大切に思っていようと、リアナが僕を思ってくれたとしても、王宮の中のように安全に暮らすことはできなかっただろう。
 危険が隣り合わせし、今のように護衛をつけることもままならない生活を送らねばならなかったことは、簡単に想像できる。

 その時、リアナを危険に晒し、闇の聖女を覚醒させてしまうことになった可能性は大だ。

 僕は、腕の中のリアナの髪を、ゆっくりと撫でた。

「可愛い僕の異母妹リアナ。お前が謝ることなど何もないよ。お前に自由を与えてやれない僕を憎んでも構わないから、どうか耐えておくれ」

「もう・・・もういいのです。皆様に会えないのも寂しいですけれど、シオンお兄様にそんなお顔をさせてしまうくらいなら、もういいのです」

 可愛いリアナは、僕のために我慢してくれると言ってくれた。

 リアナ。王宮から出れない暮らしは窮屈だろう。もう少し、もう少しだけ我慢して欲しい。
 ソルと婚姻し子を為せば、リアナを手に入れようとする者たちは確実に減るだろう。
 学院内のように、あの馬鹿な女みたいな振る舞いをする貴婦人は社交場にはいない。リアナを傷つけようとするのは、常識をわきまえない学生くらいのものだ。

 フローラも聖女として、全力でリアナを守ると言っていた。
 それはきっと本心だろう。フローラは僕にも、王太子妃の地位にも全く興味がない。

 全ては、リアナのためにだけ。

 僕は、そんなフローラに好感が持てる。僕自身もフローラを女性として見ていないからだ。
 僕は、いや、僕とソル、そしてフローラで、必ずリアナを幸せにしてみせる。

 リアナを闇の聖女になどさせはしない。

 






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