完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな

文字の大きさ
28 / 69
第二章

図書室にて

しおりを挟む
「えーと……エイダン殿下?」
「うん、なに?」

 数日後の放課後。あたしはエイダン殿下と一緒に学園の図書室へと来ていた。先日約束していた通り、新しい本を紹介する為だ。目当ての本を探しに奥の方の棚へと向かい、少し高い位置にあったので背伸びして取ろうとしたら……背後からエイダン殿下があたしを包み込むような形でその本を取って下さった。

 そこまでは、状況的に仕方なかったのかもしれないのだけど……本を取り終わった後もそのまま、あたしは本棚とエイダン殿下の腕の間に挟まれていた。――これって、壁ドン……? 恋愛小説の中に出て来るシーンさながらの状態にあたしはどうして良いか分からず、近すぎる距離のエイダン殿下に戸惑う。

「ど、どいて……下さいませ」
「なんで?」

 なっ、なんでって……それこそ、なんで!? 

「別にティアナに触れてる訳でもないし、ただ見ているだけだよ」
「だとしても距離が近すぎます。離れて下さい」
「僕は仲良くなりたいだけなんだけどな。それもダメなの?」
「ええ――ダメですね」

 エイダン殿下と押し問答をしていると、冷ややかな声が割り込んできた。

「っと、君は……アーサー殿下」
「早く離れて下さい。それとも兄上を呼んで来た方が良いですか?」

 エイダン殿下が気まずそうな顔でパッとあたしから離れる。

「ティアナ様、こちらへ!」

 本棚の影から顔を出したロメリアンヌの元へあたしは駆け寄った。

「エイダン殿下、あまり身勝手な振る舞いを続けておられると叔母上が悲しまれますよ」
「ははは、嫌だなアーサー殿下。今のは……なんでもないんだよ。ティアナもごめんね、冗談が過ぎたみたいだ」
「……いえ」

 バツが悪くなったのかエイダン殿下は「この本、借りて帰るよ。ありがとう」と慌てるようにしてその場から去って行った。あたしは改めて二人にお礼を言う。

「アーサー殿下、ロメリアンヌ。ありがとう御座いました」
「良かった……わたくし一人じゃどうして良いか分からなかったけど、近くにアーサー殿下が居て下さったの」
「エイダン殿下が迷惑を掛けて申し訳ない。何もされてはいないか? 貴方になにかあれば、兄上に殺されてしまう……」

 物騒な事を言いながら少し怯えるアーサー殿下。

「そんな大袈裟な……大丈夫です。何もされてません」
「はぁっ……良かった…………」

 ロメリアンヌの方を見るとアーサー殿下と同じく安堵の溜息をついてるのが見える。ちょっと大袈裟すぎる気がするのだけど。アルスト殿下はとてもお優しいお方なのにね。

「このまま兄上の居る生徒会室まで送っていこう」
「え、でもアルスト殿下のお邪魔にならないかしら」
「いや、そうしないと兄上から後で何を言われるか、されるか分からないので……」
「そうですわティアナ様。わたくしからもお願い致しますわ。アーサー殿下を助けると思って是非、生徒会室へ」
「……そ、そう?」

 なんだかロメリアンヌとアーサー殿下からの圧がもの凄いような……。二人共なんでそんなに怯えてるのかしら。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

「ほぉ……エイダンは少し休息が欲しいらしいな」

 生徒会室でお仕事をされていたアルスト殿下の元へロメリアンヌとアーサー殿下に送り届けられた。事の顛末をアーサー殿下が伝えると、あたしを腕の中へと包みこまれたアルスト殿下が綺麗なお顔で微笑まれた。お優しいアルスト殿下はとても素敵な笑顔でエイダン殿下の体調を気遣ってらっしゃる。周りの皆が腕をしきりに擦っているのは何故だろう。

「エイダン殿下はお疲れなのですか? だから本棚にもたれかかっていたのですね」
「ん? そうだね、暫く休学するように勧めておくよ」

 エイダン殿下がお疲れで立っている事も難しかったから、あの時両手で身体を支えてらしたのね。それを壁ドンだなんて勘違いしてしまって、あたしったら恥ずかしいわ。恋愛小説の読みすぎかもしれないわ、気を付けなければ。

「ティアナも今日は疲れているだろう、私が今すぐ邸まで送っていくよ」
「わたくしは大丈……」
「え、会長……今日中にこの書類を……」

 生徒会メンバーの方が困ったように口を挟まれたけど、ニコニコと素晴らしい笑顔で殿下はその方の耳元でなにやら囁かれ……真っ青なお顔になられたその方は、手に持った書類をタクトお兄様へと手渡された。

「あっ! そ、そうですね、これはタクト様に仕上げて頂くという事で」
「は? ちょっと待て、アル! 邸へ帰るのならおれが一緒に帰……」
「さあ、行こうかティアナ」
「おいっ、無視するな」

 タクトお兄様が喚くのをスクトお兄様が「はいはい、タクトは仕事に戻って」と窘めている中、あたしはアルスト殿下に抱き上げられてそのまま馬車の方へと連れて行かれる。

「ティアナ様のお鞄はタクト様にお渡ししておきますっ」
「兄上、夕食は!?」
「先に済ませておけ」

 あたし達の背後からロメリアンヌとアーサー殿下が声を掛けて来られたので、歩きながらアルスト殿下が受け答えをする。あたしは歩きながらも器用に頭や顔へとキスの雨を降らせてくるアルスト殿下の唇に耐えるので必死だ。

 放課後とはいえまだそれなりに生徒たちは居るので、すれ違う人たちから黄色い悲鳴やらどよめきやらが聞こえてくるのがまた恥ずかしい。

「殿下っ、歩けますっ」
「うん、でも私がティアナをこうして運びたいんだ」
「で、ですが……これは、その、恥ずかしいです……」
「恥ずかしがるティアナも超絶可愛いよ」

 こうなると殿下を止める事は不可能だと、今までの経験から知っている。あたしは真っ赤になった顔を殿下の胸の方へと押しつけるようにして、周りから視線を逃れた。

「んなっ!? それメチャクチャ可愛いんだけど! 煽らないでティアナ」
「あ、煽ってませ……んっ!?」

 突然立ち止ったかと思ったら、アルスト殿下の唇があたしの唇へと重なった。その瞬間、周りの音が消えた……。

「……ふはっ」

 殿下の唇が離れて思わず息を吸い込むと、周りから甲高い悲鳴が巻き起こる。驚いて視線を送ると、ご令嬢たちが興奮した様子で「み、見ました!?」「とうとう、口づけですわ!」「きゃああああああ、素敵ですわ」と口々に騒いでいるのが見える。

 アルスト殿下はそれすらも気に留める事もなく、再び廊下を歩き始めた。ううっ……皆の前でキスされてしまった。恥ずかしすぎる……。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

目指せ、婚約破棄!〜庭師モブ子は推しの悪役令嬢のためハーブで援護します〜

森 湖春
恋愛
島国ヴィヴァルディには存在しないはずのサクラを見た瞬間、ペリーウィンクルは気付いてしまった。 この世界は、前世の自分がどハマりしていた箱庭系乙女ゲームで、自分がただのモブ子だということに。 しかし、前世は社畜、今世は望み通りのまったりライフをエンジョイしていた彼女は、ただ神に感謝しただけだった。 ところが、ひょんなことから同じく前世社畜の転生者である悪役令嬢と知り合ってしまう。 転生して尚、まったりできないでいる彼女がかわいそうで、つい手を貸すことにしたけれど──。 保護者みたいな妖精に甘やかされつつ、庭師モブ子はハーブを駆使してお嬢様の婚約破棄を目指します! ※感想を頂けるとすごく喜びます。執筆の励みになりますので、気楽にどうぞ。 ※『小説家になろう』様にて先行して公開しています。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

処理中です...