悪役キャラに転生したので破滅ルートを死ぬ気で回避しようと思っていたのに、何故か勇者に攻略されそうです

菫城 珪

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4 よげんのしょ

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4  よげんのしょ

 一緒に眠った翌日から俺は兄と共に様々な事を話し合った。
 今後の出来事だとかそれに付随する知識については雷に撃たれて眠っている間に未来の出来事を創世の女神から与えられた神託という形で夢に見た、と兄には説明した。異世界から別の人格が入ってしまったなんて説明しても理解してもらえないだろうと思ったからだ。
 その説明ですら半信半疑と言った様子だった兄は俺の話を聞くうちに信じてくれたようだ。まだ知る筈のないこの世界の地理やうちの家系について話したのが良かったのかもしれない。それに、辺境を守る侯爵家としても世界が滅ぶという話は無視出来ないのだろう。
 兄に言われてまずしたのは覚えている限りの事柄を書き出す事だ。話の流れ、イベント、それらが起きるタイミングと条件。これらは覚えているうちにどんな細かい事でも全て書き留めた方が良いと諭された。
 時間が経つうちに記憶が薄れたり、出来事の存在自体忘れてしまっては困るだろうという兄の助言に従って俺は覚えている限りのことを全て書き出した。手が小さい上にまだ発達しきっていないし、使い慣れない付けペンのせいで書くのに随分時間が掛かってしまった。
 それでも、それなりに慣れた手付きで文字を書く俺の姿を見て兄は驚き、感心していた。確かに、3歳児がいきなり見知らぬ言語をスラスラと書き始めたら誰だって驚く。
 兄に書いてもらっても良かったが、兄もまだ6歳だからと遠慮して自分で書く事にした。それに、日本語で書いておけば、誰かが覗いたとしても知識が無ければ何が書いてあるのかさっぱり分からないだろう。一応、女神に授けられた古代文字と誤魔化しておいた。
 二人で遊びを装いながら大人の目を盗んで一通りの出来事を兄に話し、書き出しが終わったのは兄に打ち明けてから一週間も経っていた。
 軽く痛む手を振る俺の横で兄は思案するように自分用に俺が言った事をまとめた紙をじっと見つめている。
「……この先に魔王が復活し、それに対抗する為に勇者が選ばれる。そして、お前はやがて現れる勇者に嫉妬して暴走し、魔族に操られてしまうという事だろうか」
「はい。きげんは僕が17さいになったとしのあきです」
 ざっくりまとめた事を確認する兄に頷いて見せながら書き込んだ本を抱き締める。これが今からの俺の生命線だ。思い出した事があれば随時書き足すつもりだが、これ以上出てくる気がしない。
「あと14年と半年か。まだまだ時間はあるね」
 俺の言葉に兄がホッとしたように息をつく。その姿にまだ幼い兄にも背負わせてしまう事に罪悪感を覚えていれば、優しく頭を撫でられた。
「ノア、話してくれてありがとう。不安だったろう?」
「にいさま」
 ぎゅっと強く抱き締めてくれる兄の温もりに安堵しながら小さな腕で兄の体を抱き締め返す。
 ゲーム内で兄ティモシーは名前すら出ていなかったように思う。物語りの後半、ノアが自領であるリフキンド領を滅ぼした事を報せにきた兵士のセリフも「自らの父と兄を手に掛けた」程度だった。
 物語りに深く関わる訳ではないし、敵役の家族の扱いなんてそんな程度なのかもしれない。それでも、こうして生きている兄や父を見る度に、どうにかして彼等を生かしたいという気持ちが強くなる。俺の中に微かに残っているノアの記憶は朧げながらも愛情一杯に育てられた幸福な記憶ばかりだ。
 今の状況が現実なのか、それともとても長い夢なのか。いまだにわからないけれど、一つだけ確かな事がある。
 先を知る俺が「ノア」である限り、破滅の未来は回避出来る可能性がある。
 シナリオ通りにしようと何らかの力が邪魔してくるかもしれない。他の誰かが「ノア」の代わりになるかもしれない。それでも、物語の行く先を知っている俺がいるなら回避したり、未然に防げる事柄もあるだろう。
 兄の背を抱き締めながら、俺は決意した。
 この先、何があろうとも俺は「ノア」の運命に抗ってみせると。美しいこの領地を、そこに暮らす人達を、自分の手で害すなんて未来は絶対に避けてやるのだ。
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