【完結】すり替えられた公爵令嬢

鈴蘭

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五月蠅い母娘

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 高位貴族ならば誰もが知るマルゲリーターがアルフレッドの婚約者に選ばれた理由が、キャサリンの血筋を王家に入れる事なのだが、マルゲリーターはキャサリンに似た所が全くない。
 似ていなくとも王妃としての資質があるのならば誰も文句は言わなかっただろうが、無い無い尽くしの令嬢に国を任せられる程呑気な貴族はいないのである。
 自然と厳しい目を向けられている事に気付きもしないマルゲリーターが、成長と共にアマンダに似て来るのを不審に思う者も多くなっていた。
 しかし側近としてルーカスが優秀な事も周知されている為、公爵が家を潰す様な馬鹿げた事をする訳はないと、誰もが思っていたのも事実である。
 故にエレインを見てしまった高位貴族の子息子女は、両親にルーカスによく似た令嬢の存在は告げても、社交の場では一切口を閉じて余計な事を語ろうとはしなかった。
 それ程、オルターナ公爵の仕出かした事は、衝撃的だったのである。
 内密に王家へ報告書を送る貴族家も増えて来ており、事態はより一層深刻さを増して行った。
 学園が始まってから二か月が過ぎようとする頃には、エレインとルーカスが兄妹である事を認める者も多くなっている。
 マルゲリーターだと間違えて声をかけ、彼女が孤児出身だと知った瞬間侮蔑した者たちは、今になって仲良くしておけば良かったと後悔をしていた。
 帝国の、皇族の血を受け継いでいるかもしれないエレインに、今更取り入ろうとしたところでルーカスに邪魔をされてしまうのだ。
 彼がいない時はパトリシアが常に一緒にいる為付け入る隙もなく、可能性があると言うだけで現状は男爵令嬢のままのエレインに、頭を下げ謝罪をする事は癪に触って出来ずにいたのである。
 そんな生徒たちの葛藤などエレインは気付く事もなく、今日も楽し気に兄とアルフレッドと共に昼食を摂っている。
 「フルール嬢は、何でも美味しそうに食べるから、私まで食事が美味しく感じてしまう」
 「とても美味しいですわ、殿下。私がいた孤児院では、自分たちで料理をしておりましたの。大きな子供が野菜を切ってくれるので、小さな子供は野菜を洗う係でした。味付けはしないので、煮るか焼くだけでしたのよ。パンは、お店で売れ残った物を、安く譲って頂いておりましたわ」
 「そ…そうであったか。苦労をしたのだな。辛い過去を思い出す様な事を、言ってしまった。今の言葉は忘れて欲しい」
 「そんな事はありませんのよ。確かに辛い事ばかりでしたが、今はとても幸せなので、良い経験をしたと思っております。何処でも働く事が出来る技術を身に付けましたもの、誇りに思っておりますわ」
 「其方は強いな、フルール嬢。私も見習うべきところが沢山ある」
 「強くはありませんのよ。支えて下さる方がいたから、頑張る事が出来たのですわ」
 エレインは、自分を支えてくれた者たちへ、心の底から感謝しているのが分かる笑みを浮かべていた。
 高位貴族であるルーカスと、未来の国王となるアルフレッドと並んでいても、全く違和感が無い気品がある。
 とても孤児院出身の男爵令嬢には、見えないのだ。
 初めからエレインがルーカスの妹で、アルフレッドの婚約者だと言われたら、誰も疑う者はいないだろうとさえ思えるのだった。
 そんなエレインとアルフレッドの会話を聞きながら、ルーカスは二人が幸せになってくれる事を願っていた。

 楽しい一日はあっという間に終わってしまい、フルール男爵家まで送って来たルーカスは額に優しいキスを落としてからエレインと別れ、薄暗い気持ちで公爵邸へと帰って来た。
 エレインを中心にして充実した学園生活を送っているルーカスではあったが、公爵の仕出かした重罪以外にも、頭を悩ませていた事がある。
 自室に戻り、着替える間もなく乱暴に扉が開かれ、マルゲリーターが入って来た。
 「お兄様!いい加減意地悪は止めてちょうだい。どうして、私が我慢をしなくちゃいけないのよ。お茶会やパーティは大事な社交の場なんだから、高貴な私が参加出来ないなんて、あり得ない事なのよ。ドレスだって、新しいのを仕立てようと思っても、お兄様が意地悪をするから取り合って貰えないじゃない。公爵家のお金は、お兄様だけの物じゃないでしょう。どうして私の買い物に、いちいちお兄様の許可が必要なのよ、おかしいでしょう」
 ルーカスが三学年になってからは、マルゲリーターとアマンダへの必要経費以外の贅沢を一切禁止した事で、今までの様にドレスを仕立てたり茶会を開く事が出来なくなっているのだ。
 それだけではなく、断れないお茶会やパーティ以外への参加も一切禁止した事で、怒りを爆発させたマルゲリーターがこうして部屋へと乱入して来るのである。
 マルゲリーターに遅れて、アマンダが乱入して来るのも日課であった。
 「ルーカス。帰って来たのなら、先に親へ挨拶に来なさい。そんな常識も持っていない貴方に、大事な公爵家を任せる事なんて出来ないわ。今直ぐにこの書類にサインしなさい!」
 自分が後妻である事を忘れているのか、二言目には公爵家を任せられないと言って来るのだが、お前こそ何様なのだとルーカスは思っている。
 「お母様は、黙ってて頂戴。今は、私がお兄様と話をしているんだから、邪魔しないでよ」
 「お前は、勉強をしなさいと言ったでしょう!この間のテストではギリギリ赤点は免れたみたいだけれど、次のテストで赤点を取るつもり?これ以上公爵家の家紋に泥を塗らないで頂戴」
 「勉強なんて出来る訳が無いじゃない、私の部屋を見たでしょう。何時になったら調度品を入れ替えてくれるのよ。鏡も無いなんて、不便で仕方がないわ」
 「自分で壊すから悪いのでしょう。調度品を入れ替えたばかりだと言うのに、ひと月も持たなかったじゃないの。少しは自分の物を、大事にしてはどうなの。癇癪を起す度に、調度品を入れ替える方の身にもなって頂戴」
 『どの口が言っているのだ、どっちもどっちだろう。マルゲリーターの癇癪は、母親に似たのだからな。偶々お前の部屋がまだ無事なだけで、瓦礫になるのも時間の問題だと言う事に、気付いていないのか』
 ルーカスは心の中で呟きながら、母娘が部屋で言い合いをしているのを、見飽きた光景だと思っている。
 相手をする気など一切無いので、着替えが済むとそそくさと執務室に籠るのだった。
 執務室にいる時は、邪魔をさせない様護衛がしっかりと見張ってくれているのだ。
 「害悪でしかないな…」
 部屋にいると必ず二人が乱入して来て、マルゲリーターは物欲による不満をぶつけて来る。
 アマンダはドレスの仕立て代の請求書に加えて、姪をルーカスの婚約者にしようとしている様で、怪しい書類にサインを求めて来るのだ。
 自室でのんびりと寛げないだけではなく、五月蠅い二人の甲高い声を聞いているのは、鬱陶しい事この上ない。
 品位も無く教養も無い母娘の事を、恥ずかしく思い毛嫌いをしていた。
 アマンダとは、出会った日から義母として慕う気は一切起きなかったので、たんなる同居人として扱っていた。
 問題はマルゲリーターで、何とか貴族令嬢としての品位を身に着けさせようと努力はしたのだが、公爵とアマンダが甘やかし放題なので何の意味も無かったのである。
 腹違いではあるが、少しでも血のつながりがある事に嫌悪感を覚え、兄妹として見られたくないとすら思いはじめていた。
 エレインと出会ってからは、どうしても二人の妹を比べてしまい、マルゲリーターの醜さが際立ってしまうのだ。
 『公爵家が取り潰しになった後、マルゲリーターは修道院で上手く生きていけるのだろうか…』
 何も知らないマルゲリーターは厳罰を受ける事はないだろうが、贅沢三昧に生きて来た人間が突然平民として生きるのは、厳罰を受けるよりも厳しいのでは無いかと考えていた。
 深く椅子に腰かけ、大きなため息が出たところで、執務机にルーカス宛ての小包とお茶が置かれる。
 使用人の入れ替わりが激しいのは、マルゲリーターとアマンダに仕えている者だけで、ルーカスには幼い頃から信頼できる使用人が多くいる。
 主の好みをよく熟知したこのメイドは、何時もルーカスの心境に合わせたお茶を、何も言わずとも出してくれるのだ。
 今は甘いミルクがたっぷりと入ったお茶を飲みたいと思っていたが、その通りのミルクティーを出して来た。
 それはとても心地の良い感覚で、荒んでいたルーカスの心を癒してくれるのだった。
 お茶を飲んで一息付いたところで小包を開け、中に入っていた手紙の封を切り内容を確認していく。
 手紙を読み終わると、大きなため息が漏れた。
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