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10、悪夢⑵
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「子供を庇って大怪我をしたという話は本当だったのね」
「優秀だと聞いていたのにもったいないわ」
「でも、あの家には次男がいるじゃない。代えがいるだけマシよね」
「そうかしら?身体が不自由だからというだけで、優秀な長男を差し置いて次男が家督を継ぐなんて、残念だわ」
「それに、庇った子供というのが実の弟だというのも…………」
「他国では、長男を妬んだ弟が神経毒を盛って下半身不随にした――。なんて話を聞いたことがありますわ。もしかしたら、彼も……」
悪意ある無数の視線が幼いレオンの身体に突き刺さる。
小さな肩が震える。
視線に耐えきれなくなったレオンは、うつむいて唇をグッと噛む。
歯が唇に食い込む鋭い痛みがこれを現実だと突きつける。
ちがう……。ぼくはそんなこと、してない。
だって、ぼくは兄上を…………。
「レオン?どうした?」
いつの間にか目の前に立っていた兄が、心配そうに覗き込む。
わずかに上下する肩に乱れた呼吸。額に浮かぶ汗。
たった数メートルの距離。それでさえ杖に体重を預け、息を整える姿。
その疲れ切った様子に、レオンは喉の奥が熱くなった。
「唇を噛んだのか?血が滲んでいるじゃないか」
兄の指が、そっとレオンの頬に触れる。
優しい温度。
いつもレオンを包み込んでくれる、温かい手。
その優しさがレオンを苦しめる。
大好きだった。
優しくて、頭が良くて、誰よりも努力家で自慢の兄上。
学術院で首席を争うほど優秀で、将来を期待された兄上。
それなのに……。
うつむけば嫌でも目に入ってくる杖と兄の足。
足が不自由になったという理由だけ。
今までの兄の努力が無かったものにされるのが、レオンは耐えれなかった。
「一緒に行きたい」とわがままを言わなければ。
ついて行かなければ。
どれほど後悔しても過去には戻れない。
兄の足が不自由になったと聞いた瞬間、泣き崩れた母の顔を今でも思い出す。
いっそ責め立ててくれたらいいのに。
「お前が無事で良かった」と言う父に、幼いレオンは何と言ったのか思い出せない。
だが、レオンを抱きしめる父の手が震えていたのを、今でも覚えている。
『忘れるな。自分の犯した過ちを』
悪夢がまとわりついて囁く。
――忘れたことなんて、一度もない。
自分が一番分かっている。
俺がこの家族を壊した。
兄上の人生を奪った。
母を泣かせ、父を失望させた。
だから…………。
身をよじるレオンに、悪夢は不適な笑みを浮かべた。
「優秀だと聞いていたのにもったいないわ」
「でも、あの家には次男がいるじゃない。代えがいるだけマシよね」
「そうかしら?身体が不自由だからというだけで、優秀な長男を差し置いて次男が家督を継ぐなんて、残念だわ」
「それに、庇った子供というのが実の弟だというのも…………」
「他国では、長男を妬んだ弟が神経毒を盛って下半身不随にした――。なんて話を聞いたことがありますわ。もしかしたら、彼も……」
悪意ある無数の視線が幼いレオンの身体に突き刺さる。
小さな肩が震える。
視線に耐えきれなくなったレオンは、うつむいて唇をグッと噛む。
歯が唇に食い込む鋭い痛みがこれを現実だと突きつける。
ちがう……。ぼくはそんなこと、してない。
だって、ぼくは兄上を…………。
「レオン?どうした?」
いつの間にか目の前に立っていた兄が、心配そうに覗き込む。
わずかに上下する肩に乱れた呼吸。額に浮かぶ汗。
たった数メートルの距離。それでさえ杖に体重を預け、息を整える姿。
その疲れ切った様子に、レオンは喉の奥が熱くなった。
「唇を噛んだのか?血が滲んでいるじゃないか」
兄の指が、そっとレオンの頬に触れる。
優しい温度。
いつもレオンを包み込んでくれる、温かい手。
その優しさがレオンを苦しめる。
大好きだった。
優しくて、頭が良くて、誰よりも努力家で自慢の兄上。
学術院で首席を争うほど優秀で、将来を期待された兄上。
それなのに……。
うつむけば嫌でも目に入ってくる杖と兄の足。
足が不自由になったという理由だけ。
今までの兄の努力が無かったものにされるのが、レオンは耐えれなかった。
「一緒に行きたい」とわがままを言わなければ。
ついて行かなければ。
どれほど後悔しても過去には戻れない。
兄の足が不自由になったと聞いた瞬間、泣き崩れた母の顔を今でも思い出す。
いっそ責め立ててくれたらいいのに。
「お前が無事で良かった」と言う父に、幼いレオンは何と言ったのか思い出せない。
だが、レオンを抱きしめる父の手が震えていたのを、今でも覚えている。
『忘れるな。自分の犯した過ちを』
悪夢がまとわりついて囁く。
――忘れたことなんて、一度もない。
自分が一番分かっている。
俺がこの家族を壊した。
兄上の人生を奪った。
母を泣かせ、父を失望させた。
だから…………。
身をよじるレオンに、悪夢は不適な笑みを浮かべた。
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